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okujou_no_yurirei-san:1606

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数学は正直、あまり得意でも好きでもないんだけど。

でも、目の前の問題集に必死に集中する。解法を思い出し、公式を当てはめて、計算して、解答を埋めていく。

勉強は、特に試験勉強は、教科書の読み直しや問題集、単語の暗記と、とにかく集中できるのがいい。目の前の段取りに集中できるっていう意味では、料理と一緒。

……余計なことを考えなくていい。

余計? 余計なことじゃ、ないんだけど……。とにかく、考えても考えても、答えが出ない、道筋さえ見つけられないことをずっと悩み続けるより、いい。

土曜日。恒例のテスト前の勉強会。

阿野と二人、私の部屋で、テスト勉強をしている。夕ご飯を食べたあと、ずっと。

比奈は今、一度、家に帰っている。今日はおじさんもおばさんもいるから、家でご飯を食べて、お風呂に入ってからまた、戻ってくる。

比奈がいないと、どことなく不安でさびしいと思ってる自分がいる。でも、比奈と一緒にいると落ち着かなくて、そして、まだ引き延ばしている答えを考えなきゃいけない。

でも、なかなか答えは出なくて。考えてる、悩んでるうちに、もう、まとまらなくて、ぼーっとして、それでまわりの人に心配させて。もう、ずっとこんなこと、続けてる。

どうしたらいいんだろう……。ああ、また、このことで悩んでる。今は、勉強に集中しなきゃ。

阿野藤

結奈、ちょっとここ、教えて?

遠見結奈

え? あ、ああ……。えっと、そこは……。

阿野に声をかけられて、やっとテスト勉強に頭が戻ってきてくれる。よかった。

阿野がシャーペンで指しているところを見て、連用形のややこしい見分け方を教えて。

遠見結奈

……わかった?

阿野藤

なるほど、わかった。……ような、わかんないような。うん、わかった。

遠見結奈

……どっちなのよ。

阿野藤

なんとなく、こうなるのがわかった。

わかっているのかしら、それって。でも、まぁ、古文なんてそういうとこもあるかな。

阿野藤

結奈ってさぁ。どんなに変でも、料理とか勉強だけはちゃんとできるんだねぇ。

遠見結奈

え……? な、なによ、変って……。まぁ、そう言われても仕方ないけど……。

今さら、阿野をごまかしても仕方ない。ここのとこ、ずいぶん、阿野には心配かけてるし。……阿野に、毎日、心配で声、かけられるなんてなぁ……。

阿野藤

あたしなんて、考え事が煮詰まってると、なんにも手がつかなくなっちゃうからねぇ~。

grpo_bu0

私だってそう。なにかに集中してないと、すぐに悩んでることに意識が行ってしまう。

自分が、ここまで脆いなんて思わなかった。もう少し、冷静な人間だと思っていたんだけど。全然、そうじゃなかった。

阿野、か。ここのとこずっと、私のこと、心配していてくれた。最初のうちはごまかしていたけど、最近はもう、ごめんって言うしかない。

阿野がほんとに私のこと、心配してたのは、わかる。でも、私はずっと、なにに悩んでいるのかは言えなかった。

でも、どうなんだろう。今日まで、いろんな人に、話を聞いてもらったり、心配してもらったり。アドバイスとか、そうでなくても、声をかけてもらった。

サチさん、恵、園生先生と桐さん、音七さん、網島先輩に稲本先輩。たぶん、もっと他の人にも。なんか、いつの間にか広まっていたみたいで。

阿野。今の私の悩みに直接、関わっているサチさんと恵とはちがう。悩みの根底にある、比奈からの気持ちと同じ、園生先生や先輩たちともちがう。

この悩みとは関係ない、友達。阿野は、女同士とか同性愛とか、関係ない、よね? 百合は好きって言ってたけど、リアルでは考えられないって言ってたし。

どうかな? 阿野だったら、もしかしたらなにか、いい答えを教えてくれるかな? 答えじゃなくても、なにかいい悩みをとく、いいきっかけをくれるかな?

ううん……、なにも答えてくれなくていい。話をしてみたい。聞いてほしい。

grpo_bu0

grpo_bu0

遠見結奈

……あのさ、阿野。

阿野藤

ん? なになに?

