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okujou_no_yurirei-san:3015

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榎木サチ

………………。

慰霊樹の下。いつもなら落ち着く場所だけれど、私は穏やかとはいえない気分を持て余していた。

榎木サチ

(……初体験……)

心の中でつぶやくだけで、かぁっと全身に血が巡るよう。動いている心臓があるわけでもないのに、こういう実感が残ってるのは不思議ね。

榎木サチ

(お、落ち着いて。とにかく落ち着かないと)

榎木サチ

(簡単な話じゃないのだし。まず結奈さんが比奈ちゃんに返事をして、二人がちゃんと恋人同士になって)

榎木サチ

(そして、私たちを憑依させてくれることを受け入れてくれて、それでようやくという話なんだから)

榎木サチ

(ええ、確かもう少しってところまでは来てるのよね。でも、まだ、いくつも関門は残ってるのよ)

その関門をありがたく思う気持ちが、少なからず私にあるというのも問題かしら……。

いろんな子の初体験を見てきたけど、それをそのままなぞっていいものかしら。私と恵の初体験なのだし、見てきたものとちがうことだってあるはず。

ああ、きっと不安なのは恵も一緒ね。私がしっかりしなきゃ。こないだだって、私から恵を押し倒す感じだったし、やっぱり私が導いてあげなきゃだめよね。

でも、私だってまだまだわからないこともあるし……。どうしたって怖じ気づいてしまう。

榎木サチ

(いえ、やっぱりやめたいなんて決して思ってはいないけど。二人の初体験はずっと思い描いていたことだし、絶対に成功させたい!でも、だからこそ失敗できないし……)

恵と出会ってから身につけた振る舞いを、今さら剥がすこともできない。

恵と結奈さんに打ち明けた時もそうだった。二人とも、今の私を受け入れてくれた。それはうれしかったのだけど……。

結局、迷っているのよね、私。これはきっと、二人には言葉でしか伝えられなかった、私の本性。弱気なままの私。

今だって、記念樹にもたれかかって、うじうじうじうじと。抑えてはいるけど、本当は不安のあまりあたりを徘徊してしまいそうなくらい。

ああ、どうにも情けない……。

永谷恵

サチさぁーん!!

榎木サチ

!?

元気な声と一緒に、恵がこちらにやってくる。結奈さんも一緒に。

榎木サチ

あら、どうしたの、恵。

抱きついてくる恵を受け止めた時には、自分でもびっくりするくらい、自然にいつもの口ぶりに戻っていた。

榎木サチ

(やっぱり体に染みついてしまったのかしら)

内心、苦笑いさえ出てきてしまう。さっきまで、あんなだったのに。

永谷恵

ねっ、サチさん、こっち。座りましょうよ!

榎木サチ

はいはい、なぁに?

恵に引っ張られるがままについていって、私たちは記念樹近くのベンチに座る。

結奈さんを真ん中に、私と恵が両側。いつの間にか当たり前になっていた座り順で。

永谷恵

結奈! 早く!

遠見結奈

はいはい。

促された結奈さんは、膝の上に乗せた巾着を開く。中から現れたのはお弁当箱。

永谷恵

早く開けて!

どうしたのかしら、恵、やけに急かしているけど。

遠見結奈

……はい。

永谷恵

じゃじゃーん!

榎木サチ

……あら、おにぎり。

お弁当箱には、おにぎりが2つ。

きれいな三角ににぎられていておいしそう。でも、この恵のはしゃぎぶりからして、それだけじゃないみたい。

なにかしら。おもしろい具が入っているとか?最近は「ばたぁ」や「ちぃず」まで入れちゃうっていうし……。

永谷恵

これはですね、恵の手作りおにぎりです!

榎木サチ

……まあ。

話を聞くと、結奈に憑依した恵が、私のために作ってくれたそう。

それは……。どんなめずらしいおにぎりよりも、うれしいわ。

永谷恵

サチさんに、恵の料理を食べてもらいたくて……。

永谷恵

なににしようか、いろいろ考えたんですけど、なんでかなぁ。おにぎりが一番いいなって思って……。

頬を赤らめて、恥ずかしそうに、少し不安そうにうつむく恵。

どうしよう。どうしよう。ありがたすぎて、恵がかわいすぎて……。

榎木サチ

ありがとう、恵。結奈さんも。二人とも、本当にありがとう。うれしいわ。

パッと顔を輝かせる恵がかわいい。結奈さんも、相変わらず落ち着いた表情だけど、心なしか満足そう。

榎木サチ

じゃあ、早速いただくわね。いいかしら……?

永谷恵

ええ、どうぞ。ほら、結奈、早く!

