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okujou_no_yurirei-san:2403

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でも、そんな悪運、毎日、続くはずがなかった。

ついに、私は月代ちゃんと出くわしてしまったのだ。星館校舎の中で。

園生月代

剣峰さん!

剣峰桐

いやあああああああああああっ!

って、これじゃまるで、月代ちゃんが変質者みたいだ。ごめんなさい、月代ちゃん! でも、今だけは、今だけは許して!

園生月代

あ、待ってってば! 剣峰さん!

剣峰桐

ごめんなさい、待てません! ほんとにごめんなさぁい!

私は、反射的に回れ右して、走り出した。

園生月代

あっ、ちゅるぎいねさん! 廊下走っちゃダメ! って、もう!

こんな時に噛まないで、月代ちゃん! かわいい! 愛してる!

園生月代

お願い、剣峰さん待って!

剣峰桐

ごめんなさーい!!

私は、とにかく月代ちゃんから逃げる。

今は、脚力と若さの差で距離を稼いで、それからどっかでまいて、さっさと帰る!

方針は決まった。月代ちゃんだけなら、なんの問題もない!

と、思ったら。

剣峰桐

うわっ、あぶなっ、ごめん!

遠見結奈

え!?

いきなり、階段のとこから、昨日会った、確か遠見さんが、顔を出した。間一髪でそれをよける。ああ! 階段、一個スルーしちゃった!

園生月代

あ、遠見さん! 剣峰さんを捕まえて!

ええ、なんで、そんなこと頼むの!? そりゃないよ、月代ちゃーん!

遠見結奈

は、はい!

ひい!? 追っ手が増えた!

園生月代

あ、遠見さん! 廊下は走っちゃダメよ!

月代ちゃん、マジメすぎ。でも、戻って抱き締めたくなるのをこらえて、廊下の角を曲がる。

どうしよう。遠見さんまで追いかけてくるなんて。計画通りに行くかな? でも、なんとかしなくちゃ!

遠見結奈

見えた! 剣峰さん!

え、予想以上に足、速いかも、遠見さん!

遠見結奈

待って! 剣峰さん!

園生月代

廊下は走っちゃ……、ダメ~……。

がんばって、月代ちゃん! 私、逃げるけど!捕まるわけにはいかないけど!

遠見結奈

今度は、こっち……? あ、み、見つけた……!

遠見さん、わ、私より足、速いな、これは……。

剣峰桐

それじゃ……、プランB!

私は、思いっきり、駆け抜けざまに、教室のドアに手をかけて、それを開いた。なるべく、大きな音を立てるように。

遠見結奈

教室の中に隠れた!?

よし!

遠見結奈

い、いない……? あ!

かかった!

遠見結奈

しまった!

遠見さんがひっかかってくれたおかげで、ちょっとだけ距離が稼げた!

次は……!

剣峰桐

階段!

追い駆けっこの鉄則は、相手に選択肢を与えて、迷わせること!

逆方向に行ってくれれば、それでよし! 迷ってくれても時間が稼げる! 時間イコール距離!

こうして、ちょっとずつ引き離していく! そのうち、諦めるなり、逃げ切れるなりできるはず! きっと!

まだまだ行くよ!

私は、教室のドアを思いっきり開けると、その中に駆け込む。

聞こえてくる足音……、よし、前を通った! 今だ!

私は教室から飛び出すと、遠見さんが来た方向へと走る。

遠見結奈

え!?

これで、また時間が稼げる! そして、こういう技を積み重ねていけば、相手は選択肢のたびに迷う要素を増やすことになる!

スピードだけじゃ逃げ切れないなら、頭を使わないと! 知恵は弱者の剣だ!

園生月代

剣峰さん!

って!

剣峰桐

ぎゃー、月代ちゃん!

私は急カーブで、すぐそばにあった階段を駆け下りる。

園生月代

あ、待ってってば!

待てぬ!

遠見結奈

ど、どっちに行きました!?

園生月代

し、下……!

遠見結奈

はい!

うう、ちょっとタイムロス! でも、あきらめたらそこで終了だ!

階段を下りたら、すぐに廊下を直進する! ひぃ、足音、けっこう近い! もう、なんでよ!

遠見結奈

待って、剣峰さん!

剣峰桐

な、なんで!? なんで遠見さんまで追っかけてくるの!?

