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okujou_no_yurirei-san:2033

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牧聖苗

失礼します。

そう言って、頭を一回下げてから、わたしは職員室を出た。

さっきまで校長室で昨日のアレの処分を告げられて、その後、職員室でもう一度、担任の先生からいろいろ注意とか受けていた。

まぁ、やっちゃったものはしょうがないし……。

ちょっと意外だなって思ったのは、わたしはてっきり、今日は朝いちばんから、呼び出しを受けるものだと思ったんだけど、実際には、今は放課後。

今日は、学園祭の前日のため、午前中だけの授業を普通に受けた。

その最後のホームルームで担任の先生からしばらく残るように言われて、二時を過ぎたくらいに放送で呼び出された。

そして、初めて入った校長室で、校長先生から処分を言い渡されたのだった。

相原美紀

聖苗!

牧聖苗

あ、美紀さん!

職員室から出てきたわたしを見つけた美紀さんが、名前を呼んで、駆け寄ってきてくれる。

牧聖苗

待っててくれたんですか?

相原美紀

ええ、だって……、心配で……。

牧聖苗

ありがとうございます!

相原美紀

う、うん……。よかった、なんだか元気そうだけど……。その……、どうだったの……?

牧聖苗

あ、はい。停学三日です!

相原美紀

三日……。そ、そう……。

昨日、あの後、生活指導室に連れて行かれたわたしは、てっきりその場ですごいお説教されるのかと思ったんだけど。

実際には、生活指導室で受けたのはお説教じゃなくて、なんというか、取り調べみたいなことだった。

とにかく、なんであんなことをしたのかと根掘り葉掘り聞かれた。生活指導の先生と担任の先生の二人から。

わたしは別に、やましいことなんてないから、ちゃんと聞かれたことには全部、正直に答えた。さすがに、美紀さんへの気持ちの中味とかは言えなかったけど。

そして、明日、つまり今日、処分は決まるからってことで、帰っていいってことになったんだけど。

それが停学三日。昨日、三年生を相手に暴れたわたしへの処分だった。どうなんだろう、これ。軽いのかな、重いのかな。

牧聖苗

ああ、そんな心配そうな顔しないでくださいよぉ!

相原美紀

でも……。

牧聖苗

わたし、そんなにショックとか受けてないですから。美紀さんも気にしないでください。

相原美紀

え、ええ……。

美紀さん、まだ心配そうな顔をしている。

わたしとしては、久しぶりに暴れちゃったのはアレだけど、けっこうすんなりと処分も決まったし、みょうにすっきりとした気分なんだけどな。

相原美紀

あ、その、ここで立って話してるのもなんだから……。聖苗、休憩所に行かない?

牧聖苗

あ、はい。

相原美紀

そこでゆっくり、お話ししましょう。

牧聖苗

はい!

相原美紀

その、停学って、いつからなの?

美紀さんと二人で、廊下を歩く。

早く休憩所に行きたいって気持ちはあったけど、用事や仕事もなしに廊下を二人で歩くのも久しぶりな気がして、ちょっと歩くのはゆっくりになった。

牧聖苗

明日からです。金曜日と、土曜日、それに火曜日までです。

牧聖苗

その……、思いっきり学園祭に被っちゃいましたけどね……。

ああ、後悔というか、それだけが残念。

牧聖苗

美紀さんと学園祭、見て回りたかったんだけど……。

特に、美紀さんは最後の学園祭。美紀さんと回れるチャンスは今年しかなかったのに。

相原美紀

そうね……。それは残念だけど……。

牧聖苗

ええ……。

憧れだったんだよね……、美紀さんと学園祭デート……。仕方ないことだけど……。

相原美紀

ご家族の方も、心配されたでしょう?

