User Tools

Site Tools


okujou_no_yurirei-san:3022

Place translations on the >s

遠見結奈

…………。

放課後、教室に戻ってきた結奈は、わたしを見つけて、少しだけ目を見開いた。

驚いたというより、「なに?」って顔。二ヶ月前はすごい勢いで逃げてくれたのに、ずいぶん慣れられたものね。

逃げられた時は失礼な子だと思ったけど、慣れられたら慣れられたで、なんか残念。

遠見結奈

……なにかあった?

永谷恵

別に、なにもないわよ。

単に暇だったから、この教室で結奈を待ってみただけ。

放課後の教室、好きなのよね。だんだんと静まり返る校舎に、夕暮れの光が射し込んできて。

そんな時間に、教室の窓から空を見つめていると、自分が死んだことも、あれから長い時間が経ったことも、忘れちゃう気がして。

永谷恵

結奈は?

遠見結奈

学食に行ってたの。夏合宿でいろいろ使わせてもらうから、聞きたいこともあったし。

結奈は答えながら自分の席へ。ファイルからプリントを引っ張りだして、並べ始めてる。

永谷恵

急ぎ?

遠見結奈

そうでもないわ。

永谷恵

そう。じゃ、少し話そうかな。

「こっちにも都合があるのに」って顔するかと思ったんだけど。

結奈は、まわりを見渡して誰もいないことを確認すると、前の席の椅子を引き出してから、自分の椅子に腰掛けた。

永谷恵

(わたしのための椅子……? ほんとに、気のまわる子)

横から腰掛けて、後ろの結奈を見たら、なんだかじわじわうれしくなってきた。

だって、普通の女子校生の放課後って感じがするでしょ。距離が近くて、少しだけお行儀が悪くて。

結奈はそこまで計算してやったわけじゃないんだろうけど、なんだかすごくうれしかったの。

遠見結奈

…………。

結奈は無言で、てきぱきと自分の作業を進めていく。

夏合宿での陸上部の料理当番のこと、いろいろ考えているみたい。この調理器具で何人前作れるかとか、冷蔵庫の容量からしてどれくらい作れるかとか。

日持ちのしない野菜を優先的に使いきるとか、肉と魚を交互に入れるとか、冷めてもおいしいものを作るとか、暑くて食欲が落ちても食べやすいものにするとか。

部活の合宿の献立なのに、なんだかパズルみたい……。

永谷恵

結奈はほんとに料理好きね。

遠見結奈

……まあね。

集中してるとはいえ、素っ気ない返事。気にしないけど。

永谷恵

料理、楽しいものね。わたしもけっこうしたのよ。

遠見結奈

そうなの?

意外そうな顔の結奈に向かって、わたしは胸を張る。

永谷恵

わたし、身体が弱かったから、運動とかできないでしょ? 家ですることも限られてたし、料理くらいしかできることがなくて。

……胸を張ることじゃなかったかも。でも、結奈は興味をひかれたみたいで、わたしを見てる。

遠見結奈

たとえば、どういうものを作ってたの?

永谷恵

そうね。まずお菓子とか。

遠見結奈

へぇ……。

永谷恵

作ったのは、クッキーやマドレーヌが多かったかな。アレンジできるから、食べ飽きないし。

遠見結奈

そうね。

永谷恵

でしょ。自分で食べる分にはタルトやパイが好きだけど、体力使うし、パイ生地って難しいから、あんまり作れなかったな。

実は、パイ生地こねるための大理石の台が重すぎて、落として割っちゃったって事情もある。すっごく怒られて、禁止されちゃったのよね。

永谷恵

ごはんだったら、得意なのはチキンライス。簡単だけど、おいしいわよね。

遠見結奈

ええ。

永谷恵

お昼ならそのまま、夜ならオムライスにしちゃう。……うん、洋食も結構作ったわ。

永谷恵

ハンバーグとか、ナポリタンとか……。

遠見結奈

トマトケチャップが好きなの?

永谷恵

え……。ああ、うん。確かによく使ってたかも。

自覚なかったけど、言われてみれば。だってなんだか濃厚で、適度に甘くって、おいしいじゃない。

永谷恵

ちゃんと和食も作ってたわよ。そっちはお出汁が好きだから、煮物が多かったな。

遠見結奈

出汁は、何でとってたの?

永谷恵

普通よ。煮干しと鰹節と昆布。

永谷恵

……あ、でもなんだっけ。一度、親戚からもらった干物を焼いて砕いて出汁をとったら、すごくおいしかったのよね。

遠見結奈

なにかしら。

永谷恵

なんかこう、ガッと口を開いてて、最初は怖かったんだけど……。えっと、すごい簡単な名前の。

遠見結奈

……アゴ?

永谷恵

それだわ、アゴ!

遠見結奈

トビウオの干物ね。焼きアゴ。おいしいのよね。

永谷恵

トビウオ? そうなんだ……。

永谷恵

……実はわたし、魚捌くの苦手で。魚にはあんまり詳しくないの。

遠見結奈

そうなの?

