User Tools

Site Tools


okujou_no_yurirei-san:1304

Place translations on the >s

相原先輩と牧さんの二人の様子を、ここ一週間くらい、サチさんと恵が交代でうかがってくれた。

その結果、わかったことがいくつか。

確かに、二人の間になにかあったみたい。

6月の終わりごろから、奥校舎の資料室の奥、あの休憩所に行かなくなっていたって言ってたけど、7月に入ってからも一度も行ってないみたいということ。

でも、二人は相変わらず、放課後は一緒に、相原先輩のところに舞い込んでくる仕事をこなしている。

でも、サチさんと恵が見た限りでは、どうもよそよそしい感じみたい。以前のような楽しそうな会話が減っているとのこと。

特に、牧さんの方がおとなしくなってしまったみたいで。相原先輩もあまり仕事中におしゃべりする方じゃないみたいで、黙々と作業を続けているとか。

牧さんも一生懸命、相原先輩の手伝いをしているみたいで、そこは変わってないのだけど。

あと、気付いたことがもう一つ。

ここのところ、相原先輩に回ってくる仕事の量がさらに増えているらしい。

私も放課後、学校の中を歩き回っていると、よく二人を見かける。そして、いつもなにか用事を片付けていて。

確かに、忙しくなっているみたい。でも、教室のゴミの焼却とか、先生に提出するプリントのとりまとめとか、明らかに雑用みたいなことまでしている。

それって、整美委員会の仕事じゃないよねってことまでやっている。もともと、相原先輩、そういうことまで引き受けてたみたいだけど。

牧さんも相原先輩の仕事を手伝うようになってけっこうたって、どんどん要領もよくなっているみたい。

それでさらに、仕事をこなせる量が増えて、そこにさらに仕事が舞い込んで。

これって、悪循環なんじゃないかなぁ……。

それでも、二人は毎日、先生や学生、いろんな人から用事を引き受けて、それをこなしている。

grpo_bu0

二人でずっと、黙々と仕事をしてるから、かえってちょっと怖かったって恵が言ってた。

榎木サチ

仕事が増えて忙しくなったから、休憩所を使わなくなったわけじゃなさそうなのよね。

榎木サチ

二人っきりで、あそこで話をするのを避けているみたい。どちらからも、たまには休憩所に行きましょうって言い出さないから。

サチさんはそんなことを言ってた。

牧さんはたぶん、まだ相原先輩のこと、好きなのは変わらないと思う。

相原先輩も、牧さんのことを嫌いになったわけでも、このままでいたいわけでもないのだと思う。

ただ、なにか、あったんだろう。それで、二人の間に、ちょっと距離ができてしまったみたい。

榎木サチ

ちょっとね、美紀ちゃんの心、読んでみたんだけどね。

榎木サチ

美紀ちゃん、なにか戸惑っているみたい。どうしていいか、わからない、そんな気持ちが強く出ていたわ。

榎木サチ

そして、その中に、牧ちゃんに対して、裏切られた、そんなことを思ってるの。自分の気持ちをわかってもらえなかった、そういう気持ちね。

榎木サチ

そして、同時に……、牧ちゃんに対して、なにかを期待しているみたい。それが絡まってしまっているから……。

榎木サチ

今は、どうしていいかわからないみたいね。ただ、それで仕事に没頭しているみたいなの。

grpo_bu0

うーん……。

直接、聞くことができたら、話も早いんだろうけど……、まさか、ほとんど面識もないのにそんなこと聞けないし。

どうしたらいいんだろう。

そして、相原先輩たちの様子を見てて、私が得た情報がもう一つ。

先輩たちを探しながら、歩き回っていた時に。偶然、三年生の教室の前で、聞いてしまったこと。

「えー、いいよ、こんなの、めんどくさいじゃん」

「相原にやらせちゃおうよ。いつもみたいにさ。喜んで引き受けてくれるって」

そんな、会話。聞くつもりもなかった。ただ……。

聞いてしまった瞬間、ひどく、胸が、痛んだ。刺すように。

遠見結奈

あの、手伝いましょうか?

つい、声をかけてしまった。

放課後、奥校舎の教室で。相原先輩に。

相原美紀

え?

相原先輩は、今日は一人。牧さんは先に帰ったって恵が教えてくれた。どうしたのかな? なにか用事でもあったのかな?

