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okujou_no_yurirei-san:2803

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稲本美夕

茉莉!

正門のそば。茉莉はのんきに手を振っていた。向かってくる私が、なんでこんなに急ぎ足でいるのか気にもしてない感じで。

網島茉莉

あ、来た来た。やっぱ、飛んでくると思った。

稲本美夕

当たり前でしょ!

やっぱり、確信犯だったのね。

終業式の後。顧問の先生のところに、夏休み中の部活と合宿のことについて聞きにいっていた時のこと。

ケータイに茉莉からメールが届いた。正門のところで待ってるから、一緒に帰ろうって。

それはいつものこと。でも、メールの最後に入ってた文字が。

「アイシテル」って。

職員室を出て、そのメールを確認した瞬間、私は駆けだしていた。廊下、走れないからできる限りの早足で。競歩じゃないのよ!

やっぱり飛んできた? 当たり前でしょ!

稲本美夕

どうしてこんなことするのよ!

網島茉莉

どうしてって……。いやつい、本音が出ちゃったっていうか、伝えたかったっていうか……。

稲本美夕

こういうことしないでって言ったでしょ!

網島茉莉

わ、わかってるけどさ。ちょっと待たされてたから、すぐに美夕に会いたくなっちゃってさ。

稲本美夕

そんな言い訳、通じると思ってるの!? だいたい、待たせたことだって、茉莉の代わりに先生のところに行ってたのよ、私!

網島茉莉

そうだけどさぁー。

稲本美夕

ルール違反よ、茉莉。

網島茉莉

んー、またそれ?

稲本美夕

またもなにもないわよ!

メールみたいな、残る形でこういうこと書かないってルールなのに!

稲本美夕

メール、茉莉の、消して。

網島茉莉

え、ええ!?

稲本美夕

消して。削除して。

網島茉莉

うー……、美夕のはもう消しちゃったの?

稲本美夕

消したわよ! 茉莉のも消して! 今、すぐ!

網島茉莉

んー、もったいないなぁ。

稲本美夕

もったいなくない!

大声を出しそうになるのを、私、必死にこらえてる。

なのに、どうして? どうして茉莉はそこまで真剣に考えてくれないの?

稲本美夕

消して! こういうの、残しておかないで!

網島茉莉

だからさ、そんなに生真面目に考えなくてもいいでしょ? 美夕はどうしてそんなに気にするのかなぁ。

稲本美夕

あなたがなにも考えていないだけでしょ! もっと真剣に考えてよ!

なんで、私だけこんなに必死になっているんだろうって考えてしまう。

でも、大事なことだから。私はちゃんと考えてルールを決めたの。

茉莉のためなのに。茉莉と私のためなのに。

網島茉莉

真剣に考えてるつもりなんだけどなぁ。はいはい、どうせあたしはいい加減ですよーだ。

稲本美夕

そういうこと、言いたいんじゃないの! もう、私はけっこう、茉莉の気楽なところ、助かってるのに……。なによ、私ばっかりムキになっててバカみたいじゃない。

そんなふうに思わせないでよ。

網島茉莉

あ、美夕がちゃんと考えてくれてるから、あたしも思いっきりやれてるんだよ? そういうふうに自分を卑下するのやめなよね。

稲本美夕

茉莉がそうさせてるんじゃない……。

いやだ。自分が惨めになる。

網島茉莉

もうちょっと自信持ってもいいと思うんだけどな。あたし、美夕のそういうとこ、大好きなんだから。

稲本美夕

ちょっと! そういうこと、こういう場所で言わないでって言ってるでしょ!

私が必死になってること、それを茉莉がわかってくれないのが、悔しい。どうしてよ。

網島茉莉

二人っきりの時にも言ってるけど?

稲本美夕

そんなの知ってるわよ!

どうしてわかってくれないのよ。

こんなまるっきり痴話喧嘩、これだって誰かに見られたらどうしようって思ってるのに。

泣きたい気分。でも、こんなとこで泣き出すわけにもいかない。そこに。

狛野比奈

茉莉先輩、美夕先輩。

え? 比奈? どうしてここに……、って、当たり前よね、ここって正門のすぐそばなんだし。

稲本美夕

あ、ひ、比奈。今、帰り?

