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okujou_no_yurirei-san:1206

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もうすぐ、あの日が来る。

6月の最後の日。

サチさんと初めて、話した日。そして、告白した日。

サチさんもわたしのことを好きだと言ってくれた日。サチさんと恋人同士になれた日。

それは……。

わたしが死んだ、日。

サチさんに会ったのは、城女に入学してからすぐのことだった。忘れもしない、4月9日。

学校の中をいろいろ歩き回っていた私は、いい天気だったし、その日の昼休み、屋上へと行ってみた。

サチさんはそこにいた。すぐにわかった。だって、一人だけ制服がちがう。黒のセーラー服。長い髪とあわせて、とても印象的で。

屋上の隅、フェンスに背中をあずけて立っていた。なにしてるふうでもなく、ただ、屋上の様子を見ていただけみたい。

屋上に入ってきたわたしに、一瞬だけ、視線を向けて……、また、屋上全体に目を戻して。

でも、その一瞬だけで。

なんだか、わたしの胸はいっぱいになってしまって。頬がかぁっと熱くなって。頭の中がすごいぐるぐると回り出して。

それは、一目惚れだった。

一人だけ、制服のちがう、黒くきれいな長い髪の、大人っぽい、たぶん、先輩。名前もクラスも知らないのに。

どうしよう、なにも考えられない状態になって、もう一度、その人のいるところへ目を向けてみれば。

もう、その人はいなかった。頭の中がグルグルになっていたのは、ほんの一瞬だったと思ったのに、その人はもう、どこにもいなかった。屋上にも。

その日からわたしは、その人にもう一度会うためだけに、学校に通った。がんばって。

昼休みや、少し学校に残れる日には、放課後にも、屋上に行った。

いつでも会えるわけじゃなかった。週に、二度か三度くらい。屋上に入った瞬間、一瞬だけ。その一瞬だけ、入ってきた私に、視線を向けてくれる。

その一瞬、胸が熱くなって、頬が赤くなる。その一瞬が、大好きで。

でも、会えるのはその一瞬だけ。すぐにその人はいなくなってしまう。その人がいた場所には誰もいなくなる。消えるように、いなくなる。

晴れた日の屋上、青い空の下で、すごく目立つ黒のセーラー服。たった一人だけちがう制服。

でも、誰も、他の屋上にいる人、誰も、その人には気付かない。

4月が終わるころ、ようやくわたしは気付いた。

ああ、わたしが見てる人は幽霊なんだなって。

わたしにしか見えない人なんだなって。わたしでも、一瞬しか見えない人なんだなって。

そう、わかった時、でも、わたしは怖くなかった。他の誰にも見えない、わたしだけが知っている人。すごくきれいな、人。

むしろ、うれしかった。

もっと、たくさん見れたらいいのに。会えたらいいのに。

