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okujou_no_yurirei-san:2001

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城女、城女!

九ツ星女子! お城の女子校!

受験する前からずっと憧れていた、私立商科九ツ星女子学園に入学できたわたしは、入学式から今日までの数日の間も、ずっとそんなテンションではしゃいでいた。

だって、ずっと、本当に憧れていたんだもの。かわいい制服もそうだし、なんといっても、お城の跡地に作られた学校!

なんかもう、それだけでうきうきするのが止まらなくなる。勉強をがんばってよかった!

学費のことで、お母さんにちょっと心配かけちゃったけど、そこは、お父さんとお兄ちゃんたちが味方してくれた。

ありがとう、お父さんとお兄ちゃんたち。この恩はきっとそのうち、返すから!

だって、お城の学校なんだよ? ちょっと駅からは歩くけど。学校までの坂道は、ちょっと行きは大変だけど。

きれいな校舎に囲まれた、古いけど素敵な星館。朝、ここの昇降口で靴を履き替えるのが楽しくて仕方ない。

まだ行ったことないけど、星館校舎の奥にある奥校舎。こっちは木造でとっても素敵。

入学式をした講堂の隣にある雲見櫓の合宿所もいつかは入ってみたいなぁ。

古い建物がそのままで、新しい建物とくっついているなんて……。お父さんがすごい気に入ってたのもわかるなぁ。

うん、建物にひかれて学校選ぶなんて、わたしもやっぱり、工務店の娘なんだなぁって笑われたけど……、でも、素敵なんだもん。

そんなテンションで学園生活を始めて、そして、今日。

わたしは、ちょっと途方に暮れていた。よりにもよって、憧れていたこの学校の校舎が原因で。

牧聖苗

どこにあるんだろう、資料室って……。

そう、資料室の場所がわからなかった。

帰ろうとした時にたまたま、ダンボールを抱えた担任の先生と会って、挨拶したのはよかった。うん、挨拶は当たり前のことだし。

その先生の持っていたダンボールを、資料室に運んでしまっておいてくれるかって頼まれた時は、むしろうれしかった。だって、学校の中を歩けるんだもの。

荷物のダンボールだって、そんなに重くなかった。一抱えもあるけど、たぶん、5キロもないし。

だけど……。

牧聖苗

資料室って……、どこ……?

運んでって言われた資料室は、どこにあるんだろう。

いや、資料室はすぐに見つかった。わたしのクラスの教室と同じ階にあるから。

だけど、わたしの担任の先生の荷物はここに置くんじゃないって言われてしまった。

じゃあ、どこに持って行けばいいんだろう。その資料室にいた先生は、もうどっかに行ってしまったし……。

他に、資料室ってなかったよね……。学校案内にもあそこしか書いてなかったし……。

牧聖苗

どうしよう……、職員室に行って、聞いた方がいいのかなぁ……。

そうした方がいいんだろうけど……、なんか、せっかく用事をまかせてもらったのに、場所がわかりませんって聞きに行くのもちょっと悔しいなぁ。

牧聖苗

でも、場所がわからないのはほんとだし……。

牧聖苗

ああ、もう、どうしたらいいんだろう……。

牧聖苗

はぁ……。

そう、ため息をついたわたしの背中から。

「どうしたの?」

そう、声がかけられた。とても、優しそうな声が。

牧聖苗

え、えっと、あの……。

振り返ると、そこに。

緑のスカート、三年生の先輩。

そう、先輩が立っていた。なんて言えばいいんだろう。運命の出会いだった。

相原美紀

そうね、普通、資料室って言われたら、星館校舎の一階の方だと思うわね。

相原先輩はそう言って笑った。

相原美紀(あいはら・みき)先輩。ため息をついていたわたしに声をかけてきてくれた、優しい三年生の先輩。

声をかけられた次の瞬間、たまらず、わたしは助けを求めた。これ、どこに持って行けばいいんですかって。

そんな、説明の順序もわからなくなるくらい、実は密かにテンパっていたわたしに、いやな顔もしないで、本当に親切に、事情をたずねてくれた。

牧聖苗

でも、持って行ったらここじゃないって言われて……。ほんとにわたし、どこに持って行ったらいいのかわかんなくなって……。

相原美紀

仕方ないわよ、牧さん、まだ、入学したばかりでしょう?

