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okujou_no_yurirei-san:2423

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剣峰桐

月代ちゃ~ん、これ、どこに持っていけばいいの!?

園生月代

あ、それは、中島先生のところに持っていってくれる? えっと、中島先生は……。

私は、手元に広げておいた、自分のスケジュール帳に目を落とす。他の先生方の予定がびっしり書き込まれている8月のカレンダー。中島先生は……。

園生月代

今日は学校にはいらしてないから。職員室の机の上に置いてきてね!

剣峰桐

りょーかい~!

まとめた書類のファイルを抱えた桐が、数理部の部室を駆け出していく。

園生月代

あ、剣峰さん! 廊下は走っちゃダメよ!

剣峰桐

安全運転してるから大丈夫!

園生月代

ちゃんと制限速度は守るのよ!

あー……。

さすがに、いろいろ仕事を引き受けすぎたみたい。

ここ数日、ほとんど、昼間にゆっくりした記憶がない。それは桐も一緒。

毎日、朝から夜まで、ずっとこの部室で仕事をしている。夏合宿監督の仕事、学園祭実行委員会顧問の仕事。

その他にも、お盆が近いから、そろそろ休暇に入る先生も多い。その先生の代わりに夏合宿に参加している子たちの面倒を見たりもしている。

この夏合宿の間だけで、いったいいくつ、臨時顧問の肩書きが増えたんだろう。数が多くて重すぎて、肩が凝りそう。

さすがに、毎日手伝ってくれてる桐も大変そう。悪いな、申し訳ないなって思っているんだけど、一生懸命手伝ってくれるから、つい、頼ってしまう。

桐が恋人だっていう甘えもあるのかな……。遠慮なくなってきてるかも。

剣峰桐

ただ今~。中島先生、いなかったよ~!

園生月代

あれ? ごめんなさい、中島先生、お休みだったみたい。

おかしいなぁ、スケジュール帳にちゃんと先生方の予定、書いておいたのに。どうして確認しなかったのかなぁ。

こんなにしっかり、お休みって書いてあるのに。

剣峰桐

ねぇねぇ、月代ちゃん! 次はなにすればいい?

園生月代

え、えっとね……?

スケジュール帳にメモ用紙、即席で作った進行表をひっくり返しながら、次に桐にしてもらう仕事を探す。

ああ、なんかクラクラしてきた。ご飯、なんとかちゃんと食べているんだけどな。

進行表を見た瞬間、こんな気分になったってことは、残ってる仕事、相当多いんだな。

でも、部室の窓からは、炎天下でも元気に声を出している運動部の子たちの声が聞こえる。

校舎の中だって、夏合宿に参加してる子たちが、楽しそうに部活動とかしてるんだから。

それも、学園祭の準備とかのために!

そう考えたら、倒れてもいい。力尽きてもいい! 命の一つや二つ、惜しくないって思える。みんな大好きだから、力尽きるのは嫌だけど。

園生月代

それじゃね……。

ようやく、桐にお願いできそうなものを見つけたと思った時。

有遊愛来

ちょっと待ってください、先生。

有遊さんが、そう言って立ち上がった。

園生月代

え? なに? なにかわからないことあった?

今日も、有遊さんと遠見さんが手伝いに来てくれている。

二人とも、手際がよくて、すごく頼りになる。桐と二人だけだったら絶対に終わりそうにないって思ってた仕事が、どんどん片付いていく。

有遊さんは風紀委員、遠見さんは陸上部の食事当番の合間を縫って、来てくれている。ああ、とてもありがたい。感謝しなくちゃ。

じゃなくて。

有遊さん、どうしたんだろう。

有遊愛来

そろそろ一度、仕事を見直すべきでしょう。

園生月代

え? どういうこと?

有遊愛来

一度、現状の仕事を見直して、整理するべきです。そして……。

有遊愛来

明日は、仕事は休みにしましょう。

園生月代

ええ!?

と、突然、なにを言い出すの、有遊さん。

仕事を休みにする? それって、お休みにするってこと? つまり、明日は仕事をしないってこと?

園生月代

え、えっと、有遊さん、明日は都合悪いの?

そ、そっか、毎日来てくれたもんね、有遊さん。用事があるのかな?

けっこう痛いけど、用事があるなら仕方ないかな。明日は有遊さんは休みで……。

有遊愛来

ちがいます。明日は、園生先生も剣峰さんも、仕事を休むべきだと言ってるんです。

園生月代

ええ、や、休む!?

