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okujou_no_yurirei-san:1602

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学園祭から、一週間とちょっとたった月曜日。

そう、あれからもう、一週間以上たってる。忙しくて、ドタバタしたあの学園祭から。

最後に、比奈のあの言葉を聞いてしまってから。

狛野比奈

結奈ねぇ、ご飯、おかわり。

遠見結奈

あ、うん。おかずは? 足りてる?

狛野比奈

ん、だいじょぶ。

遠見結奈

そう……。

grpo_bu0

学園祭の最後の日、私は比奈から告白された。

「結奈ねぇが、好き」

それを聞いた瞬間、私の頭はいっぱいになってしまった。比奈のその言葉で。

その日はもう、それでずっと頭がいっぱいで、他のことはなんにも考えられなくなって。

家に帰って、ご飯を作って、食べて、ふらふらと自分の部屋のベッドに突っ伏して、そのまま眠ってしまった。

次の日、目が覚めてもまだ、その言葉は頭の中を回っているみたいで。

それからずっと、まだ、回っている。

今も、こうして。

grpo_bu0

grpo_bu0

狛野比奈

結奈ねぇ?

遠見結奈

……え? あ、なに? ごめん、聞いてなかった。

狛野比奈

ご飯、食べないの?

遠見結奈

……あ。

箸が止まってた。気が付くと、こんなふうに考え込んでいて。そう。

私はまだ、比奈の告白に返事をしていなかった。返事ができていなかった。

だって、どう答えていいか、わからなかったから。答えが、頭の中から出てこなかったから。

遠見結奈

えっと、比奈、時間は大丈夫?

狛野比奈

ん。まだ平気。でも、そろそろ。

遠見結奈

朝練、遅れちゃダメよ?

狛野比奈

ん。

比奈はいつも通りで。私の生活もいつもと変わらない。

こうして、朝ご飯を作って一緒に食べて。お弁当を用意してあげて。夕ご飯も何度か、私が作って一緒に食べる。

今までと変わっていないんだけど。

遠見結奈

………………。

私の頭の中だけが、比奈からの言葉でいっぱいになったまま。そして、考えても考えても、答えが出ないまま。

狛野比奈

ん、ごちそうさま。

遠見結奈

あ、うん、お粗末様でした。

狛野比奈

お皿、どうする?

遠見結奈

あ、お茶碗は浸けておいて。お皿の方は、ちょっとお水で流しておいてくれればいいから。

狛野比奈

ん。

こんなに考え事していても、いつも通りのことはできるみたい。ちゃんと料理もできるし、味付けも失敗したりしない。

ただ、それ以外のとこで、ちょっと気を抜くと、比奈のことがまた、頭の中を占領してしまって。

遠見結奈

………………。

狛野比奈

結奈ねぇ?

遠見結奈

え? あ、もう出るの?

狛野比奈

ん。

遠見結奈

はい、お弁当。今日はおばさん、通常勤なのよね?

狛野比奈

ん。夜はうちで食べる。

遠見結奈

わかったわ。

狛野比奈

行ってきます。

遠見結奈

はい、行ってらっしゃい。

狛野比奈

ん。

そうやって朝練のために早めに学校に行く比奈を見送った後。

遠見結奈

……はぁ……。

ため息とともに、どっと力が抜けていくのを感じる。比奈の前で、いつも通りにしていることに、想像以上の力を使っているみたい。

こんなに、緊張することじゃないはず、比奈と一緒にいることは。

でも、あの言葉をくれた比奈に、私は普通に接するのに、すごい苦労してるみたい……。

それも、返事をしてないからかな……。

「返事、いつでもいい」

「結奈ねぇの気持ち、決まったら、教えて」

比奈は、そう言ってくれた。そして、その言葉の通り、いつも通りの比奈のまま、私の返事を待ってる。一言も急かしたりせずに。

遠見結奈

だからって、こんなに待たせていいわけじゃないとは思うんだけど……。

でも、答えが出ない。なぜだろう。

こんなに、考えているのに……。

阿野藤

あ、おはよ~、結奈。

遠見結奈

う、うん、おはよ、阿野。

挨拶だけ交わして、私は自分の席に座る。阿野がその目の前まで来てくれるけど、なんの話題も振ることもできない。

ここのところ、ずっとそう。比奈に告白されてから。

なんだか、すっかりペースが狂っちゃってるみたい……。

阿野藤

えへへ、えっとですね、結奈。

遠見結奈

え、なに?

話しかけてきた阿野に顔を上げてみたものの。

阿野藤

実はですね~、今日提出する、英語の宿題なんですけど~。

遠見結奈

あ、ああ……。

うわ、ダメだ、私。

阿野の忘れ物を確認することも忘れてる。日課になってたはずだったのに。

遠見結奈

忘れてきたの?

阿野藤

ご名答! 結奈~、答え見せてとは言わないから、せめて問題のプリントだけでも貸してくれない?

