User Tools

Site Tools


okujou_no_yurirei-san:3011

Place translations on the >s

しとしとと降り注ぐ雨を、私は屋上のひさしの内側から見ていた。

実体のない幽霊なのだから、雨の中に立っていたって濡れるわけじゃない。でも、なんとなく雨の中に踏み出すのは嫌かしら。

こんな体になっても、そんな気持ちが残っているのって、不思議なことね。

時がたつ感覚は、もうかなり鈍っていると思っていた。変わり映えのしない毎日に、気付けば数年がたっていたなんてこともあったのに。

でも、最近は、毎日を楽しく、そしてはっきりと時間を感じながら、過ごしている。

今日が水曜日だと自信を持って言えるのだって、結奈さんが特売のために早く帰ったから。いつもはどこかの教室の黒板をのぞくまで気付かないのに。

永谷恵

サチさん、お待たせしました。パトロール行ってきましたよ。

すぐ脇の扉をすり抜けて、恵が現れる。陰気な雨に引っ張られたのか、少し、いつもの恵らしくない声で。

榎木サチ

ご苦労様。それじゃ、報告会ね。

パトロールとは言っても、別に学園の治安を見守っているわけじゃない。なにもできないわけだし。

私たちがしているのは、百合パトロール。学園内にひっそりと生まれた恋の蕾を、ただ見守るだけの……。

そう、この間まではそうだった。ただ、見守るだけだった。でも、最近は少しちがうわね。結奈さんと出会ってからは。

榎木サチ

それじゃあ、私から。

榎木サチ

例の陸上部のカップルだけど、相変わらず不安定ね。

永谷恵

そうですか……。ううん、なんだかもどかしいですね。

榎木サチ

お互いに愛情があるからこそ、甘えたり依存したりですれ違ってしまうんでしょうね。

永谷恵

ほんと、ケンカしたり仲直りしたり、忙しいんだから。……わたしたちは、ケンカなんてしませんもんね。

榎木サチ

ええ、そうね。恵とは長い時間を一緒に過ごしてきたんだから。

微笑んでみせると、恵は安心したように肩の力を抜く。

永谷恵

それじゃあ、次はわたし。……サチさん、わたし、新しい子を見つけたんですよ!

榎木サチ

あら……。

恵の言葉に、私は少しの緊張と昂揚を覚える。

以前までだったら、それは見守る相手が増えるだけの意味しかなかったのだけど。

百合の蕾を見つけるだけではなく、きれいに咲かせる手段を見つけてしまった以上、誰かの恋心を見つけたという意味は大きく変わっていた。

榎木サチ

すごいわ、恵、がんばったのね。聞かせて。

永谷恵

はい! サチさん。

そうして恵が語ったのは、まさにこの屋上で恋に気付いた女の子の話。

永谷恵

「ヤベェ、マジヤベェ、あんな女がいたなんて」……って。

声を低めて真似をする恵がおかしくて、私は噴き出してしまう。

永谷恵

お相手に会いに行くっていうんで、後を尾けたんです。でも、いっつもその子、遠くから見つめるだけだったから、なかなかそのお相手がわからなかったんですけどぉ……。

永谷恵

でも、やっとわかったんですよ! そしたら、えっと、あの人で……。

永谷恵

朝、正門のところで遅刻者を取り締まっている人、知ってます? 名前は確か、有遊愛来さん。何度も何度も確認したんだから、きっと間違いないです。

榎木サチ

ああ……。

すぐに思い当たった。この屋上から見ていても、風紀委員らしい厳しい空気がひしひしと伝わってくる人。

榎木サチ

わかるわ。あの凛々しい子でしょう。なかなかの美人さんで。

永谷恵

びっ、びじ……!

絶句した恵は髪を撫でつけたり、服の皺を伸ばしたり。しまいには不安そうな上目遣いで私を見つめ、寄り添ってくる。

永谷恵

あ、あの……、サチさんは凛々しい人の方が……、好きですか?

榎木サチ

あら……。

たった一言が、そこまで引っかかってしまうなんて。

榎木サチ

もちろん、かわいい子が好きよ。恵みたいな、ね。

永谷恵

そ……、そうですか……。

榎木サチ

ごめんなさい。心配させちゃった?

申し訳ないけれど、少しうれしい。恵はそんな私の気持ちに気付いたように、ふいっと横を向いてしまう。

永谷恵

……朝まで一緒にいてくれたら、許します。

榎木サチ

一緒にいるだけ?

恵の頬がぱあっと赤くなっていく。潤んだ瞳が、困ったような期待するような色あいでうろうろとさまよう。

意味がない、実のない言葉だと知っていても、想像が暴走してしまうのね。

榎木サチ

…………。

永谷恵

…………。

そこで目があって、私たちはどちらからともなく微笑んだ。

……この流れは、今まで何十、何百と繰り返したじゃれ合い。

私たちは嫉妬ごっこや告白ごっこ、婚約ごっこを繰り返しながら、長い長い時を埋めてきた。

変わることのない景色の中で、変わることのない関係性を保って、似たようなやりとりを交わして。

それは倦怠とも少し違う、奇妙な安堵に包まれた停滞だった。

榎木サチ

(……でも、これから先は、違うのね)

恵と並んで雨を眺めながら、私は思う。

このことは、結奈さんには、いつ、告げよう。今は桐ちゃんの作戦もあるし、もう少しそれが落ち着いてからの方がいいかもしれない。

そして……。

その先は思い浮かぶようでいて、よくわからない。うれしいようでもあるけれど、少し不安な気もする。

榎木サチ

(……あまりに長い時間停滞しすぎたせいかしら)

待ち望んだ展開が訪れようとしているのに、こんな気持ちになるなんて、奇妙な話ね。

永谷恵

……いやな雨ですね。長続きしそう。

恵と同じ空を、私も見上げる。

空にへばりついたような暗い雨雲も、無数の水滴にゆがむ景色も、昔とあまり変わらない。……でも。

榎木サチ

止まない雨はない、か……。

永谷恵

ですよね!

私の独り言をいい方に解釈した恵が、声を弾ませる。

その恵の声に、少し、安堵も覚える。最近、恵に元気がないようだったから。理由はわかっているのだけど……。

でも、自分の中の戸惑いも大きくて。結奈さんが現れたことによる変化に、まだ、私自身もうまく気持ちを落ち着けることができなくて。

急かされるような想いが、胸のうちに湧き上がってくるのを感じる。押し殺していた気持ちが、強く、弾けるのを求めているような。

榎木サチ

(……太陽が照らすのは、よいことだけとは限らないのね)

grpo

grpo_ef

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

okujou_no_yurirei-san/3011.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)