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okujou_no_yurirei-san:2424

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園生月代

はぁ~~~……。

誰もいない部屋に、自分のため息がやけに大きく響いたような気がした。

園生月代

やっぱり、熱、出ちゃったかぁ……。

昨日の夜、桐に心配された通りになっちゃった……。

昔からそう。特別、体が弱いわけじゃないけど、ちょっとがんばったり考え込んだりすると、すぐに微熱が出てしまう。

でもって、たいした熱でもないのに、頭がのぼせあがっちゃって、こうして寝込むことになる。

健康診断とかだと、別に問題ないのに……。もう、体質としか言いようがない。やだな、こんな体質。

園生月代

はぁ……。

もっかい、ため息。これも癖になってるみたい。

今日、朝、起きた瞬間、ぐるって世界が回る感覚に襲われた。

そして、すぐに桐に布団に押し戻された。真っ赤な顔、してたみたい。

おでこに手を当てられて、すぐに熱が出てることがバレた。ついでに、桐の手が、ちょっと冷たくて気持ちよかった。

保健室に行こうって言ってくれたけど……、私はそれを断った。

だって、保健室には、養護の先生がいる。熱が出てることが知られたら、代わりの先生をお願いしなきゃいけない。

そうすると、自宅研修中の先生に来てもらうことになる。意地を張ってるわけじゃないけど……、それはさすがに申し訳ないし。

ちょっとふらつくだけ。がんばれば、普通に勤務できる。

それに、今日はやらなきゃいけない仕事は、ないし。昨日、遠見さんと有遊さんが調整してくれたから。

なんかもう、学生たちに仕切られて情けないけど……、こういう状況になっちゃったから、ありがたい。

仕事を持ち越した状態で、今みたいに熱出したら、それこそ、黙って寝てるわけにもいかなくなったんだし。

ラッキーだと思うしかない……。うん、寝込んでるのは全然、ラッキーじゃないけど……。

園生月代

あーあ……。

まだまだだな、私。全然、目指していた先生にはなれてないみたい。

学生たちに頼られて、いろんな仕事ができて、学校をみんなと楽しい場所にできる、そんな先生に。

園生月代

なれてないのになぁ……。それなのに……。

学生相手に、恋人だけは作っちゃうなんて……。しかも、同性、女の子。どういうことなのよ……。

桐に告白されて、そのまんま、押し切られちゃった、感じ? だって、どんどんきれいになってく桐が悪いんだもん。

園生月代

……悪くないけど。ごめん、桐。

大好き、愛してる。あああ、相手は学生なのに……。

園生月代

ああ……、熱出てると、変なことばっかり、考えちゃうなぁ……。

そして、天井見ながら、独り言。桐、早く戻ってこないかな……。

とにかく寝てないと熱、ひかないからって、桐に言われて。まぁ、確かにその通りだから、大人しく横になることにして。

いつの間にか、ほんとに寝てたみたい。起きたら、桐の姿がなかった。枕元に、メモがあって、飲み物、買ってくるって。

コンビニまで、行ったのかな? いつごろ、出て行ったのかも、わからなかった。

せっかく、桐も休みになったのにな……。寝込んだ私に付き合わせちゃった。でも、こうしてちょっとでかけていないだけでも、さびしい。なんて勝手なんだろ、私。

園生月代

ああ……、どんどん考えてることがダメになってく……。

今、何時だろう。ケータイ、どこに置いてあったっけ……。

剣峰桐

ただいまー。

園生月代

あ、桐……。

部室のドアが開いて、桐が戻ってきた。その顔を見たら、自分でもびっくりするくらい、ほっとした。さびしさなんて一瞬で吹っ飛んで。

剣峰桐

あ、起きてたんだ。ごめんね、ちょっと買い物、行ってきたの。

園生月代

ううん。……こっちこそ、ごめんね? 迷惑かけちゃって。

剣峰桐

いいよ、そんなあやまらなくて。月代ちゃん、がんばりすぎてたんだもん。今日くらいゆっくり休もうよ。

園生月代

うん……。

剣峰桐

はい。ポカリ、買ってきた。喉乾いたら、飲んでね。

園生月代

うん、ありがと。

剣峰桐

あ、そだ。月代ちゃん、お腹、空いてる? なにか食べれる?

