User Tools

Site Tools


okujou_no_yurirei-san:1505

Place translations on the >s

ついに、学園祭が始まった。

日程は、今日と明日の二日間。明日は秋分の日で休日だけど、学園祭ってことで、特別。その代わり、週明けの月曜日が休校日になるんだけど。

私みたいに、部活に入ってなくて、学園祭にも特に展示や出店、公演に参加していない人でも、一応、授業の一環だから、登校しなきゃいけない。

学校には、今日は、9時から3時までの間、いなくちゃいけないってことになっている。明日は午前中だけでよかったはず。

去年は、なんにもすることがなくて、退屈だった。部活に入ってないのは一緒だったけど、学園祭にも特に参加するものもなくて。

比奈もまだ、入学前だったから。確か、一日目は阿野と適当にぶらついて、二日目は比奈が学校見学の代わりに遊びに来て、やっぱり適当にぶらついて。

でも、今年はちょっとちがう。

なんにも参加するものがないのは同じなのに。

今日は、午後から陽香のステージがある。陽香がそこでなにをしでかすのか、それに有遊さんがどんな反応するのかとか。

園生先生と剣峰さん、昨日まで大忙しだった二人は、きっと今日も仕事に追われていそう。ちゃんと二人が学園祭を楽しむこと、できるのかとか。

心配しないでいいのは、一昨日、大騒ぎを起こして、昨日、停学処分を受けてしまった牧さん。今日から三日間の停学なんて、ちょっとかわいそう。

美紀さんも、学園祭当日の今日は、さすがに仕事とかしないだろうし。

あと、一木さんたち、放送部の人たち。そのくらい。

そして、いちばんの心配事は、明日。網島先輩と稲本先輩と比奈の学園祭デート勝負。

先輩たちのケンカがこじれて、そんなことになってる。比奈とそれぞれデートして、どっちが楽しかったかで勝負を決める。

そして、勝った方が比奈と付き合うことができるだなんて……。

はぁ、イベントが盛りだくさん……。

ほんとに去年とは大ちがい。今日の午前中だって……。

榎木サチ

ね、結奈さん、あれはなに?

永谷恵

あ、結奈、あれおいしそう! 買って、ねぇ、買って食べて!

いちばん、学園祭を楽しんでいるの、この人たちじゃないかなぁ……。

午前中、比奈と阿野と三人で学園祭を回る約束をしてて、今、一緒に見て回ってるんだけど。

なぜか、いや、当然のように、サチさんと恵がついてきてる。

そして、いちいちめずらしがって騒ぐんだもの……。聞こえてるのが私だけだと思うと、よけいにちょっと、うるさい。

榎木サチ

ふふ、みんな楽しそうね。

永谷恵

ほんと! 学園祭ってこんなににぎやかだったのね!

そうかな。

確かに、ここ、講堂のまわりは人が集まっててにぎやかだけど。

うちの学園祭は、別に学校中を飾り立てて、全部の校舎を使ってやってるわけじゃない。

使っているのは講堂とそのまわりだけ。講堂でステージ公演が行われて、その講堂のまわりに、展示と出店が並んでいる。

規模としては、小さい方だと思うんだけど。

参加する人もそんなに多いわけじゃない。現に、校舎に行けば、教室で自習してる人もいるし。去年の私みたいに。

でも……。一年に一度の学園祭だし、楽しんでる人がいっぱいいるのは確かかも。

永谷恵

ねぇ、結奈、次はあれ、食べたい!

榎木サチ

結奈さん、私も、私も!

遠見結奈

また? はいはい……。

さっきはタコ焼きで、今度はカルメ焼き?

私は百合霊の二人に急かされて、出店で買い物をする。カルメ焼き、2個で100円。高いのかな、安いのかな。

榎木サチ

ああ、甘い。懐かしい味ね。

ああ、サチさん、これは食べたこと、あるんだ。私、カルメ焼きなんて初めて食べるんだけど。

確かに甘い。砂糖そのものの甘さ。口の中いっぱい、甘くなる。

永谷恵

神社のお祭りのお土産で、買ってきてもらったこと、ありますよ、わたし!

そういうものなんだ。

一個は食べたけど、もうそれで胸いっぱいって感じ。

遠見結奈

比奈、食べる?

狛野比奈

ん。食べる。

とてもじゃないけど、もう一個は食べられないから、比奈にあげる。さっきのタコ焼きも、半分は比奈と阿野に食べてもらったし。

榎木サチ

ね、次はあのばぁむくぅへんっていうのがいいわ!

永谷恵

ね、あっちの広島焼きが食べたい!

こうなるってこと、あきらめてたけど。ちょっと遠慮がなさ過ぎじゃないかしら。

阿野藤

ね、ねぇ、結奈、大丈夫なの?

ああ、阿野が心配そうにしてる。そうだよね、さっきから私、買い食いばっかりしてるように映るもの。

遠見結奈

あ、うん。まぁ、せっかくだからいろいろ食べてみようと思って。

広島焼きと、バームクーヘンがあらたに私の手の上に。さすがに、これ、全部は食べられないわよ。

遠見結奈

でも、ちょっと買いすぎたわね。阿野と比奈も食べてくれる?