牧聖苗

あ、まだ停学になったって連絡してない! ……まぁ、帰ってからでもいいかな。

相原美紀

だめよ、きっと心配してるわ。

牧聖苗

ああ、それがですね……。

昨日、家に帰ってから家族にはちゃんと話した。

先生に生活指導室で話したことと、ほとんど一緒。先生から、停学になるかもしれないって言われたから、さすがに黙っているわけにもいかなくて。

なぜか、怒られるかもとか、心配はしてなかった。その通り、お母さんは最近、大人しかったのにまたやったのねってあきれてて。

お父さんやお兄ちゃんたちは、やったことはともかく、尊敬する先輩をバカにされて黙ってるよりいいと、大ウケしてくれた。堂々としてろって。

牧聖苗

そういう家族なんですよ、うち。だから、心配してないと思います。

相原美紀

そ、そう……。なんというか、おおらかっていうのかしら……。

牧聖苗

変なだけなんですよ。

相原美紀

でも、よかった。聖苗が叱られたりしてないか、心配だったの。

牧聖苗

あ、もう、そんなの心配無用ですよ。停学処分以外、なんか、誰からも叱られなくって、なんか拍子抜けしちゃってるくらいで。

相原美紀

……ごめんね、聖苗。

牧聖苗

え、どうして美紀さんがあやまるんですか! き、昨日のはほんと、わたしが悪くって。もう、すぐ頭に血が上っちゃうから……。

相原美紀

でも……、わたしにも原因があることだと思うの。

牧聖苗

そんなことないです! それに……。

牧聖苗

美紀さんの悪口、聞いちゃったら、わたし絶対、黙っていられませんから!

牧聖苗

美紀さんの名誉のためなら! 停学の三日や四日、なんでもありません!

牧聖苗

勝手にそう、思っちゃってるだけですけど……。でも、わたし、美紀さんのためなら、なんでもできちゃいますよ。

牧聖苗

頑丈にできてますからね! 心も、体も。だから、決めたんです、わたし。

牧聖苗

美紀さんのためにできることなら、なんでも全力でやるって!

相原美紀

聖苗……。

それが、美紀さんにとって、ありがた迷惑でもいい。できることをしたい。迷惑や心配はかけたくないけど。

でも、美紀さんのためなら、わたしはなんでもできる、全力で。美紀さんはわたしにとって、そういう人なんだから。

相原美紀

ありがとう。聖苗の気持ち、とってもうれしい。

わたしも。美紀さんの、その言葉が、とってもうれしい。

相原美紀

でも、ケンカとかはダメよ?

牧聖苗

あ、はい……。まぁ、その、あんなのケンカのうちに入らないというか……。ええ、でも、もっとガマンします。

相原美紀

昨日は、本当は怖かったの。あんな声を出す聖苗を、初めて見たから……。

牧聖苗

ご、ごめんなさい……。わたし……、頭に血が上っちゃうと、あんなふうになるんです……。

牧聖苗

うち、男ばっかだから……。お父さんやお兄ちゃんたちも、怒るとあんな感じで、それが移っちゃって……。

牧聖苗

いっつもじゃないんです。ほんとです。ガマンできなくなった時だけで……。

相原美紀

うん、わかってる。わたしのことで、怒ってくれたんだものね。

牧聖苗

……ごめんなさい。

相原美紀

うん、乱暴なことは、あまりしないでね。

牧聖苗

はい。

ドラマとかのやさしいお母さんみたいな顔で、美紀さんが笑ってくれる。注意しながらも、認めてくれてるって感じがうれしくて、わたしも美紀さんに、笑う。

あ、いい雰囲気。手とか握れそう。でも、いきなり手をつないだりしたら、また美紀さん、びっくりしちゃうかな……。

なんて思っていたら。

「あ、相原さん! ごめん、ちょっとたいへん! 助けてぇ!」

これだぁ……。美紀さんの仕事吸引力を忘れてた……。

仕方ないな。今日もこれから、お手伝い……。

相原美紀

ごめんなさい。

牧聖苗

……え?

相原美紀

今日は、ちょっとダメなの。ほんとに、ごめんね?

「えー、そっかぁ……」

声をかけた人は、すごいがっかりした感じ。でも、ほんとに忙しいのか、そのまま走って向こうに行ってしまう。

わたしはというと、ちょっとというか、かなり、びっくりして美紀さんの顔、見上げてて。そのわたしに、美紀さんが振り向いて、笑ってくれて。

相原美紀

さ、行きましょう、聖苗。

牧聖苗

は、はい。あ……。

相原美紀

どうしたの?

