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okujou_no_yurirei-san:2413

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試験の終わった日特有の、気の抜けたというか、のんびりとした空気が学校中に漂ってるみたい。

もちろん、私たち教師は、これから採点があるから、気を抜くどころじゃないんだけど、どうしても学生の子たちの雰囲気に引きずられてしまう。

この数理部の部室もそうだった。

試験の終わった剣峰さんは、今、椅子に腰掛けて、本を読んでる。タイトルを教えてもらったけど、理系のむずかしい本で、ちょっと理解できなかった。

私は……、さすがに剣峰さんのいる場所で、テストの採点はできないから、夏休みの間に発生するかもしれない仕事の下準備みたいなことをしている。

テストの採点は今日の夜からかな? 明日中に終わらせて、点数が取れなかった子には補習者リスト行き。

せっかくの夏休み、補習なんてかわいそうだから、みんな、がんばってくれるといいんだけど。もう、テスト終わっちゃってるけど。

剣峰桐

……っく、くく……。

噛み殺した剣峰さんの笑い声。そんなおもしろいこと、書いてあるのかな? 数学のむずかしそうな名前の本だったけど。

理系の剣峰さんにはわかるおもしろさがあるのかも。

椅子にちょっと浅く腰をかけて、足を組んでいる剣峰さん。お行儀悪いのかもしれないけど、背が高いから、すごくかっこいい。

園生月代

(ううん……、きれいに見えるなぁ……)

園生月代

(やだ……、もう……。私、なに考えてるんだろう)

気が付くと、剣峰さんに視線が向いてる。そして、見とれてしまってる。

私、本当に……、剣峰さんのこと、意識しちゃってるのかな……。

でも、最近の剣峰さんは本当にきれいに見える。私には、そう見える。

どうしてかな……。本当に剣峰さんが急にきれいになったのかな? でも、どうして?

それとも……。

私が、剣峰さんのこと、きれいだって思ってるのかな……。

剣峰桐

月代ちゃん?

園生月代

……え? あ、な、なぁに?

び、びっくりした。いきなり、声をかけられたから。剣峰さん、まっすぐこっちを見てて。

剣峰桐

なぁにって、いや、なんか月代ちゃん、ぼーっとしてたから。

園生月代

え? そ、そう?

剣峰桐

うん。なんか、全然、仕事もしてないみたいだったし。どうしたの?

園生月代

え、え? ううん、別に、どうも。

剣峰桐

うーん、そう?

園生月代

え、ええ。

言えないよ。また、剣峰さんのこと見て、ぼーっとしてたなんて。もう、本当にどうしちゃったんだろう、私。

剣峰桐

うーん……。ねぇ、月代ちゃん。

園生月代

剣峰さん? ちゃんと先生って呼びなさい。

剣峰桐

あー、はいはい。ねぇ、月代ちゃん、ちょっと働き過ぎじゃない?

園生月代

え? そんなこと、ないわよ?

剣峰桐

でも、さっきからぼーっとしてばっかだよ?あのさ……。

剣峰桐

ちょっと、息抜き、しない? 気分転換。

園生月代

え……?

剣峰桐

ね、いいでしょ? ちょっとくらいなら。ね?

園生月代

う、うん……。

剣峰さんに誘われて行ったのは、屋上だった。

いい天気。夏らしい空が、きれいに晴れ渡ってる。陽射しがちょっと強いけど。

屋上には誰もいなかった。当たり前かな、今日はテストがあったから。みんな、テストが終わった後は、さっさと帰って遊びたいものね。学校に残ってる人も少ないだろうし。

園生月代

ふぅ……。

ちょっと深呼吸。陽射しの熱さで顔が火照ってるみたい。大きく息を吸って吐いたら、ちょうど風が吹いてくれて、気持ちいい。

今、屋上には私しかいない。だから、ちょっと腕を伸ばして深呼吸しても、恥ずかしくないよね。

私を誘った剣峰さんは、ちょっと取ってくるものがあるからって、教室に寄ってから来るって言ってた。

園生月代

別に、働き過ぎで疲れてたわけじゃないんだけどな……。

気を遣われちゃったかな、剣峰さんに。学生にそんな心配されるなんて……、教師としてちょっと情けないかなぁ。

でも、気分転換、それは確かにいいかも。青空の下の、屋上。遠くに見える山とか、眺めていると確かに、すっきりした気持ちになれる。

園生月代

(剣峰さんを見ながら、ぼーっとしてばっかじゃダメだもんね……)

きれいだからとか、そんなこと、言い訳にならない。一ヶ月前、剣峰さんに、私、なんて言ったの?

