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okujou_no_yurirei-san:3012

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榎木サチ

あら。

お昼休みの奥校舎を散策する私の目にとまったのは、図書室に立ち寄る結奈さんの姿だった。

図書室にいる子はまばらで、結奈さんが目指した書架の付近もほぼ無人。しばらく結奈さんに相手してもらっても大丈夫そうね。

榎木サチ

こんにちは、結奈さん。読みたい本でもあるの?

隣に立って話しかけると、結奈さんは棚に手を伸ばしながら答える。

遠見結奈

あ、サチさん。ちょっと、料理関係の本を……。

結奈さんの指が、料理本の背表紙を点検するように撫でていく。

……この本、需要はあるのかしら。どれも、きれいであまりたくさん読まれているようには見えないのだけど。

遠見結奈

リクエストを入れているから、新しいのがないか定期的に見に来ることにしているんです。

遠見結奈

料理本って高いから。図書室で借りられるのって、けっこうありがたくって。

榎木サチ

そうなの。

遠見結奈

まともに揃えると、お小遣い、すぐになくなっちゃうから。

榎木サチ

お小遣い……。いつの時代でも、みんな苦労しているのね。懐かしいわ。

遠見結奈

あ……。

あら、結奈さんが困った顔で私を見てる。なにか変なことを言ったかしら。

榎木サチ

(……ああ、なるほど)

榎木サチ

気にしなくていいのよ。私はもう、ずいぶんと長いこと、幽霊やってるんだから。

遠見結奈

……ええ。

優しい子。もうすっかり幽霊であることが当たり前になってる私を気遣うなんて。

……それにしても、いろんな本があるのね。色とりどりの、様々な大きさの、個性的な装丁の。

榎木サチ

(そうそう、これとか気になっていたのよ)

私は、ちょっと変わった形の棚に、表紙を見せつけるようにして置いてある本に近づく。

榎木サチ

これ、何ヶ月かに一度、入れ替わるのよね。雑誌っていうんでしょう。

遠見結奈

……ああ、そうです。ちょっと見てみます?

結奈さんは本選びを中断して、一冊の雑誌を開いてくれる。

遠見結奈

これはタウン情報誌。それぞれの街のお店とか、催し物とかを特集しているんです。

遠見結奈

これ、ちょっと古いですね。月刊誌なのに、3ヶ月前のものだから。

榎木サチ

そうなの……。

毎月刊行されているなんて。3ヶ月前でも古いなんて。

毎月書くことがあるし、毎月新しい情報を入れなきゃいけないってことよね。書くのも読むのも大変そう。

遠見結奈

ほら、これがこの街のコーナー。うちの学校がここで、屋上から見えるのはこの辺り。

結奈さんは地図の頁を開いて、ひとつひとつを指しながら解説してくれる。さすが、わかりやすいわ。

遠見結奈

ここは、屋上の正面に見えるあの黄色っぽいビルですよ。そこに入っているおいしいお店の記事が、これ。

榎木サチ

まあ、おいしそう。……ぱえりあ?

遠見結奈

ええと、魚貝やお肉を使った、鉄鍋で作る炊き込みご飯……、みたいなものかな。スペインの料理ですよ。

榎木サチ

そうなの。味が想像できないけど、おもしろい料理ね。

それが、いつも見ているあの建物の中で作られているのね。なんだか新鮮。

私が雑誌閲覧に満足すると、結奈さんはまた本を選び始めた。

手にとってざっと中味を確かめたり、じっくりと読んだり、数冊抜き出して比べたり。

そうして、最終的に手に取ったのは、和食の本だった。それも、どちらかというとありふれた料理を中心とした。

榎木サチ

それでいいの? 結奈さん、料理が上手なんでしょう? もっと難しそうな料理が載ってるのを選ぶと思ったわ。

遠見結奈

知らないレシピくらい、当然ありますよ。それに、本によって味付けや手順がちがったりもするから。見比べるだけでも参考になるし。

遠見結奈

これ、少し古い本なんですよね。材料や作り方がちがってたり、今でも通用する裏技が載ってたりするから、おもしろそうかなって。

榎木サチ

(ふぅん……、研究熱心なのね)

遠見結奈

それに、作られなくなってしまう料理もあるし。

榎木サチ

そう言えば、最近はみみとかむかごご飯とか、あまり食べてる子、見ないわね。イナゴの佃煮とかも。

遠見結奈

イナゴ……? さすがに最近は食べないですよね。あと、みみ? なんです、それ。

そう言えば、恵も知らなかったかしら。結奈さんが知らないのも無理ないわね。

榎木サチ

ええと、すいとんみたいな料理なんだけど。すいとんは知ってる?

遠見結奈

ええ。ふぅん……、今度、調べてみようかな。

結局、結奈さんは料理の本を数冊、借りた。

料理が好きだからこそ迷うみたいで、最後の方は私と相談するみたいで。

榎木サチ

(ああ、こういうのも楽しいものね)

もともと幽霊の体、足元は軽いのだけれど、今は特に浮かれた気分。

誰かと一緒に本をのぞきこんで話し合うなんて、ずいぶんと久しぶりだもの。

榎木サチ

誰かと一緒に図書室に来るのも楽しいものね。

遠見結奈

ですね。

場所が場所だけに、大声で話すわけにもいかない。結奈さんは始終、私だけに聞こえる小さな声だったけど、それだけに、今のおしゃべりは本当に楽しかった。

榎木サチ

よければ、また一緒に本を選びましょうね。あと、ぴぃしぃも。

遠見結奈

ええ。

私は料理本を抱える結奈さんの手に小指を近づけ、手応えのない、勝手な指切りをした。

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okujou_no_yurirei-san/3012.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)