あの人と話すことができたらいいのに。話がしてみたい。なにを? そんなの考えてない。

でも、あの素敵な人、きれいな人、とても、憧れる人。あの人と話がしてみたい。そう思って。

わたしはもっとがんばって学校に通った。毎日、何度も、屋上に行った。

会えるのは一瞬だけ。あの人の姿が見えたところに座ってみても、誰もいない。

声をかけてみようか、でも、なにを話したらいいかわからなくて、ただ、そこに座っているだけ。

そんなことの繰り返しでも、とても楽しかった。

でも。

そんな楽しい毎日は、長く続いてくれなかった。

もともと、わたしは体が弱かった。

小学校、中学校とも、半分も学校に通ったことがないほど。

15まで生きていられたらいいなんてことを、両親や親戚の人が話しているのを、こっそり聞いてしまったこともある。

城女に入ってから、あの人に会うために、わたしはがんばった。ちょっと熱があってもごまかして、学校に通った。

あの人に会えるのがうれしいから、会える一瞬が楽しいから、毎日、がんばって学校に行くわたしを、パパとママも心配しながら喜んでくれたけど。

でも。

やっぱり、私の体は、私の気持ちほど、がんばってはくれなくて。

なんてことない、ただの風邪だった。梅雨に入って、暑くなったり寒くなったりが繰り返す、季節の変わり目にひく、ただの風邪。

普通の人なら、二、三日も寝込めば治ってしまうような風邪でも、わたしの体はそういうわけもいかなくて。

熱がひかないうちに、肺炎に変わって、わたしは入院した。そして、起き上がることもできないまま。

泣きながら励ましてくれるママの顔を見たのが、最後の記憶。その時も、ママの顔を見ながら、学校に行きたいなって考えてた。あの人に会いたいなって、考えてた。

その後、そのまま眠ったまま、わたしは死んでしまった。

ママがどんだけ泣いたか、パパがどんだけ悲しんでくれたか、わからない。自分のお葬式の様子も。

気が付いたら、わたしは、学校の屋上にいたのだから。

そして、目の前に。

あの人がいた。いつもよりはっきりと見えて。そして、いつものように、屋上に現れたわたしに、視線を向けてくれて。

そして、すごいびっくりした顔をした。

一秒、二秒、時間がたっても、姿が消えない。ずっとそこにいてくれる。

わたしは、もう、たまらなくなって、まっすぐその人のところへ走っていった。

永谷恵

あ、あの……!

ああ、声が出る。今なら、話すことができる。

「え、ええ……。あ、あなた……?」

永谷恵

あ、あの、わたし……!

ああ、声も聞こえる。想像したとおり、大人っぽくてきれいな声。そして、わたしの声も届いてる!

なにを話そう、どんなことを話そう。いろいろ夢見て考えてたことはあったけど。

いちばん最初に伝えたいことは、一つだった。

永谷恵

わたし……、あなたが好きです!