牧聖苗

はい……。

ようやく自分の名前とクラス、頼まれたことを話し終えた後、先輩は自分の名前を教えてくれて、そして、わたしを案内してくれるって言ってくれた。

よかったぁ、親切な先輩で。

相原美紀

奥校舎にもう一つ、資料室があるのよ。資料室って言うより、物置なんだけどね。

相原美紀

長くいる先生は、まだ、そこのことを資料室っておっしゃったりするのよ。

牧聖苗

そうなんですか。

奥校舎! わたしの胸は高鳴った。あの奥校舎に行けるんだ!

三年生の教室があるから、ちょっとまだ行きづらかった。でも、行ってみたいと思っていた場所。

うれしい! しかも、こんな親切な先輩が案内してくれるなんて!

相原美紀

荷物、大丈夫? 持ってあげようか?

牧聖苗

ううん、全然平気です! あ、わたし、けっこう力持ちなんです!

相原美紀

そう? ふふ、ほんとにそうみたいね。それじゃ、案内してあげる。

牧聖苗

はい、お願いします!

相原美紀

ごめんなさい、待たせてしまって。

牧聖苗

あ、いいえ、平気です。

と、答えはしたものの。

わたしは内心、感心していた、というより、あきれかえっていた。

ようやく着いた奥校舎。しかし、ここまでの道のりは平坦なものではなかったのだ。

相原美紀

ちょっと、今日は声をかけられることが多くって。

牧聖苗

はぁ……。

なんというか、相原先輩ってすごい。

ちょっと歩くたびに、誰かから声をかけられる。そのみんなから、なにかしら用事を頼まれている。

伝言を頼まれたり、手伝いを頼まれたり、フェンスが壊れたから、棚が壊れたから、なんとかしてほしいって言われたり。

え、なにこの先輩、なんでこんなにいろんな人から用事を頼まれてるの?

先輩はその都度、メモをとって、その場ですぐできることなら、てきぱきと片付けて。

わたしの案内はそのたんびに足止めになっちゃうんだけど、それにもいちいち謝ってくれて。

相原美紀

なるべく、牧さんの道案内を優先したいんだけど……。

牧聖苗

あ、いえ、いいんです。わ、わたしも先輩に迷惑かけちゃってるし。

相原美紀

あら、新入生の案内は迷惑なんかじゃないわよ。

そう言って笑ってくれる。うわぁ、かっこいい。わたしだったら絶対、途中でキレてる。だって、そのくらい自分でやればってことまで頼まれてるんだもん。

ちょっと頼られすぎだよ、先輩。でも、メモをとったり、ぱぱっと用事をすませちゃうところとか、すごいかっこいいなぁ。できるって感じで。

相原美紀

さ、もうちょっとよ。この廊下の奥の三つの部屋が、昔の資料室。今は物置になってるの。

牧聖苗

あ、はい。えっと、いちばん奥の資料室に持って行ってくれって言われました。

相原美紀

そうなの。あら、いちばん使われてない部屋ね。先生も意地悪ね。ちゃんと場所を教えないなんて。

牧聖苗

なんか忙しそうでしたから……。

いちばん使われてないって、確かにそうみたい。

扉を開けただけで、ホコリのにおいがしてきた。電気をつけて中を見てみれば、ほんとにあちこちホコリが積もっていて。

相原美紀

どこに置いておくか聞いてる?

牧聖苗

いいえ、特には……。

相原美紀

それじゃ、隅の方に積んでしまいましょう。あそこの棚にちょうどいいスペースがあるから、そこに置いてもらえる。

牧聖苗

はい!

ようやく頼まれたことを終わらせられる、場所がわからなくて困ってた分もあって、わたしはちょっと張り切って資料室に足を踏み入れた。

先輩が言ったスペースは、わたしの胸の高さくらいのところ。部屋の奥のその棚のところまで、わたしは荷物を引っかけないように気をつけながら進んでいって。

牧聖苗

よいしょ。

と、ダンボールを持ち上げて、そのスペースに押し込んだ。

牧聖苗

これでよし、ですよね?