遠見結奈

はいはい。

今日、提出する宿題は、プリント形式で。問題と解答は用紙がわかれているから、問題だけ貸すことはできる。

さすがに、答えを見せたりすることは、阿野のためにはならないし。私がそう言うとわかってるから、阿野も問題だけでも見せてくれって言ってるんだと思う。

遠見結奈

えっと……。

私は、そういう提出用のプリントとかを挟んでおいてるクリアファイルをカバンから出して……。

遠見結奈

あれ……?

挟んであるプリントを確認していくんだけど……。

遠見結奈

嘘……、持ってきてない……。

その問題のプリントが挟まってないことに気付いて、愕然とした。

阿野藤

ええ!? ほんと?

遠見結奈

うん……。

確かに、提出するのは解答用紙の方だけだから、問題を持ってきてなくてもいいんだけど。

阿野藤

うわ~、結奈がそういう忘れ物するの、めずらしいねぇ~。

自分でもそう思う。というか、この学校に入ってから、いや、その前からもちょっと記憶にないくらい。

学校に持っていく物は、前日の晩にちゃんと確認する習慣、身についているはずなのに。そう言えば、昨日の晩は、確認したっけ……?

遠見結奈

嘘……、なんで忘れてきちゃったんだろ……。

阿野の忘れ物を口うるさく注意してるんだから、自分が忘れ物してたら説得力がないと思って、特に注意していたはずなのに……。

遠見結奈

ごめん、阿野……。

阿野藤

あー! いいよいいよ! 忘れたあたしが悪いんだからさ! 誰かから見せてもらうからだいじょぶだよ~。

遠見結奈

うん……、そうしてくれる? ほんとにごめん。

阿野藤

だ、だからいいんだってばぁ。

なんか、すごいショック。忘れ物したということより、その忘れ物をしないための習慣をすっ飛ばしていたことに、ショックを受けてる……。

阿野藤

あ、あのさ、結奈。

遠見結奈

え……? なに?

阿野藤

なんかここんとこ、疲れてるの? 体調悪かったりしてない?

遠見結奈

え……?

阿野の心配そうな顔が見える。

疲れてる? そんなことない。ここのところ、そんなに忙しいと思うことはなかったし。

体調が悪い? それもない。風邪とか別にひいてないし、体はなんともない。

ただ……。ずっと考え事してるって感じだけど……。それが終わらないというか、まとまらないというか……。

阿野藤

なんか、あった? 結奈、元気なさそうに見えるんだけど……。

遠見結奈

………………。

元気、なさそうに見えるのかな。なにかあったのは確かなんだけど。

阿野藤

あ、あたしでよかったら、なんでも相談してね? その、ほんとなんでもいいんだよ? 無茶なことでもさ。

遠見結奈

う、うん……。

阿野には気付かれているのかな。確かに、私、おかしい。

比奈の一言で、こんなに自分がおかしくなるなんて。

阿野藤

その、さ、あたし、結奈の言うことなら、なんでも信じてあげるからさ。だから、ほんとなんでも言ってね?

遠見結奈

うん……。

grpo_bu0

信じる? どういうことだろう。相談なのに、信じるって。阿野の言い方にちょっと不自然さを感じたけど。

でも、信じる、か。

阿野は、信じてくれるのかな。

私が比奈に告白されたこと。私が、その告白にすぐに答えられなくて。ずっと答えられずにいることを。

相談……、できるのかな、阿野に。女の子の比奈に告白されて、こんなふうになってるなんてこと……。

榎木サチ

こうして集まるのも久しぶりね、結奈さん。

遠見結奈

ええ……。

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そう答える結奈さんの声からは、彼女らしい活力が感じられない。

学園祭が終わってからずっと、お昼休みにこうして、私たちは屋上に集まることはしなかった。

私と恵は、二人で突き当たってしまった問題に対して、答えを探していたし。

結奈さんは結奈さんで、比奈ちゃんからの告白を受けて、その答えを出せていないようだったから。

それでも、久しぶりにこうして集まってみたんだけど……。

やっぱり結奈さん、まだ、比奈ちゃんに返事ができていないのかしら。きっとそうね。

声にも態度にも、元気がないように見える。これは……、ちょっと困ったことになってるかしら。

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遠見結奈

えっと、なにか、ありました?

榎木サチ

え、ええ、えっとそうね……。

結奈さんが顔を上げてたずねてきたので、とっさになにを答えていいかわからなくて、ちょっと詰まってしまったのだけど。

遠見結奈

なんです? どんなお手伝いです?

結奈さんは、誰かにまた、なにか問題が起こったのかと思ったのかしら。

遠見結奈

とにかく、解決してしまいましょう。

そんなことを言い出して。まるで、結奈さんらしくない言葉。気が急いているのかしら。それとも……。

そんなにも、目を逸らしてしまいたいことなの?

永谷恵

ちょっとどうしたの、結奈。なんだか、全然、結奈らしくないんだけど。

遠見結奈

え? あ……。

そう、本当にらしくない。いつもの結奈さんだったら、拙速なことは言わないはず。もっと準備と段取りを考えてから行動に移すのがあなたらしいやり方のはず。

榎木サチ

その、特に問題のある子はいないのよ。

榎木サチ

みんな、今のところ仲良くしているわ。

遠見結奈

あ、そうですか……。

榎木サチ

そうね、ちょっとあるとしたら……。

遠見結奈

だ、誰です?