「………………」

少しの間、その人はまだびっくりしたままの顔で、固まっていた。

もちろん、わたしは、自分の名前さえその人に伝えてないなんて気付いていなかった。

ただ、伝えたかった。初めて会った時に感じた気持ち、それを言葉にして伝えたかった。

「………………」

その人は、もう少しだけ、びっくりした顔を続けていたけど。

「………………」

わたしを見つめたまま、優しく微笑んでくれて、そして。

「ありがとう」

そう、答えてくれた。

それは、今から30年くらい前の6月30日。

わたしは、自分が幽霊になったことも、まだよくわかっていないまま告白し、その後、お互いのこと、ちゃんと話をして、それ以外にもいろんな話をして。

この屋上でずっと、サチさんと一緒に過ごしてきた。

永谷恵

ずっと、二人っきりだったんだけどな……。

屋上には誰もいない。今日は雨だから。昼休みも、放課後の今も、誰も出てこない。

サチさんも、いない。

永谷恵

……つまんない。

わたしはそうつぶやいて、屋上への入り口についている小さな庇から出る。

永谷恵

雨、かぁ……。

あの時はどうしていたっけな。サチさんに会うためにがんばって学校に来ていた時。

さすがに傘を差してまで屋上に出るわけにもいかなかったから、入り口からちょっとだけのぞいて帰っていたっけな。

雨の日は、さすがにサチさんの姿も見れなかったし。

今は、雨も関係ない。雨はこの体をすり抜けていく。暑さも寒さも、感じることはない。

濡れるわけじゃないから、こうして雨の屋上を歩いても問題ない。あくまで気分的なもの。こうして、鬱陶しく感じるのも、憂鬱に思えるのも。

永谷恵

もうすぐ、かぁ……。

もうすぐ、6月が終わる。6月の30日が来る。

永谷恵

サチさん、憶えていてくれてるのかなぁ……。

わたしの記念日。サチさんと話せるようになった日、告白した日。幽霊になって、サチさんとずっと一緒にいられるようになった日。

忘れられているとは思わないけど、こうして、放課後、すれ違うように一緒にいられない時間が増えていることが、わたしを不安にさせる。

理由はわかってる。結奈が、現れたから。

サチさんとわたしの姿が見えて、話すことができる人。幽霊じゃなくて、生きている人。

結奈が現れたおかげで、サチさんはずっと、かなえたくてもできなかったことが、できるようになった。

気持ちを伝えたくてもできない女の子の、お手伝いをすること。

そして、その恋をかなえてあげること。

そして、女の子同士のカップルが、この学校にいっぱいになれば。

誰かが、わたしたちに教えてくれるかもしれない。女の子同士で愛し合う方法を。

でも、そのために……。

永谷恵

最近、なんか忙しくなっちゃったなぁ……。

サチさんが毎日、うれしそうなのはいいんだけど。でも、うれしそうに結奈と話しているのは。

永谷恵

はぁ……。

誰もいない、サチさんもいない屋上から、下を見下ろす。

永谷恵

あ……、結奈だ……。

永谷恵

結奈。

遠見結奈

え? め、恵!? びっくりした。

そうよ、びっくりさせるために、帰ろうとするあんたに背中から声をかけたんだもん。

正門から出るとこ、ギリギリ。わたしは学校の外には出られないから。ここが、ギリギリ。

永谷恵

なによ、驚いちゃって。失礼ね。

遠見結奈

背中から声をかけられたら、傘も差してない人がいるのよ、びっくりするわよ。

そのつもりだったんだってば。

遠見結奈

そうやって雨の中、傘も差さずにいると、幽霊っぽく見えるわね。

幽霊よ、正真正銘の。

永谷恵

帰るとこ?

遠見結奈

ええ。今日は特にすることもないし。

実は、ここのとこ、いろいろみんな、問題が出ているんだけど。

梅雨で雨が多くて、あまり情報交換もできないしってことで、具体的な作戦が練られず、サチさんは結奈になにもお願いできずにいた。

永谷恵

そ。

遠見結奈

なに? なにか用?

永谷恵

べっつに~。結奈が帰るとこが見えたから、ちょっと声かけただけだもん。

遠見結奈

そう。

結奈。わたしとサチさんとの間にいきなり現れた人。

去年からずっと、屋上でお弁当を食べていたのは、わたしもサチさんも知っていた。でも、それだけだったから別に、気にもしていなかった。

5月の連休明けのあの日も、ただの暇つぶしだった。わたしとサチさんのいつもの遊び。からかうつもりもなかった。どうせ、声聞こえてるわけないんだから。

そう思っていたのに。

結奈は、なぜか、わたしたちの声を聞き、その姿を見て、驚いた。わたしたちも驚いた。そんな人がいるなんて思ってもみなかったから。

サチさんと二人で、もし、そういう人がいたのなら、と話していたことはあったけど。もしいたら、どういうことをお願いしようか、とか。

でも、どうせ現れるわけない、そう思ってたんだけど。

結奈は、聞こえてしまった。見えてしまった。そして、わたしとサチさんの間に入ってきた。

サチさんは、やっと長い間、考えていたことができて、うれしそう。わたしも、サチさんがうれしいならと思う。でも。

結奈の存在に、わたしはあせる、苛立つ。

同性愛のこと、よくわからないと言ってた。恋愛自体、したことないからわからないって。

それはいい。サチさんのこと、わたしとサチさんの関係、悪く思ってないなら、いい。でも。

わからないってことは、もし、わかっちゃったら? サチさんのこと、好きになったりしない?

サチさんの素敵なところに、好きになっちゃったりしない?