あんなえらそうなこと言ったんだから……。今さら、勝手に見とれるなんて、ダメ。

園生月代

うん、すっきりしてこう!

剣峰桐

月代ちゃーん、お待たせー。

園生月代

あ……。

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屋上への入り口の方から、響いた声。振り返ると、そこから屋上に入ってきた剣峰さんが、こっちに歩いてきてた。小さめの紙袋を手にさげて。

降り注ぐ陽射しの下で、また、きらきらと輝いて。

園生月代

(やだ……、また……)

でも、どうしても目が離せない。陽射しが強いから? 眩しく見えるのに、それでも。

剣峰桐

ごめんねー。……あれ? どうしたの?

園生月代

う、ううん、なんでもないのよ。

剣峰桐

そ、そう?

園生月代

う、うん。っと、ど、どうしたの、その紙袋。

剣峰桐

あ、ああ、これ。えっと、これはちょっと後で。まず、こっち。

園生月代

え? なに?

剣峰さんがポケットから取り出したのは、折りたたまれた紙。コピー用紙、かな?

剣峰桐

えっと、これ、月代ちゃんのハンコがいるんだよね。

園生月代

え? これ……、夏合宿の申込書?

剣峰桐

うん、そう。ギリギリだけど、まだ、間に合うでしょ?

園生月代

え、ええ……。

この学校で夏休みに行われる夏合宿。事前に申請さえすれば、部活動に入ってなくても参加できる、一週間ちょっとの伝統行事。

もちろん、剣峰さんの場合、参加は数理部になるんだけど……。開いた用紙には、そう、書いてある。

園生月代

でも、剣峰さん……、数理部として参加するのはいいんだけど……。その、なにをするの?

だって、数理部って、特に活動内容が決まってるわけじゃない。顧問一人、部員一人で、大きな声じゃ言えないけど、好き勝手に活動してる。

大会とか、そういうのもないし。合宿でやることって、あるの?

剣峰桐

うん……。その、ほら、月代ちゃん、夏合宿の監督教師、でしょ?

園生月代

え、ええ……。

剣峰桐

それに、学園祭の実行委員会の顧問もやってるでしょ?

園生月代

うん……。

剣峰桐

夏合宿の間、いっぱい仕事、抱えてると思って。私、月代ちゃんの手伝い、したいんだよね。

園生月代

え……。

剣峰桐

ほら……、去年もいろいろ大変だったんでしょ? 月代ちゃん、休み明けにいっぱい熱出してたし。

剣峰桐

そうならないように、ね。私が手伝って、ちょっとでも楽になってくれたらいいなって。

剣峰桐

数理部として参加すれば、部室、使えるでしょ? そうするといろいろ便利だと思うし。ね?

剣峰桐

えっと、ダメ、かなぁ?

園生月代

そ、そんな……。その、数理部として合宿に参加するのは、全然、ダメじゃないけど……。

園生月代

私の手伝いってのは、そんなの……。

剣峰桐

いいでしょ? 手伝いたいんだ、月代ちゃんを。邪魔しないからさ。お願い!

園生月代

う、うん……。あ、あんまり、無理しちゃダメよ?

剣峰桐

それは月代ちゃんでしょ~。

園生月代

あー、もう! 先生でしょ! そんな心配、学生がしないでいいの!