先輩は、いつものように、誰かからお願いされた仕事の最中。

たくさんのプリントの山を机の上に並べて、それを一枚ずつ組みにして、ホッチキスで止める。プリント冊子作りの最中だった。頼んだのはきっと、先生、かな。

grpo_bu0

榎木サチ

頼んだのは、社会科の佐竹先生よ。授業で使う冊子作りをお願いされてるの。

あ、サチさん、いたんだ。

でも、今の情報はありがたい。だって、相原先輩、いきなり私が声をかけたから、びっくりしてるみたいだし。

相原美紀

えっと、あの……。

遠見結奈

あ、二年の遠見、です。佐竹先生に、手伝ってあげてほしいって言われて。

相原美紀

あ、ああ、そうなの。でも、大丈夫よ、これくらいすぐに終わるから。

とてもじゃないけど、すぐに終わる量には見えない。

遠見結奈

あ、気にしないでください。私も暇でしたから。二人でやった方が早いですよ。

相原美紀

そう? ……そうね、それじゃ、ちょっと手伝ってもらえる?

遠見結奈

ええ。

見た感じ、プリントは全部で10枚組になるみたい。それを一枚ずつ順番に組み合わせて、ホッチキスで止めて、完成。

頭の中でそう、作業の流れを予想して、どうすれば効率よくできるか、考える。

遠見結奈

まず、先に全部、束を作っちゃいますか?

相原美紀

ええ、その方がよさそうね。

遠見結奈

それじゃ、こっちの机に、1ページ目から順番に並べちゃいましょう。

相原美紀

ええ。

どうせ、この教室を使う人なんていないんだから。机なんていくらでも使っていいだろうし。

遠見結奈

これって……、一年生の授業用ですね。

相原美紀

そうみたいね。

相原先輩は三年生。私は二年生。どちらも関係ない授業のプリント冊子作りを、二人で。

並べたプリントの山から一枚ずつ拾っていって、組み合わせを作って、それをごちゃ混ぜにならないように、縦横互い違いに、別の机の上に積んでいって。

二人で、黙々と、プリントの山を積んだ机の列を往復していく。

遠見結奈

ホッチキス、いくつあるんですか?

相原美紀

え? ああ、一つしか預かっていないの。

遠見結奈

それじゃ、先輩、そろそろ束を止めていってもらえますか? 私が残りの束を作っていきますから。

相原美紀

ええ。

また、黙々と。今度は相原先輩が止めるホッチキスの音が混ざったくらいで。

ただ、おしゃべりをしない分だけ、手は早く。次々に完成した冊子の山が高くなっていく。

全部で3クラス分、くらいかな。百冊ちょっとくらい。

1時間もかからないくらいで。ほとんど言葉も交わさずに作業を続けて、そして、冊子は完成した。

相原美紀

これで全部ね。

遠見結奈

ええ。そうみたいですね。

いくつかのページのプリントが余っているけど、たぶん、印刷の枚数が揃っていなかったんだと思う。

その余りをまとめながら、相原先輩がお礼を言ってくれた。

相原美紀

ありがとう、ええと、遠見さんよね? ずいぶん早く終わっちゃったわ。

遠見結奈

いいえ。でも、これ、一人だと大変ですよね。

相原美紀

そうかもしれないわね。だから、助かっちゃった。

相原美紀

そう言えば、遠見さんって、前にもこうして、手伝ってくれたこと、なかった?

遠見結奈

あ……、えっと、あります。去年ですけど。私が手伝ってもらったんです、相原先輩に。

相原美紀

そうだった? でも、遠見さん、今日もとても手際がよくて助かったわ。それで、思い出したの。

遠見結奈

そうですか……。

正直、その時のことを、そして、私のことを、相原先輩が憶えているなんて意外だった。あの時も、話なんてほとんどしなかったし。

それに、私は先輩とちがって、有名人でもなんでもないんだし。

遠見結奈

私も、先輩のこと、憶えてましたよ。とても、助かったの、憶えてます。それに……。

遠見結奈

相原先輩、すごい有名ですから。

相原美紀

あら、そう?

遠見結奈

ええ。いつも、放課後とか、こういうことしてるじゃないですか。けっこう、学校の中で見かけますし。

相原美紀

そうかな……。なんだか、ちょっと恥ずかしいわね。

そう言って、相原先輩、笑った。苦笑いみたいな感じ。それが、なぜか、私の胸を突いて、刺して。

遠見結奈

……これ、先生のところに届ければいいんですよね。私、持って行きますね。

早く……、先輩の前を離れたくなって。

相原美紀

あ、一人じゃ無理よ。ここまで持ってくるのだって、大変だったんだから。わたしも手伝うわ。

遠見結奈

でも……。

このままじゃ、なにか言ってしまいそうで。言い出してしまいそうで。

遠見結奈

これ、相原先輩が頼まれる仕事じゃないですよね?