園生月代

え……? あ、うん、ちょっと空いてる。

剣峰桐

そう。じゃ、ちょっと待ってて。今、なにか持ってくるから。

園生月代

え? ちょ、ちょっとそこまで面倒かけられないわ。

剣峰桐

月代ちゃん、病人なんだから気を使わないでよ。えっと、ケータイケータイ。

桐、ポケットからケータイを取り出すと、誰かにかけた。

剣峰桐

あ、遠見ちゃん? 今、月代ちゃん起きてるよ。あ、うん、もういいの? んじゃ、取りに行くね。

園生月代

え? 遠見さん?

剣峰桐

あ、うん、出る時にちょっと会ってさ。月代ちゃんのこと、話したら、なにか作ってくれるって。

園生月代

そ、そう……。はぁ……、遠見さんにまで、迷惑かけちゃったんだぁ……。

剣峰桐

いやまぁ、遠見ちゃんの場合、なにを今さらだよね。合宿中、いろいろ手伝ってくれてたんだし。

園生月代

そう、よね……。

剣峰桐

落ち込んでもしょうがないよ、月代ちゃん。それじゃ、ちょっと食べるもの、もらってくるね。

園生月代

……うん、行ってらっしゃい。

剣峰桐

はーい。

剣峰桐

あーあ、私がふーふーってして、あーんって食べさせてあげたかったのに。

園生月代

あのね、桐、そこまで私、子供でも重病人でもないの。ちゃんとおかゆくらい一人で食べられます。

剣峰桐

それでもしたかったのに。ちっちゃい子におかゆ食べさせてあげるのって、至高の瞬間だよ?

園生月代

だから、子供じゃないってば!

桐はもう、なんというかこういうとこが……。もし、私が人並みに身長が高くて、年相応に見える容姿だったら、きっと桐の眼中に入らなかったんだろうな。

そう思うと、こんな体でよかったと思うべきか、思わないべきか。

園生月代

ごちそうさま。あとで、遠見さんにお礼、言わなきゃね。

剣峰桐

うん、そうだね。私もおにぎり、もらっちゃったし。

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遠見さんに、二人してちょうどいいお昼をご馳走してもらった感じ。

料理が得意で、それで陸上部の食事当番として夏合宿に参加したってことだけど……。

ほんとに、おいしいおかゆだった。私が自分で、炊飯器で作るおかゆがすごく味気なく思えるくらい。

卵と、ちょっとお塩が振ってあったのかな?お出汁? わかんない。でも、ほんのり味がついていて。

一人用のちっちゃな土鍋を枕元に置いて、また、私は布団に横になっていた。

正確には、ちゃんと夕ご飯までには熱が下がるようにって、桐が布団から出るの、許してくれなかったんだけど。

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園生月代

ねぇ、桐。

剣峰桐

ん、なに、月代ちゃん。

園生月代

ちゃんと寝てるから、遊んできてもいいのよ?

剣峰桐

えー、やだ。月代ちゃんを看病してる。

園生月代

もう……、ありがと。でも、ほんとにどこかに出かけてもいいのよ?

剣峰桐

いいの。そばにいたいんだから。

ああもう、うれしいな。私、迷惑かけてるのに、そう思っちゃう。

剣峰桐

なにか、してほしいこと、ある? 汗、拭いてあげようか?

園生月代

……それは大丈夫。ん、でも……。

園生月代

手、つないでくれる……? こっちだけでいいから。

剣峰桐

うん!

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薄い掛け布団の端っこから、手を出す。それを桐が両手で握ってくれる。

学校の中で、学生相手に、こんなこと、お願いするなんて。これも熱のせいかな……。

園生月代

あ、片っぽだけでいいのよ? 桐も本とか、読んでたいでしょ?