って、言ってみたけど。

どうしよう、私、今、すごいうれしい。剣峰さんの気持ちが、すごい、うれしい。

ほんとなら、学生にこんなこと言われるなんて、教師として恥ずかしいと思わなきゃならないのに……。

剣峰桐

えっと、次、こっちね。はい、これ。

今度は、手に持っていた紙袋。確か、駅前のビルに入ってるお店のもの。

園生月代

なぁに?

剣峰桐

誕生日プレゼント。ちょっと遅れちゃったけど。

園生月代

あ……。

剣峰桐

中、見てみて?

園生月代

う、うん……。

紙袋の中には、箱が一つ。プレゼント用の包装を取るのがちょっと大変だったけど、その中には……。

園生月代

あ、靴?

剣峰桐

そ、学校での室内用にでも使ってよ。月代ちゃんがいつも使ってるトートと、色、お揃いなんだ。

園生月代

ほんとだ……。あ、で、でも、学生からプレゼントなんて……。

剣峰桐

もう、そんな堅苦しく考えないでよ。ただの誕生日プレゼントなんだしさ。去年だって受け取ってくれたでしょ?

園生月代

そ、そうだけど……。

そう、去年も剣峰さんは誕生日にプレゼントをくれた。去年はよりにもよって、テストの直前にくれたものだから、ちょっとお小言をお返しにしちゃったの、憶えてる。

初めて、学生からプレゼントをもらったから、すごく、うれしかったことも。

剣峰桐

ね、使ってくれたらうれしいな。

園生月代

うん……。大事に使わせてもらうね。

剣峰桐

ま、室内履きだからさー、私らの上履きと一緒で、すぐダメになっちゃいそうだけどねー。

園生月代

そんなことないわよ。ちゃんと大事に使います。

剣峰桐

うん、ありがと。

園生月代

ありがとうはこっち。

剣峰桐

じゃ、どういたしまして。

ほんとに、どうしよう……。なんで? 去年よりずっとうれしい。うれしくて……、笑って、どういたしましてって言ってくれた顔が見られない。

見たら、きっとまた、見とれちゃう。もう、ごまかしようがないくらい。

ほんとに、どうしよう……。

剣峰桐

それで、ね……。

園生月代

う、うん……。

ああもう、まだ、なにかあるのかな。もう、これ以上はマズい。

マズいのに……。

剣峰桐

最後にもういっこ、月代ちゃんに聞いてほしいことがあるんだ。

園生月代

な、なぁに……?

剣峰桐

あのね……、私、ね……。

園生月代

うん……。

剣峰桐

あれから、ずっと、考えてたんだ。

園生月代

あ、あれから……?