牧聖苗

その、昨日からだけど……、名前、呼んでくれるようになったんですね。

相原美紀

あ、うん……。昨日、思い切って呼んでみたら、なんだか、ピタっときちゃって。

相原美紀

さ、ちょっと急ぎましょっか。また、誰かに見つかる前に。

牧聖苗

はい!

休憩所に来るのは、一週間ぶりくらいかも。ここのとこ、忙しかったから。

掃除もあんまりできなかったけど、あまり汚れてないみたい。よかった。

美紀さんとわたし、並んでソファに座る。窓のところに、途中で買ったジュースとお茶を置いて。

相原美紀

そう言えば、今日、ね。

牧聖苗

あ、はい。

相原美紀

写真部の人たちが、あやまりに来てくれたのよ。

牧聖苗

え? 写真部?

相原美紀

……昨日、聖苗が、その……。

牧聖苗

あ、ああ!

うわ、思い出しちゃった。ちょっと、美紀さんとの幸せな気分が曇った感じ。

牧聖苗

え? あやまりに、ですか?

相原美紀

うん。ごめんなさいって。それだけなんだけどね。

牧聖苗

……なにに対して、ごめんなさいなんだろう。

相原美紀

そこまでは。ただ、ごめんなさいって言ってきてくれたの。

牧聖苗

それだけですかぁ……?

相原美紀

うん。だけど、それだけでもいいなって思ったわ。

牧聖苗

そうかなぁ……。

なにそれ。なにに対してごめんなさいなんだか。美紀さんに仕事押し付けて楽してたこと?それとも、美紀さんの陰口言ってたこと? でも、どっちにしたって。

わたしとしては、ごめんなさいの一言だけなんて、全然、すっきりしないんだけど。

相原美紀

あんまり、あの人たちのことで、怒ったりしないでね?

牧聖苗

え? あ、はい。……はい。

相原美紀

あの人たちも、確かに悪かったとこ、あったかもしれないけどね。

相原美紀

頼めばなんでもしてくれるって人がいたら、頼っちゃうでしょう? わたしがそういうことしてたから、つい、楽してしまおうって思っちゃったのよ。

牧聖苗

でも……、だからって……。

相原美紀

わたしもきっと、原因なのよ。それでちょっと、悪い方に行っちゃっただけ。

相原美紀

でも、聖苗が怒ってくれたおかげで、そのことに気付けたのよ。あの人たちも。だから、あやまりに来てくれたんだと思うわ。

牧聖苗

はぁ……。

美紀さん、いい人すぎる。でも、だからこそ、わたし、美紀さんのためにがんばろうって思えるんだけど。

相原美紀

わたしも、ね。

牧聖苗

え?

相原美紀

聖苗のおかげで、気付くことができたわ。

牧聖苗

わ、わたし、ですか……?

相原美紀

ええ。昨日もそうだけど……。

相原美紀

聖苗と一緒にいるようになってから、聖苗のこと、たくさん、見てきたから、わかったことがあるの。

相原美紀

わたしね、ずっと、怖かったことがあったの。

牧聖苗

え?

美紀さんが? なんでもできる人なのに?