両手で、私の手を握ってくれる桐。私がそう言ったのに、首を横に振って。

剣峰桐

ううん、これでいいの。月代ちゃんを見守ることに勝る娯楽なし!

園生月代

もう……。

桐の両手が優しく、私の手を握ってくれる。

冷房はよくないからって、切ってあるけど、開けた窓からいい風が入ってきてくれる。夏の午後の陽射しは、カーテンが遮ってくれてる。

聞こえてくるのは、蝉時雨。あと。

剣峰桐

ねぇ、月代ちゃん。

桐の声。

園生月代

なぁに?

剣峰桐

学園祭のことだけどさ。

園生月代

うん。

剣峰桐

今年は、展示、止めるね。

園生月代

え? いいの? だって、学園祭とかでアピールしないと、数理部のこと、誰も知ってもらえないのよ?

剣峰桐

うん、そうだけどさ。

園生月代

このままじゃ……、新入部員とか、入ってこないかもしれないわよ?

剣峰桐

うん、だけどさ。去年のこともあるでしょ?

園生月代

あ……。

去年の学園祭。一年生の桐が一人だけの数理部。一応、展示スペースを申請してとったんだけど……。

一年生でなにをどうしていいかわからない桐は右往左往して、私も、学園祭の実行委員の顧問で大忙しで。

結局、直前まで準備らしいこともできず、展示スペースを空っぽにしてしまった。おまけに、私は学園祭の最中に、また、熱を出しちゃったし。

剣峰桐

今年も、月代ちゃん、学園祭の実行委員でしょ。きっと、夏休みが明けたら、すごい忙しくなりそうだし。

園生月代

うん……。

剣峰桐

結局、数理部も私一人だけだしね。だったら、いっそ、展示とか無理してしない方が余裕、持てると思うんだよね。

園生月代

でも……。

剣峰桐

いいの。ドタバタしてたいしたことできないより、いっそなにもしない方がさ。そしたら、私も月代ちゃんの手伝い、できるし。

園生月代

そんな気、使わなくてもいいのに……。

剣峰桐

部長として、もう決めたんだ。

園生月代

そう……。

剣峰桐

勝手に決めて、ごめんね?

園生月代

ううん、それはいいんだけど。はぁ……、ほんと、桐ってけっこうしっかりしてるのよね。

剣峰桐

そう?

園生月代

うん。私とは大違い。

剣峰桐

そんなことないよ。月代ちゃん、ちっちゃいけど、ちゃんと先生してるよ?

園生月代

ちっちゃいは余計でしょ。そうじゃないの。私が桐と同じくらいの時と比べてってこと。

剣峰桐

……月代ちゃんの学生時代?

園生月代

うん。

剣峰桐

今よりも、もっとちっちゃかった?

園生月代

背はあまり変わってません! そうじゃなくて、ね……。

園生月代

私、ね。学生時代に、友達の女の子から、告白されたこと、あるの。

剣峰桐

え……。

きゅって、桐の両手に、ちょっと力が入ったのが伝わってきた。

そっか、びっくりするし、気になるよね。私、桐の恋人だから。年上の恋人の昔の話、だもんね。

なんでこんなこと、話し出しちゃったのかな。自分でもよくわからない。でも。

桐には、聞いてほしいな。

園生月代

私、告白された時は、よくわからなくてね。答えを聞かせてほしいって言われて、すっごい悩んだの。

剣峰桐

うん……。

園生月代

熱、出して寝込むくらいに、ね。それでね、OKしてもいいかなって思って、返事をしようとしたのね。

剣峰桐

う、うん……。

園生月代

そうしたらね、その子から、先に言われちゃったの。勘違いしてたみたいだから、忘れてって。そしたら、また寝込んじゃってね。

剣峰桐

うわぁ、なにそれ、ひどい。

園生月代

うん……、ひどいってことはないと思うの。本当に、その子はちょっとだけ、そういう気になってただけなのかもしれなかったんだしね。

剣峰桐

えー、でも……。

園生月代

うん……、でも、私はすごいショック受けちゃってね……。もう、そういうもんだって思い込んじゃったの。

剣峰桐

だから……、最初に私が告白した時、ああ言ったんだ。

園生月代

うん……。結局、桐に同じくらい、ひどいこと言っちゃったんだね、私。

剣峰桐

ううん、そんなことないよ、月代ちゃん。だって、私、月代ちゃんがああ言ってくれたから、もう一回、本気でちゃんと考えたんだもん。

園生月代

そうなの?