ちょっと無愛想っていうか、人に余計なことするの、嫌ってるみたいだけど、頭いいし、要領いいみたいだし、友達もいることはいるみたい。

お手伝いも、ちゃんとしてくれる。結奈がわたしたちの間に入ってきてから、牧ちゃん、沙紗さん、桐さんと、立て続けに見つかって、それの手助けをしている。

サチさん、それがうれしいみたい。結奈と一緒にお手伝いするのが、とても楽しいみたい。

もしかしたら、わたしの大事な日のこと、忘れちゃってるのかもしれないくらい……。

結奈が、来てから……。

遠見結奈

わざわざ、見送りに来てくれたってわけ? 暇つぶしに。はいはい、ありがと。

もし、結奈がサチさんのこと、好きになっちゃったら……。ううん、ちがう、そんなのどうでもいい。

遠見結奈

じゃぁね。また明日。

もし、サチさんが結奈のこと、好きになっちゃったら……。

永谷恵

…………から。

遠見結奈

え? なに? なにか言った?

永谷恵

許さないから……。

遠見結奈

は?

永谷恵

サチさんとわたしの間に入ってきたら許さないから……。

永谷恵

サチさんのこと、好きになったら許さないから……! サチさんに好かれたりしたら、許さないから……!

永谷恵

もし、そんなことしたら……。

永谷恵

絶対に、呪ってやるから……!

遠見結奈

ちょ、ちょっと待ってよ! なに言ってるのよ!

わかってる、自分でも。

こんなこと、今、結奈に言ったって仕方ないってことくらい。

遠見結奈

あのさ、前にも言ったでしょ? 私、よくわかんないの、そういうこと。

遠見結奈

サチさん、いい人だと思うけど、そういうふうに思ったことないのよ。第一、あなたの恋人なんでしょ?

遠見結奈

変な勘違いで呪ってこないでよ、お願いだから。

永谷恵

そうよ、サチさんは、恵の恋人なのよ。

永谷恵

わたしの、いちばん大切な人なのよ。

遠見結奈

だから、わかってるってば……。

永谷恵

あのね、結奈……。

永谷恵

わたし、サチさんに告白するために、サチさんの恋人になりたくて、幽霊になったのよ。

遠見結奈

……え?

永谷恵

わたし、屋上でサチさんを見たことがあるの、生きている時。

永谷恵

一目見て、サチさんのことが好きになったの。サチさんに会うために、毎日、ここに通っていたんだから。

永谷恵

でもね……、わたし、体が弱くて、学校通うのに無理したから、死んじゃったのよ。

永谷恵

でも、そのおかげで、幽霊になれた。サチさんに、告白できた。サチさんに好きになってもらえたの。

遠見結奈

………………。

永谷恵

サチさんも、このこと、知ってるわ。ちゃんと話したもの、わたし。

永谷恵

だから、もしかしたら……。

永谷恵

サチさんは、わたしが死んだ原因が自分にあると思ってるかもしれない。わたしが無理して死んだのが、自分のせいだと思ってるかもしれない。

なんで……、なんで、こんなこと、結奈に話しているんだろう、わたし。

永谷恵

わたしと会うまでのサチさんのこと、わたしは知らない。なんでサチさんが幽霊になったのかも、知らない。

永谷恵

もしかしたらって、思う。もしかして、サチさんもわたしみたいに、好きな誰かに好きって伝えたかったから幽霊になったんじゃないかって。

永谷恵

でも……、わたしは知らない。そんなこと……。

永谷恵

どうだって、いい。サチさんがわたしのこと、好きでいてくれるなら。恵のこと、好きって言ってくれるなら。

永谷恵

それでいい。わたしは、サチさんと一緒にいたいんだもの……!

ずっと思ってたこと。胸の中に隠したままでいたこと。サチさんには聞けなかったこと、言えなかったこと。

それを、なんで今、結奈に話しちゃっているんだろう。でも……。

誰かに言いたかったのかもしれない。サチさん以外の誰かに。

わたしが、こんなにもサチさんが好きだって。

永谷恵

サチさんがわたしに悪いと思っていても、それでも。

永谷恵

それでわたしと一緒にいてくれるなら、それでいい。それで、わたしのこと、好きでいてくれるなら。

たとえ、サチさんが誰を想っていても。

それでも、わたしのこと、好きでいてくれるなら。一緒にいてくれるなら。

永谷恵

サチさん、誰かと心も体も一つになれれば、思い残すことなく、成仏できるって言ってるでしょ?