榎木サチ

陽香ちゃんと愛来ちゃんかしら。

遠見結奈

陽香たち……?

榎木サチ

ええ、ほら、学園祭で陽香ちゃん、愛来ちゃんに告白したでしょう? しかも、舞台の上から。キスまでしたのよ、みんなの前で。

遠見結奈

え、ええ……。

そのことは、聞いていたのかしら。キスしたところは、結奈さん、見ていないようだったけど。

永谷恵

それがね、ちょっと職員室で問題になってるみたいなの。もしかしたら、二人とも、怒られるかもしれないって感じ。

遠見結奈

そうなんだ……。

榎木サチ

ええ。さすがに目立ちすぎちゃったみたいね、陽香ちゃんたち。

榎木サチ

でも、このことは私たちでは、今はどうにもできないと思うし……。

遠見結奈

そ、そうですね……。

そう答えて、結奈さんは少し、がっかりとしたみたい。なにもできないのが悔しいというわけではないのでしょうね。

ただ、自分が集中できることがなかったということに、気落ちしているんでしょうね。

これは……、そうとう重症なのかしら。なにか、力になれたらいいんだけど。

永谷恵

ねぇ、サチさん。

そんな結奈さんに、どう声をかけようかと困っている私に、そっと恵が声をかけてくる。

榎木サチ

なに、恵。

永谷恵

結奈に、あのこと、相談しなくていいんですか?

榎木サチ

そう、ねぇ……。

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恵の言うあのこととは、目下、私たちを悩ませている問題。

そう、学園祭も終わった直後の日曜の夜。

気分が盛り上がるままに、体を重ねようとした私たちの前に立ちはだかった問題。

それは、私たち幽霊同士では、互いの体に触れることがきでなかったということ。つまり、このままでは私たちは、いつまでたっても、初体験を遂げることができない。

その事実を突きつけられた時、私と恵は、呆然として、そして困惑した。

結奈さんという協力者を得て、いろんな子の恋のお手伝いをした。

そして、その子たちのうち何組かは、それぞれの問題を乗り越えて、身も心も結びつくことができた。私たちは、それを見てきた。

ようやく、どうやったら女の子同士で、体を重ねることができるのか、ようやくその知識を得ることができたというのに。

あとは、私たち二人が、初体験を迎えるだけだったというのに。

まさか、最後の最後に、こんな問題が残っているなんて。

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永谷恵

やっぱり、あの方法しかないと思いますよ?

榎木サチ

ええ、それは私もわかっているんだけど……。

永谷恵

だったら、結奈に協力してもらわなくちゃ。

榎木サチ

ええ、そうなんだけど……。

頭を抱えながらも、私と恵は二人で考えて。

どうにか、私たちでも、体を重ねることができないか、初体験を迎えることができないか、その方法を考えて。

たどりついた結論は、一つ。

永谷恵

なんだったら、わたしから結奈に話、しましょうか?

榎木サチ

え、でも……。

永谷恵

サチさんが言いにくいんだったら、わたしが言いますよ。

榎木サチ

あ……。

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永谷恵

ねぇ、結奈……。

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榎木サチ

ダメ、恵!

永谷恵

んぐ。

私はとっさに、恵の口を両手で覆っていた。

遠見結奈

え? えっと、なに? ごめん、よく聞いてなかった……。

結奈さん、はっと気付いたように顔をあげた。本当に、なにも聞いてなかったみたい。それくらいに。

今、私が恵の口を押さえている、そんな状況にも、特になにも言ってこない。それくらいに。

心、ここにあらずって感じで。

榎木サチ

ごめんなさいね、結奈さん。なんでもないの。

遠見結奈

は、はぁ……。

そう言って、また、結奈さん、どっかに注意がいってしまったみたいで。ううん、そこにも注意が向いてない。ぼーっとしてるみたい。

永谷恵

サチさぁん……。

榎木サチ

あ、ごめんなさいね、恵……。

こんなふうに恵の口を押さえても、本当は声を押しとどめることはできない。恵の口を覆う感触さえ、この手のひらには伝わってこないのだから。

榎木サチ

その、今は、結奈さんに話すの、やめておきましょう。

永谷恵

えー。

恵が不満に思う気持ちもわかる。私たちの問題を解決できるのは、結奈さんしかいないんだから。

永谷恵

だって、結奈に協力してもらわないと、わたしたち、なんにもできないじゃないですかぁ。

grpo_bu0

そう、その通りなのだけど。

二人で導き出した解決策、それは。

結奈さんと、できれば、比奈ちゃん、二人の体に、私と恵、それぞれが憑依して、そして、私たちの初体験を迎えるというもの。

幽霊のままでは、お互いにさわることもできないのなら。

誰かに憑依して、その体を借りてしまえばいい。それでも、私たちが体を重ねるという目的は達せられるのではないか。

もちろん、結奈さんに協力してもらわなくては、できないことなのだけど……。

grpo_bu0

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榎木サチ

でも、今の結奈さんにそのことを頼むのは酷というものだわ。

永谷恵

そうかなぁ。

榎木サチ

ええ。今、結奈さんきっと、比奈ちゃんからの告白で頭がいっぱいみたいだから。

永谷恵

でも、もう、一週間以上ずっとですよ?