剣峰桐

うん。月代ちゃんに好きって言ってから、ずっと。

園生月代

………………。

ドキってした。胸が、すごい、大きな音をたてて鳴った。体の中で響いた。

剣峰桐

月代ちゃんは、ちょっとした勘違いって言ったけど、さ……。

園生月代

………………。

剣峰桐

でも、何回、考え直しても、そう、思えなかったんだ、私。

剣峰桐

私が月代ちゃんを好きなのって、勘違いじゃないって思うんだ。私、ね……。

剣峰桐

ほんとに、月代ちゃんが好き。愛してる。

園生月代

剣峰、さん……。

もう、目を逸らして、俯いていることなんてできなかった。顔を上げて、剣峰さんを見ていた。まっすぐに、私を見てる剣峰さんを。

剣峰桐

だから……。

剣峰桐

返事、ほしいんだ、月代ちゃん。私、ちゃんと月代ちゃんを愛してる。

剣峰桐

絶対、勘違いじゃないんだ。だから、そういうのじゃなくて……。

剣峰桐

はい、か、いいえ、で答えてほしいんだ。

園生月代

…………………。

剣峰桐

月代ちゃんが私のこと、そういうふうに考えられないなら、いいえって答えてほしいんだ。それなら、ちゃんとフられたってわかるから。

剣峰桐

……そしたら、ちゃんと、ふっきるから。

園生月代

剣峰さん……。

胸が、痛い。心臓が鳴るたびに、ズキズキと、痛い。なんでこんなに痛いのか、知ってる、わかってる。

私……。

おんなじこと、したんだ、剣峰さんに。あの時、彼女が私に言ったことと、同じこと言っちゃったんだ。

大人になったつもりで、大人の意見のつもりで……。

彼女の気持ちに、勘違いって言っちゃったんだ。あの時、自分がどんな気持ちでその言葉を受け止めたのか、忘れたわけじゃないのに……。

どんなにショックを受けたか、知っていたのに。

同じ言葉を、返しちゃったんだ。

でも、それなのに。

剣峰さんは、ずっと自分の気持ちを考え直してきた。考え直して、見つめ直して、それでも結論が変わらないって言ってきた。

寝込んで、なんにもわからなくなっちゃった私と、大違いだな……。

剣峰桐

ねぇ、月代ちゃん。お願い、答えてよ。

まっすぐに私を見ながら、それでもちょっと、声は不安に震えてる。

きっと、剣峰さんの中では、私が、いいえって答えることを想定してる。普通、そう考えるって。

でも、聞いてくるんだ。考え直しても変わらなかった気持ちを告げて、私の答えを待ってる。

すごい……、勇敢な女の子……。

園生月代

あ……。

どうしよう。なんて、答えればいいんだろう。

園生月代

えっと、その……。

言葉がすぐに出てこない私の答えを、まっすぐにこっちを見つめながら待っているこの子に。

答え? 決まってる。だって。

あの日の私を乗り越えられるほど、勇敢で素敵な女の子だよ。今、こんなに、どんどんきれいになっていく子を。

好きに、ならない、わけがない。

園生月代

……ぃ……。

剣峰桐

……え?

この子を、好きになりたい。その勇気を、持ちたい。

園生月代

……はい……。

剣峰桐

……え……。う、うそ……。

園生月代

私も……、剣峰さんが好きよ……。

剣峰桐

うそ……。

嘘じゃ、ないよ。私も剣峰さんが好きよ。そう、言っちゃった……。

剣峰桐

ほ、ほんと……? 月代ちゃん……。

園生月代

ほ、ほんと……。あの時は、あんなこと言っちゃったけど……。

園生月代

今は、好き、なの……。

好き、なの。好きになって、しまったの。

剣峰桐

ほ、ほんと!? え、やだ、うそ。な、泣きそう、私……。

園生月代

はぁぁ……。ふぇ、え……。

剣峰桐

え!? な、なんで? なんで月代ちゃんが泣きそうになってるの!?

こらえてないと、ぼろぼろと涙が落ちそう。うれしいけど、うれしいけど、泣きそうなのはそれよりも。

園生月代

わ、私、先生なのに……。教え子のこと、好きになっちゃうなんてぇ……。

なんでだろう。どうしてこうなっちゃったんだろう。

好きな子ができたのはうれしい。剣峰さんを好きになれたのは、うれしい。愛してるって言ってくれて、うれしい、けど。

園生月代

どうして、学生なの……。

剣峰桐

え、ちょ、それひどい。確かに私、まだ学生だけど! 稼ぎとかないけど!

剣峰桐

でも、絶対、月代ちゃんを幸せにするよ!?うんと愛するよ!?

園生月代

そ、それはうれしいけどぉ……。

剣峰桐

わ、私、絶対浮気しないから! 一生、月代ちゃんだけだから! 恋人は最優先のタイプだから!

園生月代

そういうことじゃなくてぇ……。先生と学生なんて、絶対ダメじゃないぃ……。なんで好きな人が剣峰さんなのぉ……。

剣峰桐

桐って呼んで、月代ちゃん!

園生月代

呼べないよ、そんなのぉ!

剣峰桐

呼んで! 絶対、呼んで!

園生月代

もう……。

ダメ、もう、ダメ。あきらめるしかない。この子が好き。

園生月代

二人っきりの時だけ、だからね……。

私は、桐が好き。

剣峰桐

うん! 月代ちゃん、愛してる!

園生月代

他の人の前では、先生って呼んでね?

剣峰桐

がんばる!

あなたは、私の大好きな人。晴れた夏の日の屋上でできた、私の恋人。

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okujou_no_yurirei-san/2413.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)