狛野比奈

ん。やた。

阿野藤

う、うん。いいんだけど。ほんとに大丈夫?

遠見結奈

そうね、カロリーとお財布はちょっと心配なんだけどね。

そんな心配しなくていい二人にせがまれてるのよ。

そんなわけで、みんなで、広島焼きとバームクーヘンをつまんでいたら。

「キュウセイ・ラジ・オ~」

講堂のまわりのスピーカーから、聞いたことのある声が響いてきた。

遠見結奈

あら、この声、一木さんたち?

阿野藤

あ、そうだね~。ねなたちがお昼にやってる放送だよ~。

「みなさん、学園祭楽しんでますか!? キュウセイラジオ、本日は学園祭特別番組でおおくりしみゃす!」「噛むなって」

遠見結奈

一木さんたち、こんなことやってるんだ。

阿野藤

うみちゃんの噛み芸はやっぱ一級品だねぇ。

それは知らなかったんだけど。私たちのちょうど近くにあるスピーカーから、一木さんたちの楽しそうなやりとりが響いてくる。

でもこれって、漫才なのかしら。

「学園祭実行委員本部にお邪魔しておりまーす!」

遠見結奈

学校中を回ってるのかな?

阿野藤

そうみたいだね~。海賊ゲリラ放送って意味不明だけど。

「学生からの人気も校内で一、二を争う上に、実行委員会の顧問でしょ、園生先生。これはぜひ、学園祭を楽しんでるみんなに向かって、お言葉を頂戴いたしたく!」

「え? え?」

遠見結奈

あ、園生先生だ。

阿野藤

あはは、月代ちゃん、慌ててる。かわいいねぇ。

でも、いきなりインタビューされてるんでしょ。ちょっとかわいそう。剣峰さんは喜んでそうだけど。

「あ、あの、み、みんな、楽しんでますか?その……」

「は、恥ずかしい言葉だけど、こういう青春を思いっきり感じられる機会って、ありそうでないと思います。だから……」

「今日は思いっきり、がんばって、楽しんでください!」

そんな園生先生の言葉がスピーカーから伝わると、まわりから歓声とか口笛とかが湧き起こる。

阿野藤

盛り上がってるねぇ。月代ちゃん、人気者だから。

遠見結奈

ええ、そうね。

確かに。園生先生の言葉で、騒がしいと思えたまわりの声が、いつの間にか楽しそうなものに聞こえてくる。

そっか、学園祭ってこういう雰囲気だったっけ。ちょっと忘れてたな。

「青春ときたかー。うわっ、先生、言ってて恥ずかしくない?」

「恥ずかしい言葉だってちゃんと断ったでしょ!」

榎木サチ

楽しんでるみたいね、月代先生も、羽美さんたちも。

遠見結奈

うん……。

明日のこととか、まだ心配なことはいっぱいあるけど。

私も、今は学園祭、楽しんでみよう。そんな気になってくる。参加してなくても、楽しむことはできると思う。

「おっと、こんなとこに数理部部長の剣峰桐さんが!」

え、今度は剣峰さん?

「ええ!? ちょ、ちょっと!」

阿野藤

あ、今度は桐だ~。

「え、えっと、その、数理部では、展示場のいちばん端っこで……」

遠見結奈

剣峰さんも、一木さんの餌食になっちゃったみたいね。

阿野藤

あはは、かわいそうに~。

かわいそうとは思うけど、でも、おもしろい。まわりの人たちも、自分たちのことを楽しみながら、放送も聞いてるみたいだし。

狛野比奈

結奈ねぇ、ごちそうさま。

遠見結奈

あ、もう食べ終わっちゃったんだ。でも、助かったわ、ありがと、比奈。

狛野比奈

ん。

阿野藤

ね、次はどこ行こうか。

遠見結奈

そうね、今度は展示の方、見て回ろうか。

永谷恵

えー、わたしもっと、出店を見てみたい!

榎木サチ

射的とか、輪投げとかもあるのねぇ。

永谷恵

それ、やってみたい! ねぇ、結奈、ちょっとやらせてよ!

遠見結奈

いやよ! ……あとでもう一回、出店の方も回るから!

永谷恵

もー!

榎木サチ

まぁまぁ、恵、きっと展示の方にもおもしろそうなところ、いっぱいあるわよ。

永谷恵

はぁい。さ、行きましょ、結奈。

遠見結奈

はいはい。……それじゃ、行こっか、比奈、阿野。

狛野比奈

ん。

阿野藤

ほいほい。

それから、みんなで展示の方へ、同じように騒ぎながらいろんな部活のを見て回って。

もう一度、出店をぐるっと回って、いろんなものを買って、食べて、遊んで。

一日目の午前中、私たちはそれなりに学園祭を満喫したんだと思う。

少なくとも、サチさんと恵は大満足で。

私も、十分、楽しんだ。お小遣いはかなり減っちゃったけど。

遠見結奈

うわ、もうあと10分ちょっとしかないわよ?