相原美紀

誰かにね、悪く思われることが、すごく怖かったの。イヤだったの。

相原美紀

その人の期待に応えられないことが、すごく怖かったの。その人の前だけでいいから、いい人間って思われたいって。

相原美紀

だから、誰かからなにか頼まれると、断ることができなかったの。悪く思われたくないって、それだけで。

牧聖苗

そ、そんな……。そんなふうに言わないでください、美紀さん……。

そういうのって、誰にだってあると思う。

わたしだって、美紀さんに嫌われたくない。だから、美紀さんのためにがんばりたいって思う。一生懸命、お手伝いしたいって。

相原美紀

ううん、そういうとこがあったの、わたし。でも……。

相原美紀

そんなことばかり考えてる自分が、イヤになることもあったの。自分でそうしてるのに、ね。

相原美紀

そして、そんなわたしを、誰か、わかってくれたらいいなって、思ってた。気付いてもらえたらって。

牧聖苗

美紀さん……。

いつも優しくて、大人っぽくて、なんでもできて。そんな素敵な人に見えた美紀さん。そういう人だと思ってた。だから、憧れて、好きになった。

そんな美紀さんが、心の中で今言ってくれたことを思ってたなんて、全然、気付かなかった。

苦しかったのかな。もしかして、ずっと、つらかったのかな。

相原美紀

ちゃんと言わなきゃ、誰にもわかってもらえないって言われたこともあったけど、ね。その通りね。

牧聖苗

………………。

わたしは……、そんな美紀さんのこと、気付きもしなかった。思いもしなかった。ただ、美紀さんの外側に憧れて、好きになっていたのかな。

気付きもしないで、美紀さんのためならなんでもできるって、思っていたのかな。

牧聖苗

わ、わたし……。

牧聖苗

美紀さんがそんなこと、思ってたなんて、全然、気付けなくって……。

相原美紀

……幻滅させちゃった?

牧聖苗

いいえ!

頭を強く、横に振る。

牧聖苗

だ、だって、美紀さん、ずっとステキだったから! なんでもできて、誰にでも優しくて!

誰にも悪く思われたくない? そうだとしても。だからって誰からも頼られるほどにがんばれる人なんて、そんなにいない。

牧聖苗

美紀さん、すごいがんばってきたんだから……。

牧聖苗

わたし、美紀さんの今言ってくれたことに気付けなかったけど……。それでも……。

牧聖苗

美紀さんが……。好き……。大好き、です……。

相原美紀

ありがと……。わたしもよ。

え……。

相原美紀

初めて、告白された時は、驚いたの。でも、まっすぐにわたしに、好きって言ってくれたでしょう。それは、とてもうれしくて。

相原美紀

委員会で一緒に仕事をするようになってからも、いつでも一生懸命で、がんばってくれて。

相原美紀

ここを見つけてくれたのも、聖苗よね。すてきな休憩所。ここでいろんな話をするのも、楽しかったの。

相原美紀

聖苗を見ていたらね。聖苗だったらもしかしたら、わたしのこと、気付いてくれるかなって思っちゃったくらい。

牧聖苗

……でも、わたし……。

相原美紀

ううん、いいの、それはちがうの。気付いてくれるかもっていうのは、わたしの甘えだもの。

相原美紀

いつもまっすぐにぶつかっていく感じ、わたしはすごく憧れて、うらやましくて。

相原美紀

わたしは、聖苗みたいにはなれないけど、でも……。

相原美紀

聖苗と一緒にいたら、うれしい。こんなわたしを、時には、引っ張ってくれるんだもの。

相原美紀

わたしの中の弱いところ、聖苗を見てると気付かされるし、それでも勇気づけられる。こんなわたしを、それでも好きって言ってくれる。

相原美紀

ねぇ、聖苗。

牧聖苗

は、はい。

相原美紀

一緒に仕事を手伝ってくれる後輩で、妹みたいでかわいくて、頼もしい友達で。

相原美紀

わたしを好きっていってくれる、人。わたしも、聖苗が、好きよ。

最後の言葉が、頭の中に響く。今までも、好きって言ってくれた。でも、それは友達とか、妹とか、そういう好意の好きで。

うれしかったけど、今みたいに頭の中に響かなかった。こんなに、ドキドキしなかった。

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先輩の手が、ソファの上のわたしの手に、重なって。

相原美紀

初めて聖苗が好きって言ってくれた時は、わからなかったけど……。

相原美紀

今なら、わかるの。聖苗が、好き。女の子同士だけど、好きなの。あなたの気持ちに……。

相原美紀

応えられる。大好きよ……。

牧聖苗

み、美紀さん……。

う、うれしい……。

よかった。ずっと好きでよかった。初めてあった時よりも、好き。もっと好き。この学校に来て、先輩に会えて……。

相原美紀

あなたに会えて……。

牧聖苗

(よかった……)