遠見結奈

ちょっと、聞いてほしいことが、あるの。

阿野藤

……テストのことじゃ、なさそうだね。

遠見結奈

うん……。テストは関係なくて。ちょっと……、悩んでることがあって。

阿野藤

ほう。

阿野、膝を崩していたのを正座に直してきた。か、かしこまられると、ちょっと話しづらい、けど。

遠見結奈

そ、その……。

阿野藤

それって、もしかして、学校の屋上にいる幽霊の、こと?

遠見結奈

……え!?

阿野藤

結奈、もしかしてずっと、幽霊に取り憑かれてた? それで困ってた?

遠見結奈

あ、阿野……? し、知ってたの? うそ……。

予想外の阿野からの言葉に、私は聞こうと思っていたことをすべて、頭から吹っ飛ばされてしまっていた。

もちろん、サチさんと恵のことは、誰にも言ったことはない。比奈にだって、阿野にだって。

幽霊が見えて、話ができて、その幽霊に頼み事されているなんて。普通、信じてもらえないと思ったし。実際、サチさんと恵のこと、見えている人はいないと思ってたし。

誰も、あの二人に気付いていなかったし。

阿野藤

あ、あたし、さ……。その、ちょっとだけ、霊感あるみたいなんだよね? 幽霊みたいなの、ぼんやり見えるっていうか……。

阿野藤

こ、今年の春くらいだったよね? 連休明けだったっけ? 結奈のまわりに、ぼんやり、幽霊みたいなのが見えるようになってさ……。

阿野藤

結奈、ちょっと様子が変かなぁとか思ったんだ。ちょっとしたら、なんでもない感じになったから、気のせいかと思ってたんだけど……。

阿野藤

結奈、そのころからちょっとずつ、変わってきたからさ。霊も時々、結奈のまわりに見えるし。

阿野藤

んで、最近、ずっと変だったよね? だから、もしかしたら、霊のせいかなって思って。

阿野藤

ずっと、困ってた? あ、あたし、もっと早く、相談に乗るべきだった? できるだけ、結奈の力になれるかなってこと、してきたつもりだったんだけど……。

遠見結奈

あ、えっと……。

びっくりした。なんの言葉も、すぐに出てこないくらい。

ずっと阿野がサチさんたちに気付いていたなんて。確かに、あの二人のお手伝いのために、阿野に変なこと聞いたりお願いしたりしたこと、あったけど。

阿野、気付いてて、いろいろ助けてくれていたの……?

遠見結奈

た、確かに、屋上に幽霊がいて……、その、ちょっといろいろあったんだけど……。

どうにか、言葉を絞り出していく。サチさんと恵のことも、話してしまおう。もう、隠してても仕方ないし。

阿野藤

やっぱり!? あ、あたし、見えるだけでお祓いとかできないんだよね。でも、いろいろ調べてみようか? 結奈のためだったら、巫女服だって着るよ?

遠見結奈

あ、そ、その。幽霊はちょっと関係あるけど、関係なくて。その、話したいのは、別のことで……。

阿野藤

あ、あれ!? ち、ちがうの?

遠見結奈

う、うん……。

阿野藤

あ、あれ? う、うわわわわわわっ! や、やっちゃったぁぁぁぁ……。

遠見結奈

あ、阿野?

うわ、阿野、顔が真っ赤だ。真っ赤な顔して、頭を抱えてる。

阿野藤

うわああああ、は、恥ずかしい……。なにやっちゃたかなぁ、あたし……。

遠見結奈

ご、ごめん。そんなに気にすること、ないと思うけど……。

阿野藤

あ、あのさ、結奈。あたし、さ……。

遠見結奈

う、うん……。

阿野藤

すっごい、恥ずかしがりなんだぁ。その、人からちょっと褒められたり、すっごいやらかしたりすると、すぐ、こんなに真っ赤になっちゃうんだぁ。

遠見結奈

そ、そうだったの?

阿野藤

うん~。真っ赤になって、頭、パニクっちゃって、頭抱えて動けなくなっちゃいそうになってぇ……。

し、知らなかった。活発ってわけじゃないけど、いろんなことに興味持ってて、誰とでも話ができるタイプだと思っていたから。

阿野藤

忘れ物とか、全然、気になんないんだけどさ。いつもは、ハイテンションのふりしてごまかしてたんだけど~。あぁ~、ついに結奈の前でやっちゃったぁ……。

遠見結奈

あ、阿野? そ、そんなに気にすること、ないと思うわ?