榎木サチ

それだけ、悩んでいるってことよ。大事な問題だととらえているんじゃないかしら。

永谷恵

さっさと答え、出しちゃえばいいのに。わかり切ったことだと思うんだけどなぁ。

榎木サチ

私や恵には、そう見えるかもしれないわね。でも、結奈さんにとっては、時間をかけて出さなきゃいけない答えなのよ、きっと。

永谷恵

もう、じれったいなぁ……。

榎木サチ

もう少し、待ちましょう。ね、恵?

永谷恵

はい……。

ええ、私たちは、まだ、待てる。今までずっと、恵と会ってから30年間、ずっと待っていたんだから。

もう少し。結奈さんが答えを出すまでの間、待つことなんてどうということはないはず。

少し、期待に逸ってしまったこの心を落ち着けておけばいいはず。

遠見結奈

………………。

よほど、比奈ちゃんへの答えが、あなたにとって大事な問題なのね、結奈さん。

傍目にも、いつもとちがうとわかるほど。それだけ、深く悩んでいるのね。

いいわ、ゆっくり考えてほしい。そして。

ちゃんと、答えを出してくれればうれしいんだけど。

永谷恵

もう……。

榎木サチ

今はもう少し、待ってあげましょう。ね。

永谷恵

はぁい……。

まだ不満そうに恵が返事をした時。

屋上にまで聞こえる、呼び出しの放送が、響いてきた。

「二年C組の有遊愛来さん、二年D組の古場陽香さん、両名は本日の放課後、生活指導室まで来てください。繰り返します。二年C組の……」

遠見結奈

恵!

放課後。

授業が終わって、ホームルームがちょっと長引いて、その後、掃除当番もあって、それからちょっといろいろあったおかげで、ここに来るまで時間がかかってしまった。

生活指導室の前。昼間の放送で、陽香と有遊さんが呼び出されていた。さすがにどうなるのか気になったので来てみたんだけど。

すでに恵は先に来ていて、私が声をかけると、指導室の中に突っ込んでいた顔を引き抜いてこっちを見た。

遠見結奈

陽香と有遊さんは? もう来た?

永谷恵

遅いわよ、結奈。二人ともとっくに中に入っていって、今、先生から話を……。

永谷恵

って、あんた、なにしてるのよ!

あ、やっぱり怒った。

ちょっといろいろあったっていうその理由が、今、私の背中にくっついているから。

遠見結奈

なにって、しょうがないじゃない。サチさん、こうしないと星館校舎に入れないんだし。

そう、サチさん。

生活指導室に急ごうとした私を、校舎の外から手を振って呼び止めて。屋上まで呼び出されてみれば、生活指導室まで行ってみたいから、取り憑かせてほしいって。

榎木サチ

だって、私だって陽香ちゃんと愛来ちゃんのこと、気になるから……。

榎木サチ

結奈さんに無理言ってお願いしたの。

遠見結奈

そういうことよ。

永谷恵

そ、そうですかぁ……。それじゃ仕方ないですけどぉ……。結奈、あんまりサチさんにくっつかないでよ!

遠見結奈

無茶言わないで。

くっついてきてるのはサチさんの方なのに。恵の中では、私からくっついてるってことになってるらしい。恵じゃしょうがないけど。

榎木サチ

それで、中の様子は? 恵。

永谷恵

あ、うん。やっぱり、学園祭のステージでキスしたことで、怒られてるみたいです。

榎木サチ

やっぱり……。

私は、陽香の歌が終わってすぐに舞台のそでに引っ込んだから見てなかったけど。

陽香、告白した後、有遊さんをステージの上にまで引っ張り上げたらしい。そして……。

みんなの見てる前で、キス、したって。

告白するってまでは聞いていたけど、そこまでしたんだ、陽香ってば……。

その肝心のシーンを見逃したことを、残念だとは思わないけど。見てみたかった気はするけど。

やっぱり、問題になっちゃったんだ。

榎木サチ

大目に見てもらえないものかしら。

永谷恵

どうでしょう? なんか、教頭先生も中にいるみたいだし。

遠見結奈

教頭先生もいるの?

それじゃ、ただじゃすまないかも。停学処分とかになるのかな? そう言えば、こないだ、三年生相手に大暴れの牧さんは、三日の停学だったって聞いたけど……。

学園祭のステージでのキスって、どのくらいの処分になるんだろう。まさか、退学なんてことにはならないと思うけど。

それにこの場合、陽香はともかく、有遊さんはどうなるのかな? 一緒に呼ばれたってことは、同じように怒られてるのかな。

どっちみち、私たちにできることってないんだけど……。

剣峰桐

あれ? 遠見ちゃん?

遠見結奈

剣峰さん?

生活指導室の前にいる私に声をかけてきたのは、剣峰さんだった。

遠見結奈

どうしてここに?

剣峰桐

あーいや、だってさぁ。陽香が放送で呼び出されてたからさ。気になって。

遠見結奈

陽香が?

剣峰桐

うん。友達だからさ。

遠見結奈

え、そうだったの?

