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okujou_no_yurirei-san:1208

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明日の土曜日で、6月も終わり。

幽霊になってから、カレンダーなんて気にすることはなくなったけど、この6月の最後の日だけは別。

この日は、私にとっても、恵にとっても、特別な日。

恵が幽霊になって、私の目の前に現れた日。私の、ひとりぼっちの幽霊生活が終わった日。

そして、愛しくてかわいい恋人ができた日だから。

まだ、梅雨は終わっていなかったけど、今日、空はよく晴れていて。

雲は少し多かったけど、夏のほんの少しだけ濁った空に、太陽が出ていた。きっと、気温も上がっているのだろう。

昼休みには、屋上にも久しぶりに、たくさんの子たちが上がってきていた。

そして、結奈さんも。久しぶりに屋上でお弁当を食べる結奈さんを恵と囲んでの会話。

榎木サチ

沙紗ちゃん、告白できたのかしらね。

それは、いちばん最近のお手伝いの成果。

いつも三人一緒にいる羽美ちゃん、沙紗ちゃん、音七ちゃん。

羽美ちゃんに告白したいと思っている沙紗ちゃんに訪れた絶好の機会。

結奈さんは見事、音七ちゃんを引き留めることに成功した。本人はなにもしなかったって謙遜してるけど、がんばってくれたのは確か。

おかげであの日、二人はひとつの傘の下、身を寄せ合って学校から出て行った。帰り道、どんな話ができたのだろう。学校から出ることのできない私にはわからないけど。

榎木サチ

でもきっと、できたんでしょうね。

週明けの月曜日に、沙紗ちゃんたち三人を見かけた。いつも通り、三人一緒だったけど。

沙紗ちゃんから感じる心には変化があった。それまでと同じ、羽美ちゃんへのときめきの中に、少し生まれていた安心感。

そして、これまで以上に、羽美ちゃんのことを気にしていた。羽美ちゃんがなにか話すたび、するたびに、沙紗ちゃんがそれを気にしているのがわかった。

そして。

羽美ちゃんの方にも、かすかな、恋心。沙紗ちゃんを意識しているのがわかった。

榎木サチ

うまくいくといいわね。

遠見結奈

……ええ。

結奈さんがお弁当を食べながら、短く答える。

ほんとに、この結奈さんはよく働いてくれると思う。

私たちみたいな幽霊のお願い事を聞いて。屋上で一人でお昼を食べていた女の子。こういうお手伝いみたいなことはしたくないと思っていたみたいだけど。

でも、手伝ってくれると言ってくれてからは、私たち以上によく考えて、そして動いてくれる。

結奈さん本人は気付いていない、いいえ、認めていないみたいだけど、お手伝いのためにいろいろ動いている時の結奈さんには確かに生気がある。

時折、それに気付いて、悩む……、いいえ、迷っている? 戸惑っている? 気持ちがゆれているみたいだけど。

それでも、一人だけでお昼を食べていたころには感じられなかった、心の動きがある。

それを見るのも、ちょっと楽しい。そして、なにが結奈さんを時々、そういうふうに揺らしているのか。ちょっと興味がある。

そのうち、話してくれるのかしら……。

榎木サチ

牧ちゃんと美紀ちゃんの方は……、ちょっとなにかあったみたいなの。

遠見結奈

そうなんですか?

榎木サチ

ええ、相変わらず、放課後は二人で一緒に、あちこちでお仕事してるみたいだけど……。

榎木サチ

最近はほとんど、休憩所に来ていないのよ。

遠見結奈

ケンカとか、したとか?

榎木サチ

そういう雰囲気の悪さじゃないんだけど……。困ったわね。

榎木サチ

桐ちゃんと月代先生の方もそうだし……、なかなかうまくいかないものね。

遠見結奈

ですね。

恋をした子がみんな、幸せな結末を迎えられるとは、私も思っていない。

実際に、相手に拒絶された子も今まではいた。友達のまま、変われなかった二人を見たこともある。

それでも。見ていることだけしかできなかった時と、今はちがう。

ほんの少し、背中を押してあげることができる。ほんの少し、勘違いを正してあげることができる。

今の私たちには、それを手伝ってくれる結奈さんがいる。

榎木サチ

それからね、もう一人、見つけたの。

遠見結奈

……また、ですか。

榎木サチ

ええ、女の子への恋心が生まれた子を見つけたの。

今度はちょっと変わった子。毎朝、ほんの少しの会話の中に、にじませていた気持ち。

榎木サチ

また、結奈さんと同じ学年ね。古場さんって言うの。知ってる?