遠見結奈

あ、う、うん……。言ってたわね、そんなこと。

永谷恵

うん、サチさんはそう信じてる。そのために、結奈に協力してもらってる。

永谷恵

ねぇ、もし、そうなったら。この後、いろいろうまくいって、わたしとサチさん、素敵な初体験、できたなら。

永谷恵

それで、サチさん、成仏するのかな? もし、サチさんの中に、わたし以外の誰かがいても、できるのかな?

遠見結奈

え……? そ、そんなこと……、わからないわよ。

永谷恵

でもね、結奈。

永谷恵

もし、誰かがサチさんの中に残っていて、それで、サチさん、成仏できなかったとしても……。

永谷恵

その時、わたしだけが成仏したりはしないのよ、きっと。

永谷恵

だって……。

永谷恵

わたしの願いは、サチさんとずっと一緒にいることだもの。

それだけ。サチさんと初体験、することに憧れはある。そうなったらどんなにいいかって思ってる。でも。

永谷恵

もし、サチさんがわたしと初体験して、それで成仏するなら、わたしも一緒に行く。できなかったら、わたしも一緒にここに残る。

永谷恵

わたし、ずっとサチさんのそばにいたいの。ずっと一緒にいたいの……。

これはきっと、裏切りなんかじゃない。わたしはサチさんをだましてなんかいない。

サチさんと一緒にいたいから、サチさんのために、お手伝いをしてる。ずっと、一緒。一緒に初体験して、その後も、ずっと、一緒に。

それだけを、願っている。

永谷恵

……はぁ。なんか、すっきりしちゃった。

遠見結奈

はぁ? ちょっと待ってよ、話すだけ話しておいて……。

永谷恵

そういうわけだから、あんたもしっかり、お手伝い頼むわよ。サチさんとわたしのために。

遠見結奈

な、なによもう……。

永谷恵

それから、このこと、サチさんに言ったら呪うから。あと、サチさん好きになっても呪う。

遠見結奈

……もういいわよ。別に話したりもしないから。

遠見結奈

お手伝いだって、できることなら、ちゃんとやるわ。それでいいでしょ?

永谷恵

うん、それでいいのよ。

ほんと、なんかすっとしちゃった。

幽霊になってからずっと、サチさんだけが話し相手だった。それはとても素敵なことなんだけど。

言えないことも、気になっていることも、少しずつたまっていたみたい。よかった、それを話せる相手がいて。

永谷恵

……どうしたの? 帰るんでしょ? さっさと帰ったら?

遠見結奈

あなたが声かけて、勝手に話していたんじゃない!

