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okujou_no_yurirei-san:2202

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阿野藤

あ、ねな~、いいところで見つけた~。

ん?

月曜日の放課後。

今週のお昼の番組に必要な、陸上部の部長へのインタビューのために、三年生のクラスがある奥校舎へと向かう途中だった。

音七に話しかけてきた子、あれ、誰だっけ。激しく見覚えあるな。

三山音七

あ~、阿野~、久しぶり~。

阿野藤

一昨日ぶりかね~。

三山音七

一昨日、会ったっけ?

阿野藤

放送で声、聞いたよ~。

三山音七

つっこまないよ~。昨日も今朝もあったでしょってつっこまないよ~。

ああ、確か、去年、一緒のクラスだった阿野藤か。

ついでに思い出した。今日、朝の電車で音七と話してたヤツだ。あれ、ヒドい会話だった。なんでか音七は嫌がってなかったけど。

その隣にいるのは……、誰だっけ。やっぱ一緒のクラスだった気がするけど。

一木羽美

阿野ちゃん、遠見ちゃん、こんちわ~。

阿野藤

やっほ~、うみちゃん、ささちゃん。

遠見結奈

こんにちは。

ああ、遠見か。

あたしは、ちょっとだけ頭を動かして、会釈したフリ。ま、よく憶えてない相手だし、これでいっか。

阿野藤

ねな、貸すって言ってたDVD、持ってきたよ~。

三山音七

あ、ほんと~? 阿野が約束して三日で持ってきてくれるなんてめずらしいね~。

阿野藤

ふふふ、まかせてよ~。でもね~。

阿野藤

教室に忘れて来ちゃった!

三山音七

やっぱりな~。

なんだ、この会話。なんか次元がちがう。羽美も、遠見も呆然としてる。

阿野藤

ごめんごめん、教室まで来てくれる? 渡すから。

貸す方とはいえ、なにそれ。音七、めんどくさがりだから、きっと断るだろうな。明日でいいとかって。

三山音七

もう、阿野はしょうがないなぁ~。いいよ、行ってあげるよ~。

え?

三山音七

阿野に取りに戻らせると、また、貸すのわすれられそうだし~。

阿野藤

よくぞ見抜いた!

え、音七、阿野についていくの? それって……、これから、あたし、羽美と……。いや、ちょっと待て。

一木羽美

ちょ、ちょっと音七!

ほらね。羽美が音七が離れるの、許すわけがない。それに、部活動の最中なんだし。

三山音七

ごめんね、羽美~。貸してもらうDVDの中に、番組で使いたい素材があるんだよね~。

三山音七

ここで貸してもらわないと、ほんとにいつになるかわからないんだよ~。

阿野藤

ご迷惑おかけしております!

一木羽美

んん~、じゃあ、しょうがないかぁ。

三山音七

ICレコーダーの使い方、わかるでしょ? インタビューの方はよろしく~。

一木羽美

わかった。借りたらちゃんと戻ってきてよ?

三山音七

はいはい~。

阿野藤

んじゃ、お借りします!

三山音七

貸すのは阿野でしょ~。

え。え。え。

どういうこと? これって、今から。

一木羽美

じゃ、沙紗、行こっか。

羽美と二人っきり!?

思いがけず、羽美と二人きりになれた。

隣に羽美がいる。羽美だけがいる。他に誰もいない。

音七、ごめん。あんたが邪魔者だと思ったことはないけど、あたし、今、超クラクラしている。

クラクラしながら上の空で、話しかけてくる羽美に返事をしている。

返事をしながら。

抑えがたい気持ちが湧き上がってくる。

どうしよう、これって、もしかして。

チャンスか、チャンスなのか? もしかして、羽美に今なら告白していいってチャンスなのか?

お、落ち着け、自分。ここは廊下だ。奥校舎の。

二人っきりって言ったって、すれちがう人はいる。聞かれたらどうする。

チャンスを待とう。ちょうど人が途切れるタイミングが来るのを。そして、もし、そのタイミングが来たら……。

思い切って、言っちゃってしまえ!

一木羽美

あ、B組、ここだ。

って……。

一木羽美

失礼しまーす! 放送部でーす! 陸上部の網島さん、いらっしゃいますかー!?

着いちゃったか……。

まぁ、こうなると思った。でも、あんまり落胆してないあたしがいる。

別に、焦ることはないんだ。今、言えなくても気持ちが変わるわけじゃないし。

そして、羽美がいるから、あたしたちはいつも音七と三人で一緒にいられる。一緒にいられるなら。

きっとまた、こういうチャンスも来るかもしれない。それでいい。その時でいい。

一木羽美

ほら、沙紗、行くよ!