相原美紀

え……?

口から出てしまった言葉に、自分でも驚く。そして。

遠見結奈

一年生の授業用のですよね? 先輩、関係ないじゃないですか。

頭のどこかで、後悔している。早く、口を閉じなきゃって思ってる。でも。

遠見結奈

完全に、ただの雑用ですよね。……どうして。

いけないって思ってる。でも。

遠見結奈

どうして、先輩がやらなきゃいけないんですか?

止められなくて。

相原美紀

え、えっと……。

相原美紀

ごめんなさい、手伝ってもらうの、大変だった?

遠見結奈

いえ、それは全然。ただ、聞きたいんです。

遠見結奈

どうして、先輩、毎日こんなこと、いろんな人のこと、手伝ってるんですか?

相原美紀

………………。

遠見結奈

整美委員会の仕事なら、わかります。でも、まったく関係ないことまで、押しつけられて。

遠見結奈

疑問に思わないんですか? 考えたりしないんですか? どうして、自分がやらなきゃいけないんだろうって。

遠見結奈

こんなの、先輩が引き受けなかったら、他の人に頼むなり、自分でやるなりすることですよ?

遠見結奈

先輩が引き受けちゃうから、みんな、頼むんです。頼っちゃうんです。簡単なことまで押しつけちゃうんです。

遠見結奈

いいように使われてるって思わないんですか……!?