阿野藤

ありがとう、結奈~。情けが身にしみるぅ。結奈からの相談だと思って、気合い入りすぎてフライングしたら自爆しちゃったよぉ。

頭を抱えたまま、そして正座したまま、床に頭を突っ伏してる阿野。

遠見結奈

そ、その、ごめん。

そっか、阿野、ずっと心配してくれてたんだ。そうだよね。最近だって、私にいつも、声をかけてくれた。

今の自爆だって、私が話しやすいようにって考えてくれたのかな。きっとそう。

それで、こんなとこまで見せさせちゃって……、ごめん。

阿野藤

いいよいいよ~。ん、もう大丈夫。

阿野は顔をあげてくれた。まだ、真っ赤な顔を。

阿野藤

話の腰、ポッキリさせちゃって、ごめん。いいよ、結奈、話してくれて。

遠見結奈

う、うん……。

決めた。阿野に話そう。きっと、阿野ならちゃんと聞いてくれる。答えはいらない。聞いてくれるだけでいい。

遠見結奈

あ、あのね、私……。

遠見結奈

比奈に、告白されたんだ……。

阿野藤

こ、告白。えっと、それは、その……。愛の告白?

遠見結奈

うん……。

阿野藤

っ、ひ、ひゃぁぁぁぁ……。あぅ、ご、ごめん、変な声出して。

遠見結奈

ううん、いい。

阿野、ますます顔が赤くなったけど、それでも、聞いてくれる。

遠見結奈

学園祭の最後の日に、ね。わ、私のこと……、好きだって……。

阿野藤

そ、そうなんだ。ひ、比奈ちゃん、すごい……。

遠見結奈

わ、私、返事ができなくて……。その、まだ、返事ができてないんだ。比奈は、私の気持ちが決まるまで、待ってるって言ってくれてるんだけど……。

阿野藤

う、うん。

遠見結奈

私、まだ、答えが出せなくて……。

阿野藤

そ、そっか。……うん、結奈。なんで答えが出せないのか、聞かせてくれる?

遠見結奈

それが……、ずっと考えてるんだけど、うまくまとまんなくて……。

阿野藤

まとまってなくてもいいよ。

遠見結奈

う、うん……。

阿野に促されて、私はゆっくり、頭の中でまとまっていないこと、それを順番に話し出す。

遠見結奈

比奈のことは、もちろん、嫌いじゃないの。好きなんだけど、でも、それって、恋愛感情なのかなって。

遠見結奈

ずっと一緒にいたから。好きなのは当たり前なの。でも、妹みたい、家族も同然、そういう好きなのかもしれない。友達として、好きなのかもしれない。

遠見結奈

わかんないの。その、私、誰かを好きになったこと、ないから。比奈のこと、その、恋愛の相手として好きなのかどうか、はっきりしないの。

遠見結奈

わからないのに、比奈に返事、できないじゃない。好きの意味がちがってたら、比奈を悲しませることになるし。

阿野藤

うん……。

遠見結奈

それに、もし、比奈のことがほんとに好きで、比奈に私も好きって返事をしても……。

遠見結奈

お、女同士、なんだよ? もう今さら、それが変だとか思わないけど……。

遠見結奈

でも、まわりの人は、そう考えてくれないかも。お父さんやお母さん、比奈のおじさんやおばさんを困らせるかもしれない。

遠見結奈

比奈にだって……、私が恋人だってことで、迷惑かけるかも。比奈が、変な目で見られたら、どうしよう……。

遠見結奈

そんなこと、ずっと、考えてて……。気を抜くと、すぐ、このことばっかり考えてて……。

遠見結奈

どう、答えていいか、わからないの。迷ってる、悩んでたの……。

阿野にこうして全部話してもまだ、答えは見えない。ぐるぐると最初に戻ってきてしまう。どうしようってところに。

阿野藤

………………。

阿野は、私が口を閉ざしてから、ちょっとの間、黙ってた。顔を真っ赤にしたまま、私の方を見て、膝の上で手を握って。正座もずっと続けたままで。

でも、もう、私の話が続かないのがわかったのか。

阿野藤

え、えっとさ。

遠見結奈

……うん。

阿野藤

あ、あのね! あ、あたしは結奈のこと、変だと思ったりしないからね? もちろん、比奈ちゃんのことも!

遠見結奈

う、うん……。

まず、最初にそう言ってくれた。真っ先に。

遠見結奈

ありがと……。

阿野藤

お、お、おおお、お礼なんていいよぉ! あ、当たり前のことでしょ?