相原美紀

よかった。

涙が出そう。きっと、出てる。重なった手が、うれしい。今、ここで、美紀さんと一緒にいられるのが、すごい幸せ。

牧聖苗

わ、わたし、やっと……。

牧聖苗

美紀さんと、恋人同士になれたんだぁ……。

相原美紀

ええ、そうね。

牧聖苗

よかったぁ……。

相原美紀

うん……。

こてんって、すぐ隣の先輩の肩に、頭を預ける。そのわたしの髪を、先輩の手がなでてくれる。

やさしい温かさが、触れてるところ全部から、伝わってくる……。

相原美紀

ね、聖苗……。

牧聖苗

はい……。

相原美紀

もう、びっくりしたりしないから……。

相原美紀

今日は、キスしても、いいのよ?

牧聖苗

……!

牧聖苗

あ、え、えと……。

肩に預けていた頭を振りかぶって、美紀さんを見上げる。優しい目と合う。

牧聖苗

キス……?

美紀さんの顔の、その、唇。あの日、黙ってキスしちゃったとこ。美紀さんを傷つけちゃった、キス。でも、今は。

い、いいんだ……? いいんだ?

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牧聖苗

み、美紀さん……。

相原美紀

うん、聖苗……。

く、首を、のばす。顎を反らせて、美紀さんの顔に、近づいていく。その、唇が、だんだん、近づいて……。

牧聖苗

……?

あれ、近づいて……、ない。わたしが近づくぶんだけ、なぜか、美紀さんの唇が離れていく? あれ?

背中と首、反らせるのもそろそろ限界で。無理してるから、体のバランスが。ど、どこかで手を、つかないと、支えないと……。

牧聖苗

? !?

倒れちゃう。なのに、美紀さんの手が重ねられているから、きゅっと握られてるから、手を動かせない。

牧聖苗

(うわ、ダメ……!)

倒れちゃう……!

傾いて、回る、視界。

バランス、なくして倒れる、体。それを受け止めてくれたのは、ソファじゃなくて。

ソファよりもやわらかい、美紀さんの、体。

そして、目の前に、美紀さんの顔が、あって、唇が、あって。

牧聖苗

ん……。

背中の方からやさしく押されて、わたしはその唇に吸い込まれていった。あの時と、同じ、感触が伝わってくる。

相原美紀

ん……。

美紀さんの唇の。あの時とちがうのは、目を閉じた美紀さんの顔が見えること。だって、びっくりして目を閉じる暇がなくて。

牧聖苗

ん、ん……。

相原美紀

んん……。

唇が、離れない。

押し倒すように、ソファに横になった美紀さんの上に、わたしは乗っかってる。そのまま、キスしてる。

離れない。唇同士、触れあったまま、離れない。

美紀さんの腕が、わたしの肩を回って、背中から優しく抱き締めてくれているから。

牧聖苗

(み、美紀さぁん……!)

どういうこと? 考えられない。隣に座っていた美紀さんに、キスするはずだったのに。

どうしてわたし、美紀さんを押し倒してキスしてるの?

それなのに、押し倒されてるのに、どうして美紀さん、わたしを抱き締めてるの!?

頭の中、わかんない。そんな中、一瞬、背中の美紀さんの腕が、ふっとゆるんで。

牧聖苗

んは……。

相原美紀

はぁ……。

唇が、やっと離れてくれた。すごい、キス、しちゃった……。少しだけ、閉じていた美紀さんの目が開いて、視線が合う。

牧聖苗

み、美紀さん……。

どうしよう、ごめんなさい、押し倒したりするつもりじゃなくて。そう、言おうと……。

相原美紀

聖苗……。

わたしの名前。耳に届いてくると同時に、わたしの言葉が出てくるより早く、背中が押されて、また、唇が触れ合う。キスになる。

牧聖苗

んぅ……。

相原美紀

ふぅん……。

さっきよりも、ちょっと強く、唇を押し付け合うキスになる。だって、さっきよりちょっと強く、抱き締められている、から……。

牧聖苗

んは、あ、あ……。……んん……!

