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okujou_no_yurirei-san:1503

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「相原もさぁ」

聞こえてきた、教室の中の声。扉越しに廊下から聞く時は、いつもドキリとする。そして、今日はズキリ、とも。

「ほんとよくやってくれるよねー」

あ、ダメだ、この感じ。わかってても、ダメ。

夏休み、比奈に話したことで、ちょっと気持ちの整理もついたけど……。

「ほんと、助かるわぁ。頼めばなんでもやってくれるんだもん」

「楽できるよねぇ」

こんな言葉、聞きたくない。中で話している人たちだって、聞かせたいわけじゃないんだから。でも。

口から出た言葉は、誰かに届く。こうして、今、私に思いもよらず、届いてくることも、ある。

「やっぱ、クラスに一人はいてほしいよね、ああいうの。ありがたいって」

永谷恵

ゆ、結奈……?

背中にくっついてここまでついてきた恵が、心配そうな声をかけてくる。わかっちゃったのかな。

今、恵、私に憑依してるから。私が今、どんな気持ちでいるのか。ううん、今、ひどく鼓動が痛くなってることが。

「ほんと、頭下がるー」

ここに来たのは、サチさんからの情報で。

相原先輩たちの増える仕事の中で、特にたくさん、いろんなことを押し付けてる人がいるってこと。それは、先輩のクラスメイトの写真部の人たちらしいって。

どうする気もなかったんだけど。その人たちに、直接注意するとか、そんなつもりもない。そこまで出しゃばる気はなかった。

ただ、どういうつもりなのか、確かめたかっただけ。なにか、解決のヒントがあるかなって。そう、思っただけ。

だけだったのに。だから、こんなこと、聞きたくなかったのに。

「あれってさぁ、絶対……」

「マゾだよねー」

遠見結奈

っ……!

永谷恵

ちょ、ちょっと結奈! 乗り込む気!?

遠見結奈

あ……。

そんなつもりはなかった。けど、ドアに手をかけてた。

危ない……。たまらず、乗り込むとこだったんだ。

恵が声をかけてくれたことに、ちょっと感謝。ほっとした、その時。

すごい勢いで扉が開く音。

遠見結奈

え?

永谷恵

あ、あっち!

私のいる方と反対側のドアが、思いっきり開かれた音だった。振り向いてみれば、開け放たれたドア。そして。

遠見結奈

え、今、入っていったのって……。

永谷恵

牧ちゃん!?

一瞬だけ、教室に入っていく一瞬だけ、見えた姿は、相原先輩を慕っている牧さんのものだった。

遠見結奈

ど、どうしたのかな?

永谷恵

わ、わかんない、けど……。

私は慌てて、恵をくっつけたまま、牧さんが入っていったドアに駆け寄って。

教室の中をのぞき込んだ。その瞬間だった。

「きゃあ!」

牧聖苗

ふざけんなぁ!

すごい音。思いっきり、机が蹴り飛ばされた、音。

蹴り飛ばしたのは牧さんで……。

遠見結奈

ま、牧さん……!?

信じられなかった。小柄な牧さんが、三年生の先輩が腰をかけている机を蹴り飛ばす光景なんて。

そして、床に転がり落ちた先輩に馬乗りになって、胸ぐら、つかみあげているなんて。

「ひっ、やっ!」

牧聖苗

あんたらなぁ! 今、なんつった!? ああ!?

すごい、大声。怒鳴りつけているなんて。

「ひ……、ひぃ……」

牧聖苗

言ってみろ、もっかい言ってみろぉ!

牧聖苗

マゾ、だぁ!? マゾって言ったのか!? てめぇ、美紀さんのこと、マゾって言って笑ったのか!?

「ちょ、な、なにこいつ!」

牧聖苗

黙ってろ!

うわ、すごい。かわいいって印象の牧さんが、とんでもない声でまわりを、私と恵をも、圧倒してる。

止めようとした他の二人の三年生も、牧さんの声で、怯んだのがわかる。

牧聖苗

なんで、てめぇが……。

牧聖苗

美紀さんのこと、笑ってんだぁ!

「や、やだ……。ちょ、ちょっと……。誰か……!」

呆然と、牧さんの姿を見つめてる私の横を、二人の三年生が走って廊下へと出て行く。

ど、どうすればいいの、これ……。

永谷恵

ちょ、ちょっと結奈……。これって、止めた方がいいんじゃないの……?

遠見結奈

そ、そうだけど……。

でも、怖い。正直、怖い。牧さんの声に圧されて、足が動かない。

牧聖苗

美紀さんに仕事、押し付けて、てめぇは楽して、そんでもって美紀さんのこと笑ってんのかぁ!

牧聖苗

もっぺん言ってみろ! 美紀さんのこと、マゾだって言って笑ってみろ!

牧聖苗

二度とそんなこと言えないようにしてやる!

うわ、ほんとに怖い。で、でも、止めないと……。

遠見結奈

っ……!

私は勇気を振り絞って、教室の中に入っていく。

なるべく、牧さんの後ろから近づいて。だって、牧さんから見えるとこから近づいたら、怒鳴られそう。そうしたら、立ちすくんじゃう。

牧さんに馬乗りにされた三年生の人、うわ、ほんとに泣いてる……。

遠見結奈

ちょ、ちょっと牧さん!

なんとか、声を出す。考えてみれば、面識、ないんだけど、そんなこと言ってられない。

遠見結奈

もうやめて!

