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okujou_no_yurirei-san:1309

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夏休み前、最後の日は、午前中だけの授業とちょっと長めのホームルームでおしまい。

私は今日は部活もない比奈と一緒に、家に帰る。夕ご飯、なにを作ろうか、メニューと買い物の予定を組み合わせながら、正門へと向かっていた。

狛野比奈

あ。

隣を歩いていた比奈が、小さな声をあげる。

遠見結奈

どうしたの?

狛野比奈

あそこ。網島先輩と稲本先輩。

遠見結奈

え?

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見てみると、正門のすぐそば、比奈の言う通り、陸上部の部長さんと副部長さんの、網島先輩と稲本先輩がいた。でも、様子が……。

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遠見結奈

な、なんか、ケンカしてない?

狛野比奈

ん、そうみたい。

正門の内側、二人で向かい合って、どう見ても言い争いをしているみたい。

この間、合った時は仲良さそうというか、いいコンビに見えた二人だったんだけど……。

遠見結奈

ど、どうしよう。

狛野比奈

ん……、ほっといていいと思う。

遠見結奈

え、そ、そうなの?

狛野比奈

ん。わりといつものこと。

そうなのかなぁ……。でも、一応、知り合いなのに、あの脇を知らんぷりして通り過ぎるのもなんだか。

挨拶だけして、行っちゃえばいいのかな? 比奈もなんか、慣れてるみたいだし。そう思っていたら。

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榎木サチ

あら、あの二人、またなのね。

永谷恵

ねー、最近、ちょっと多いよね、サチさん。

屋上から見かけたのかな。百合霊の二人が、ふわふわと私の側に。

榎木サチ

こんにちは、結奈さん。もう帰り?

遠見結奈

え、ええ。

もう二人の神出鬼没ぶりには慣れてきた。比奈がそばにいるから、目を合わせたりはしないように。声も出さないように、そっと。

遠見結奈

知ってるんですか? 網島先輩と稲本先輩。

永谷恵

うん。有名だしね。

そっか。そうだろうな。私はよく知らなかったけど、阿野とかに聞いてみれば、選手としても有名みたいだし。

ん? でも、この二人が知ってるってことは、もしかして……。

遠見結奈

あの、もしかして、あの二人……。

榎木サチ

ええ、恋人同士なのよ。

あ、やっぱり……。

榎木サチ

この学校に入る前から、付き合っていたみたい。特に問題がなかったから、結奈さんには紹介してなかったわね。

遠見結奈

そ、そうなんですか……。

びっくりしたけど、もう、そういうもんかとしか。

遠見結奈

でも、今、目の前で問題が発生しているみたいだけど……?

永谷恵

気にしなくていーよ。いつものことだもん。見ててなよ、ほら。

ゆっくりと正門の方に歩いていたから、二人の声も徐々に聞こえてくる。二人とも、さすがに声は抑えているみたいだけど。

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網島茉莉

だからさ、そんなに生真面目に考えなくてもいいでしょ? 美夕はどうしてそんなに気にするのかなぁ。

稲本美夕

あなたがなにも考えていないだけでしょ! もっと真剣に考えてよ!

気にしなくていいって言われても。でも、二人も比奈も、ほんとに気にしていないみたい。私だけハラハラしてるのも、ちょっと損したみたいだな。

網島茉莉

真剣に考えてるつもりなんだけどなぁ。はいはい、どうせあたしはいい加減ですよーだ。

稲本美夕

そういうこと、言いたいんじゃないの! もう、私はけっこう、茉莉の気楽なところ、助かってるのに……。なによ、私ばっかりムキになっててバカみたいじゃない。

網島茉莉

あ、美夕がちゃんと考えてくれてるから、あたしも思いっきりやれてるんだよ? そういうふうに自分を卑下するのやめなよね。

稲本美夕

茉莉がそうさせてるんじゃない……。

網島茉莉

もうちょっと自信持ってもいいと思うんだけどな。あたし、美夕のそういうとこ、大好きなんだから。

稲本美夕

ちょっと! そういうこと、こういう場所で言わないでって言ってるでしょ!

網島茉莉

二人っきりの時にも言ってるけど?

稲本美夕

そんなの知ってるわよ!

あ、ほんとだ。なんかバカらしくなってきた……。

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永谷恵

ね、いつもこんな感じなのよ。

榎木サチ

性格はけっこう正反対みたいだから、ケンカするのはよくあることなの。でも、最後はいつもこんな感じ。

榎木サチ

付き合いが長いからできるケンカなのね。素敵よね。

そうかなぁ、そうなのかもしれないけど。稲本先輩、苦労してそう。

永谷恵

あとは、学校の中で、もっとイチャイチャしてくれればいいのに。

遠見結奈

もっとって……。

永谷恵

わたしたちのお手本になるようなこと。

遠見結奈

お手本って……、そ、そんなこと、学校でするわけないでしょ!?