ねぇ、ほんとになんで!? これは私と月代ちゃんの問題なのに!

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園生月代

剣峰さぁぁぁん!

剣峰桐

ちょ、ちょっとカンベンしてぇ! マジでホントぉ!

泣きたいよぉ! でも、逃げるのはやめられない。私は右に、左に、廊下を曲がって走り続ける。そして階段を駆け上がる。駆け上がって、また廊下を走る!

剣峰桐

って、え……?

聞き間違い……? ちがうよね?

足音が……。私は振り返った。そして、絶望しそうになった。

狛野比奈

ん!

ジャージ姿の女の子が追いかけてきてる! え、なに、なにこの子! しかも小さくて強かわいくない!?

なにこれ!? がんばって逃げてる私へのご褒美!?

……んなわけない! 明らかに私を追っかけてきてるじゃない!

剣峰桐

ひぇ!? な、なんで、増え、てるの!?

狛野比奈

待って!

剣峰桐

や、やだ!

な、なんかうれしいけど! かわいい子に追いかけられてうれしいけど!

今、捕まるわけにはいかないんだー!

剣峰桐

ぜぇ、ぜぇ……!

剣峰桐

き、厳しい……。でも、なんとか……。

あの手この手を使って、どうにか距離を稼いだ。

禁断の必殺技、教室と見せかけて、廊下の柱の陰に隠れる、まで使ってしまった。超ハイリスク!

でも、これであのかわいい子も、私がどっちに行ったかわからない、はず……。

階段を上ったのか、まっすぐ進んだのか。

教室の中、トイレ、柱の陰、選択肢はたっぷりばらまいてきた!

ああ、玄関ホールが見える……。ゴールだ……。やっとこれで、帰れるんだ……。

靴を履いて、上履きはカバンに放り込んで、私は玄関ホールを出た。

これで、今日は試合終了……。

そう思ったら……。

剣峰桐

え?

校舎の2階の窓が開いた?

剣峰桐

あ……、遠見さんたち、2階にあがったんだ……。はは……、残念でした……。

不思議な充実感がある。逃げ切った、知力と体力を使い切って。そんな感じ。

ごめんね、月代ちゃん、遠見さん、そして、強かわいい女の子。

剣峰桐

私、今日はもう、帰るね……。さよなら……。

剣峰桐

……って、え? な、なに!?

狛野比奈

ん!!

剣峰桐

ええええええっ! ちょ、ちょっと!?

2階の窓から、あの、強かわいい女の子が飛び降りてきた!

剣峰桐

え、う、うそ!? マジ!?

そして、私の目の前に着地する。もう、かわいく華麗に。

私は逃げることもできず、呆然とその場に立ち尽くしていた。

狛野比奈

捕まえた。

そして、その子は私のカバンをきゅっとつかんでいた。

剣峰桐

え? え? えええぇ…………。

散々、逃げ回ったのに……、最後の最後でこんなのって……。

狛野比奈

結奈ねぇ! この人でいいんだよね!?

この強かわいい子、遠見さんの知り合い、なのかな……?

狛野比奈

捕まえたよ!

ああ、もう、逃げる気力、ない……。

もう、この子の手、振り払って逃げる力、ない。逃げてもきっと捕まるだろうし。

遠見結奈

比奈!

2階の窓から、遠見さんが叫んでる。

遠見結奈

なんてことすんの! 危ないでしょ!?

狛野比奈

2階くらいなら、大丈夫!

はぁ……、もう、ダメ……。この強かわいい子に捕まったんなら、もう、いいや……。

玄関ホールから、クタクタになった月代ちゃんと遠見さんが出てきた。うん、私もクタクタ。

ああ、月代ちゃんがこっちに来る……。

園生月代

狛野さん!

月代ちゃんは真っ先に、飛び降りてきた強かわいい子の名前を呼んだ。それ、ちょっとさびしいよ、月代ちゃん。

でもこの子、狛野さんって言うんだ……。

狛野比奈

ん。

園生月代

なんて危ないことするの! ダメでしょう、2階の窓から飛び降りるなんて! ケガでもしたらどうするの!?

狛野比奈

でも、結奈ねぇに頼まれたから。

遠見結奈

そこまでするなんて思ってなかった! 心臓、潰れたかと思ったわよ!

狛野比奈

んー……。

遠見結奈

あ……、ごめん……。その、比奈? ありがと……。

狛野比奈

ん。

遠見結奈

大丈夫? ほんとにケガしてない?