剣峰桐

うん、去年、一緒のクラスだったしね。けっこう気が合うっていうか。

そうだったんだ。ちょっと意外。剣峰さんって、けっこうまじめそうに見えるのに。でも、有遊さんといい、陽香ってそういう方向の友達が多くなるタイプなのかな?

剣峰桐

それに、呼び出しの放送、月代ちゃんだったし。

遠見結奈

ああ……。

……剣峰さん、こういうとこもあったっけ。それじゃ、陽香とも気が合うのかも。

剣峰桐

月代ちゃんも中にいるのかな?

遠見結奈

えっと……。

永谷恵

うん、園生ちゃんも中にいるみたい。

遠見結奈

ええ、そうみたい。

剣峰桐

そっかぁ。それじゃ、月代ちゃん、なんとかしてくんないかなぁ。

遠見結奈

ど、どうかな? 教頭先生もいるみたいだし。

剣峰桐

うーん、そっかぁ。でも、陽香もすごいことしたんだってねぇ。

剣峰桐

有遊さんとキスかぁ。見てみたかったかも。まぁ、忙しくてステージなんて行ってる状況じゃなかったんだけどさ。

遠見結奈

そうだったわね……。

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あの、忙しかったりいろいろあった学園祭から一週間もたってる。

今さら、その時のことで呼び出されるなんて陽香も有遊さんもかわいそうとは思うけど。まぁ、それだけのことを陽香はしでかしたわけだけど。

学園祭から一週間。

もう、そんなにたつんだ。そんなにたっているのに……。

私はまだ、比奈になにも返事ができていない。それだけたったということを、今のこのことだけでも、思い知らされる。

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剣峰桐

ま、話が終わるまでなんにもできないよね。

遠見結奈

そ、そうね……。

それから、30分くらいして。

けっこう待ったかなって思って、あとどれくらいかかるんだろうって思っていて。

サチさんと恵、あと剣峰さんと、ちょっと話をしながら、時間をつぶしていて、ちょっと会話が途切れると、また、比奈のこととか考え出したりしていて。

そんな時間が過ぎていって、ようやく。

生活指導室のドアが開いて、中から陽香と有遊さんが出てきた。

その二人の後から、園生先生も出てきて。

園生月代

二人とも、お疲れさま……、って言うのも変だけど。

園生月代

今回は注意ですんだけど、あんまりああいうことしちゃダメよ? 学園祭が楽しくてってのはわかるんだけどね。

園生先生が、二人にそんな声をかけている。注意? 注意ですんだってことは、停学とかはなかったのかな?

古場陽香

あー、ハイ。

有遊愛来

ご迷惑おかけしました。

園生月代

まぁ、少しくらいハメを外すのも、学生のうちならいい経験だとは思うんだけど。やっぱり先生たちは心配しちゃうからね?

古場陽香

ハイ、スイマセンでした。

そんなことを言う陽香の殊勝げな感じはちょっとめずらしくて。

とりあえず、どんなことになったのか、聞いてみないと。

遠見結奈

陽香!

古場陽香

お?

私がそう声をかけると、陽香も気付いてこっちを振り向く。

私に続いて、剣峰さんも、陽香と園生先生に声をかけていた。

剣峰桐

あ、陽香! ね、月代ちゃん、陽香、どうなったの?

園生月代

どうしたの、あなたたち。こんなところで。

剣峰桐

だって、呼び出しなんてかかるからさ。

遠見結奈

まさか、陽香、停学とかになってないわよね?

古場陽香

あー、だいじょぶ。なんとかチューイだけですんだ。

遠見結奈

そう……。よかった。

ほんと。陽香自身がしでかしたこととはいえ、さすがに停学とか退学なんて寝覚めが悪いもの。

園生月代

でも二人とも、反省するところはちゃんと反省してね?

古場陽香

あ、ハイ。

有遊愛来

はい。

剣峰桐

よく注意だけですんだよね。ステージでキスしたんでしょ?

古場陽香

あー、それは……。

有遊愛来

園生先生に助けられたんだ。ありがとうございました、先生。

剣峰桐

月代ちゃんが?

園生先生、教頭先生を相手に、ずいぶん、陽香をかばってくれたみたい。恵が中の様子をうかがっていた限りではそんな感じで。

園生月代

あ、いいのよ。反省してくれればいいの。あのくらいのことで、停学とか、さすがに厳しいと思ったから。

剣峰桐

さすが月代ちゃん!

園生月代

ちょ、ちょっと剣峰さん!?

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あ、剣峰さん、園生先生に抱きついてる。前からそういう感じだったけど、その……。

二人が恋人同士だって知ってると、なんだか、目のやり場に困る。恋人同士って、こう……。

こんなふうに抱きついたりできるんだって、考えてしまう。私も、もし、比奈に返事をしたら、こういうふうに……。

いや、なにを考えてるのよ、私!

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剣峰桐

でも、相手が有遊さんって聞いた時の方がびっくりしたんだけどね、私。

園生月代

ちょっと、離しなさい、剣峰さん!

剣峰桐

陽香と有遊さんってそんなに仲よかったんだって。悪いけど、ちょっと想像つかないじゃん?