永谷恵

でも、見せてくれないとわかんないじゃない。

遠見結奈

………………。

榎木サチ

二人っきりの時は、いい雰囲気になるんだけど、あとちょっとってところでやめちゃうのよね。

榎木サチ

美夕ちゃんの方が、どうにも用心深くて。

永谷恵

絶対、家とかではやってるよねー! お泊まりとかしてるみたいだもん!

お願い、もう、ちょっと黙って……。

今まで、片思いの人をどうにかする方向でお手伝いしてきたけど、そんなことまで手伝わなきゃいけないの!?

さすがに、そこまでいくと、お節介とかじゃない……。

狛野比奈

茉莉先輩、美夕先輩。

おっと……。頭を抱えたい気分になっていたら、いつの間にか、二人の目の前まで歩いていた。比奈が二人に声をかける。

稲本美夕

あ、ひ、比奈。今、帰り?

狛野比奈

ん。

網島茉莉

もー、聞いてよ、比奈! 美夕ったら頑固でさぁ!

稲本美夕

ちょっと茉莉! 後輩になに言ってるのよ!

網島茉莉

少しは比奈の素直さとかわいさ、わけてあげてくれない?

稲本美夕

茉莉の方こそ、比奈のしっかりしたところと、余計なこと、言わないところを見習うべきでしょ。

網島茉莉

あーもう、ほんと美夕ってば口うるさいんだから。いいよ、比奈、今日はあたしと一緒に帰ろ。こんな頑固者、置いてっちゃおう。

稲本美夕

ちょっと! 比奈、茉莉に付き合ってるといい加減が移るわよ。私と一緒に帰りましょ。茉莉はそこでしばらく反省してなさい。

網島茉莉

えー! 美夕、こんなかわいい後輩を独り占めする気!?

稲本美夕

あなたの悪いとこ、見習ってほしくないのよ!

網島茉莉

比奈! いいからあたしと一緒に帰ろ!

稲本美夕

私と帰りましょ! ね、比奈!

えっと、ちょっと……。どういうこと……。

なんで、いきなり比奈の取り合いになってるの、先輩たち。

大人っぽくて貫禄のある人たち、さすが三年生の先輩なんだなぁって思ってたのに……。

狛野比奈

んー……。

網島茉莉

比奈!

稲本美夕

比奈!

比奈だってこんなことになって、困るわよね。二人を順番に見ながら、ちょっと考え込んでるみたい。と思ったら。

比奈、ちょっとだけ私の方に近寄って。

狛野比奈

結奈ねぇと帰る。

網島茉莉

ええ!?

稲本美夕

ちょ、ちょっと比奈!