狛野比奈

ん、平気。

遠見結奈

よかった……。

いいなぁ、遠見さん、あんな強かわいい子の知り合いがいて。

でも、いいもん、私には月代ちゃんがいるんだから!

あ、月代ちゃん……。そっか、私、これから月代ちゃんに怒られるんだ……。

……やだなぁ……。それ、すっごくやだなぁ……。

剣峰桐

えっと、その……。

剣峰桐

わ、私、帰ってもいい? ほんと、今日、ちょっと用事があるかもで……。

園生月代

ダメ!

やっぱ、往生際悪かったかぁ……。

園生月代

ちゃんと先生とお話しさせてください!

剣峰桐

月代ちゃ~ん……。

園生月代

先生って呼びなさい!

う、月代ちゃん、目、涙でいっぱい。どうしよう、すっごくかわいいけど、すっごく怒ってそう。

園生月代

ここまで来たら、先生も引っ込みつかないもの!

うう……、そうだよねぇ……。

園生月代

剣峰さん、ちゃんとお話ししましょ。先生に悪いところがあったなら、謝るから。

剣峰桐

いや、そうじゃないんだけど……、でも、その……。

園生月代

ちゃんと、話、聞いてあげるから。ね?

剣峰桐

うう……、はい……。

園生月代

うん。それじゃ、部室に行きましょ、ね?

剣峰桐

はぁ~い……。

どうしよう……、観念した方がいいのかなぁ。いっそのこと……。

園生月代

遠見さん、狛野さん。

遠見結奈

あ、はい。

狛野比奈

はい。

園生月代

ありがとうね、助けてくれて。

園生月代

でも、狛野さん! もう2度と、あんな危ないことしちゃダメよ!?

狛野比奈

はい。

園生月代

あと! 今日は仕方ないけど、廊下を走っちゃいけません! いいわね?

遠見結奈

はい……。

月代ちゃん、遠見さんと狛野ちゃんの方から、私の方を見る。あぅ、私の手、握ってくる……。そんなこと、したらダメだってばぁ。

園生月代

さ、行きましょ、剣峰さん。

剣峰桐

はぁい……。

でも、そんなことも言い出せなくて、私は月代ちゃんに手をひかれて、部室へと連行されてしまったのだった。

数理部の部室について。月代ちゃんと久しぶりに二人っきりの、この部室。

私を先に部室の中に入れて、月代ちゃんは後から、ドアを閉めながら。

園生月代

さ、剣峰さん、今日こそ、ちゃんと話を聞かせてもらうからね!

園生月代

先生、どんな話でもちゃんと、聞いて……、あげる……。

え? つ、月代ちゃん、顔色真っ青だよ!?

剣峰桐

つ、月代ちゃん!?

園生月代

から……。

剣峰桐

うわああああああっ、つ、月代ちゃん!?

月代ちゃん、その場にへたり込んだぁ!

ああ、もう! そんなに頑丈にできてないのに、あんなに走るから! 走らせたの、私だけど!

月代ちゃん、時々、無理をしすぎた時とか、こうして貧血を起こす。熱を出したりもする。

あぁ……、私、こんなに月代ちゃんに迷惑かけちゃってたんだぁ……。

園生月代

あ、ご、ごめんね、ちょっと立ちくらみしただけだから。こうして座ってればすぐ直るから、ね?

肩ががっくりと重くなる。こんなに月代ちゃん、私のこと、一生懸命に心配してくれたのに……。

私、自分のことばっかり考えて、月代ちゃんから逃げ回ってた……。

剣峰桐

う……。

園生月代

あ、剣峰さん!? そ、その、大丈夫よ?

慌てて私の顔をのぞきこんだ月代ちゃんの顔が、ぼやけて見える。私、涙、出てきてるんだ。

園生月代

先生、怒ってないからね? ただ、剣峰さんが、なにか、心配事や悩み、抱えてるんじゃないかと思って、話だけでも聞きたいと思ったの。それだけなのよ?

剣峰桐

ふぇ……、月代ちゃん、ごめんなさい……。

園生月代

あやまることないのよ? ね?

剣峰桐

ううん、ちがうの、月代ちゃん。

もういい。私のことなんてどうでもいい。

剣峰桐

私……、月代ちゃんに言いたいことがあったの。

月代ちゃんにこんなに心配かけるくらいなら。

園生月代

うん、なぁに?