古場陽香

あー、それは……。

はぁ、剣峰さんの声で、ちょっと頭が冷めた。よかった。そう思ったんだけど。

古場陽香

全部、結奈のおかげだぜ!

陽香の言葉が、急に私に向かってきて。

遠見結奈

はっ!?

剣峰桐

え、遠見ちゃん?

その場にいた人の視線も、全部、私に向かってきて。

古場陽香

おう! 結奈からいろいろアドバイスもらったおかげだぜ! すっかり礼を言うの、忘れてたぜ!

遠見結奈

ちょ、ちょっと! れ、礼だとか、そんな……。

い、いきなりなにを言い出してるのよ、陽香!

有遊愛来

結奈が? そうだったのか?

古場陽香

おう! あのサイコーの歌の歌詞を考えてる時も付きっきりでいろいろイケンしてくれてさ!

古場陽香

最初はボコボコに言われちまったけどな! でも、結奈のアドバイスのおかげで、どんどんいい歌詞になってったんだぜ!

遠見結奈

よ、陽香……、やめてってば……。

確かに、したけど。

古場陽香

ケンソンすんなって! 結奈がいたから、サイコーの歌ができた! サイコーのステージができたんだ!

古場陽香

それに、愛来とトモダチになれたんだって、結奈がまずそっから始めろって言ってくれたからだしな!

確かに、そう言ったけど。

古場陽香

マジ、カンシャしてる! 愛来っていうサイコーの相手とステージをシメられたのも、結奈のおかげ!

古場陽香

さっきまでだって、愛来、すげぇかっこよかったぜ? キョートーセンセ相手に、すげぇロックだった!

古場陽香

今、このシュンカンのオレは、結奈なしじゃカンセーしなかったんだぜ!

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そ、それは全部、仕方なかったというか。お手伝いのためだったから。お手伝い。陽香と有遊さんにカップルになってもらうため……。

恋人、同士に、なって、もらいたくて……。

恋人同士。陽香と有遊さんのように学園祭のステージで、キス、するような? 剣峰さんと園生先生のように、ここで抱きついていけるような?

キス? 抱きつく? 恋人同士だから、できるの? そんなことをするの? もし、私が比奈と恋人同士になったら?

陽香と有遊さんみたいに? 園生先生と剣峰さんみたいに? 今、私の目の前にいる、二人と、二人。それぞれの顔って、とても……。

あ、頭の中が、すっごいグチャグチャになってく……。

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遠見結奈

や……。

遠見結奈

やめて!

グチャグチャになって、思わず、叫んでいた。

古場陽香

お?

叫んだ後、すっと頭が冷えて。自分が大声出してしまったことに気付いて。みんなが、私を見ていることに気付いて。

遠見結奈

あ……。

その目が、私の今、考えてること全部、見通しているように思えて。

遠見結奈

ご、ごめん!

その場に、立っていられなくなった。足が、勝手に動き出す。

古場陽香

あ、おい、結奈!?

永谷恵

ちょ、ちょっと結奈! どこ行くの!?

駆け出していた。

榎木サチ

ちょ、ちょっと結奈さん!? い、いきなり走り出したら、わ、私……。

榎木サチ

ひ、引き離されちゃうんだけど!

だって! 足が止まらないんだもの! 今すぐに、ここから逃げ出したいんだもの!

榎木サチ

お、お願い、どこかに行くなら、せめて奥校舎の方にしてね? こ、ここで私を引き離さないでね?

ああ、もう!

遠見結奈

はぁ、はぁ……。

榎木サチ

はぁ……。

私は、ほっとため息をついた。荒い息をついている結奈さんのすぐそばで。

奥校舎の廊下。そこでようやく、結奈さんの足は止まった。

まわりには、誰もいない。結奈さん以外は。奥校舎の教室を使っている三年生は、もう部活も委員会も引退している人がほとんどで、放課後のここには人気がない。

遠見結奈

はぁ……、はぁ……。

結奈さんは、荒くなった息を、なんとか整えようとしてるみたい。すごい、全速力だったから。

榎木サチ

はぁ……、すごい勢いだったわね、結奈さん。くっついているのに精一杯だったわ。

そう声をかけてみても。結奈さんはまだ、呼吸がつらいのかしら。答えてくれない。

それでも、しばらくすると、その息も落ち着いたみたいで。

遠見結奈

………………。

深呼吸しながら、廊下に立ち尽くしていた。

榎木サチ

ねぇ、結奈さん。

その結奈さんに、私は声をかける。

榎木サチ

どうしたの?

なぜ、あの場から逃げ出したの?

榎木サチ

……どうしたいの?

こんなにも走って逃げ出したくなる気持ちになった原因を。

遠見結奈

わからない……。

結奈さんは、小さな声で、そう答えた。

遠見結奈

わからない……。

もう一度、つぶやいた。

榎木サチ

そう……。どうして、わからないの?

私は、ただ、たずねる。それしかできないから。

榎木サチ

なんでもいいの。話して、くれるかしら?