相原美紀

………………。

言ってしまった……。

こんなこと、言うつもり、なかったのに。言いたくなんか、なかったのに。

でも、一度口から出てしまった言葉は止められなかった。

頭をよぎったのは、聞いてしまったあの人たちの言葉。名前も顔も知らない人たちの。先輩のこと、便利に使って用事を押しつけていたような、人たちの。

相原美紀

………………。

相原先輩は、なにも言わない。ただ、ちょっと困ったような顔をして、考え込んでいるみたい。

きっと、こんなこと、先輩だってわかってる。

それに、誰もが、面倒だから、やりたくないから、先輩にお願いしているわけじゃない。押しつけてるわけじゃない。

先輩が引き受けてくれて、手伝ってくれて、代わりにやってくれて、感謝してる人だっている。助かった人だっているはず。

でも、その中に、たぶん少しだけ、混ざってるんだ。そういうことを。

先輩だってわかってるはず。自分が便利に使われていることくらい。なんでも引き受けてしまうから、押しつけてくる人がいることくらい。

でも……。

それは、わかってる分だけ、つらくないのかな。苦しくないのかな。

相原美紀

あの、ね……。

先輩の声は、それほど大きくなく、怒っている感じでもなく。

相原美紀

そういうこともあるかなって、わかってはいるんだけどね……。

私を責めるわけでもなく。

相原美紀

きっと、わたし、ね……。

相原美紀

誰かの力になりたいとか、そんなんじゃなくて……。ただ……。

相原美紀

もし、断ったりしたら、気を悪くするかな、とか……、わたしのこと、冷たい人間だと思われたりしないかな、とか……。

相原美紀

期待通りじゃなかったな、とか……。そういうふうに思われたくないだけなのかもね。

相原美紀

わたし、きっと……。

相原美紀

誰かの手伝いをしたりすることで、よく思われたいんじゃなくて……。

相原美紀

断ることで、悪く思われたくないだけなんだと、思う……。だから、断れないんだと、思うの。

相原美紀

そんなこと、考えているんだから……、わたしを便利に使ってる人に、どうこう言えるわけ、ないかな、って……。

相原先輩の言葉が、私の胸を刺す。ちくちくと。私が言わせた答えなのに。

なぜか、こみあげてくる。それを押しとどめてる。今度こそ、これは言っちゃいけないことだって。

でも……。

相原美紀

遠見さんの言ったこと、間違ってないと思うわ。でも、どうしても、引き受けてしまうの。断れないの……。

相原美紀

ほんとはね、時々、思ったりするの。

相原美紀

遠見さんが言ったことじゃなくて。なんで自分がってことじゃなくて。

相原美紀

わたしが、こういうこと、思って引き受けてるんだって、だれか、わかってくれないかなって……。

相原美紀

勝手なことなのにね。誰かに、自分のこういうところを、聞いてほしいなって、思うの。

相原美紀

ほめてほしいとか、間違ってるって言ってほしいとかじゃないの。ただね。

相原美紀

聞いてほしいなって、思ったりはするの。するんだけど、ね……。

遠見結奈

そんなこと……。

でも、ダメ。また、こらえきれない。

きっと相原先輩、私にこんなこと、言ってほしいわけじゃないのに。なにも、言ってほしいわけじゃないのに。わかってるんだけど。

遠見結奈

言わなきゃ、わかんないんです。自分が、どう思ってるか、なんて。他人が、どう思ってるか、なんて。

遠見結奈

言わないまま、言ってくれないまま、なんて、きっとどうにもなんないんです。

もうダメ、これ以上、ここにいたくない。相原先輩と話、していたくない。どんどん、自分がイヤになる。つらくなる。

相原美紀

あ……。

私は、プリントの山を抱え上げた。重い。すごく、重い。でも、歯を食いしばって持ち上げる。なんとか、なる、このくらい。

遠見結奈

言わないままでいるだけ、知ってしまった時に、つらくなるんだから……。

そうつぶやいて、私は、教室から出て行った。プリントの重みによろめきそうになるのを、こらえながら。

相原先輩だけを、そこに残して。

榎木サチ

あら、結奈さん。

ここは奥校舎の廊下。教室の前。ほんの10分前まで、結奈さんと美紀ちゃんが二人で冊子を作っていた教室の。

冊子を抱えて、一人で教室を出て行った結奈さんが、また、戻ってきていた。

気がかり、なのかしら、やっぱり。

榎木サチ

美紀ちゃんだったら、結奈さんの少し後に、出て行ったわよ。

遠見結奈

……そう、ですか……。

榎木サチ

後片付けも、きちんとしていったみたい。

遠見結奈

ええ……。

結奈さん、教室をのぞき込んで、移動させた机や、使った文房具が片付けられているのを確認したみたい。

あんなふうに教室を出て行ったのに、そういうところが気になって戻ってくるなんて。やっぱり、しっかりした子なのね。

あんなふうに。そう。

結奈さんと美紀ちゃん、二人の会話を、私は聞いていた。二人が少しずつ、心をのぞかせるような会話。

そして、先に教室を出て行った結奈さん。重い冊子の束を無理に抱えて。それでも、できるだけの早足で。

残っていた美紀ちゃんは、少しの間、座ったまま、考え込んでいたようだったけど、すぐに、後片付けを始めて、そして、星館校舎の方へ。

どちらも、言いたいことがすべて言えたわけじゃないのかも。そして、言ったことで心が軽くなったわけでもなく。

むしろ、結奈さんの方はいっそう、心が重くなったのかもしれない。教室の中をのぞいた後は、廊下の窓から外をながめて。

ただ、外へ視線を向けていて。

榎木サチ

結奈さん。

お邪魔にならないといいけど。私は、結奈さんの隣に立つ。結奈さんは、気付いていないわけじゃないと思うけど、なにも言わず、ずっと外を見たまま。

遠見結奈

………………。

名前を呼んでみたけど、返事はしてくれなくて。ただ、拒絶しているわけでもなさそうで。

どうしようかな。なにか、気の利いたこと、言ってあげられたらいいんだけど。

でも、思いつかない。だから、普通に。

榎木サチ

あんなこと、言いたかったわけじゃないのよね?

私も、ただ、思ったことを。

きっと、結奈さんは美紀ちゃんを責めたりしたかったわけじゃない。それは信じてるから。私も、結奈さんを責めるつもりはない。

ただ、私の言葉に答えてくれることで、結奈さんの胸のうちが少しでも、まとまればいいなって思って。

遠見結奈

……ええ。

結奈さんは、小さくうなずきながら、そう答えた。

遠見結奈

なんで、あんなこと、言っちゃったのかな……。あんなこと、先輩に言っても仕方ないのに……。

榎木サチ

そうかもね。でも、言わずにいられなかったのね。

遠見結奈

……そうかも。なんだか……、相原先輩見てたら……。

遠見結奈

なんでだろう……。

なんでかしらね。それは、私にもわからない。結奈さんの心も、今は後悔が強いみたい。

ああ、これは。美紀ちゃんもそうだった。結奈さんが出て行った後、一人、教室の中に残っていて。

その心の中も、後悔があったみたい。ただ。

美紀ちゃんは教室を出て行く時には、少し、それが晴れていた。結奈さんとの会話の中で、なにか見つけたみたいで。

二人して、言いたくない言葉を吐き出して。言いたくなかっただけに、それはお互いの心の中に深く踏み込んだみたい。

美紀ちゃんは、その中で、なにかを見つけ出せた。それじゃ、あなたは? 結奈さん。

なにか、見つけられそう?