狛野比奈

ん。

どうしよう、ごまかした方がいいのかな? 今の、聞かれていたりしたのかな。

そんなあせっている私のことなんか、知りもしないって感じで、茉莉が。

網島茉莉

もー、聞いてよ、比奈! 美夕ったら頑固でさぁ!

比奈に大げさに泣きついて見せる。

稲本美夕

ちょっと茉莉! 後輩になに言ってるのよ!

網島茉莉

少しは比奈の素直さとかわいさ、わけてあげてくれない?

抱きつきそうな勢いで。ああ、もう、ほんとバカらしい。さっきまでの自分の必死さもバカらしい。

そして、比奈にこんなこと言う茉莉も。なにもかも。そんな気分になって、私も比奈に泣きついた。いろんなことをごまかしながら。

稲本美夕

茉莉の方こそ、比奈のしっかりしたところと、余計なこと、言わないところを見習うべきでしょ。

網島茉莉

あーもう、ほんと美夕ってば口うるさいんだから。いいよ、比奈、今日はあたしと一緒に帰ろ。こんな頑固者、置いてっちゃおう。

稲本美夕

ちょっと! 比奈、茉莉に付き合ってるといい加減が移るわよ。私と一緒に帰りましょ。茉莉はそこでしばらく反省してなさい。

網島茉莉

えー! 美夕、こんなかわいい後輩を独り占めする気!?

稲本美夕

あなたの悪いとこ、見習ってほしくないのよ!

なにを、言い争っているんだろう、私たち。比奈は全然、関係ないのに。

そうは思っても、なぜか、退く気になれなかった。私も茉莉のレベルにいつの間にか合わせていた。

網島茉莉

比奈! いいからあたしと一緒に帰ろ!

稲本美夕

私と帰りましょ! ね、比奈!

比奈の顔、いつもと同じよう。困っているようにもあまり見えない。私たちのこと、見比べるわけでもなく、同時に見上げていて。

狛野比奈

んー……。

網島茉莉

比奈!

稲本美夕

比奈!

同時に名前を呼んだら……。

比奈はちょっとだけ、体をずらすように移動して。

狛野比奈

結奈ねぇと帰る。

そこには、結奈さんがいて。比奈はぴたっと結奈さんのそばに。

網島茉莉

ええ!?

稲本美夕

ちょ、ちょっと比奈!

結奈さん、いたんだ。今、気付いた。あんなこと言い争いしてる私たちのこと、見てたのかな。

その後の、比奈に詰め寄ってるところは、当然、見られていたわよね。

うー、気まずい……。

私はバツが悪くなって、ただ、比奈と結奈さんを見つめていた。でも、それは比奈の声が返ってくる短い間だけで。

狛野比奈

だって、先輩たち、新町の方でしょ。

狛野比奈

帰り道、ちがうから。

網島茉莉

あ。

稲本美夕

あぁ……。

あ、そっか……。比奈の家は確か、八津岸の方。帰り道は椿小路になるんだから、駅に向かう私たちは当然、逆の方向。

はぁ……、なんか、一気に力が抜けちゃった……。

狛野比奈

それじゃ、失礼します。

網島茉莉

あ、うん、じゃあね、比奈ちゃん、結奈ちゃん。

稲本美夕

気をつけて帰ってね。結奈さん、合宿、お願いね。

遠見結奈

あ、はい。えっと、それじゃ、失礼します。

比奈と結奈さん、ぺこって私たちにお辞儀して、正門を出て行く。

稲本美夕

はぁ……。

ため息が出た。なにしてるんだろう、私。

網島茉莉

はぁ……。

ほとんど同時、茉莉もため息をついて。思わず、お互い、顔を見合わせて。

網島茉莉

……帰ろっか。

稲本美夕

ええ。

ここまで急いで来た理由も、茉莉に対する苛立ちも全部、抜けていっちゃった。

網島茉莉

メール、ちゃんと消すから。

稲本美夕

うん。お願い。

いつものように、二人で並んで歩く。正門を出て、駅の方、柿坂へ。

稲本美夕

ごめん、私も言い方、きつかった。

網島茉莉

ううん、いいよ。あたしもつい、ふざけちゃったし。ごめん。

稲本美夕

ん、もういい。わかってくれたら、それでいい。

網島茉莉

うん。

いつものように。茉莉の隣を歩く。

ずっと、こうして歩いていれたらいい。茉莉もそう思ってくれたらいい。

それだけで、いいのに。

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okujou_no_yurirei-san/2803.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)