でも、それだけはできるから。

榎木サチ

少しずつでもいいわ。誰にも言わない。

結奈さんの今の気持ちを聞くことはできるから。

榎木サチ

だって、私、幽霊だもの。だから、安心して話せるでしょう?

あなたが今、抱えている「わからない」を話してくれれば、それを聞くことだけはできる。

榎木サチ

誰にも言わないわ。もちろん。

恵にも。そして。

榎木サチ

比奈ちゃんにも。

遠見結奈

……わからないの。

もう一度、結奈さんはそう答えた。でも、今度はわかる。あなたが、なにをそう言ってるのか。

榎木サチ

比奈ちゃんのことが?

遠見結奈

うん……。

榎木サチ

そう。……比奈ちゃんのこと、嫌い?

遠見結奈

ううん。

榎木サチ

好きなのよね?

遠見結奈

うん……。

ええ、そうね。聞かなくてもわかってた。でも、今は一つずつ聞いていこう。

遠見結奈

だって、ずっと一緒だったから……。小さいころから、ううん、生まれた時から、ずっと。

遠見結奈

ずっと一緒だったもの……。いつも一緒に遊んで、ご飯を食べて……。同じ学校に通って……。

遠見結奈

だから、わからないの……。

そんなに長い間、一緒にいたのよね、結奈さんと比奈ちゃんは。

二人の関係が、告白から始まった私と恵とはちがうのよね。

それなら、今、結奈さんが迷っているのもわかる。

遠見結奈

私は、比奈に言えるの? 好きだって……。

遠見結奈

もし、そう返事をしたら……? どうなるの?

わからない。さっきの結奈さんの言葉ではないけど。

好きという気持ちは、みんなちがうもの。私が恵を想う気持ち、結奈さんが比奈ちゃんを想う気持ち、それぞれちがう。

比奈ちゃんが結奈ちゃんを想う気持ちも。もし、結奈さんが比奈ちゃんの気持ちに答えたとしても、その時、結奈さんから比奈ちゃんに向かう気持ちは、同じではないはず。

「好き」であっても、人それぞれ、ちがうはず。みんな、そうだったから。

榎木サチ

そう、ね……。

私は答える。結奈さんから今、感じられる迷い、悩みへの答えにはならないかもしれないけど。

榎木サチ

私も、そうだったわ。

そう言って、思い出す。もう、ずいぶん昔のこと。まだ、私が生きていたころ、80年前のこと。

榎木サチ

私も、わからなかった。私に声をかけてくれたあの人への気持ちが。

恋だったのか、好意だったのか。

榎木サチ

それがわかったのは、最後の一瞬だけだったわ。それに気付かずに、思い悩んでいたかしら。声をかけることもできなかったのに。

榎木サチ

いいえ、きっと、今の結奈さんほどは真剣に考えていなかったかも。自分の気持ちに向き合うのを避けていたのね。

そんな自分の臆病さを残したまま、こうして幽霊になった。恵と会ってからは、少しは変えられたかしら。変わったとあなたたちは言ってくれたけど。

ねぇ、結奈さん。

今のあなたは、とても悩んでいる。迷っている。比奈ちゃんの告白に向き合って。触れて心を読まなくても、それはわかる。

それは正しい。そして、私にはうらやましい。あなたには最初から、向き合う勇気があるんだから。

榎木サチ

ねぇ、結奈さん。

伝えられるのは、ひとつだけ。

榎木サチ

私、結奈さんと会ってから、いろんな子を見てきたわ。想いを抱えた子を。

榎木サチ

みんな、自分の気持ちを大切にしてきたわ。相手が好きという気持ちよ。

榎木サチ

告白をした方も、告白をされた方も、どちらもそうよ。自分の中の相手を好きだという気持ちに素直に向き合っていたわ。

榎木サチ

私もそう。

榎木サチ

恵が好きよ。この気持ちは、私だけのもの。

榎木サチ

だからね、結奈さん。私、わかったの。

榎木サチ

あの人が好き、そういう気持ち、恋って言うのね。それは……。

榎木サチ

自分だけのもの。結奈さんの中に、もし、その気持ちが芽生えているなら、それは結奈さんだけのもの。

榎木サチ

恋は、自分のためにするものなのよ。

結奈さんにそう伝えながら。

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私は、一つ、思い出していた。そう、前にもこんなふうに結奈さんと話したことがあった。