有遊愛来

はい。どう見ても、二人ともオーバーワークです。このままずっと働き続けていても効率は落ちますし、ミスが出る可能性も高くなります。

有遊愛来

なにより、そろそろ休まないと、二人とも倒れますよ。

園生月代

え、えぇ……。

有遊愛来

そのために、仕事を整理するべきです。

園生月代

えぇ……。

剣峰桐

そんなぁ、せっかくノってきたのに!

有遊愛来

その状態がいちばんよくない。勢いだけで仕事していると、ミスは絶対に起こる。

有遊さんに断言されちゃった。桐の言葉は私も同感だったんだけど、有遊さんの言うことも一理あるんだけど。

でも、勢いがないと、この仕事の量はちょっと乗り切れないと思うし……。

有遊愛来

園生先生、土日もずっと仕事だったんでしょう?

園生月代

そ、そうだけど……。でも、夏合宿が始まったのは水曜日からだったし……。

有遊愛来

では、始まる前は休みを取っていたんですか?

園生月代

……ええと。

仕事してました……。

有遊愛来

そろそろ、休みを取るべきですね。

園生月代

で、でも……。

有遊愛来

失礼ですが、見かねて言ってるんです。仕事をするなとは言ってません。ちゃんと休みは取るべきだと言ってるんです。

有遊愛来

必要な休みを取るのを怠ったせいでミスしたロスを取り返す、そんなことは時間の無駄です。

園生月代

……はい。

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学生にこんなこと言われちゃうなんて……。そんなに見てて危なっかしそうだったかな、私。

はぁ、なんだか有遊さんにこう言われると、実習してた時の指導教官の先生を思い出す。あの時も、がんばりすぎて熱出して、同じこと言われたっけ……。

でも、今の有遊さんほど、はっきり言われたわけじゃないんだけど。

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遠見結奈

それじゃ、仕事の整理、始めましょ。園生先生。

園生月代

あ、うん。

遠見結奈

わからないことあったら、質問させてくださいね。

園生月代

う、うん。

あ、なんだかこのやりとりは先生と学生みたい。

遠見結奈

それから、隠している仕事があったら、出してもらえますか?

そんな気がしたけど、そうじゃなかった……。

遠見結奈

それじゃ、こっちは9月に入ってから、調整すればいいですね?

園生月代

そ、そうね……。でも、ちょっとくらい準備しておいた方が……。

遠見結奈

9月になったら、追加の申請が来るんですよね? そうしたらまた、やり直しになっちゃいますよ。

園生月代

そ、そうね……。

遠見結奈

それから、こっちはもっと人手をかけて、やった方がいいです。

有遊愛来

それなら、やっぱり9月に入ってからでいいですね。

園生月代

えっと……。

有遊愛来

がんばれば終わらせられるかもというのは無しです。実行委員会の学生は他にもいるんですから。先生と剣峰さんだけでやる必要はありません。

園生月代

……はい。

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あぁ、どんどん仕事がなくなっていく……。

遠見さんと有遊さんが見直していくと、今、急いでやる必要のない仕事とか、無駄のあったところとか、すごいはっきりしていって。

そういうのをより分けていくと、今、やっておかなきゃいけないこと、先のための準備として必要なこととかがきれいに残っていって。

あんなにあった仕事が、今、この場の四人で手分けすれば、今日中に終わりそうなくらいにすっきりしていった。

はぁ、すごいショック受けるかな……。

有遊さんと遠見さん、私より先生に向いているんじゃないかな。いや、社会人としてみても、しっかりしてるんじゃないかな。

遠見さんは、仕事の全体を見通して、終わりまでの段取りを組むのがすごくうまいみたい。

準備しなきゃいけないこととか、終わらせるまでの工程の組み方とか。私なんて、研修を受けた時に初めてそういうのが大事だって知ったくらいなのに。

有遊さんは、判断力と人の使い方に対する思い切りがいい。

必要か不必要か、私だったら迷っちゃうことを、すぱっとその場で決断してしまってる。

有遊さんが出した結論って、理由もしっかりしてるから、「こうですね?」って確認されると、うなずくしかない。

それに、人にまかせるべきこととかの判断。私だったら、自分ががんばればって考えちゃうんだけど。

そして、二人が仕事を仕分けていくうちに、わかってしまった。私、けっこう仕事を増やしていたんだなって。しかも、効率の悪い方に。

桐にずっと手伝ってもらっていただけに、それがはっきりとわかると、落ち込むな……。

ほんとに、私、この二人に社会人として負けてる気がする。まだ、二人とも学生なのに……。

ううん、落ち込むことは後でもできる。ちょっとでも見習わないと。

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遠見結奈

だいたい、こんなとこですね。

剣峰桐

はぁ……、いや、二人とも何者? OLでもやってたの?