先輩たち、そこで初めて気付いたみたいに、比奈のそばにいる私にも視線を向けてくる。

ちょっと……、居心地悪いなぁ……。比奈も、こういう時はどっちかを選んであげればいいのに。

……どっちを選んでも、今後に問題ありそうだけど。

狛野比奈

だって、先輩たち、新町の方でしょ。

狛野比奈

帰り道、ちがうから。

網島茉莉

あ。

稲本美夕

あぁ……。

ああ、そうか、そういうことか……。理由がシンプルなのがとても比奈らしい。

でも、もし、先輩たちと帰り道が一緒だったら、なんて答えたんだろう……。

狛野比奈

それじゃ、失礼します。

網島茉莉

あ、うん、じゃあね、比奈ちゃん、結奈ちゃん。

稲本美夕

気をつけて帰ってね。結奈さん、合宿、お願いね。

遠見結奈

あ、はい。えっと、それじゃ、失礼します。

比奈と一緒に、先輩たちに頭を下げて、私は正門を出た。

後ろの方で、サチさんと恵、二人してクスクス笑ってた。

遠見結奈

明日から、夏休み、か……。

私は、机の上にカレンダーと手帳を出して、その間のスケジュールを確認する。

夏合宿は、8月の第二週。9日の木曜日から16日の木曜日までの8日間。この間は、陸上部の食事係。

お手伝いの相手もけっこう来るみたいだし、いろいろすることが多そう。

家族と一緒に、お婆ちゃんのところに行くのは、その次の日から。帰ってくるのは、19日。

遠見結奈

そうすると、20日がいいかな……。ちょっとお盆からは外れちゃうけど。

ちょっとした、ほんのちょっとしたことを考えている。別に驚かせるつもりはないけど……、あの二人が喜んでくれたらいいかなって。

それ以外のこまごまとした予定も、特に問題なし。宿題も、合間合間にやっておけば、最後に慌てることもなさそう。

比奈は合宿もそうだし、ほとんど部活があるって言ってた。

暑い日が続くから、体を壊さないといいな。うちでご飯を食べる日は、元気の出るものにしてあげよう。

遠見結奈

ふぅ……。

夏合宿が入るだけで、ずいぶん、手帳の8月のページがにぎやかになった気がする。

去年はあんなに空白があったのに。

遠見結奈

ほとんど、出歩くこともしなかったしなぁ……、去年は。

それに比べて、今年はどうだろう。部活もしてないのに、夏合宿に参加している。それも、人から頼まれて。

こんなこと、想像もしてなかった。夏合宿で会う知り合いも多い。

遠見結奈

あんなに、人付き合い、避けていたのになぁ……。

屋上で出会った、二人の幽霊、ううん、百合霊。サチさんと恵。

あの二人に会ってから、お手伝いをするようになってから、いろんな人に出会って、いろんなことがあった。

この夏休みの予定だって、それで埋めることが増えたようなもの。

遠見結奈

なんなんだろう、この変化……。

遠見結奈

でも、なんだか……。

毎日が、慌ただしかった。連休明けのあの日から。

それまでは、一日、やることだけをやって過ごしていただけだったのに。

朝、お弁当を作って、学校に行って、買い物をして、家事を手伝って、夕ご飯を作って……。

その中に、あの二人と一緒にするお手伝いが入ってきた。そのために、走り回ったり、いろいろ考えたり。

遠見結奈

これも、充実した毎日っていうのかなぁ……。

明日からの夏休みもいろいろ忙しくなりそう。

私は手帳を閉じて、お風呂に入るために立ち上がった。

学校の廊下を歩いていた。

今より少し背の低い私。髪もまだ、ちょっと短くて。

制服もちがう。廊下もちがう。これは、あの時の。

少し、気が逸って、廊下を進む足も速くなっていた。手に持っている物、さっき受け取ってきた物を、早くみんなに届けたくて。

もう少し、あのドア。その向こうにみんないる。

うれしくて。がんばってきた結果が、あったから。この手に持っていたから。早く、みんなと一緒に喜びたくて。

あと少し。その時。

聞こえてきた。

「あー、やっと引退できるー!」

「優勝はいいけど、こんなに引退がのびるなんて、マジカンベンだよねー、受験だってあるのにさー」

「ほんとー。まいっちゃうよねー」

「結奈には」

私の名前。急いでいたはずの、足が、止まった。

「もう、結奈が部長になってから、きつくってさー」

「なんか運動部みたいなノリになっちゃったよねー」

「そうそう、あたしら、料理部だってのにさー」

そう話している声。声だけは楽しそうなのに。いつものみんなの声なのに。

私の足は、動かない。そこに立ち止まったまま。

「あれ、なんかもうすごかったよねー」

「料理部が毎日部活なんてどういうことってさー」

「夏休みだってほとんどつぶれちゃったしねー」

「ほんとサイアク」

みんな。みんなが話している。私だけが、その中にいない。

こうして、廊下に。入っていくこともできず、立ち尽くしてる。

「あんたもさー、副部長だったんだから、もうちょっとなんとかしてよねー」

「無茶言わないでよ。結奈のあれってもうビョーキなんだからさ」

「そうそう、あたしらがなにか言ったって止まんなかったじゃん。なんでも自分でやっちゃってさ」

「全国大会って言ったって、あたしら、立ってただけみたいなもんだったしねー」

どうして? 優勝したとき、みんな、喜んでたでしょう? みんなでがんばって優勝できたんでしょう?

だから、ここにあるんだよ? みんなの分の、賞状が。

私、それをもらってきたんだよ? これからみんなにそれを渡して、ありがとうって……。

「すごい、すごいよ、結奈様はー」

「料理もうまいし、プロにもなれちゃうかもねー」

「さすがは部長様だよねー。でも」

「つきあうの、しんどかったよねー」

ついてきてくれて、ありがとうって。

「がんばればできるって信じてるよね、あれはー」

「むりむり、どんなにがんばったってできませんって。結奈とはちがうんだから。あたしら、ふつーだし」

「なんでもできちゃう人とはちがうんだよねー」

みんなとがんばれて楽しかったって……。

「あれさー、きついよね。結奈が手伝ってくれる時とかの」

「そーそー、あたしらが必死になってもできないこと、ちゃちゃっと片付けちゃってさ」

「その時の、結奈ってさ、こんなこともできないのって感じだよね」

「うんうん、背中がそう言ってるんだよね。しかも、顔はちがうの」

「私が助けてあげなきゃって感じ。キラキラしてるよねー」

「やめてよねー、あれ。ミジメになるから」

「お節介だよねー、余計なお世話だっての。こっちは楽しくお菓子でも作って放課後したかっただけだったんだからさ」

「ねー」

言おうと、思ったのに……。

ケータイのアラームが鳴ってる。

私は、ベッドから手を伸ばして、枕元に置いてあったケータイを取る。

いつも通りの時間。お父さんとお母さんに朝ご飯、作ってあげなきゃ。部活に行く比奈に、お弁当、作ってあげなきゃ。

目元を、ぬぐう。ほら、やっぱり泣いてた。

あの日の、こと。夢の中で思い出した、あの日。がんばってきた自分が、全部、なくなってしまった日のこと。

卒業して、城女に入って、誰かのために一生懸命になろうとするたびに、思い出す。そんな自分を戒めるように、夢に見る。

遠見結奈

どうしたら……、よかったって言うのよ……。

今日から、夏休みが始まる。

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okujou_no_yurirei-san/1309.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)