遠見結奈

こば……? え……? え、ええ? ま、まさか、古場陽香!?

榎木サチ

あら、知り合いだったのね。お友達? そう、その古場陽香ちゃんよ。

遠見結奈

ええ……!? あ、あの子の好きな人って、女の人だったの……? え、でも、だって……。

榎木サチ

あら、もう知ってたのね。そうよ、毎朝、遅刻寸前で学校に駆け込んでくるのよ。

榎木サチ

門番をしている、風紀委員の子と、ほんの少しだけ、話すためにね。

榎木サチ

その時、確かに感じ取れたわ。

遠見結奈

はぁ……、そうなんだ……。

どうしたのかしら、結奈さん。陽香ちゃんは知り合いみたいだけど、そんなに驚いて。

まぁ、確かに、知り合いが女の子が好きだとわかったら、確かに驚くかも。でも、ちょっとちがうような……。

まぁ、そのへんは今、聞かなくてもいいかしら。

今日は、それよりも大事なことがあるのだから。

榎木サチ

それじゃ、今日はこのくらいにしておこうかしら。

榎木サチ

ねぇ、恵?

永谷恵

あ、はい、サチさん……。

会話をずっと、私と結奈さんにまかせて、恵はずっと、ほとんどなにも話さずに、ただ、私のことをうかがっていた。

時折、なにか言いたそうに。

そんな恵の態度の理由はわかっている。原因は、私。悪いのも、私。

ごめんなさいね、恵。ちゃんとあやまりたかった。そのために、ちょっとした贈り物をしてあげたかった。

榎木サチ

恵……。

私は、恵のそばにそっと寄って。

永谷恵

え……?

そして、抱きしめた。腕の中、感触はなにも伝わってこないけど、やさしく、包むように。

榎木サチ

ごめんね、恵……。

榎木サチ

気付いていなかったわけじゃないの。ちゃんと憶えていたわ。6月30日のこと。

永谷恵

あ……。

榎木サチ

私に、素敵な恋人ができた日のことよ。

永谷恵

あ……、サ、サチさぁん……。

私の腕の中、胸のうちに抱え込んだ恵の頭が揺れる。茶色がかってふわふわの髪が、揺れる。そして、声も。

榎木サチ

私、ちょっとはしゃぎすぎていたわね。結奈さんという新しい友達ができて。ええ、とても楽しかった。

榎木サチ

やっと、この学園の恋する子たちのために、いろいろしてあげられるんだって思ったら、楽しくて。結奈さんと一緒にお手伝いできるのが、うれしくて。

榎木サチ

でも……。

榎木サチ

そのことで、恵を不安にさせちゃったみたいね。明日のことも、今日までなにも言い出せなくて、ごめんね……。

永谷恵

サチさぁん……。

永谷恵

恵、サチさんがもしかしたら忘れてるんじゃないかって、ほんとに不安だったの……。

永谷恵

よかった……、憶えていてくれて……。ほんとに、よかったぁ……。

榎木サチ

許してね、恵。お詫びに、ちょっとした贈り物を用意してあるの。

永谷恵

え……?

榎木サチ

結奈さん、いいかしら。

遠見結奈

はい。どうぞ。

結奈さんが、お弁当の他にもう一つ、持ってきていた紙袋を開ける。

中から、二つ、透明なセルの包装紙に包まれて、リボンをかけられた。おいしそうに焼き上げられた、カップケーキ。黄色と茶色のまぜあわさったきれいな焼き色で。

永谷恵

え、これ……?

榎木サチ

結奈さんにお願いして、作ってもらったの。私はなにもできないけれど、あなたのために、なにか贈り物がしたくって。

永谷恵

ふぇ……、サチさぁん……。

榎木サチ

ほら、泣かないで。ねぇ、恵……、よろこんで、もらえる?