振り返ると、相原先輩はちょっと目を丸くしていた。

相原美紀

牧さんって意外と力持ちなのね。ダンボール、ちょっと重たそうだったから、手伝おうと思ったのに。

牧聖苗

あ、わたし、ちょっと腕力には自信あるんです。

お父さんたちに言わせると、小さい体に似合わぬチャームポイントらしい。喜んでいいのかどうか、ちょっとわからないけど。

牧聖苗

ありがとうございました、相原先輩。

相原美紀

どういたしまして。あ、ちょっと待って、牧さん。

資料室を出て行こうとしたわたしを、相原先輩が呼び止める。

相原美紀

左手いっぱいにホコリがついてるわ。どこか、ホコリの積もったところにこすってしまったのね。

牧聖苗

え? あ、ほんとだ。

言われて見てみれば、ブラウスの左腕、ベストの裾にまで、ホコリがびっしりとついている。

相原先輩の言う通り、こすってしまったらしい。うわぁ、恥ずかしい。

慌てて、そのホコリをはたこうとしたわたしの手を。

先輩の手が、そっと押しとどめた。

相原美紀

だめよ、はたいたりしたら。

牧聖苗

え……。

別に先輩の手は、わたしの手をつかんだわけじゃないのに。

ちょっとさわっただけなのに。

わたしの動きは、ぴたりと止まってしまった。

相原美紀

はたいたら、またホコリが舞って、服にも、髪にもついてしまうわ。

牧聖苗

は、はい……。

わたしの目の前に立った先輩が、ポケットからハンカチを取り出す。

相原美紀

ちょっと動かないでね、今、とってあげるから。

そう言って、先輩はそのハンカチで、わたしの左腕についたホコリをぬぐってくれる。

わたしの手をとって、軽く持ち上げさせて、ブラウスの腕のとこに、ハンカチを当てて。

先輩が手を動かすたびに、ハンカチがわたしの腕をぬぐっていく。その感触がブラウス越しに伝わってくる。

牧聖苗

(なんだろ……)

牧聖苗

(なんか、ドキドキする……)

目の前、ちょっと目を上に向けると、先輩の顔がある。わたしよりずっと大人っぽい表情。

ホコリのついたわたしの腕のとこを見下ろしている。少し伏せた目が、なんかとても、きれいで、ほんとに大人びていて。

相原美紀

それにね、こういうホコリは、手で勢いよく払うと、汚れが服に残っちゃったりもするのよ。

牧聖苗

は、はい……。

相原美紀

このブラウス、できたらクリーニングに出しておいてね。

牧聖苗

はい……。

すごいなぁ、こんな、わたしのブラウスにまで気を配ることができて。

ハンカチを持つ手だって、指が細くてきれい。ハンカチだって丁寧にたたんであって、デザインはちょっとかわいくて……。あ、ハンカチ?

牧聖苗

あ、ご、ごめんなさい! 先輩のハンカチ、汚れちゃう!

相原美紀

え? あ、ああ……。

牧聖苗

わ、わたしの使ってください! わたしのなら、汚れちゃっても大丈夫なんで!

相原美紀

いいのよ、そんなこと。わたしはよく、ハンカチも汚したりすること、多いから。ホコリくらい気にしないで。

牧聖苗

で、でも……!

相原美紀

ほら、動いちゃダメよ。

牧聖苗

は、はい……。

少し笑ってそう言われたら……、もう、動けなくなってしまう。

そうして、わたしは丁寧にホコリをぬぐってくれる先輩を、ただ見つめるだけで、最後までじっとしているしかなかった。

その間も、ずっと。

牧聖苗

(うう……、なんか、ドキドキして止まんない……)

胸の音が体中を響いているのと、顔がなんでか、赤く火照っているのを感じていた。

相原美紀

はい、これでおしまい。

牧聖苗

あ、ありがとうございます……。

相原美紀

どういたしまして。明日でもいいから、担任の先生には、この部屋のどこに荷物を置いたのか、伝えておいてね。

牧聖苗

はい……。

わたしは、なんかぽーっとしたまま、先輩の言葉にうなずいていた。ぽーっとしてても、ドキドキは続いていて。

それは、ずっと、わたしの教室の前で、先輩にお礼を言って別れるまで止まらなかった。

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okujou_no_yurirei-san/2001.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)