阿野藤

大丈夫じゃない? まだ15分近くあるよ~。

阿野との時間に対する感覚の差ってこういうものなのかもしれない。私はちょっとあせっているけど、阿野にはまだまだ余裕に感じられるのかも。

遠見結奈

でも、席がとれなかったらどうするのよ。

阿野藤

その時は立ち見で~。

お昼をちょっとのんびりと取りすぎたのかもしれない。

午前中、サチさんと恵の二人にせがまれて、ちょっといろいろ食べ過ぎちゃったから、あんまりお弁当が入っていかなくて。

阿野のペースに付き合ってのんびりしてたら、こんな時間になっていた。講堂のステージでの陽香の出番まで、もうそんなにない。

まぁ、陽香のステージが見たいのは私の方だけだし。阿野と陽香は別に友達でもないんだし。

でも、一緒に見に行こうって誘って、うんって言ってくれたんだから、もうちょっと私に付き合って急いでくれてもいいんじゃないかって思うんだけど。

永谷恵

結奈!

教室を出て、廊下をなるべく急ごうとしていた私に、恵が不意に現れて、声をかけてきた。

遠見結奈

なに?

ちょっと急いでいるんだけど。いきなり現れたのにはびっくりしたけど、もう慣れてるところもある。

いつもの通り、阿野には聞こえないように返事をする。

永谷恵

ちょっと大座敷の方に行って!

遠見結奈

え?

講堂に急ぐには、階段の方に行きたいんだけど。大座敷って反対方向じゃない。

遠見結奈

なんでよ。私、講堂に急ぎたいんだけど。

永谷恵

陽香さんがいるのよ、大座敷に! で、なんか困ってるみたいなの!

遠見結奈

陽香が!?

なんで、陽香が? こんな時間に?

遠見結奈

え、えっと……。

阿野藤

どうしたの、結奈。

急いでいるって雰囲気出していたのに。いきなり、大座敷に寄れって……。阿野になんて言えばいいのよ。

そのまま、言うしかないけど……。肝心の陽香がそこにいて、なにか困っているっていうなら、放っておけないし……。

遠見結奈

えっと、阿野、ちょっと大座敷の方、寄っていい?

阿野藤

へ? なんで?

遠見結奈

え、えっと、なんとなく……。

そうとしか言えない。ああ、なんだか説得力ないし。阿野に先に講堂に行って席を取っておいてと頼んだ方がよかったと、今、気付いたけど、もう遅いかも。

阿野藤

ん、いいよ。じゃ、早く行こ。

遠見結奈

え? あ、うん……。

あれ、意外とあっさり。なぜか阿野って、こういう時、みょうにすんなりこっちの言うこと、聞いてくれるような。

でも、今はそんなこと疑問に思っている暇はない。私と阿野は、廊下を階段とは逆方向に回れ右して、大座敷へと向かった。

遠見結奈

陽香!?

あ、ほんとにいた。

大座敷の真ん中あたり、並べてある机の一つに、突っ伏している。今日のステージの衣装なのかな。派手な恰好で。そのそばに、サチさんも立っていた。

榎木サチ

あ、結奈さん、来たのね。

遠見結奈

ええ、恵に呼ばれて。陽香、どうしたんです?

榎木サチ

それが……。

サチさんがなにか言おうとした時、陽香がゆっくり顔を上げた。

古場陽香

お、おう……、結奈か……。

めずらしく陽香、前髪を下ろしていたけど、その顔は、見てわかるほど、真っ青で。

遠見結奈

ど、どうしたの!? すごい顔色悪いじゃない! 具合悪いの!?

こんな大事な日にどうしたっていうの? まさか、風邪でもひいたとか?

古場陽香

あ、い、いや、なんでもねぇ……。ゼッコーチョーだぜ……。

遠見結奈

どう見てもそんな調子じゃなさそうじゃない!

古場陽香

だ、だいじょーぶ……。ノープロブレムだぜ。こんなの、いつものことだし……。

遠見結奈

はぁ!?

いつものこと? だから、どういうことなの?

古場陽香

あー、ちくしょう……。すっげー、キンチョーしてきた……。うう、はきそー……。

遠見結奈

ちょ、ちょっと!?

え? なに? プレッシャーとか感じてるの?嘘でしょ、いつもあんな感じなのに。今さら、そんな繊細なとこ見せられても困るんだけど!

榎木サチ

さっきからずっと、こんな感じなの。

遠見結奈

ちょ、ちょっと! ライブとかやったことあるんでしょ? しっかりしなさいよ!

古場陽香

だ、だってよぉ、ライブの時は、いつものメンツがいるから、まだマシでさぁ。そんでも、デビューの時はすっげぇつらかったんだぜ……?

古場陽香

それに、今日はオレ一人だしさぁ……。

古場陽香

愛来もきっと来てるんだぜ。オレ、昨日、すっげぇステージにするから、期待してろって言っちゃってさぁ……。うわぁ、愛来、ぜってぇ、ものすげぇ期待してる……。

古場陽香

そう考えたら……。うう、胃が、胃が、痛くなるみてぇでさぁ……。

古場陽香

ああ、逃げ出してぇ……。

遠見結奈

ちょっと! なにを言い出してるのよ!