そしてまた、唇が離れて、そしてまた、背中から押されて、キスをして。

そうして、何度目? わたしの手、いつの間にか美紀さんの肩に回ってる。

牧聖苗

ん、んく……。ん、ちゅ……。

そうしてどれくらい? 長いキスの間で、いつの間にか、わたし、舌で……、美紀さんの唇に、触れてる……。

相原美紀

ん、んふ……、んん……。

それを、美紀さん、いやがる感じもなくて、少しだけ唇を開いて……、まるで、おいでって言ってるみたいに……。

牧聖苗

ん、んはぁ……。

相原美紀

は、はぁ……。

舌と舌、触れるキス。こ、こんなの……、したら、頭、熱くなって……。

牧聖苗

み……、美紀さん……。

相原美紀

……聖苗……。

美紀さんの、細く開いた、目……。やさしい、目……。ちょっとだけ、涙がたまってる、みたい。見つめてきてる美紀さんの顔が、少し、ぼやけてる。

牧聖苗

わ、わたし……。

相原美紀

うん……。

ドキドキが止まらない。心臓が、爆発しそうに動いてる。

牧聖苗

あ、あの、わ、わたし……。

相原美紀

うん……。

体が、熱い。頭が、煮えてるみたい。今にも、飛び出していきそう。走り出してしまいそう。

牧聖苗

わ、わたし……!

暴れ出してしまいそう。そんな、わたしの。

相原美紀

うん……。

背中が。

相原美紀

いいの、よ……。

押された。

服も脱いで、下着も脱いで。

たぶん、いちばん柔らかいベストをいちばん上にして、枕代わりのソファの肘掛けにしいて、そこに美紀さんの頭を置いて。

優しく両手を広げて待ってくれてる美紀さんに。

わたしは、抱きついていった。

相原美紀

あ……、せ、聖苗……。

牧聖苗

美紀さん……!

温かい、ううん、ちょっと熱いくらいの美紀さんの肌に、受け止められる。また、美紀さんの腕がわたしの背中に回される。

わたしのからだも熱くなってる。美紀さんの肌が触れてるところが熱く、触れてないところが、ちょっと涼しい。

お互い、裸で、抱き合うってこういうこと、なんだ。

牧聖苗

あ、あの、美紀さん……。

相原美紀

なに……? 聖苗……。

牧聖苗

あの、わ、わたし、こういうことって、経験なくって……!

相原美紀

……う、うん、わたしも……。

で、ですよね。でも、押し倒したのはわたしの方。

牧聖苗

ち、知識もなくって!

相原美紀

わ、わたしも、よ……。

わ、わたしががんばらないと!

牧聖苗

で、でも、あの、こういうわかんない時、どうすればいいかって、その、うちでお兄ちゃんたちに聞いたこと、あります……!

相原美紀

う、うん……。

牧聖苗

ほ、本能にまかせろって!

思い出したけど、役に立たない!?

相原美紀

……ふ、ふふ……。わかったわ……。

牧聖苗

え、えと。な、なにが……、です……?

相原美紀

わたしも……。

あ、美紀さんの腕が、わたしの背中を押す。

相原美紀

聖苗の本能に、まかせちゃう……。

牧聖苗

美紀さぁん……!

もう、自然に。動くままに。

相原美紀

ん、んん……。

美紀さんの唇に、キスをして、そして、頬にも、キスをして。

相原美紀

あ……、ん……。

首筋とかにも。そうやっていろんなとこ、キスをするために、頭を動かしてると、美紀さんの息が耳とかをかすめていって。

相原美紀

はぁ……。ん……。

わたしがいろんなとこキスするたびに、美紀さんが息を吐くたびに、背中に回された腕に、きゅっと力が入る。

牧聖苗

ひん……!

相原美紀

んぁ……!

そうすると、お互いのおっぱいがすごく、くっついて。

牧聖苗

んっく、み、美紀さぁん……。

相原美紀

あ、はぁ……、んん……!