7月、夏休みに入る前。この奥校舎で。あの時も、私は結奈さんに言った。なにか胸につまっているものがあるなら、聞いてあげると。

その時は、結奈さん、今はいいって答えたわね。その時と今とでは、抱えているものがちがうけど。

でも、今は、話してくれたわね。それは、私があなたの話を聞ける相手になったということかしら。私が、答えられるようになったからかしら。

ねぇ、結奈さん。迷ってもいい、悩んでもいい。

逃げ出さずに、比奈ちゃんへの答えを見つけてくれるなら。

私は、うれしい。

遠見結奈

わからない……。

ああ、学校でもそう言った気がする。奥校舎で、サチさんに答えて。

それは、今も一緒。いや、一緒じゃないかも。もう、はっきりと。

私は、自分の気持ちがわからないってことで埋まっていることに気付いていた。

私、なぜ、あの時、生活指導室の前から、みんなから逃げ出したんだろう。

それは、気付いたから。陽香と有遊さん、剣峰さんと園生先生、あの人たちを見たから。みんなを見て。

こみあげてくるものがあったから。胸のうち、いっぱいになってしまった気持ちがあったから。

私……、みんなを見て、思ったんだ。

すごい、うらやましいって。あんなふうに、迷うことなく、好きな人の隣に立っていられる、その姿が。

まぶしくて、見ていられないと思うほど。だから、あそこから逃げ出したんだ。

遠見結奈

………………。

なんで、あんなにうらやましいって思ったんだろう。

遠見結奈

わからない……。

わからない、なんでうらやましかったのか。うらやましいと感じるってことは、私はあの人たちに憧れるものがあったっていうの?

それでも逃げ出したのは、なぜ?

それも、答えは一緒。ただ、ぐるぐる回ってる、頭の中を。それはあの日からずっと、回り続けているもの。

遠見結奈

わからない。だって、わからないんだもの。

そう、比奈のこと。

私のことを好きと言ってくれた比奈のこと。何度、考えてもわからない。考えるたびに、わからなくなっていくみたい。

比奈のことは好き。嫌いになれるわけがない。そんなことは考えられない。

その比奈が、私のことを好きだと言ってくれた。特別な意味を込めて、好きだと。

遠見結奈

だから、わからない……。

私も比奈は好き。でも、この「好き」は、比奈が伝えてくれた「好き」に、答えられるものなの?

一つ年下の幼馴染み。家族同然だと思っていた。妹みたいだと。だから。

驚いたんだ。その比奈が、今まで見てきたみんなみたいな想いを、私に向けていたってことに。

私は……。比奈を、そんなふうに見ていた?今まで、そんな気持ちを比奈に感じたことはあった?

比奈から告白されて、同じ気持ちを持てるようになるの?

遠見結奈

私は、比奈に言えるの? 好きだって……。

サチさんに言ったことと同じことを、また、繰り返す。思考はまた、サチさんと話した時と同じ流れで繰り返される。

比奈の想いを変だと思うことはもうない。今まで、女同士でも、あんなにひたむきに、まっすぐに、想いを相手に向けている人を見てきた。

あの想いを、変だと思ったりはしない。だって、あんなにまぶしいものを、変だとも、嘘だとも、勘違いだとも思えない。

だから、比奈の気持ちは正しい。それが今、私に向けられていて、伝えられている。

遠見結奈

もし、比奈に、私も好きだって答えたら……?

もし、そう答えたら、私と比奈は恋人同士になる。でも、なれる?

みんなみたいに、あんなに強く、比奈を想い続けていられる?

もし、お父さんやお母さん、おじさんやおばさんに反対されたら? 比奈が、まわりから変な目で見られたら?

その時、私は比奈を支えられる? それでも比奈を、好きでいられるの……?

わからない。

そんなこと、考えても意味がないのかもしれない。だって、私はまだ、比奈のことを「好き」なのかどうかもわかっていないんだから。

比奈。

今までの比奈のことを思い出す。妹のような幼馴染み。

そして、最近の比奈のことを重ねる。

夏休みのあの日、ジャガイモの皮を剥きながら、私のことを話した時。それを黙って聞き続けてくれた比奈。

あの時、知った。比奈がずっと私を見ていてくれたこと。中学の時のことをずっと引きずっていた私に気付いていたこと。なにも言わずに。

私が、比奈にも言えずにいたことを吐き出した時、ずっと気にしていてくれたのにも関わらず、話してくれてうれしいって笑ってくれた。その顔。

それから、合宿の早朝に走る比奈を見た。学園祭で、先輩たちとデートしてる比奈を見た。そして。

告白してくれた、比奈。

ああ、なんでだろう。その比奈の顔が、姿が、うまく重ねられない。今までの比奈に。

重ね合わせようと思うたび、まるでピントがずれるようで、うまくいかない。鼓動が、早くなって、うまくいかない。顔が、熱くなるようで。

うまくいかないうちに、また、わからなくなる。そして、最初からやり直し。ああ、また、最初から。

私は、比奈が、「好き」なの? 好き。でも、どういうふうに?

なんで、こんなに考えても答えがでないんだろう。

こんなにわからない答えを、みんなは出してきたのかな。

サチさんの言葉が、思い出される。

「あの人が好き、そういう気持ち、恋って言うのね。それは……」

「自分だけのもの。結奈さんの中に、もし、その気持ちが芽生えているなら、それは結奈さんだけのもの」

「恋は、自分のためにするものなのよ」

そう言って、サチさんはいつもみたいに、優しく微笑んでいた。それでいて、とても、自分の気持ちを誇っているように見えて。

そのサチさんの顔も、まぶしかった。でも、逃げ出したいとは思わなかった。

くれた言葉も、声はやさしくて、私のために伝えてくれたものだってわかる。

でも。

今の私には、それがこの悩みの解決の糸口になるかどうか、それすらも。

まだ、わからなくて。

サチさんの言う、恋。

それをしたことのない、私には、わからなくて。

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okujou_no_yurirei-san/1602.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)