永谷恵

はい……。うれしい……、恵、とっても、うれしい……。

榎木サチ

よかった……。

涙をぽろぽろ流している恵の髪をなでるように手を動かしながら、私は結奈さんにお礼を言う。

榎木サチ

ありがとう、結奈さん。ごめんなさいね、私たち、せっかく作ってきてくれたのに、食べられないのだけど……。

遠見結奈

あ、いいえ。その、家に持って帰って、お供えしてから、食べますから。

榎木サチ

ええ、そうしてね。

お仏壇にでもあげるのかしら。私たち、そこにはいないんだけど……。でも、気持ちだけでももらっておくわね。

榎木サチ

今日は、放課後はなにもお手伝いはしてくれなくて、いいから。ゆっくりしてね。

遠見結奈

はい、そうします。

ええ、お願い。この週末だけは。

恵と二人きりで過ごしたいから。

そして。

お昼休みが終わって、結奈さんが教室に戻って。

午後の授業が始まって、終わって、放課後になって。

そして、この学校からみんな帰っていって、夜になるまで。

私と恵は、学校の中のあちこち、二人で一緒に行ける場所を、歩いて回った。

手をつないで、いろんな話をしながら。行く先々で、そこで二人で話したこと、したことの思い出を語り合いながら。

そして。

夜。昼間よりも少し、雲が増えているけど、その合間から星も見える。

私は、いつも結奈さんがお弁当を食べているベンチに座っていた。

私の膝の上には、恵が頭を乗せている。恵はベンチに横になって目を閉じ、私はこうして膝枕を。

こうして、恵の頭を膝の上に乗せていても、重みは感じられない。

ベンチに座っているのだって、ベンチの上に、そういうふうに体を乗せているだけ。

時折、恵の髪を梳いてやったり、頭をなでてあげたり、肩に手を置いてみたり。

それだって、手に感触が伝わってくるわけではない。恵の髪に、頭に、肩に、そういうふうに手を置いて、指を動かしているだけ。なのだけど。

それでも、確かに伝わってくる。恵の体温が、ぬくもりが、ふわふわの髪の感触が。

そんな気がする。お互いに触れ合うことはできない、ただ、そういうふうに体を重ね合わせるだけの幽霊同士でも。

榎木サチ

恵……?

かすかな寝息が聞こえてくる。寝ているのかしら。

榎木サチ

いっぱい、歩き回ったものね……。

でも、この体は幽霊だから。疲れは感じない。感じないはずなのに、どこか、充実した気分と、今だけはゆっくりとしていたいという気持ちが残っている。

恵も……、そういう気持ちなのだろうか。それとも、私が押しつけてしまった不安が少しは晴れてくれたのだろうか。それで、安心してくれたのだろうか。

榎木サチ

恵……。

もう一度、名前を呼んでみる。かわいい、私の大好きな恋人。

榎木サチ

ごめんなさいね……。

不安にさせて。

結奈さんが現れたおかげで、ずっと停滞したままだった私たちにも、変化が訪れた。

ただ、この学園がうつろう様子を眺めるだけだった二人の時間に、確かな変化が。

私は、それがうれしかった。新しい友人と、なにもできなかった日々から、なにかができる日々に変わったこと。

結奈さんと一緒にお手伝いを始めてから、毎日が楽しかった。

榎木サチ

気付いてあげられなくて……。

でも、恵はその中に不安も覚えていたんだろう。元気がなかったあなたに、気付くのが遅れて、ごめんね。

榎木サチ

あの日、あなたが私と同じ、幽霊になって現れた日……。

榎木サチ

私、本当に驚いたのよ……。そして、初めて交わした言葉にも……。

うれしかった。今でも憶えている。

屋上で、ほんの一瞬だけ、視線が合うだけの子だったのに。

いきなり幽霊になって現れて、そして、私に告白して。

榎木サチ

好きって言ってくれたのよね……。

私はそれを受け入れた。そして、その後、一緒に過ごすようになって、どんどん恵が好きになっていった。

かわいくて、少し焼き餅焼きで、いつも一生懸命、私を好きになってくれる。私に好かれたいとがんばってくれる。

そんなところが、かわいくて、そして、いとおしくて。

私の膝の上で眠る恵。

いつまでも、こうしていたい。ずっとこのままでもいい。でも。

もっと触れ合いたい。もっと確かに、あなたに触れられたらいいのに。この指にしっかりと残る確かさで。

あなたは、こんなにも私を好きでいてくれるのだから。

こんなにも、私に憧れてくれるのだから。

こんなにも、心預けてくれるのだから。

榎木サチ

恵……。

いとおしい。私の、恋人。

もっと、あなたに好きと言いたい。好きと伝えたい。あなたにとって、素敵な恋人でいたい。

でも。

榎木サチ

ごめんね、恵……。私、嘘、ばっかりだ……。

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okujou_no_yurirei-san/1208.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)