User Tools

Site Tools


okujou_no_yurirei-san:3025

Place translations on the >s

家庭科室から借りてきた炊飯器が、炊きあがりを告げてる。

立ち上がった結奈は、後ろにいたわたしに振り向いた。

遠見結奈

さて。始めましょうか。

永谷恵

うん。

炊飯器の蓋を開けて、おひつがわりのボウルにごはんを移す結奈。

見回せば、トレーには海苔、お皿には鮭のほぐし身、小皿にはお塩。なぜかふたつ分のお弁当箱。……準備万端ね。

永谷恵

(……なんだか、今になって緊張してきちゃった)

遠見結奈

はい、どうぞ。

でも、ここにきてためらったってしょうがない。

わたしは、ぴったりとくっつく。お弁当のお裾分けの時よりももっと。結奈の体に、自分の幽霊の体を重ねるくらいにぴったりと。本当に、ぴったりと。

事の起こりは昼休み。廊下をぶらついていたわたしに、結奈が声をかけてきた。

遠見結奈

この間、ご近所からお米のお裾分けをいただいたの。すごくおいしかった。

永谷恵

へー。

そんな話から始まって、わたしは他人事のように聞いていたんだけど。

遠見結奈

これでサチさんにおにぎりを作ってあげたら?

永谷恵

え? ええ……?

遠見結奈

私の体に憑けば握れるでしょう。それを、サチさんに食べてもらえばいいんじゃない?

いきなりの提案にびっくりしちゃったけど、でも、もともとは、わたしが言い出したことだったっけ。

サチさんにわたしの手料理をごちそうしてあげたい、おにぎりがいいかなって、ずいぶん前に、ちょっと言っただけだったんだけど。

永谷恵

(憶えててくれたんだ、結奈)

もちろん、その提案、ありがたく受けることにした。

永谷恵

先輩孝行ね、大変よろしい!

なんて、偉そうにして。

永谷恵

(料理なんてほんっとーに久しぶりね)

仕方ないし、当たり前のことだけど、やっぱりちょっと不安。

うまく握れなかったらどうしよう。こっそり食べて、なかったことにしちゃおうかな。それも悲しいけど。

そんなことを考えながら、まずは手を濡らして水を切る。お塩を手のひらに置いて、と。

永谷恵

(この、ごはんを乗っける瞬間が熱いのよねぇ)

おにぎりなんて簡単なんだけど、それがいちばんの難関。我慢すればいいんだけど、手になじむまでの熱さがちょっと苦手。

永谷恵

えいっ。

半個ぶんのご飯をしゃもじですくって、手のひらへ。

永谷恵

(熱っ……)

永谷恵

(……くない?)

あれ? そんなに熱くない。自分で作った時は何度か取り落としちゃったくらいだったのに。

永谷恵

結奈ってもしかして、手の皮厚い?

遠見結奈

慣れてるの! あと、冷めやすくするために、ボールに移したのよ。

あ、ああ、そうなんだ。そういう工夫もあるのね。

永谷恵

(ええと……、次は)

軽い握りで下半分の形を作って、ヘコませて、そこに鮭を乗せて。

もう半分のご飯を乗せて、手のひら全体で三角に握る。

外はぎゅっと、内側は柔らかくなるように念じながら。この力加減が難しいのよね……。

あとは海苔を巻いたら、1個目完成!

永谷恵

(うーん……)

できたことはできたけど、なんか縦長? 下の手だけに力が入っちゃったのかな?

遠見結奈

大丈夫よ、材料は4個ぶん用意してあるから。

永谷恵

な、なによ。べつに失敗したわけじゃないわよ。

遠見結奈

でも恵、満足してないでしょ。

永谷恵

う……。

なんだか、見透かされたみたいで、ちょっと腹が立つ。その通りだし。

永谷恵

で、でも、今のでけっこうつかめてきたわ。次は大丈夫!

微妙な力加減を思い出しながら、2個目。

完全に勘を取り戻したのか、自分で意識するより先にテキパキと指先が動いて、3個目が完成。

永谷恵

(うんうん、なんだか前よりうまくなってるみたい)

まぁ、しょせん、おにぎりなんだけど。もともと込み入ったものを作れるわけでもないし、これだって上出来だわ。

遠見結奈

……意外とちゃんとできるのね。もっと手助けした方がいいかと思ってたんだけど。

永谷恵

……結奈、それって失礼じゃない?

遠見結奈

そう? ごめん。

ま、わからなくはないけど。

結奈にしてみれば、最初の不器用な動きには、けっこうハラハラさせられただろうし。自分の体だし、結奈、料理上手だから、そういうのわかっちゃうだろうし。

……とかなんとか、複雑な気持ちを抱えながらも、最後の一個が完成。材料もぴったり使いきった。

遠見結奈

お疲れ様。きれいにできたわね。

永谷恵

えへへ。ざっとこんなもんよ!

おにぎりを入れるためにふたつのお弁当箱を引き寄せたところで、結奈の意図が伝わってきた。

形のいい三個目、四個目を、サチさん用のお弁当箱に。

やや不格好な一個目、二個目は結奈が持ち帰る用のお弁当箱に。

勝手がわからずに何個か失敗すること、見抜かれてたのね。ちょっと複雑だけど、まぁ、ありがたいわ。感謝しといてあげる。

永谷恵

ほんとに、準備いいわね。

遠見結奈

まあ、性分だし。

さらりと返す結奈。

永谷恵

(そういうこと、さらっと流せるようになったのね。前はすっごい怖い顔してたくせに)

そんな結奈の変化もうれしい、うん。まぁ、そんなことわざわざ伝えるのも照れくさいから、直前で結奈の体から離れる。

永谷恵

………………。

後片付けに入る結奈の背中を見ながら、わたしは思う。

今回のこれ。わたしのためってのもあるだろうけど、結奈の気晴らしでもあったんだろうな。

比奈ちゃんのことで、相当混乱してるみたいだし。

そんなことを考えていたら、顔に出ていたみたい。わたしのほうをちらりとうかがった結奈が。

遠見結奈

……なんとかするから。

ぼそっと言った。

永谷恵

(結奈……)

知り合って半年しかたっていないのに、この察しのよさ。

人の気持ちに誰よりも敏感で、だからこそ脆いだなんて、……神様の配分って底意地が悪い。面倒な子にしちゃったものだわ。

永谷恵

あ、当たり前でしょ。結奈がなんとかするしかないんだから。

それ以上に、わたしのこんな言い方も意地が悪い。ほんとはもっとちがう言葉を選びたいのに。

永谷恵

まあ、でも……。

永谷恵

……ありがと。

人を気遣える結奈、それを行動に移せる結奈は、とってもいいと思うよ、……なんて、恥ずかしくって言えたもんじゃないわ。これで精一杯。

遠見結奈

うん。

結奈は短く返事をする。

道具を片付けて、テーブルの上をきれいに拭いて、最後に弁当箱を巾着に入れる。

遠見結奈

あったかいうちに持っていきましょ。サチさん、今どこ?

……なんとなく、その様子を見てわかった。きっと、結奈にはわたしの言いたいこと、伝わってるんじゃないかなって。

こういうのって、いい友人っていうのかな?

永谷恵

この時間なら、慰霊樹のところだと思う。

歩き出した結奈の横に並びながら答える。

永谷恵

(サチさん、おにぎり喜んでくれるかな)

今の最大の心配は、このこと。結奈への心配と同じくらいね。

grpo

grpo_ef

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

okujou_no_yurirei-san/3025.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)