永谷恵

だって……、なんか生々しいじゃない。ぐんにゃりしててデロッとしてて、臭いも強烈だし……。

にしても。料理の話なんて、久しぶりにしたわね。

実際には、お菓子作りはともかく、料理の方はそんなに褒められた腕前じゃなかったけど。いろいろ挑戦したのは確かだし、結奈の前だから、ちょっと見栄張っちゃった。

永谷恵

(なんだか、無性に作りたくなってきちゃった……)

思い出す機会もなかったけど、わたし、料理を作るのも、あんまり量はいけないけど食べるのも好き。

それでもって、誰かに食べてもらうのは、もっともっと好き。

「おいしいよ」って言葉、本当にうれしいものね。それが、大切なひとなら、なおさら。

永谷恵

あー、サチさんにわたしの手料理を御馳走して上げたい!

遠見結奈

…………。

あ、結奈、あきれてる。あきれてるんでしょう。「やっぱり最後はこれか」って。

そりゃ、料理の話から急に飛んじゃって、悪いとは思うけど。

結奈だって、作ることよりも、食べてもらうことのほうが嬉しくて、作ってるくせに。

遠見結奈

……私が代わりに作ってあげようか? レシピとか、教えてくれたら、その通りにやってあげるけど。

永谷恵

あ、結奈に取り憑いたら、わたしも料理できるんだけどなぁ……。

遠見結奈

そこまでは嫌。

永谷恵

ふん、ケチ。でも、サチさんが食べられないのよね。あーあ、残念だわ。

遠見結奈

もし作ってあげるとしたら、なにがいい?

永谷恵

ん……。

結奈ってば、また気を遣って。

でもまあ、いいか。想像するだけならタダだもんね。

永谷恵

そうねぇ。サチさん、新しもの好きだから、食べたことがないものがいいかな。

うん、きっと喜んでくれるわ。

「面白い料理ね、すごいわ恵」「もっとちょうだい」なんて。

永谷恵

(ああ……、でも)

永谷恵

……でもやっぱり、おにぎりかな。

遠見結奈

おにぎり?

永谷恵

うん。

なんでかしら。サチさんの喜ぶ顔を思い浮かべているうちに、おにぎりかなって思ったの。

全然めずらしくも特別でもない、料理っていうには簡単なものだけど。

わたしが握ったおにぎりをサチさんが食べるのって、すごく幸せなことのような気がして。

遠見結奈

……確かに、サチさん、おにぎり似合いそう。

永谷恵

(む……)

永谷恵

何度も言うけどね、結奈。サチさんに色目使ったら……。

遠見結奈

あのねぇ。

あきれた顔でそう言う結奈。……わかってる、わかってるわよ、いちいち突っかかるなって言いたいんでしょ。

でも、ヤなもんはヤなの、怖いもんは怖いの!わたし以外の人がサチさんのこと思い浮かべてるだけで怖くなるの!

今までずっと誰かにとられる心配なんてしてなかったのに、ここにきてサチさんが見える結奈と出会っちゃったんだから。

永谷恵

だって、サチさんほどの恋人を持つと、気苦労が多いのよ! だってあの美貌でしょ、それなのに優しいし強いし頼りがいがあるし……。

遠見結奈

あー、はいはい、わかったから……。

結奈が、作業を終えたプリントをトントン整えながら、あきれた声を出した時。

いきなり教室の扉が開いて、比奈ちゃんが入ってきた。

狛野比奈

結奈ねぇ。……あれ?

遠見結奈

なに? 比奈。

さすがの結奈も焦ったみたい。プリントを揃えた手に力が入ってる。

狛野比奈

んー……、誰かとしゃべってると、思った。

遠見結奈

え、そ、そう?

永谷恵

……途中から声出てたわよ。

ぼそっとつぶやくと、結奈の目元がヒクッと動いたのがわかった。

遠見結奈

……えっと、ひとり言。

失敗したなぁって顔で、苦しい言い訳。ほんと、結奈にしてはめずらしいミスだもんね。

比奈ちゃんは、気にした様子もなく小首をかしげる。

狛野比奈

ん。結奈ねぇ、帰ろ?

遠見結奈

ええ、いいわよ。もう部活は終わったの?

狛野比奈

ん。

永谷恵

結奈、またね~。

遠見結奈

ええ、また……!

結奈はごく自然に応えかけて、硬直。……べつに、意地悪とかじゃなかったのに。

狛野比奈

結奈ねぇ?

遠見結奈

なんでもない。帰ろ。

慌てていたはずなのに、結奈は、しっかりと自分ばかりかわたしの椅子も元に戻して、立ち去っていく。

教室から出る直前に振り向いて、目線だけで挨拶してくれた。

永谷恵

(ほんと、そつのない子だわ)

そうして、放課後の教室に、わたしはまた一人っきり。

窓の外は暗くなりかけてて、寂しいどころか、ちょっと怖いくらい。

永谷恵

………………。

さっきまで、普通の放課後っぽく過ごしていたせいかしら。なんだか、心細くなってきちゃった。

永谷恵

(うん、わたしも帰ろっと。サチさんのところに)

それでもって、今日は……、ううん、今日も、いっぱいイチャイチャして過ごしましょっと!

わたしは、また明日ね、と小さくつぶやいて、夕暮れの教室を後にした。

grpo

grpo_ef

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

okujou_no_yurirei-san/3022.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)