遠見結奈

でも、ありがと。

当たり前って言ってくれてうれしい。誰かに変じゃないって言ってもらえるとほっとする。

この半年の間、女同士のカップルばかり見てきたけど、それでも。それが別に特別なことじゃないとわかっていたつもり。でも。

阿野にそう言ってもらえたのが、うれしい。

阿野藤

そ、それでさ。

遠見結奈

うん。

阿野藤

結奈、別に、同性愛とか百合とか、女の子同士とか、そういうのが嫌いってわけじゃないんだよね?

遠見結奈

うん……。

そう思ってる。確かに、最初は変なことだと思った。恋愛って男女の間のものだと思っていたから。それが普通だと。

でも、確かに普通じゃないかもしれないけど。誰かを好きという気持ちの行き先には、たとえその先が同性であっても、変じゃないと。

向かう想いにちがいはないってことを、私は知った。だって。

みんな、あんなに一生懸命に、相手のことを好きって思っていたから。

阿野藤

比奈ちゃんのこと、嫌いじゃないんだよね?好きなんだよね?

遠見結奈

うん、好きよ。でも……。

阿野藤

うんうん、わかってる。それでさ、もし、比奈ちゃんと恋人同士になったら、いろんな心配や迷惑かけたりすることがあるかもって思ってるんだよね?

遠見結奈

うん。

阿野藤

あ、あのさ、結奈。

阿野は一つずつ、私が迷ってること、悩んでることをあげてくれて。そして。

阿野藤

いろんなこと、考えて悩んじゃうのは、仕方ないよね。こういうことだもんね。

遠見結奈

う、うん。そうなのかな。でも、そうだよね……。

阿野藤

うん。でも、さ。

阿野藤

そういうの、全部、とっぱらっちゃったら?悩んでるいろんなこと、全部、無しにしちゃったら?

遠見結奈

え?

阿野藤

そしたら、たぶん、結奈がもう、わかってることが、残ったり、しない?

阿野藤

比奈ちゃんへの、答え、そこにあったり、しないかな?

遠見結奈

比奈への答え……? そこに……?

悩んでいることを、迷ってることを、全部、なくしたら?

阿野藤

比奈ちゃんが待ってるのはたぶん、それじゃないかな。付き合ってほしいとかじゃないよ、きっと。

阿野藤

比奈ちゃんってさ、付き合ってとかそういうことよりさ。結奈の気持ちがただ、聞きたいんだよ。好きだって言った自分への、結奈の気持ちが。そんな気がするよ。

そこに、あるの? 比奈への答えが? そういうものなの?

阿野藤

それを、答えてあげなよ。うん、どんなのでもいいからさ。

そこに、今、私、なにがあるの……?

阿野藤

そ、そんでさ……。

阿野藤

結奈が、どんな答えを出したとしても、どんな返事を比奈ちゃんにしたとしても、さ。

阿野藤

あ、あたしは、結奈のその答え、応援する。でもってさ。

阿野藤

その答えを出したことで、結奈と、あと比奈ちゃんが、どんなに大変でも、あたし、二人の味方するよ。

遠見結奈

阿野……。

阿野藤

大丈夫だよ、結奈。

阿野藤

結奈の気持ちは、絶対に間違ってないって。

遠見結奈

阿野……。ありがと……。

阿野藤

あ、あはははは、やめてよ、お礼なんてさぁ!

遠見結奈

うん……、探してみる。もう一回、ちゃんと、答え、探してみるね。

阿野藤

う、うん。え、えっと、その、がんばれ!

ありがと、阿野。

阿野に、話せてよかった。そして、いろんなこと、ずっと黙っててごめん。もっと早く相談できればよかった。でも。

今、話せてよかった。本当に、よかった。

阿野藤

そ、そろそろ、勉強に戻らない? 比奈ちゃんも帰ってくるかもだしさ! そ、それに……。

阿野藤

あ、あたし、もう限界で! これ以上、結奈に見つめられたら、顔から火吹いて倒れちゃいそう~。

遠見結奈

うん……。勉強、しよっか。

閉じていたノートを広げる。やっと足を崩した阿野も、私から顔を隠すように、問題集にかぶりつく。

玄関が開いた音。比奈のただいまって声も聞こえてきた。勉強に、戻らなきゃ。

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遠見結奈

……うん。

少しずつ、取り除いていこう。迷ってたこと、悩んでたことを。阿野が教えてくれたとおり。

一個ずつ、一つずつ。全部、取り払ったそのあとに。

最後に。……なにが、残っているのかな。私の気持ち。そこには、なにが、あるんだろう……。

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okujou_no_yurirei-san/1606.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)