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okujou_no_yurirei-san:3005

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……つん。

……つんつん。

と。

何度か感触。なんだろう、とぼんやり思いかけて、ああ、右肩を指で突かれてたって気付いた。

そう、気付いたところで。ようやく私は我に返っていた。

私、また、ぼーっとしてたんだ。考えごと、してるうちにまた、どこまで考えてたのかもわからなくなるくらい。

いつの間にか古文の授業も終わっていた。教壇から、ついさっきまでいたはずの園生先生もいなくなってる。もう休み時間?

ダメだ。私、ちゃんとしてない。

阿野藤

……結奈、大丈夫?

遠見結奈

う、うん。ごめん。少しぼーっとしてた。

少しじゃないけど。嘘でごまかして、なんとか阿野を心配させないように笑ってみようとするけど、表情の作り方もなんだか変。

もうずっとこんな感じ。気が付くと、こうなってる。なにが原因かはわかってる。

ちゃんと考えることもできないくらい、頭の中じゅう、比奈の顔がちらついて離れてくれない。

ちゃんと考えなきゃって思うのに、答えはまとまらないまま、結局ぼーっとしたままになってしまって。

遠見結奈

(こんなんじゃダメ)

遠見結奈

(しっかりしなきゃ……)

自分が情けなくなる。この前までさんざん、いろんな人のことに首を突っ込んでいろいろしてたのに。

それなのに、自分が比奈から告白されて、そういうことの当事者になった途端、こんなになるなんて。

私、やっぱり打たれ弱いのかな?

遠見結奈

大丈夫。体調とか悪いわけじゃないから。

心配そうに見つめてくる阿野に返事をしながら、手元のノートへ視線をやる。ああ、やっぱり、ダメだ。

最初の数分ぐらいの部分だけはノートを取ってあるけど、そこからは、なにも書かれていない。ほとんど真っ白なままのノート。

阿野藤

ん、でも、ずっと結奈、ぼーっとしてるからさ。調子悪いんじゃないならいいんだけど。はい、これ。

遠見結奈

あ……。

阿野、自分のノートを手に持ってる。私が全然ノートを取れてないの、気付いてたんだ。

遠見結奈

……ありがとう。

阿野にノートを借りるなんて、いつ以来だろう。多分、去年、風邪を引いて休んだ時?

あの時は学校を休んだから仕方ないけど、今は、同じ授業を受けててこの体たらく。

だから、貸してくれたノートを広げて、せめて、この休み時間のうちに写してしまおうと、シャーペンを走らせる。

紙の上を芯が走る音が、空々しい。なんだろう。なに、してるんだろう、私。

阿野の視線を感じる。ちょっと痛い。

もちろん、非難してるんじゃなくて、心配してくれていることわかってる。逆の立場だったら、きっと私も阿野のこと、心配で目を離さないと思うし。

遠見結奈

(……ごめん。阿野)

遠見結奈

阿野、えっと、写すの……、少し時間かかりそうだから……。

阿野藤

いいよ、待ってるからさ。すぐに使うわけじゃないし、気にしないで。

遠見結奈

……うん。

阿野藤

ノートぐらい、いいっていいって。いつもはあたしが結奈のノート借りてるんだから、たまには逆なのもいいでしょ?

遠見結奈

うん……。

阿野藤

ま、これで、借り100のうち1返したくらいだろうけどね~。あはは~。

遠見結奈

うん……。

阿野藤

あはは~……。

ああ、ダメ、ダメだ。私、ちゃんとできてない。阿野に気を遣わせてしまってる。

なにかを話して気まずさを消そうとは思うけど、なにを言っていいのかも思いつかない。ただ、貸してもらったノートを書き写すことしかできない。

なにか言わなきゃ。なにを言おう。まさか、本当のことを言うわけにもいかないし……。

阿野藤

えっと。

声。そこから一呼吸置いて。

阿野藤

そう言えば、結奈って、比奈ちゃんと被ってるよね? 名前、奈の字。

遠見結奈

え?