双野沙紗

はいはい。

一木羽美

あれ、音七、まだ戻ってきてないじゃん!

なんの問題もなく陸上部の部長へのインタビューも終わり。

帰り道も二人っきりだったけど、別にチャンスもなかったしで。

あたしと羽美は放送室に戻ってきた。そして、音七はまだ戻ってきてなかった。

双野沙紗

借りに行った先で寝てるんじゃない?

一木羽美

あーもう、ありえるなぁ。

あの、阿野ってのと話し込んでるってことよりも想像できるところが音七っぽい。

音七、なんか、不思議なヤツ。

とんでもないめんどくさがりで、いつでも眠そうにしていて、どこでも寝られる。立派な変人。

他人に合わせる気がない、どう思われようと気にしないってところは、あたしと同じ。でも、あたしはそういうふうにしているのに対して、音七は地がそういう感じで。

眠そうな時、つまりいつでも、ぐだーっとしてて、ノロノロしてるのに、なぜか機械の操作は上手くて。

番組でのトラブルやアクシデントやあたしたちの無茶ブリにもちゃんと対応してくれる。

意外に物知りだし、意外にあたしたち以外にも友達がいたりした。ほんとに時々、核心を突いたこと言うし、バカじゃないんだろうな。

あたしと同じで、羽美がいなかったらきっと、普通の学校生活なんて送れてないだろうな。

でも、不思議と、信頼できるとあたしは思ってる。友達として、頼りになる。そんなヤツ。

まぁ、今みたいにどっかで寝ていていなくなるようなヤツなんだけど。

一木羽美

もう、どうしよう。迎えに行こうかなぁ。

双野沙紗

先に帰ろ。

一木羽美

えー、そんなのってないじゃん! 待っててあげようよ、友達じゃん!

まぁ、そう言うと思ったよ。わかってて言ったんだよ。

あたしの冷たくした言葉に、怒ったりへこんだりすねたりする顔、見たかったんだよ。ちゃんと待つってば。

あたしはいつもの椅子に座って、適当に置いてあった雑誌を手に取る。どうせ、しばらく時間を潰すことになるんだし。

羽美はどうするのかな? ほんとに音七、捜しに行くのかな?

って……。

いつの間にか、あたしの後ろに立っていた羽美が、不意に、あたしの髪にさわってきた。

って、って、って! あたしの髪にさわってきた!?

双野沙紗

な、なに、羽美!

一木羽美

え? だって暇なんだもん。

答えになってないだろ、それ! なんでいきなり髪にさわってきてんだよ!

一木羽美

いいなぁ、沙紗の髪って。黒くて、きれいで。

一木羽美

まっすぐでさぁ。

そう言いながら、羽美はあたしの髪を少しつまんで持ち上げて、それを離して。

一木羽美

こうしても、さぁって元に戻るの。いいなぁ、さらさらで。

双野沙紗

べ、別に普通だろ。

ヤバい、顔が熱い。あたしは、慌てて顔を背ける。赤くなったのがバレないように、前を向く。

一木羽美

そんなことないって! いいなぁ、沙紗の髪。わたし、こんなくせっ毛だから、憧れる。

一木羽美

もうすぐ梅雨でしょ。あーもう、今からユーウツ。湿気が多くなると、わたしの髪、爆発するんだもん。

双野沙紗

知ってるよ。おもしろいもん。

一木羽美

あー! 気にしてんだからね!

自分の髪、気にしてるところが、かわいいんだけどさ。なんとか、おさまりよくしようと引っ張ったりしてるところとか。

一木羽美

毎朝、大変なんだから。倍くらいにふくらんでさ。沙紗にはわかんないだろうけど。

双野沙紗

うん、わかんない。

一木羽美

くやしー!

一木羽美

あーもう、ねぇ、沙紗、三つ編みしていい?

双野沙紗

はぁ!?

一木羽美

こんなにきれいで長いんだもん。そりゃ見事な三つ編みができますぜ。

双野沙紗

やだ。

一木羽美

注連縄じゃなくて、ちゃんとかわいいのにしてあげるからさ。

双野沙紗

やだ、変な癖つくんだから。

一木羽美

いいじゃん、友達でしょ?

双野沙紗

なんでもそれで解決すると思ってない!?

一木羽美

いいじゃん、ねぇ、いいでしょ?

みょうに甘えた声出すな! ……断れないだろ……。

双野沙紗

はぁ、もう、好きにしなよ。

一木羽美

やった!