榎木サチ

美紀ちゃんの気持ちもね。

榎木サチ

わかる気がするの。人に悪く思われたくないって、きっと、誰だって思ってることよね。

榎木サチ

そればかり気にして、自分を殺してしまうのは確かに、よくないことかもしれないけど……。

榎木サチ

そういう自分の弱さを認めて、それを受け入れて乗り越えることって、難しいことじゃないかしら。

榎木サチ

きっと、誰もができることではないんでしょうね。

遠見結奈

ええ……。

ね、きっとそう。そして、結奈さん、あなたもそれはわかってる。

でも、言わずにはいられなかった。どうして?そうね、きっと。

あなたにも、あるのよね。そういう部分が。

誰にだってある、弱い自分が。

榎木サチ

美紀ちゃん、結奈さんと話して、少しは気が楽になったのかも。

遠見結奈

え……?

榎木サチ

結奈さんの後、ここを出て行く時、少し、晴れ晴れとした顔になっていたわ。

遠見結奈

……どうして? 私、あんなこと、言ったのに……。

榎木サチ

そうね。でも、結奈さんの言葉に、美紀ちゃん、ちゃんと自分の言葉で答えていたわ。

榎木サチ

そうすることで、なにか整理がついたのかもしれないわね。

遠見結奈

……そうなのかな……。

榎木サチ

吐き出すことで、すっきりすることもあるのよ。

榎木サチ

結奈さんだって、きっとそう。

遠見結奈

私も……?

榎木サチ

ええ。

榎木サチ

言いたくても言えないから、心に溜まっていくのでしょう? 心が重くなっていくんでしょう?

榎木サチ

それを吐き出すだけで、少しは楽になるかもしれないわね。ね、私でよかったら聞いてあげましょうか?

遠見結奈

………………。

榎木サチ

もちろん、誰にも言わないわ。恵にも。

榎木サチ

私は幽霊だから、他の誰にも話せないしね。でも、聞くだけはできる。

榎木サチ

それで、結奈さんの心が少しでも軽くなるなら、聞かせてくれる?

遠見結奈

………………。

榎木サチ

もちろん、無理にとは言わないわ。言いたくなったらでいいの。聞いてほしくなったらで。

ずっと、わかってた。

あなたの心に、なにかがひっかかっていること。

それが、一人、屋上でお昼を食べていた理由なのかもしれないと。最初、お手伝いをお願いした時、気乗りしていなかった理由なのかもしれないと。

本当は……、もっとちがう結奈さんが、いるんじゃないかって。時々、垣間見えるあなたは、でもすぐに、押し込められてしまっているって。

本当のあなたは、表に出てくることにすごく、臆病になっているって。

よく、わかる。その気持ち。

怖いから。本当の自分を、出してしまうのは。

遠見結奈

……ありがと、サチさん。

遠見結奈

でも、今はいいです。

榎木サチ

……そう。

やっぱり、難しいかしら。

遠見結奈

でも……、言いたくなったら、お願いします。

榎木サチ

そう。

やっぱり、強い子ね、結奈さんは。

まだ、外を見続ける結奈さん。でも、その目は、さっきより少し、しっかりとしたものに戻っていて。

いつものように、なにかを押さえつけたものに戻っていたけど。

美紀ちゃんと話していた時の苦しそうな感じは、消えていて。今はそれでいいって決めていて。

榎木サチ

ちょっと、残念ね。でも、結奈さんらしいわ。

遠見結奈

らしい、ですか?

榎木サチ

ええ、しっかりしてるわねって、こと。

遠見結奈

そんなこと、ないです。話すことはないですけど、ずいぶん、楽になったかな。サチさんのおかげで。

榎木サチ

あら、そう?

遠見結奈

ええ。やっぱりサチさん、大人っぽいっていうのかな。落ち着いていて、安心できる感じ。

遠見結奈

だから、ちょっと話しただけで、私も落ち着けた感じ。

遠見結奈

時々、さすがだなって思う。

榎木サチ

さすが、ねぇ……。

少し、うれしい気もする。結奈さんにそう思われていたなんて。

うれしい、の、だけれど。

遠見結奈

それじゃ、私、今日はもう帰ります。

榎木サチ

そう? わかったわ。気をつけて、帰ってね。

遠見結奈

はい。それじゃ、また明日。

榎木サチ

ええ、また明日。

結奈さんは、軽く私に頭を下げた後、星館の方へと、歩いて行く。

その結奈さんを、私は見送って。

その姿が消えた後。

榎木サチ

大人っぽくて、落ち着いて、安心できる感じ、か……。

榎木サチ

立派に見られているんだな、私……。

榎木サチ

ほんとは……。

榎木サチ

未練がましく、臆病で、嘘ばっかりの幽霊なのに、ね……。

grpo

grpo_ef

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

okujou_no_yurirei-san/1304.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)