嘘、もうほんとに時間ないじゃない。それなのに、こんな状態って。これでステージに出て、歌うことなんてできるの?

歌えなかったら、有遊さんに告白もできなくなるのよ? わかってるの? ここまで来て、そんなのって。今まで、歌詞作りに付き合わされた私の苦労は!?

遠見結奈

しっかりしなさいよ!

ああもう、こんなこと言ったってどうしようもないけど、言いたい。ほんと、しっかりして。

遠見結奈

と、とにかく、講堂まで行きましょう。吐き気がするなら、途中で保健室寄って、薬でももらってくる?

古場陽香

う、うーん……。でも、一人でステージに放り出されるんだぜ? それを想像したら、クスリなんてなんのキヤスメにもなんねぇ……。

遠見結奈

そんなこと言ったって、一人でやるって申請したのは陽香でしょ? 今さら、誰と一緒にやるって言うのよ……。

古場陽香

でもさぁ……。あ、そうだ!

遠見結奈

なに?

古場陽香

そうだ! 結奈! 頼むから、一緒にステージに上がってくれ!

遠見結奈

はぁ!?

耳を、疑っていい? ほんとになにを言い出すの、陽香。

一緒にステージに上がってくれ? 上がっていったいなにをするのよ、私が。

古場陽香

な! ただ、オレの後ろに立っててくれるだけでいいからさ!

遠見結奈

立っててって……、そ、そんなことできるわけないでしょ!

学園祭の講堂のステージの上に立てって?人がすごい集まっている前で? そんなこと、できるわけない!

古場陽香

あ、あれだ! バンドのバックに立ってるモデルみたいな感じでさ! 結奈がいてくれれば、オレもココロヅヨイしさ!

古場陽香

結奈も一人じゃヤダってんなら、あ、そっちのヤツ! ね、結奈のトモダチか? だったら、あんたも一緒にさ!

阿野藤

え、ええええ!?

遠見結奈

バカなこと、言い出さないでよ!

もう、プレッシャーでどうにかなってしまったのかしら、陽香。いや、誰かがいてくれれば心強いってのはわかるけど、いくらなんでも無理を言いすぎでしょ。

もう、こんな提案はともかくとして、とにかくなんとか陽香をステージに立たせないといけないのに……。

榎木サチ

ねぇ、結奈さん。

遠見結奈

なんです?

榎木サチ

陽香ちゃんのお手伝い、してあげられない?

遠見結奈

はぁ!?

サチさんまでなにを言い出すの!?

永谷恵

そうよ、結奈。陽香さん、困ってるんだし。結奈と一緒なら大丈夫って言ってるじゃない。

待って、待って! だからって、そんなことできるわけないでしょ!

古場陽香

な、頼むよ、結奈! オレをステージに立たせてくれ!

榎木サチ

ね、お願い、結奈さん。

永谷恵

結奈、OKしちゃいなよ!

遠見結奈

ちょ、ちょっと……。

なんでそんなにサラウンドで頼み込んでくるのよ……。なんと言われても、無理なものは無理。ステージに立つなんて、そんな目立つこと、できない。したくない!

古場陽香

な! そっちのトモダチも、頼む! このとーり!

遠見結奈

ちょっと、陽香、あのねぇ……。

阿野まで巻き込まないでよ。そう言おうとしたら。

阿野藤

ん、んん……。え、えっと……。

遠見結奈

阿野?

阿野藤

え、えっと、その、あ、ああ、あたし……、や、やってもいいよ?

遠見結奈

ちょ、ちょっと、阿野!?

なにを言い出すの!? どういうことかわかってるの!? ステージの上に引っ張り出されるのよ!?

阿野藤

あー、ほら、なんていうか……。そ、その、困ってるみたいだし? ただ、立ってるだけでいいって言うなら……。

古場陽香

マジか!? ほんとーに!?

阿野藤

う、うん……。ほ、ほんとに立ってるだけならね?

古場陽香

お、おう! それでいい! それだけでも、なんとか勇気持てる!

遠見結奈

え、ええ……。ちょっと、それじゃ……。

古場陽香

結奈! 結奈も頼む! な!

遠見結奈

それじゃ、私も断れないじゃない……。

陽香とはなんの関係もない阿野が引き受けたのに、私だけ断ることなんてできない。

まさか、阿野が引き受けるなんて思わなかった。これで、私もステージに出るの? 出なきゃいけないの?

目の前、真っ暗になりそう……。

古場陽香

うおお! やった! ほんとに助かる! カミサマ、結奈サマ! あと、結奈のトモダチサマ!

古場陽香

マジ、このゴオンは忘れねぇ! 一生、忘れねぇ!

忘れていい。ステージが終わった瞬間に忘れていい。二度と、思い出さないでいい。思い出したくないことになりそうだから。

古場陽香

それじゃ、なんか、イショー、用意してくれ!さすがにセーフクじゃ地味だしさ!

遠見結奈

はぁ!?

この上まだ、そんな恥をかくようなこと、させようっての!? 第一、そんな衣装なんてどこに……。

阿野藤

衣装って、なんでもいいの?