羽美の指が、あたしの髪をすくう。

ひと房、ふた房、そして、もうひと房と。

そして、それを編み上げていく。羽美の指が動くたびに、髪の付け根がきゅっと引っ張られて。

触れてる指の感触を伝えてきて。

気が気でない。うれしくて仕方ない。羽美が、あたしの髪にさわっている。あたしの髪を編んでいる。

どういう幸せなの、これって。

一木羽美

ねぇ、沙紗ってトリートメント、なに使ってるの?

双野沙紗

え? えっと、忘れた……。なんとか、プレミアムだったかなぁ。

一木羽美

あー、やっぱりプレミアムとかついちゃうヤツなんだ。それってけっこう高いよね?

双野沙紗

どうだろ、確か、2500円くらいするやつ。

一木羽美

すご!

一木羽美

いーなぁ、うちなんて、ドラッグストアで安売りしているのばっかりだよ~。

一木羽美

それも、詰め替え用。しかもリンスインでさぁ。

一木羽美

買ってくるたびに変わるんだよ。先月はソフトインワンで、今月はシーブリーズで。

双野沙紗

そ、そう。

一木羽美

もうちょっと、年ごろの娘の髪のこと、考えてほしいよねー。

知ってる。しょっちゅうシャンプー変わってるのは。

あんたが抱きついてきた時とか、すぐそばにいる時とか、髪のにおいが伝わってくるから。

そのにおいが時々、変わるんだもん。気付いてた。

一木羽美

いいなぁ、沙紗の髪。あたしのもこんなにきれいだったらなぁ。

双野沙紗

別に……。

双野沙紗

羽美は羽美でいいだろ。あたし、羽美の髪、けっこう好きだし。

──────!

なに、言ったんだ、あたし。

好き、好きって。か、髪のことだけど。

一木羽美

そっかなぁ。まぁ、そう言われるとうれしいけど。

うれしい!? うれしいの、羽美!

ど、どうする? どうする?

言っちゃうか? 羽美のことも好きだって言っちゃうか?

今、二人っきりだよな。今なら、言える、よな?

どうする、どうする!?

い、言って……。

双野沙紗

う、羽美……。

一木羽美

ん、沙紗、なんか耳赤くない?

双野沙紗

!?

や、ヤバい。バレる!

「ふあああああああ……」

三山音七

あれぇ?

一木羽美

あ、音七! やっと帰ってきた!

帰ってきたー! 帰ってきた……。

あたしは耳を隠そうと、押さえようとして硬直していた。放送室のドアが開く音と同時に、入ってきたのは音七だった。

た、助かった、のか、なぁ……。

三山音七

あれぇ? まだ二人とも帰ってなかったんだぁ。

三山音七

なに、してるの?

一木羽美

ん? ああ、暇だったから、沙紗の髪、三つ編みにしてあげようかと思って。

双野沙紗

も、もういいだろ、離せってば!

あたしは頭を振って、羽美の指を振りほどく。

一木羽美

あーあ、ほどけちゃった。あ、待ってよ沙紗。ちゃんとブラシで直してあげるから。変な癖、ついちゃうんでしょ?

双野沙紗

いい! こんなの、ほっとけば勝手に直る!

一木羽美

なにそれ! あ、あ、ほんとに元に戻っちゃう……。いいなぁ……。

ね、音七の見てる前で、羽美にブラシなんか当てられたら、ど、どうなるか……。

三山音七

はぁ……。もうとっくに帰ったかと思ってたのに。

一木羽美

帰るわけないでしょ、音七を置いて!

双野沙紗

そ、そうそう、音七を待ってたんだよ、羽美が。

一木羽美

えー、沙紗だって待ってたじゃん!

双野沙紗

あたしは、羽美に待たされてたんだ。

少しずつ、心臓が落ち着いてきた。よかった、いろいろバレなくて。

そして、いつものようにあたしたちは三人揃って学校を出る。

羽美と並んで、音七と一緒に。

いつものように、いろんなことを話しながら。

羽美が話題を振ってきて、あたしがいい加減に答えて、羽美がそれにちょっと怒って、音七を味方に付けようとして、音七が眠そうで、羽美がそれを起こして。

いつも通りに。

うん、これでいい。

今日はいろいろヤバかったけど、なんとかバレずにすんだ。言わずにすんだ。言えなかったけど、それでよかった。

友達と三人一緒でいれてよかった。

そう思う。本当に。今はこれでいい。今はまだ。

そのうちきっと、ちゃんと言えるチャンスが来る。その時に、伝えられればいい。もし、伝えられなくても……。

変わらないんだから。三人でいることは。

きっと、羽美がそれをなによりも望んでいるんだし。

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okujou_no_yurirei-san/2202.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)