比奈の名前が不意に出てきて、驚いてしまう。指の力が変なふうに入って、角度がずれて、シャーペンの芯がノートの上でぽきりと折れる。

話題、無理矢理考えてくれたんだと、すぐにわかったんだけど。

でも、質問されたことで、頭の中が少しだけすっきりする。聞かれたことに答えるなら、集中できる。勝手に頭の中で記憶がするすると引き出されて。

阿野藤

なんか理由あるの?

遠見結奈

理由ってほどじゃ、ないけど……。一応、ある、かな。

阿野藤

へ~、初耳。どういうの?

同じ質問、ずっと前に両親にしたことがあったっけ。その時のことを思い出す。

遠見結奈

……うちのお母さんと、比奈のお母さん、同じ病院に勤めてるの。看護師さんね。

阿野藤

あ、その話は聞いたことあるかも。

遠見結奈

うん。それで……。

阿野藤

なんやかやで生まれた日が同じとか!

遠見結奈

……誕生日は別の日よ。知ってるでしょ。

阿野藤

あ、そっか。ごめんごめん。それで?

遠見結奈

比奈が産まれる前に、二人で決めたっていう話なんだけど……。

ここまでなら、お隣同士、親しい友人同士のお話になりそうなんだけど、ここから先はひどく庶民的な話というか。

母親同士で、子供に買い与える服やおもちゃや、あれこれがムダにならないように……。

一字を書き換えるだけで私のものがおさがりにできるよう、名前に共通部分を作っておいた、とのこと。

ちゃんと、二文字に揃えて……。

遠見結奈

……って、そういう話。

阿野藤

そ、そんな理由だったんだ……。思ったより、うん、ロマン溢れる感じ……、じゃない……、よねぇ?

阿野藤

あ、でも、あれだ。結奈のママらしいよ。実利的な考え方っていうかさ。

遠見結奈

そう?

阿野藤

そうだねぇ。

遠見結奈

私も詳しく聞いた時は、ちょっと拍子抜けしちゃったんだけど。でも、いいこともあったかな。

阿野藤

うん? なに?

遠見結奈

比奈が次に使うかもって考えて、大事にものを使うようになったから。物持ち、けっこういいほうに育ったと思う。

遠見結奈

比奈もね、あんまり気にはしてないけど、ものは大切にする子になってるし。

阿野藤

仲いいんだねえ、昔っから。

仲がいい、か……。

遠見結奈

……付き合い、長いから。

阿野藤

おさがりのこと考えられる子なんて、普通いないよ? 血の繋がった姉妹だってそんなに上手くいかないと思うし。

阿野藤

んー。ちょっと感心しちゃったぞ。

遠見結奈

そんなに感心されることでもないと思うけど……。

……血の繋がった姉妹だって。か。

私と比奈。実際、仲は良いし、比奈がいない日常なんて考えられない。大切な子だって思えるし、言える。でも。

でも、この比奈との関係はなに? 私が比奈に抱いている感情はなんと呼べばいいの?

恋愛感情? 本当に?

以前はちがった気がする。友人で、家族で、それの混ざり合った大切な間柄。生まれた時からずっと一緒だったから、私と比奈。そう言い切れたと思う。

遠見結奈

(だけど……)

遠見結奈

(あの、8月の……)

暑い夏のあの日。悩みを相談されたのがうれしいと言った、比奈の、あの子の笑顔。

あの笑顔を見てしまった瞬間から、なにか、私の中でなにかが、変わっていくような感覚があって。

今から振り返ってみると「そうかな」と思う程度では、あるのだけれど。

どういうことなんだろう。つまり、私は、比奈のことを……?

本当に? そうなの?

まるで、私が私でないみたい。だって、今までは、そんなことただの一度だってなくて。考えたこともなくて。

なのに、今は……。

阿野藤

結奈。

遠見結奈

う、うん?

阿野藤

ノート。字、間違ってるよ。

遠見結奈

あ。

ああ、もう、なにもちゃんとできてない……。ほんと、どうしたらいいんだろう……。

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okujou_no_yurirei-san/3005.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)