古場陽香

ああ! できるだけハデならなんでも!

阿野藤

そんじゃ、ちょっとあたし、借りてくる。

遠見結奈

借りてくるってどこへ?

阿野藤

漫研のコスプレ班に、友達いるからさ。そういう派手なコス、いっぱい置いてあるんだよね、あそこ。

遠見結奈

なんであるのよ……。

ああ、なんか退路がどんどんふさがれていく。というか、阿野が意表を突きすぎている。まさか、阿野にこんなに逃げ道をつぶされるなんて。

阿野藤

それじゃ、ちょっと行ってくるね!

遠見結奈

あ、阿野……!

大声を出して止めたかったけど、止めてどうするか考えつかない。陽香をステージにあげるには、今、これしかない。

絶望的な気分だけど、そうわかっている。

榎木サチ

わぁ、結奈さん、がんばってね。

永谷恵

ちゃんとわたしたちも見てあげるからね!

お願いだから、やめて。がんばってほしいなら、見ないでほしい。言っても無駄だってわかってるけど。

古場陽香

ダイジョーブ、ダイジョーブ、オレはヤれる、ぜってー、ヤれる。きっとうまくいく……。

陽香は陽香で、必死に自分に暗示をかけているみたい。まさか、こんな土壇場で陽香が弱気になるなんて、思わなかった……。

おかげで、私は……。ああ、もう、これから先のこと、考えたくない……。

阿野が戻ってきたのは、ほんの数分後で。

阿野藤

衣装、借りてきたよ~。

あっさり借りてこられる阿野の交友関係には驚かされる。同時に、真っ暗な気分にもさせられる。

そして、見せてくれた衣装は。

遠見結奈

ちょっと、なにこれ!

古場陽香

おお、すげぇ! バッチリだぜ!

遠見結奈

冗談でしょ!? なんでこんなに、ろ、露出度の高いもの、借りてくるのよ!

阿野藤

でも、あたしの胸が入りそうでおそろいのって、このくらいしかなくってさぁ。

どうしよう、なにに怒りを覚えていいかわからない。

ねぇ、本当にこれしか方法がないの? こうするしかないの? これを着なくちゃいけないの?

古場陽香

おっし、結奈! もう悩んでる時間ねぇぞ!

遠見結奈

誰のせいだと思ってるのよ!

古場陽香

文句は後だ! 今すぐ着替えて、ステージに行くぜ!

遠見結奈

ああ、もう!

講堂のステージの裏に駆け込んだのは、本来ならもう幕が開く直前で。

ハラハラしていた、実行委員の進行係の人が、ほっとした顔の後、すごいにらんできた。

それを陽香は無視して、持ってきたギターの準備を始めている。だから、私が代わりに、進行係の人に、説明しなくちゃいけなくなって。

私と阿野も、一緒に舞台に上がることとか、あと、遅れてごめんなさいとか。進行係の人は、とりあえず、ちょっとの遅れで進められそうということで、納得してくれたみたいで。

ギターの準備が終わったのか、陽香が私と阿野に声をかけて、慌ただしく説明を始めた。

古場陽香

い、いいか? あと一分で幕上がるって。そしたら、チューニングでちょっと時間ができる。その間にステージに出てくれ!

古場陽香

んで、オレがちょっとだけMC入れるんで……。

遠見結奈

MCってなに!?

古場陽香

しゃべりだよ! ジコショーカイみたいなこと、すっから! んで、イントロ入った瞬間に、バーってライト点くから!

古場陽香

そしたら、ポーズつけて、立っててくれ! ブチかましてやるから、歌が終わったところで、そでに消えてくれ!

阿野藤

出てっていいってこと?

古場陽香

そう!

遠見結奈

ちょっと! ポーズってどんな!?

古場陽香

超クールでカッコヨク!

遠見結奈

な、なにそれ!?

古場陽香

時間オシなんだよ! 細かく決めてらんねぇってば!

遠見結奈

誰のせいなのよ!

古場陽香

おら、幕開くぞ!

遠見結奈

ああ、もう!

うわ、講堂の中、けっこう人が入ってる。な、なんでこんなたくさんの人の前で、私、こんな恰好でステージに立ってんだろう……。

肩、丸出し、おへそ、丸出し。こんなに露出度高いの、初めて着る。それが、こんなとこでなんて!

遠見結奈

(は、恥ずかしい……。逃げたい、今すぐ、逃げ出したい!)

なんか、講堂にいる人みんなが、私のこと見て、笑ってる気がする。

落ち着け、私。今はまだ、ステージに照明は当たってないから。私の方は、よく見えないはずだから。

遠見結奈

(でも、ライトが点いたら、丸見えになるのよね……)

こんな恰好、比奈に見られたらどうしよう……。午後からは別行動だったけど、まさか講堂にはいないわよね? いないで、頼むから。

遠見結奈

(あ……!)