遠見結奈

はいはい。

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私は結奈さんの体にぴったりとすがりつく。その結奈さんが、おにぎりに手を伸ばす。

さっき握ったばかりかしら。温かくて、海苔のいい匂いが伝わってくる。

榎木サチ

いただきます。

永谷恵

どうぞ!

榎木サチ

ん……。

まず、パリッとした海苔の歯ごたえ。ご飯の優しい味わいと、ほのかな塩味。

榎木サチ

……おいしいわ。

永谷恵

ほ……。ほんとですか?

榎木サチ

本当よ。

遠見結奈

うん、おいしい。

私だけじゃなくて、一緒に味わっている結奈さんがそう言ったことで、不安が消えたみたい。恵がほっと胸をなで下ろす。

二口め。今度は具に届いた。柔らかな鮭が、ほっくりとほぐれていって……。

榎木サチ

うん、おいしいわ。最高のおにぎりね。

懐かしさとか、ありがたさとか、そういったものも全部含めて、……すごく幸せな味。

永谷恵

やったぁ! ……よかったぁ。

永谷恵

ほら、料理なんて久しぶりだから。たかがおにぎりっていっても、おいしくできるか心配だったんですよ。

遠見結奈

問題なかったわよ。手際とか最初、ちょっとアレだったけど。

永谷恵

な、なによう。

遠見結奈

うん。きれいに握れてた。……ちょっと意外だったかも。

永谷恵

ええ!? どういう意味よ。

榎木サチ

(ちょっとわかる。……なんて言ったら、恵、むくれちゃうわね)

榎木サチ

本当にすごくおいしいわ。恵はいいお嫁さんになれるわね。

永谷恵

そんな……、お嫁さんだなんて。わたしには、サチさんがいれば……。

榎木サチ

ええ、私は幸せものね。

永谷恵

……! は、はいっ!

永谷恵

結奈、き、聞いた? つまりね、今のはね、わたしがいいお嫁さんになって、サチさんに嫁ぐから、旦那様のサチさんは幸せっていう話なのよー。

遠見結奈

はいはい。

二人と話していると、さっきまでのうじうじしていた弱気な自分が、遠くに感じられる。

たぶん本質的に、私は変わっていない。でも、変わろうとした努力は実っている。

榎木サチ

(……どっちも私ってことよね)

本当の私はかっこよくなくても、恵、あなたのためにかっこよくいられる私は、とても誇らしく思えるわ。

榎木サチ

……ごちそうさまでした。

空になったお弁当箱に向かって、感謝を込めて手をあわせる。

そのまましばらく話をしたあと、結奈さんは、ごゆっくりと言い残して去っていった。

榎木サチ

…………。

永谷恵

…………。

結奈さんが立ち去ったあと、私たちは少し黙ってしまう。

初体験がついに手の届くところまできている、という照れくささもあったけれど、それ以上に……。

榎木サチ

……結奈さん、ちょっと心配ね。

永谷恵

はい……。

お互い、結奈さんに寄り添っていた時に、同じものを感じ取ったみたい。

比奈ちゃんの想いに対する結奈さんの迷いと悩み。でも、その中でも結論を出したいという強い意志。

簡単に受け入れられる現状じゃないし、簡単に出せる結論でもない。でも結奈さんは、苦しみながらも前に進もうとしている……。

永谷恵

わたし、結奈なら大丈夫かなって思うんです。

榎木サチ

そうね、私もそう思うわ。

結奈さんなら、いちばんきれいな結論でも、いちばん傷つかない結論でもなく、いちばん悔いのない結論を出せるはず。だから大丈夫。

だから、結奈さんが決断を下した時、それがどんなものであれ、受け入れるのが、私にできる唯一のこと。

榎木サチ

………………。

私は、なんとなしに記念樹を見上げた。

榎は一里塚に植わる木。旅人は一刻の休みをとって、また歩き出す。

……人はいつか、歩き出さねばならないもの。

榎木サチ

(私の場合は、それにしたって長い……、長すぎる一休みだったわね)

それがいま、動きだそうとしている。旅立ちの時は近いという予感がある。

榎木サチ

(……そうね。歩いていきましょう)

榎木サチ

(恵、あなたと一緒に)

私は、隣の恵を見る。ちょうど、恵も私を振り向いたところで、自然と目があった。

永谷恵

…………。

はにかんだように微笑む恵。きっと私も同じような顔をしているんだわ。

榎木サチ

(だって初体験、初体験……)

榎木サチ

(ああ、どうなるのかしら。……ほんと、考えるだけで顔が赤くなってしまうわね……)

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okujou_no_yurirei-san/3015.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)