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okujou_no_yurirei-san:3014

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永谷恵

いいなぁ、学園祭前の空気って。

屋上から学内を見渡しながら、恵が言う。

榎木サチ

そうね。今年もにぎやかね。

昼休みだというのに、みんな、準備に余念がないみたい。ここまで立ち上ってくる熱気を心地よく感じながら、私もうなずく。

本当に、何度巡ってきても楽しい季節ね。きっと一年でいちばん、校内に活気が満ちる時期。

榎木サチ

雲見櫓のまわりも、かなり準備が進んでるみたいね。

永谷恵

2階もそうでしたよ。なんだか、大がかりなお化け屋敷、やるみたい。

私たちがこうしてあちこちの情報を交換しているのは、もちろん当日に遊びに行くため。

講堂での演目を見たり、お化け屋敷に入ったり。脅かし役の子に張り付いたり、それなりに楽しめるものだから。

永谷恵

お化け屋敷なんて、2クラスが合同でやるみたいですし。

榎木サチ

まあ、おもしろそう。

2クラス分の場所や人手があるのなら、かなり本格的なお化け屋敷ができるんじゃないかしら。ぜひ行かなくちゃ。

永谷恵

ワッフルの屋台を出すとこもあるみたいなんですよね。しかも、三つくらい。

榎木サチ

わっふるって、見た目が格子みたいなお菓子よね?

永谷恵

そうですよね? わたしも食べたことないんですけど。

榎木サチ

私も張り紙の宣伝を見かけたわ。……流行りなのかしらね。

永谷恵

流行ってるみたいです。再ブームだし、焼き器さえ買っちゃえば簡単に作れるし、楽して儲かるなんて言ってる人もいたし。

永谷恵

儲かるとかそれ以前に大事なことってあると思うんですけどぉ。たった三回しかない学園祭なのに、それでいいのかしら。

まっすぐな不満をこぼす恵をなだめようと、口を開きかけたその時。

屋上の扉が開いて、ふらりと結奈さんが現れた。

遠見結奈

…………。

今にもため息をつきそうなその顔を見て、恵も口を閉ざす。

今日の朝から、結奈さんはどこか元気がない。考え事が頭をずっと回っていて、心ここにあらずといった感じ。

榎木サチ

(比奈ちゃんのデート勝負の話を聞いたからというのが原因だって、結奈さんは気付いているのかしら)

榎木サチ

(そして、なぜそんなに頭を悩ませなきゃいけないのかってことも)

自覚さえすれば迷いも晴れるでしょうけど。でも、それを教えてあげたとしても、たぶん、結奈さんとしては本意でないでしょうね。

自分で気付いて、自分で考えて、自分の意志で動きたい。結奈さんならそう考えるんじゃないかしら。

私はそう思うから、声をかけることもできないのだけど。でもそれは、今まで見守ってきた子たちの、何倍ももどかしい。

永谷恵

あら、結奈。それ、ポテトチップス?

恵が明るい声をかけたのも、きっと気遣いだと思う。

遠見結奈

あ、うん、そう。さっき、一木さんたちにもらったの。

遠見結奈

新商品だから気になって買っちゃったけど、その後からダイエット中だってことを思い出したんだって。

榎木サチ

あら、素敵ね。前から気になってたのよね、その「ぽてとちっぷす」って。

そう言いながら袋をのぞきこんだのは、気遣い半分、好奇心も半分。

薄く切った馬鈴薯を揚げたものだって聞いたけど、どんな味なのかしら。

屋上で食べている子を見てると、なんだかパリパリって音がしているんだけど……。味はもちろん、食感も想像できないわ。

遠見結奈

食べてみます?

榎木サチ

ええ!

結奈さんは苦笑いして、すぐに袋を開けてくれた。

遠見結奈

どうぞ。でも、お昼食べたばかりだから、そんなに入んないですよ?

永谷恵

わぁ、いいの? ポテチなんて久しぶり!

榎木サチ

私は、初めて。

永谷恵

結奈、早く早く!

恵に促されて、結奈さんはベンチに座る。その隣に私と恵。袋の中から、つまみ出された一枚の「ぽてち」。

……なんだか、固い紙みたい。食べ物って感じがしないけど、匂いはおいしそう。

榎木サチ

……ん……。

結奈さんがかじると、聞いたことのあるパリッという音がした。薄いものがあっけなく砕けていく歯ごたえ。

榎木サチ

……!?

まず感じたのは、舌を刺すような辛さ。正直、予想外だった。

でも、口の中でパリパリと心地よく噛み続けていくと、その辛さの中に、お芋の味がする。

なんとなく芋天ぷらの味を想像していたんだけど……。予想は裏切られて、でも、楽しいものね、これ。

永谷恵

どうですか、サチさん?

榎木サチ

かなり濃い味付けなのね。辛くてびっくりしたけど、おいしいわ。おもしろい味なのね。

遠見結奈

ああ、これ、辛い系ですもんね。

もう2、3枚かじったところで十分、満足。舌と口の中が痛いくらい。最近の子は、これを一袋食べてしまうのね。

結奈さんによると、これ、「すごいかろりー」なんだそうだけど。おなかに溜まる感じじゃなかったのに、不思議だわ。

遠見結奈

一袋食べると、さすがにお腹いっぱいになりますよ。

永谷恵

結奈! もうちょっと! もうちょっとだけ!

遠見結奈

えぇ!?

榎木サチ

(新鮮な味だったけど、やっぱりお芋はふかしたものか、芋なますがいいわね)

食べさせてくれた結奈さんには悪いけど、そんなことを考える。

と、私の考えを読んだように結奈さんが声をかけてきた。

遠見結奈

そういえば、前に言っていた芋なますなんですけど、サチさんの知っている芋なますって、砂糖と酢、どっちを先に入れてました?

榎木サチ

え? それはよくわからないんだけど……。

自分で作ったことはなかったから。順番とか、あるのかしら。

遠見結奈

どっちを先に入れるかで、けっこう変わるらしいんですよね。

榎木サチ

そうなの……。

結奈さん、前に言った通り、芋なますを作るために調べてくれているのかしら。

8月の「お盆」に芋なますの話をして以来、なんだか無性に食べたくて仕方なくなっているんだけど、もしかして作ってくれるのかしら。

そんなに有名な料理ではないはず。調べるのは結構大変なはずなのに……。

榎木サチ

(……ほんとに、気のまわる子ね)

比奈ちゃんのことが気になって、けっこう大変なはずなのに。

榎木サチ

(……結奈さんが早く、自分の気持ちに気付けますように。そして……)

私は思わず、内心で祈っていた。

うまくいくように、ではなく、それが、よい恋になるように。

それはきっと、結奈さんがいちばん望んでいることでしょうから。

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okujou_no_yurirei-san/3014.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)