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okujou_no_yurirei-san:1601

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星空が広がる屋上のベンチ。

恵と二人、並んで座っていた。いつもと同じように。少し、いつもとちがう空気を感じながら。

なにがちがうのかしら。昨日までの学園祭の雰囲気が残っているのかしら。

永谷恵

学園祭、楽しかったですねぇ、サチさん。

榎木サチ

そうね。ふふ、恵、もう何回目? 何度も同じこと、言ってるわよ。

永谷恵

だってほんとに楽しかったんですもん。恵、学園祭にあんなふうに参加したの、初めてだったんですから。

榎木サチ

そうね、ほんとに楽しかったわね。

後片付けも終わって、名残もほとんどなくなってしまったけど。

今年の学園祭は、恵だけでなく、私にとっても特別で、楽しいものだった。

結奈さんと一緒に、いろいろ見て回って、出店の食べ物をいろいろ食べて。

なにより、いろいろお手伝いしてあげた子たちがいろいろ楽しんで参加しているのを見るのは、本当に楽しくて、うれしくて。

永谷恵

最後の最後に、すごいのも見ちゃいましたしね。

榎木サチ

ええ。比奈ちゃん、かっこよかったわね。

正門での、比奈ちゃんの結奈さんへの告白。あんなに真っ直ぐな気持ちの伝え方。結奈さんはいったい、どう受け止めたのだろう。

永谷恵

あの時の結奈の顔、おもしろかったなぁ。

榎木サチ

ダメよ、そんな言い方しちゃ。……でも、同感だわ。

言葉をなくして、呆然と立ち尽くして。そのあと、ようやく、家路についた結奈さん。比奈ちゃんと一緒に。

この学校から出ることのできない私たちは、ついていくことはできなかったけど、結奈さん、なんて答えたんだろう。

月曜日に会ったら、教えてくれるだろうか。聞いたら、答えてくれるかしら。

永谷恵

サチさん……。

ベンチの隣に座った恵が、私の肩に頭を預けてくる。

かわいい私の恋人。本当の私を知っている、そして、受け入れてくれた。恵となら私は、どこにでも行ける。どこにだって。二人、一緒なら。

榎木サチ

恵……。

私も、その名前を呼ぶ。愛しさを込めて。

鼓動と体温が、少しずつ早くなっていく。

永谷恵

あ……。

恵の肩に、そっと手を回した。体をもう少し、引き寄せるように。

もう少し、強く、体が触れあうように。

榎木サチ

………………。

私、緊張している。恵には伝わっているかしら。

今、私がどんなこと、考えているのか。

永谷恵

サチさん……。

小さな恵の声。囁くような、声。でも、不思議とはっきりと、聞こえてくる。

永谷恵

……いいですよ。

ええ、やっぱり伝わっていたのね。わかってくれたのね。同じ気持ちでいてくれたのね。

榎木サチ

恵……。

なにか、話し合って決めたことじゃない。今日、こうなるってわかっていたわけじゃない。

ただ、自然に、二人ともこうなるってわかっていたのね。今が、その瞬間だって。

永谷恵

サチさん……。

二人の体が、重なる時だって。

永谷恵

……あ……。

肩を抱きよせる力はそのままに、私は恵の上体をそっと押した。

ゆっくりと、恵の体がベンチに倒れていく。

私の体も、恵を支えながら、倒れていく。二人、目を合わせ、互いを見つめながら。

永谷恵

サチさん……。

榎木サチ

恵……。

ベンチに、横になる。

星明かりと、半分ほどの月明かり。そして、遠くの街明かり、近くの街灯。

照らされて、ベンチをベッドに横たわる恵を、私、見つめている。

榎木サチ

不思議ね……、自然と私がこっちみたい。

永谷恵

うん……、わたしも、サチさんに押し倒される方がいいなぁって、思ってた……。

これまでの成果で、どうすればいいのか、だいたいわかっている。私と恵、二人同時にその場にいたことはないから、多少は齟齬があるかもしれないけど。

でも、戸惑いもなくこうなったのは、二人とも、気持ちが通じ合っていたからなのね。

榎木サチ

恵……、怖くない……?

永谷恵

ううん、全然……。すごい、うれしいくらい……。

榎木サチ

私もよ……。恵、大好きよ……。

永谷恵

サチさぁん……。

ゆっくりと、顔を近づけていく。その私を受け止めるように、手を広げ、目を閉じる、恵。

榎木サチ

ん……。

永谷恵

ふぅん……。

唇を、重ねる。いつもするキスとはちがう。お互いを正面に、すべてを重ねる、キス。受け止めて、受け入れる、キス。

唇を重ねたまま、私は、意を決して、恵の制服を……。

榎木サチ

………………。

永谷恵

………………。

脱がそうと……、して……。

榎木サチ

………………。

永谷恵

………………。

して……。

榎木サチ

……あら?

永谷恵

……あれ?

気付いた。

お互いに、横になって抱き合っているのに。キスもしたのに。でも。

服を脱がすことは、できない。いや、それ以前に。

こんなにそばにいるのに、私たちは。

お互いの体の感覚を受け取れていなかった。抱き合っているのも、キスも、すべて。

そういうものだという、錯覚に過ぎなくて。

榎木サチ

……どうしよう。

永谷恵

……どうしましょう。

忘れていたわけじゃない。自分たちが幽霊だということを。

生まれもった体は、もうない。とっくに骨になって、お墓の下で。今の私たちは、誰にもさわれない、幽霊。だから、壁を通り抜けることもできたのだけど。

榎木サチ

まさか……、こんな時まで……。

永谷恵

サチさんにさわることもできないなんて~。

ベンチに寄り添って座る、抱き締める、キスをする。そこまでは今まで何度も経験してきた。

そういうものという想像で、私たちは感覚を作って、受け止めていたのね。

でも、肌を、体を、深く重ね合わせるようなこと、経験もなく、想像もできないこと、それには。

なんのごまかしもできず、ただ、空しく、触れようとした指は、手は、互いをすり抜ける。

永谷恵

サチさん、どうしよう~。

榎木サチ

そう、ねぇ……。どうしましょう……。

お互い、見つめ合っての困り顔で。幽霊になって、こんなに困惑したのは、初めてかしら……。

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okujou_no_yurirei-san/1601.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)