嫌な予感がして、講堂を見渡してみる。そしたら、2階席の一番前の、さらにその上空に。

遠見結奈

(サ、サチさんと、恵……、いるし……)

それは、いるわよね、来てるわよね。

遠見結奈

(あああ……)

しゃがみ込んでしまいたい。あんな風に手まで振られたら。

遠見結奈

(は、早く始まってよ! そして、さっさと終わって!)

まだライトの当たっていないステージの真ん中では、陽香がマイクを握って。

古場陽香

あ、あ、あ……、あの……、えっと、あー……、その、コ、ココ、コバ、ヨーカ……、だ、で、です……。

古場陽香

え、えっと、い、いつもは、その、ス、ストレンジ・マグネットってバンドで、やってて……、えっと、時々、新町とかで、ラ、ライブとか……。

遠見結奈

(な、なに、あがってるのよー!)

人にこんな恰好までさせておいて! ちょっと、そんなんでちゃんと歌えるの!?

詞ができた時とかのテンション、どこにいったのよ。マイクを通しても、ちゃんと聞こえるかどうかって声。おまけにひどく、どもってて。

どうしよう、これでまともに歌えなかったら、もちろん、告白とかそれどころじゃない。人にこんな恥かかせておいて、それはあんまり。

お願いだから、落ち着いてよ。せめて、ちゃんとやって。でないと、私も阿野も浮かばれないじゃない!

古場陽香

キョキョ、今日は、オ、オオ、オリジナルの曲をヨーイしてきていて……。

遠見結奈

(しっかりしてよー! 有遊さんに聴かせるんでしょ!? 有遊さん……)

そう言えば、有遊さんは、この講堂に来ているのかな? 目をこらして、見渡してみる。

いた。すぐ見つかった。だって、いちばん前の席。ステージのかぶりつきって言えばいいのかな。

まだライトの点いてないステージ。でも、陽香が出てきて、もうしゃべってるから、わかってるはず。

どうしよう……。もしかしたら、もっと陽香、アガってしまうかもしれない。でも。

このままより、一か八かに賭けた方がいい!

遠見結奈

陽香! 客席の一番前!

古場陽香

え?

遠見結奈

有遊さん、来てるわよ!

古場陽香

……!

遠見結奈

いいとこ、見せたいんでしょ! しっかりしなさい!

古場陽香

あ、あ……。

次の瞬間、いっせいに、こっち、ステージに向けたライトが点いた。目の前が光で真っ白になる。

古場陽香

AA愛!

陽香が叫んだ声、それは、陽香が作った歌のタイトル。

同時にものすごい音が、私の背中の右と左から、響く。

これ、ギター? 陽香の弾くギターの音、だけ。でも、すごい。音に押されるって、こんな感じだったんだ……!

そのギターに合わせて、陽香が声をあげる。歌い始める。その言葉は、ノートに書かれていたのを見せてもらった時にはわからなかった、とても生き生きとしたもので。

その陽香の声が。「いま」と一度、弾んだ瞬間に。

背中から、倒れそうになるくらいの音が鳴り響く。今までのが前奏だったってそれで気付く。これからが本番っていうの? 音の洪水が背中から客席へとあふれ出していく。

その音を背中に受け止めながら、陽香がギターを鳴らす。

後ろからじゃよくわからないけど、陽香が体を激しく揺するたびに、私の背中にぶつかってくる音が軋む。これが、陽香のギターの音。

そして、響く。うるさいくらいの音に負けないくらいに突き抜けていく、声。これが、陽香の歌声。

耳を塞ぎたいくらいの大音量のはずなのに、聞いていたいと思う。どこか楽しくなるようなメロディ。

遠見結奈

(すごい……)

遠見結奈

(ちゃんと、やれるんじゃない……)

だったら、私にこんなことさせなくてもよかったのにとは思うけど。

歌う陽香の背中を見てると、そんな恨み言、忘れたくなる。まぁ、忘れないけど。

陽香が作った歌詞をのせるメロディは、明るくて、前向きな感じがして。それはとても陽香にぴったりに聞こえて。

それでいて。歌詞にあわせたように、刻まれていくリズム。歌の中では、陽香が有遊さんと会ってからの時間が少しずつ表されていて。

その時間をどれだけ、陽香が大事に思っていたのかが、私にも伝わってくるみたいで。

恥ずかしげもなく、愛って叫ぶところも、陽香の声でとても真っ直ぐに延びていく。音になって飛んでいく。まっすぐに。

客席のいちばん前にいる有遊さんへと。

そんなステージを、陽香は、歌で、ギターで、「ブチかまして」いた。私と阿野をお供に巻き込んで。

立っているだけなのに、鼓動がどんどん速くなっていく。恥ずかしさと、このステージの興奮がごちゃまぜになるくらい。

そのおかげで、私は陽香の歌の最後の言葉が終わるまで、なんとかステージの上に踏みとどまっていられた。

そう、歌はもうすぐ終わるみたい。阿野が必死になって、こっちに視線を送ってきていた。

阿野藤

結奈……!

遠見結奈

……え?

阿野藤

う、歌、終わったみたい! さ、さっさと逃げよう! じゃない、引っ込まなきゃ!

遠見結奈

そ、そうね! ……どっちに!?