私のこの気持ち、ぶちまけちゃった方がいい。それで、怒られてもいい。

剣峰桐

私……。

嫌われちゃってもいい。

剣峰桐

月代ちゃんのことがね……。

全部、ちゃんと伝えて、月代ちゃんの心配事、なくなった方が、いい。

剣峰桐

好きかもしれないの。ううん、きっと好きなんだ。大好きなの。

園生月代

え……。

剣峰桐

いつも言ってる好き、じゃなくて、かわいいってだけじゃなくて、ほんとに月代ちゃんが好きなの。

剣峰桐

月代ちゃんのこと、愛してるかもしれないの。どうみても、そうとしか、考えられないの……。

剣峰桐

月代ちゃん……、私、同性愛者だったんだぁ……。

剣峰桐

それに気付いちゃったから、怖くなって、月代ちゃんから逃げ回ってたの……。

吐き出しちゃった。

全部、言っちゃった。

言っちゃったよ、月代ちゃん。そうだよ、私。

剣峰桐

月代ちゃんのこと、大好き、愛してる。

剣峰桐

結婚したいくらい、嫁にしたいくらい、一生、一緒にいたいくらい、好き……。

園生月代

剣峰さん……。

剣峰桐

月代ちゃんは、こんな私のこと、嫌い?

私が、変だと、思う? それとも……。

園生月代

ううん、嫌いじゃないわ。剣峰さんのこと、先生、大好きよ。

剣峰桐

あ……。

大好きって……、言ってくれた……? でも……。

園生月代

そして、剣峰さんが先生のこと、好きって言ってくれたのもうれしいな。

あ、まただ……。月代ちゃん、自分のこと、先生って言ってる……。

それって……。

園生月代

でも、ね……。

先生として、話してるってことだよね。月代ちゃん、今、大人の顔、してるよね。

園生月代

あのね、剣峰さん。

園生月代

剣峰さんみたいな年ごろの女の子って、そういう同性への憧れが強くなったりすることって、よくあるのよ。

剣峰桐

………………。

園生月代

それはね、時々、今の剣峰さんみたいに、愛情みたいに大きくなってしまうことも、あるの。

園生月代

けっして、変なことじゃないわ。でも。

園生月代

剣峰さんがもう少し、大人になったら、それがほんのちょっとした勘違いだったかもしれないって、気付くものなのよ。

園生月代

お熱みたいなものなのね。自然と冷めたりするのよ。間違いでもなんでもない。でも、大人になれば。

園生月代

あ、ちょっと違ったんだなって気付けるわ。ね、だから大丈夫よ。そんなに不安にならないでね。

私みたいな年ごろって、月代ちゃんは言った。

それって、月代ちゃんはもう、ちがうってこと、だよね……。私のは、勘違いで……。

月代ちゃんには、そういうのはないってこと、だよね。つまり……。

私……、フラれちゃったんだ……。勘違いな上に、フラれちゃったんだ……。

園生月代

ね、剣峰さん。今はちょっといろいろ考えちゃって不安かもしれないけど。

園生月代

先生、ちゃんと見ててあげるからね。ちゃんと、剣峰さんが、それに気付けるのを。

園生月代

だから、今まで通り、先生と剣峰さん、顧問と部長でいましょうね。

園生月代

大丈夫、剣峰さんなら、ちゃんと大人になれるから。

園生月代

ね……。

そう言って、椅子に座ったまま、そばで立ってる私を見上げる月代ちゃんの顔は、ちょっとまだ、青ざめていて。

さっきの貧血のあとが、残っていて。

園生月代

さ、今日はもう、帰りましょう。いっぱい走って、疲れちゃったでしょう?

そう言って月代ちゃんは立ち上がるけど、まだちょっとふらついていて。

園生月代

でも、体を動かしたから、よく眠れるのかもしれないわね。ぐっすり寝た方がいいかもね。

そんな月代ちゃんに、私はもう、これ以上、心配なんてかけられなくて。

園生月代

自分を変だなんて思っちゃだめよ。ちょっとずつ、大人になって、気付いていきましょうね。

かけたくなくて。

剣峰桐

はい……、月代ちゃん……。

月代ちゃんの言葉、信じてうなずくことしかできなかった。

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okujou_no_yurirei-san/2403.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)