遠見結奈

なによ、その言い方。

剣峰桐

いやだってさ、有遊さんも遠見ちゃんも、バシバシ仕事の整理していくんだもん。すごい、こんなに仕事が減っちゃった。

有遊愛来

今すぐにしなくてもいいことを、先送りにしただけだ。9月になったらやらなきゃいけないことには変わりはない。

有遊愛来

まぁ、その時は、他の実行委員に手伝ってもらえばいいと思うが。

剣峰桐

なるほどねー。

遠見結奈

それじゃ、あとは分担した仕事を、各自やっていきましょう。なんとか今日中に終わるでしょ。

剣峰桐

うん、そうだね。

遠見結奈

それじゃ、これが園生先生と剣峰さんの分ね。

剣峰桐

うん。

遠見結奈

先生、これでいいですか?

園生月代

あ、う、うん。いいと思う。……ごめんね、二人とも。

有遊愛来

気にすることはありません。先生には先生のやり方があったんだと思いますから。

遠見結奈

それじゃ、私たち、隣の部屋で仕事しますね。なにかわからないことあったら、聞きに来ますから。

園生月代

うん、よろしくね。

遠見結奈

はい。

そう言って、遠見さんと有遊さんは、それぞれ、分担した仕事のファイルとかを抱えて、部室を出て行った。

なんだか、あの二人が持っていったファイルの方が、残ってるのより多く見える感じ。そんなことはないんだけど。

それを見送った後。

園生月代

はぁ……。

出ちゃうよね、どうしても、ため息が。

剣峰桐

はぁ、ほんとすごかったね、あの二人。私、あの二人が部員だったら楽できるのにとか思っちゃった。いや、部員がほしいなんて思ったのも初めてだけど。

園生月代

ほんとにそうね……。落ち込んじゃうわ……。

剣峰桐

あ、月代ちゃんが気にすることないよ?

園生月代

でも、私先生なのに……。遠見さんと有遊さんに、あんな迷惑かけちゃうなんて……。

剣峰桐

迷惑じゃないと思うけどなぁ。

園生月代

桐もごめんね、なんだか、無駄なことばっかり手伝わせちゃってたみたいで。

剣峰桐

そ、そんなことないよ、月代ちゃん。私の方こそ、あの二人みたいに、もっと月代ちゃんをサポートできたらよかったのにさ。あーあ、全然ダメだぁ。

園生月代

桐はちゃんと、一生懸命、私を手伝ってくれたわ。あの二人と比べることなんてないわよ。その……。

園生月代

私は、桐の方が好きよ?