そうだった。今のうちに消えてくれって言われていた。

阿野藤

えっと、結奈、あっち! あたし、こっち!

遠見結奈

わかった!

阿野とうなずきあうと、同時に、ステージのそでに向かって駆け出す。

や、やっと終わった! 舞台そでを隠す暗幕の隙間に、飛び込む。

その私の背中から。まだ、ライトに照らされてるステージの方から。

ギターの音の最後の余韻が響いている中で。

古場陽香

愛来!

陽香の叫び声が。

古場陽香

愛してる!

や、やった……、やっちゃった……。

古場陽香

来いよ!

ほんとに、やっちゃったんだ、陽香……。

もう、どうなっても知らない。というか、ほんの数分のステージ、立っていただけだったのに、私はぐったりと疲れていて、ステージの方、振り返る気力もなくて。

不意にあがったすごい歓声にも、振り返ることができなかった。

遠見結奈

つ、疲れた……。

私は午後からはずっと、数理部の部室で、園生先生や剣峰さん、実行委員会の雑用を手伝っていた。

比奈は、午前中、一緒に回った後、クラスの友達との約束があるといって別れて。

剣峰桐

遠見ちゃん、お疲れ。ごめんね、当日まで手伝ってもらっちゃってさ。そんなに疲れた?

遠見結奈

あ、いや、疲れたのは、ここに来る前のことが原因だから……。

剣峰桐

ここの前? なんかあったの?

遠見結奈

……いや、なんにもなかった。忘れて。

剣峰桐

う、うん……。

私は午後からはずっと、数理部の部室で、園生先生や剣峰さん、実行委員会の雑用を手伝っていた!

学園祭当日も、実行委員会は大忙しだった。私が手伝いに入ってから、この時間までの間、仕事はひっきりなしで。

前半は、今日行われている講堂のステージでの進行や、今日の展示、屋台への対応が中心だった。

進行が遅れたとか、届いているはずのものが来てないとか。展示で急な変更があって、場所割りをいきなり変更したりとか。

そういうことを一つ、対処すると、今度はその変更を伝えたり、変更に伴う変更が出てきたり。

そして、後半は、明日の準備。やることはそんなに変わらないけど。

さすがに、今日は夏休み中とちがって、実行委員の人が何人かいたので、私は雑用みたいな手伝いだけですんだけど。

それだけに、ちょっと体を使う仕事も多くて。

剣峰桐

もう、今日の発表、展示、屋台は全部終わりだし、遠見ちゃんも帰っても大丈夫だよ。

遠見結奈

う、うん。

そう、もう夕方の4時。一日目は、これで終了。

学園祭中は、学生は午前中までは学校にいなきゃいけないけど、午後からは自由に帰っていいことになっている。

もちろん、ステージ、展示、屋台に参加している人は、だいたいこの時間まで残ってるし、それ以外の人も、この時間までは楽しんでいるんだけど。

剣峰桐

夏合宿中もだし、ずっと手伝ってくれてありがとね。

遠見結奈

ううん、気にしないで。なんとなく、ちょくちょく手伝ってたから、気になっちゃって。

剣峰桐

有遊さんも似たようなこと言ってたかな。

遠見結奈

有遊さんが?

剣峰桐

うん、午前中、手伝ってくれてね。

遠見結奈

ふーん、そうだったんだ。

私とは入れ違いだったのかな。

……ちょっと助かったかも。顔を合わせたら、思い出してしまいそうだから。いや、なにもなかったんだけど。

遠見結奈

でも、剣峰さん、ずっと今日、ここにいたんでしょう?

剣峰桐

そんなことないよ。

遠見結奈

そうだったの? どこか見て回ったの?

剣峰桐

いや、どこも。でも、なんだかんだで学校中、行ったり来たりしてたけど。

遠見結奈

それは、ここでずっと仕事していたのと同じ意味よね。

剣峰桐

まぁ、そうだけど。

そっちの方がすごいというか、大変だったんじゃないかな。

いつの間にか、ここ、数理部の部室なのに、夏合宿あたりから、学園祭実行本部みたいになっている。

いくら園生先生が数理部と実行委員の顧問だからって、乗っ取られたって気にはならないのかな。

園生月代

ただいま~。

剣峰桐

あ、月代ちゃん、お帰り~。

園生月代

あら、遠見さん、まだ残っていてくれたの?

遠見結奈

ええ。

園生月代

ほんとにありがとう。すごい助かってるわ。

遠見結奈

いえ。

園生先生ほどじゃないですって言いたい。園生先生も、剣峰さんと同じく、今日一日、働き続けだと思うし。

園生月代

今、最後の見廻りしてきたのよ。どう? こっちは終わった?

剣峰桐

うん。さっき、だいたい終わった。

園生月代

そう、よかった~。

剣峰桐

あとは、明日のステージ用の機材とかの搬入チェック?

園生月代

そうね。そろそろ講堂に行かないとね。

遠見結奈

まだ、先生たち、仕事あるんですね。

園生月代

え? あ、うん。でも、みんなが手伝ってくれたおかげで、今年はずいぶん楽だったのよ。

剣峰桐

だね、去年はこの時間までで、半分も仕事、終わってなかったもんね。

そうだったんだ。裏方ってハードなんだな。

園生月代

今年も忙しいけど、とっても楽しいのよ。

園生月代

ほら、仕事してる時って、私、精一杯生きてるって感じがするじゃない? そう思わない?