剣峰桐

うん。本気で考えられたから、それでも月代ちゃんが好きだってわかったんだもん。

園生月代

そっか……。やっぱり、桐はすごいなぁ。私、桐にもう一度、告白されるまで、ずっとひきずってたのに。

園生月代

人を好きになるなんて、わかんないって思ってたのに……。

剣峰桐

ねぇ、月代ちゃん。月代ちゃん、ほんとにその人のこと、好きだったの?

園生月代

……わかんない。その時は、OKしてもいいと思ったけど、今、思い出してみると、わかんないなぁ……。いっぱい悩んだと思うんだけど。

剣峰桐

そっか……。今は、わかる? 私のこと、好きって言ったでしょ?

園生月代

わかってる、つもり。桐のこと、好きよ。いっぱい、悩んだけど。今も悩んでるけどね。

剣峰桐

え? な、なに悩んでるの?

園生月代

だって……、私、先生で桐は学生なのよ? 同じ学校の先生と教え子なのよ? しかも、女同士なのよ? ほんとにこれでいいのかなって悩んじゃうわよ。

剣峰桐

……でも、好きなんだよ、私、月代ちゃんのこと。

園生月代

うん、知ってる。そう言ってくれたものね。大好きよ、桐。

剣峰桐

うん……。

桐との言葉はそこで、自然と途切れて。私は、頭の中に残る熱にまかせて、目を閉じる。

桐が握ってくれてる手から、伝わってくる温かさ。夏だから気温はけっこう高いはずなのに、不思議といやじゃない。

窓からの風と蝉の声。桐と二人でいるこの部室。横になって目を閉じると、桐と、あの日の自分が重なって見える。

あの日、告白された自分。あの日、友達の言葉にショックを受けた自分。

あの時の自分にもし、今の桐ほどの勇気があったら、どうなっていたのかな。

わからない。もし、告白されてすぐに、返事をしていたら? 友達の言葉にショックを受けても、すぐに乗り越えていたら?

わからない。もし、桐の最初の告白にちゃんと答えていたら? わからない。

園生月代

桐……?

剣峰桐

………………。

呼びかけたつもりじゃなかった。ただ、名前を呼んでみたかっただけ。

園生月代

あ……。

剣峰桐

………………。

桐からの返事はなくて、聞こえてくるのは、かすかな息づかいだけ。

園生月代

寝ちゃったんだ……。

私も、ちょっとだけ、寝てたのかもしれない。会話が途切れて目を閉じた後。

園生月代

桐……。

もう一度、ただ、名前を。

私の手を握ったまま、布団のそばに座ったまま、寝ている桐の、名前を。

昔の自分のなにが間違ってたのか、わからない。でも、あの日の自分がなかったら、もしかして、桐には会えなかったかも。

そう思うと、あの日、都合二回、寝込んだ日々はムダじゃなかったのかも。なんて。

園生月代

そんなこと、思えるのは……。

園生月代

今、桐がいてくれるからだよね……。

私は、先生なのに。桐は、学生なのに。そして、二人は女同士なのに。

園生月代

でも……。

この関係は間違いなんかじゃない。勘違いでもない。

つないでいる手は、確かなもの。

園生月代

大好きな、桐。大好きって言ってくれた、桐。

園生月代

あなたがいてくれるから。

こんな頼りない自分でも、自信が持てる。悩んでも、考えることができる。こうして寝込んでも、落ち込みすぎないで起き上がることができる。熱がひいたら。

園生月代

また、がんばれるから……。

桐の手のひらの中で、そっと自分の手を握った。桐の指を、そっと。

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okujou_no_yurirei-san/2424.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)