美紀さんの大きなおっぱいに、わたしのが沈み込んでいく感じで。やわらかく、包み込まれてく感じで。

牧聖苗

あぅ、ひ、ひぁ……!

その中で、固くなってるものが、こすれあったりして。それ、すごい、ビリビリしてきて。

相原美紀

んんっ……! あっ、はぁん……!

わたしの中に、そのビリビリが伝わってくるたびに、美紀さんの声も響く。すごい、大人っぽい……。

相原美紀

あ、はぁ……、あ、ん、んはぁ……!

色っぽい、声……。

相原美紀

あっ、んんっ! ふぅん、ん、くぅ……!

手で、おっぱいをさわると、もっとその声が色っぽくなっていって。

相原美紀

ふぁぁ……! あっ、せ、聖苗ぁ……!

キスしながら、おっぱいにさわると、きゅっとつかんでみると、跳ね上がって、とても、心地よく、聞こえる。

相原美紀

んんぅ……! あ、やぁ……。

お腹とか、おへそとか、背中とか、お尻とか……。

相原美紀

あ、はぁ……、ん、や、んん……。

美紀さんの肌、どこもやわらかくて、すべすべで、さわってて気持ちいい。

温かくて、指で押すと、きゅってなる。

相原美紀

んんっ!

そのたびに、美紀さんが声を漏らす。抱き締めてくれる。頭をなでてくれる。

まるで、これでいいよって言ってくれてるみたい。

頭の中は熱くて真っ赤で、もう、美紀さんでいっぱいで。

体の中は心臓の鼓動でいっぱいで。

目の前は、美紀さんの顔。わたしを見つめてる。真っ赤な頬、キスしたくなる唇。

今、わたしの中、美紀さんだらけだぁ……。

そんな、幸せの中で、また、美紀さんに抱きついたら。

牧聖苗

あっ……!

相原美紀

ふぁん……!

それまで、ちょっと怖かったから、がんばって浮かせていた腰が。

牧聖苗

あ……。

相原美紀

ん……、あ……。

美紀さんの腰と、重なって。

牧聖苗

ひぁ、あ……、み、美紀さん……。

相原美紀

ん……、あ、聖苗……。

別に、あそこが触れあったわけじゃないけど。おへそのほんの下のあたりに、ちょっとだけ、シャリってした感触があっただけだけど。

そこは……。

今は、まだ、だけど……。きっと、そのうち、いつか……。

美紀さんと深く重なる、とこ。

今は、ほんの、少しだけ。ちょっとだけ。それでいいって、わたしの中で言っている。

でも、その、ほんの少しが。

牧聖苗

あっ、ひん……! み、美紀さぁん……!

すごいって、感じてる。

相原美紀

せ、聖苗、聖苗ぁ……!

どこも触れ合ってない。ただ、腰のとこの肌が重なってるだけ。でも、それだけでも。

牧聖苗

んぁ、あ、んん……!

相原美紀

ん、んふ……、ん、ちゅ、んん……!

離れたくなくて、お互いに抱き締めあって、どこでもいいからキスをしたくなるくらい。

牧聖苗

あっ、み、美紀さん……!

相原美紀

あっ、んんっ! ふぁ、あっ、んんぅ……!

体が、熱くなる。声が、熱くなる。息が、熱くなる。

牧聖苗

ひぁっ、ん、んはっ、あぅ、んん……!

熱くなって、ただ、抱き締めあって。

相原美紀

んはぁ……、あっ、ああっ! んく、あっ、ああっ!