ダメだ、聞いてもらえない。ただ、三年生をにらみつけてる。大丈夫かな、あの襟、締まってないよね?

どうしよう、どうしたら、牧さんを止められるだろう。そう考えてると。

廊下から、こっちに走ってくる足音が。

遠見結奈

マズい! 先生!?

永谷恵

あ、ちがう!

遠見結奈

あ……。

教室に入ってきた人は。息を切らせて、入ってきたのは。廊下を走るなんてイメージできない人で。相原先輩で。

相原美紀

ま、牧ちゃん……!

でも、相原先輩の声も、今の牧さんには届かないのかな……。牧さん、まだ止まらないみたい。

ほんとに、どうしよう……。

牧聖苗

てめぇが美紀さんのことを……!

また、牧さんが三年生の胸ぐらをつかみ上げて引き起こしたところで。

相原美紀

聖苗!

相原先輩の声が、響いた。その瞬間、牧さんの動きは、ピタリと、止まった。

牧さんが、ゆっくりと振り返る。呆然とした、顔で。

牧聖苗

美紀さん……。

美紀さん、まだ息が切れたままだけど、牧さんに声をかける。

相原美紀

はぁ、はぁ……。だ、ダメ、聖苗……。

相原美紀

もう離してあげて。……ね?

相原美紀

乱暴なこと、しちゃ、ダメ。ね、聖苗。

牧聖苗

……はい……。

やっと、牧さんが三年生の人を離してくれた。

遠見結奈

はぁ……。

緊張で詰まっていた息が漏れる。

立ち上がった牧さんは、ちょっとうなだれてて。

相原美紀

どうして……、こんなこと、したの?

牧聖苗

………………。

相原美紀

話して、くれる?

やさしく声をかける相原先輩に、少しずつ、答える。

牧聖苗

そ、その……、こいつ……、こ、この人たちが……、その、美紀さんのこと……。

「あ、相原……、あたしたち、別に……」

ようやく牧さんから解放された三年生が、そう、なにか言おうとした時。

牧聖苗

っ、黙ってろ!

うわ、また牧さんに火がついた。ほんと、怖い。

牧聖苗

あんなこと言っておいて、馴れ馴れしく美紀さんに声かけんな!

相原美紀

聖苗!

牧聖苗

っ……、だって!

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相原美紀

もう、いいから……。

相原美紀

そんな大きな声、出さないの。

相原先輩は、牧さんを叱ったりするわけじゃないみたい。ただ、牧さんの手を取って、やさしく抱き寄せた。

そのまま、まだ、座り込んでる三年生の人に、声をかける。

相原美紀

あの、ね……。

相原美紀

わたしも、できる限り、みんなのこと、手伝いたいって思ってるの。

相原美紀

今、みんな、忙しいから、ね。だから、できるだけ、いろんな人の。

相原美紀

だから……。できることは、自分でやってほしいの。それでも大変な時は、いつでも言ってくれていいから。

相原美紀

それなら、わたしもよろこんで、手伝わせてもらうから。これからは……。

相原美紀

わたしが手伝わなくても大丈夫そうな時は、断っても、いいかな?

相原美紀

わたしも、聖苗も、手伝った人が、助かったって思ってほしいから。誰かの手伝いをするなら……。

相原美紀

そういう気分のいいことを、したいから。ね……。わかってもらえる?

少し、二人から離れたとこで、私はその相原先輩の言葉を聞いていた。

それは、今までの相原先輩を知っていたら、意外に思う言葉。

どんなことでも引き受けていた先輩が、今、言ってる。なんでもは手伝えないって。それは……。

どんな気持ちで伝えたんだろう。なんで今、そう言えたんだろう。ただ、わかるのは。

ずっと、相原先輩、牧さんの肩を抱いていたということ。やさしく、自分のそばに引き寄せて。

あの牧さんの姿を見ても、やさしく、そうしているってこと。

……もう、これ以上、ここにいなくてもいいかな。

私は、そっと音を立てないようにして、教室を出た。

榎木サチ

牧ちゃんって、すごいとこ、あるのね。

永谷恵

あ、サチさぁん!

遠見結奈

……来てたんだ。

そして、今、気付いた。廊下、ちょっとした数の野次馬が集まってる。それもそうかな、あれだけ牧さんの声が響いていたんだから。

それにしても、サチさん、野次馬に同化してないでよ……。

榎木サチ

美紀ちゃんがすごい勢いで走ってるのを見たのよ。それで、なにかあったのかなって追いかけてきたの。

いいとこだけ、見ていくなぁ。幽霊ってほんと……。

榎木サチ

……美紀ちゃんにも、きっと伝わったのね。

遠見結奈

え? なにが……?

聞こうとしたけど、そこで、廊下の向こう側からやってくる足音と声に気付いた。

遠見結奈

あ、先生……。

さっき、逃げていった人たちかな? 先生に教えたの。きっと、相原先輩もそうだったのかな。

先生が、私たちの前を通り過ぎて。

「ケンカをしてるのは、ここか!?」

教室に入っていく。まぁ、もう、どうしようもないか……。

「ケンカの当事者は誰だ!?」

そんな声の後、牧さんの声が教室の中から響いてきた。

牧聖苗

ケンカじゃないです! 殴ってもないし、殴られてもいません!

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okujou_no_yurirei-san/1503.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)