永谷恵

そんなこと知らなーい。じゃぁね、わたし、サチさんのとこ、行くから。

あはは、すっごいなにか言いたそうな顔してる、結奈。でも、それをながめると今度は怒り出しそう。

そんなのめんどくさいから、わたしは結奈に手を振って、屋上へ向かう。

たぶん、結奈は話さないって言ったら、きっとサチさんにも今のこと、黙っているだろう。お手伝いだって今まで通りやってくれるにちがいない。

そういうまじめさはある感じ。うん、そう考えると、結奈ってけっこう便利なのね。

……なんだったのよ、もう。

好きなだけ話していったかと思ったら、みょうに明るくなって、恵は行ってしまった。

ふわふわと屋上に向かって飛んでいく恵を見ながら、私は、すぐに帰る気にもちょっとなれず、その場で立ち尽くした。

思いがけず、聞いてしまった恵のこと。そして、あの、想い。

なんだろう、あれ……。

恵があんなにサチさんのこと、強く想ってるとは思わなかった。あんなにも、強く。

ちょっと怖いと感じるほど、あの子の言葉は強く、そして……、一途って言えばいいんだろうか。

あの子の死んだ理由、そしてそれをサチさんも知っているということ。

恵は、サチさんが恵の死の責任を感じているかもしれない、それで自分を好きでいてくれるかもしれない、でも、それでもいいって言った。

それでも、サチさんと一緒にいたいって。

どうなんだろう、そんなこと、考えられるのかな。そうまでして、一緒にいたいって思えるのかな。

まるで、自分に言い聞かせているみたいだった。そうでもいい、それでもいいって。

サチさんに言えないこと、吐き出しているみたいだった。そうだよね、あんなこと、言えるわけ、ない。

ずっと誰かに言いたかったのかな。だから、言い終わった後、あんなふうにみょうにすっきりとした顔、してたのかな。

うん……、正直、恵のこと、もっと子供っぽいと思っていた。

私に嫉妬してきたり、脅しかけてきたり、サチさんにいっつもベタベタひっついていたりしてたから。

でも、今さっきまでの恵は、私よりもずっと……、ううん、大人とかそう言うんじゃない。

私の知らない、感情を秘めていた。サチさんとずっと一緒にいたい、ただそれだけの強い想い。

あれが、もしかしたら、あの子の恋なのかな。そんなふうに思った。

遠見結奈

うん……、まぁ、お手伝いには協力しよう、今まで通り。

成り行きというか、巻き込まれただけのこのお手伝い。でも、今さら協力を断る理由もない。

それに、恵のこと。たぶん、成り行きみたいであんなこと、私に話したと思う。でも。

それを聞いちゃったからには、あの子の想いもちゃんとサチさんに届いてほしい。そう、思う。

サチさんがどう思っているのか、知らない。恵の想いがサチさんにどう伝わるのかも。

他人への気持ち、想いが、かならずしも、相手にうまく伝わるとは限らないもの。私は知ってる。

でも、恵の想いは、ちゃんとサチさんに伝わったらいいな、そう思う。

遠見結奈

……まぁ、八つ当たりで呪われても困るし……。

さて、そろそろほんとに帰ろうか、そう思った時だった。

榎木サチ

結奈さん。

遠見結奈

あ……、サ、サチさん。

榎木サチ

帰るところ?

遠見結奈

え、ええ……。

サチさんも傘も差さずに雨の中。ほんと、幽霊って便利なんだなと思うけど、ちょっと調子が狂う。

サチさん、正門のすぐ内側で立ち尽くしていた私の傘の中にすっと入ってきて。

榎木サチ

ごめんなさいね。濡れるわけじゃないんだけど、傘も差さないで外にいるのは落ち着かなくて。

あ、やっぱりそういうものなんだ。

榎木サチ

さっきまで、恵となにか話していたの?

遠見結奈

あ、え、ええと……。

見てたのかな? でも、さっきのことなんて、サチさんには言えないし……。

どう答えようかと思ったけど。

榎木サチ

あ、いいの。それを聞きたかったから声をかけたわけじゃないのよ。

遠見結奈

あ、はい……。

榎木サチ

あのね、ちょっとお願いがあるの、結奈さんに。これは、お手伝いとは関係のないことなんだけど……。

そう言って、サチさんは私に、そのお願いを切り出した。

榎木サチ

恵には、内緒でね。

そう付け加えて。

そのお願いは、私にとっては簡単なことだった。ちょっとした時間と手間、問題にならないくらいの材料だけ。

榎木サチ

ありがとう、結奈さん。

私がそれを引き受けると、サチさんはそうお礼を言ってくれて、そして、笑った。

その顔はいつもと同じように、大人っぽく、優しげで、そして、楽しそうでうれしそうで。

恵にも見せてあげたい顔だった。

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okujou_no_yurirei-san/1206.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)