<01>生きてるって感じがするじゃない?

<01>そこまででは……

<01>ええ、まあ……

遠見結奈

ちょっと、そこまででは……。

園生月代

あら、そう?

遠見結奈

忙しいと、確かに充実した気分にはなりますけど。

園生月代

そう、そこ! そこをもうちょっと踏み込んだ感じなんだけど……。

遠見結奈

だから、そこまでは……。

園生月代

うーん、このへんって、社会人じゃないとわからないのかなぁ。

遠見結奈

先生、働くの好きすぎるんですよ。

剣峰桐

あー、月代ちゃん、そういうとこあるよね。仕事中毒みたいなとこ。ワーカホリックってヤツ?

園生月代

そうじゃなくて! もっと労働することに対する、感謝というか、そういうことなの!

剣峰桐

わかんないなぁ……。

園生月代

あぁ、学生ってどこまでも気楽なのよね。でも、きっとそのうちわかるわよ。

剣峰桐

あ、私、がんばって働いてる月代ちゃん見てるの、好き。

園生月代

そ、そう?

剣峰桐

うん! ハムスターが回し車、一生懸命回してるみたいで!

園生月代

え、ええ!? な、なにそれ!

遠見結奈

ええ、まぁ、わかる気はしますけど……。

園生月代

でしょ、でしょ?

剣峰桐

あー、私はあんまりわかりたくない。だってほんと、今日まで忙しすぎたもん。

園生月代

でも、忙しそうに働いてる剣峰さん、とても楽しそうだったわよ?

剣峰桐

あれはテンパってハイテンションになってただけだよ……。

剣峰桐

でも、遠見ちゃんも月代ちゃんの言ってること、わかっちゃうんだ。

遠見結奈

え? うん、まぁ……。

剣峰桐

遠見ちゃんもそんなとこ、あるもんね。仕事中毒みたいなとこ。ワーカホリックってヤツ?

剣峰桐

やっぱ、次々、仕事を片付けられる人って、そういうとこあるのかなぁ。

園生月代

ワーカホリックって……、そこまでひどくないわよ。ね、遠見さん?

遠見結奈

ええ。

園生月代

中毒っていうか、働くのが好きなの! だって、自分の力が誰かの支えになってるかもって思うとうれしくなるじゃない?

園生月代

それで、まぁ、ちょっと無理したくなっちゃったりしない?

遠見結奈

無理はよくないです。

剣峰桐

それで熱出しちゃダメでしょ、月代ちゃん。

園生月代

あ、あれ?

園生先生が働くのが好きで、ワーカホリック気味なのはわかったけど。

それにしても、園生先生と剣峰さん、全然、学園祭、見て回ったりできてないんじゃないかしら。見廻りとかじゃなくて。

まぁ、こういう仕事が、この二人の学園祭なのかもしれないけど。いや、数理部なのよね、先生も剣峰さんも。

遠見結奈

ん?

さすがに、講堂での搬入搬出作業の立ち会いとかまでは、部外者では手伝えないし。

そう思って、そろそろ教室に戻ろうかと思って、借りていた椅子から立ち上がろうとした時。

すぐそばのテーブルに置いてあった、展示の見取り図が目に入った。そのいちばん隅に書かれた数理部の文字が。

遠見結奈

剣峰さん、数理部って、展示参加していたの?

剣峰桐

え? あ、うん……。

確か、今年は参加しないってことを、夏合宿中に聞いたような気がしたんだけど。

あれ、でも、確か午前中、比奈たちと一緒に回っている時に、流れていたラジオで聞いたような……?

剣峰桐

そのつもりだったんだけどね。月代ちゃんがさ、ほんのちょっとだけスペースとっててくれてさ。

剣峰桐

すっごい間に合わせだけど、展示、出したんだ。まぁ、クイズの問題、貼り付けただけなんだけど。

遠見結奈

そうだったんだ。

剣峰桐

あはは、私、完全にあきらめてたからさ。月代ちゃんのおかげで、なんとか面目保てたって感じ。

そう言って、剣峰さんは照れたように笑って。その隣で、園生先生も、優しそうに笑って剣峰さんを見てて。

なんだか、いい雰囲気っていうのかな。お邪魔しちゃ悪いかなって感じの。

遠見結奈

それじゃ、私、そろそろ帰りますね。

剣峰桐

あ、ありがとね、遠見ちゃん。

園生月代

明日は、ほとんど仕事ないはずだから。こっちは気にしないで、学園祭を楽しんでね。

遠見結奈

はい。えっと、先生たち、この後も仕事あるんですよね? その、がんばってください。

余計な一言だったかなって思ったけど。

剣峰桐

うん、ありがと。

園生月代

気を付けて帰ってね。

二人とも笑顔で、私を見送ってくれた。

grpo

grpo_ef

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

okujou_no_yurirei-san/1505.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)