剣峰桐

……うん。私も、がんばってた月代ちゃんの方が好き。

園生月代

……仕事、しよっか。

剣峰桐

うん、そうだね。がんばれば、明日は休みになるんだしさ。

園生月代

そうね。

うん、今は目の前の仕事、ちゃんと片付けよう。

仕事を減らして、休みを作ってくれた遠見さんと有遊さんのためにも。がんばって私を手伝ってくれる、桐のためにも。

驚いたことに、ほんとにその日のうちに仕事は終わっちゃって。

お昼前に一度、遠見さんと有遊さんは、それぞれ一度、仕事を抜けて、遠見さんは陸上部のお昼ご飯の仕度に、有遊さんは補習の監督に戻っていって。

午後になったらまた、こっちを手伝ってくれて。二人はそんなふうに掛け持ちしていたのに、きっちり自分の仕事は進めていて。

午後5時くらいに、それぞれ終わらせて、有遊さんは帰宅、遠見さんはまた陸上部の夕ご飯の仕度。

その時にはまだ、仕事を片付け切れていなかった私たちに声をかけて、戻っていった。

……居残りさせられている気分なんて久しぶり……。まぁ、二人はそれぞれ自分の仕事もあるから、割り振りは考えてあったんだけど。

私と桐も、なんとか、そんなに遅い時間にならないうちに、仕事を片付けることができた。

園生月代

はぁ……。

自分でも気付かないうちに、ため息をついていた。

あ、これ、もしかしたらちょっとマズいかも。吐いた息が、いつもよりちょっと温かい気がする。体もちょっと重たく感じるような……。

き、気合い入れないと。ちょっとでも気を緩めると……、また……。

剣峰桐

月代ちゃーん、夕ご飯、持ってきたよー。

園生月代

あ、ありがとう。

剣峰桐

おにぎりとお味噌汁だけなんだけど……。

園生月代

いいよいいよ。ごめんね、作らせちゃって。

剣峰桐

あやまんないでよ。交代で食事当番しようって決めたじゃん。まぁ、私、ほとんど料理したことないから、一日おきに貧しい食事になっちゃうんだけどさ。

剣峰桐

月代ちゃん、ちゃんと料理できるんだね。

園生月代

桐も、一人暮らししてみればわかるわよ。自分で作らないと、ほんとに食べるものないんだから。

剣峰桐

コンビニとか、どっか食べに行ったりしないの?

園生月代

……仕事が忙しかったり疲れた時とかは、それですましちゃうけど……。それに慣れると、料理しなくなるしお金かかるのよ?

剣峰桐

そっかぁ……。

桐はまだ親御さんと一緒に住んでるからわからないと思うけど。なにもしないでもご飯が出てくるってほんとにありがたいんだよ。

誰かに、ご飯を作ってもらえるのって。だから。

桐の作ってくれたおにぎりとお味噌汁も、すごいうれしい。料理はもっと勉強した方がいいと思うけど。

剣峰桐

……あれ、月代ちゃん。

園生月代

ん? なに、どうしたの?

気が付いたら、桐がまっすぐに私の顔を見つめていた。桐、顔がきれいだから、思わずドキッとする。

そして、次の桐の行動で、私の心臓はもっと大きな音を立てることになって。

剣峰桐

ちょっとごめん。

園生月代

ひゃ!? な、なに!?

いきなり、私のおでこに手を伸ばしてきたから、びっくりして変な声まで出た。

おでこに当てられた桐の手は、ちょっと冷たくて気持ちよくて。それで、私は自分の今の体調を自覚しちゃったわけだけど。

剣峰桐

やっぱり月代ちゃん、ちょっと熱あるでしょ。

園生月代

あ……、バレちゃった? そうみたい……。

剣峰桐

やっぱりぃ。ほら、がんばりすぎたんだよ、月代ちゃん。

園生月代

ね、熱があるかもなーって思ったのはさっきなのよ?

剣峰桐

だから! あんまりがんばりすぎない方がいいって言ったのに。

園生月代

……遠見さんや有遊さんがあんなに手伝ってくれてるのに、私ががんばらないわけにいかないじゃない……。それに、桐だってすごい手伝ってくれてたのに……。

剣峰桐

だけどさぁ。

園生月代

私だって気付いたのはさっきだったのに……。なんでバレちゃったんだろう……。

剣峰桐

わかるよ、そんなの。だって。

剣峰桐

月代ちゃんのこと、ちゃんと見てるもん、私。恋人なんだから。

園生月代

う……。

ず、ずるいな、その言葉。あ、もっと熱が上がりそう。

剣峰桐

恋人らしいこと、できてるかどうか微妙だけど。仕事の手伝いしかできないしさ。

園生月代

そ……、そんなことないわよ。体調に気付いてくれるとことか、恋人らしいんじゃない?

剣峰桐

そうなのかなぁ……。

園生月代

そうだと思うけど……。

恋人らしいことってどういうことなんだろうね。私も、実はよくわからない。ずっと、恋愛ってわからないと思ってたから。

桐が恋人になってくれるまで、そういうことから逃げていたから。目を背けていたから。

でも……。

おでこに手を当てて熱を計ってくれるなんて、すごいそれっぽいんじゃない?

すごい、ドキドキしたんだけど。

剣峰桐

とりあえず、ご飯食べたらちゃんと寝てね、月代ちゃん。

園生月代

うん、そうする……。せっかくお休みにしてもらったんだもんね。

剣峰桐

うん、そうだよ。

はぁ……。

そうして、おにぎり食べて、お味噌汁飲んで、夕ご飯を食べ終えたころには。

私の体はすっかり熱でふわふわになっていて、桐に見張られるまでもなく、布団に入ったらぐっすり、眠りに落ちていった。

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okujou_no_yurirei-san/2423.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)