ぎゅって、お互いを、強く。隙間なんてないくらいに。体温が一緒になるくらい。……そして。

牧聖苗

っ、あっ、ひぅ……! ……ふ、ぁ……。

相原美紀

……あ、あ、ぁ……。……ん、ぁ……。

ゆっくりと、力が抜けていく……。体温が、一緒になっていく。目を閉じて。

牧聖苗

……あ、ぁ……、はぅ……。……み、美紀さん……。……大好き……。

相原美紀

はぁ……、ん……、ふぁ……。……わ、わたしも、よ……。

キスをする……。

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……まだ、顔が熱いみたい。

もう、服もちゃんと着て、髪も整えたはずなのに。今日、学校に来た時と同じ恰好のはずなのに。

なんだか、全然、おんなじって感じがしない。それは当然なんだけど。だって。

美紀さんと、あんなこと……、しちゃったんだから……。

いくら、勢いにまかせちゃったとはいえ……、わたし、美紀さんになんてこと、しちゃったんだろう……。

キスして、押し倒して、裸になって、それで……。

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牧聖苗

うぁぁぁぁぁぁ……。

相原美紀

どうしたの、聖苗。

それ以上、頭が思い出すのを拒否したのでうめいてたら、美紀さんにそれが聞こえちゃったみたい。

牧聖苗

あ、な、なんでもないです……。

相原美紀

そう……?

……美紀さんは全然、平気そう。すごいな、わたしは全然、落ち着けないのに。

牧聖苗

あの、美紀さん……。

相原美紀

なに?

牧聖苗

そ、その、ごめんなさい……。あ、あんなこと、しちゃって……。

相原美紀

え……? あ、ああ……。

あ、ちょっとだけ、頬が赤くなった。

相原美紀

ううん、気にしないで?

すごいな、大人っぽいな……。押し倒しちゃったのに、怒ったりしなかったし。

相原美紀

聖苗は、明日から自宅謹慎なのね。

牧聖苗

あ、はい。おとなしくしてます。

相原美紀

それじゃ……、土曜日、聖苗のお宅にお邪魔していい?

牧聖苗

え!?

相原美紀

学園祭の最中だけど、午後からは別に学校にいなくてもいいんだから。その、ご両親はいらっしゃるかしら。

牧聖苗

え!? 美紀さん、うちの両親に会うんですか?

相原美紀

え、ええ。もし、いらっしゃったらだけど。

牧聖苗

な、なんでですか!? も、もしかして……。

牧聖苗

ご、ご挨拶ってヤツ、ですか? その、両親に紹介しろってこと……。

相原美紀

え? あ、ああ……。ふふ、そうじゃなくて。

相原美紀

聖苗の停学のことよ。わたしも関わったことだから、ちゃんとお詫びしなきゃと思って。

牧聖苗

あ、そっか……。え、いや、そんなことしなくていいですよ! わたしが悪かったことなんですから!

相原美紀

そういうわけにも……。だって、聖苗の委員会の先輩で、一緒に仕事、してたんだし。ちゃんとお詫びしないと、申し訳なくて。

牧聖苗

い、いいですってば! そんなことしたら、かえってうちの両親、驚いちゃいますよ。そういう家なんですし。

相原美紀

そう……? でも……。

牧聖苗

いいですってば!

相原美紀

うーん、それじゃ、やっぱり、別のご挨拶にする?

牧聖苗

え!?

相原美紀

娘さんとお付き合いさせてもらってますって。ふふ、そういうのも、いいわよね。

牧聖苗

え、ええ!? み、美紀さん!?

相原美紀

ふふ、冗談よ。でも、聖苗のおうちを見てみたいのもあるの。お邪魔させてもらっても、いい?

牧聖苗

あ、はい!

びっくりした……。こんなお茶目な美紀さんが見られると思わなかった……。

なんだか、大人っぽくてやさしかった美紀さんが、すごくやわらかくて楽しくなった感じ。

そんな意外なとこが、隠れてたんだ、美紀さん。うん、でも、今のもすてき。とても好き。

相原美紀

それじゃ、またね。土曜日、楽しみにしてるわね。

牧聖苗

はい! お待ちしてます!

手を振って、柿坂を降りていく先輩を見送る。見えなくなるまで、ずっと。

明日、会えないのはさびしいけど、きっとケータイで声を聞ける。

それだけで、うれしい。大好きな人。美紀さんに会えてよかった。好きになってよかった。恋人になれてよかった。

すべて、春にこの正門を通って、城女に入学した時から始まったこと。この学校に来て、よかった!

美紀さんが見えなくなってから、わたしは反対側へ、椿小路を駆けていった。

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okujou_no_yurirei-san/2033.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)