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okujou_no_yurirei-san:1103

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週が明けて、月曜日。

いつもと同じ時間に、学校へと着いた私を、百合霊の二人が、正門のすぐ内側で出迎えてくれた。

遠見結奈

どうしたんです、二人とも。

永谷恵

やっと来た! 遅いのよ!

遠見結奈

いつも通りよ。

榎木サチ

おはよう、結奈さん。早速だけど、報告したいことがあるの。

そう切り出してきたサチさんの話では。

私が学校に着く少し前に、放送部の三人が登校してきたとのこと。

その時、三人が話していたことから、どうやら、今日の放課後、その三人がお昼の番組での企画コーナーのために、陸上部の部長にインタビューに行くらしい。

陸上部の部長は三年生。つまり……。

遠見結奈

え、あの三人が、奥校舎に来るんですか?

永谷恵

教室でやるって言ってたから、間違いないわ。三年生の教室は奥校舎にあるもの。

遠見結奈

え、それって……。

永谷恵

そう! サチさん大活躍のチャンスなのよ!

ちょっとちがうでしょ。でも、確かに、あの三人が奥校舎に来てくれれば、サチさんが近づける。

そこで、サチさんに恋心を読み取ってもらえれば、あの三人の中で……。

遠見結奈

ん? 三人?

榎木サチ

ええ、そうなのよ……。

確か、サチさん、三人以上だとこんがらがってうまく読み取れないって言ってなかった?

永谷恵

大丈夫! サチさんならきっとできますよぅ!

榎木サチ

恵が応援してくれるのはとてもうれしいんだけどね……。

遠見結奈

ん……、確実に行くなら、三人のうち誰か一人を引き離しておくべきですよね。

遠見結奈

そうすれば、二人のうちどちらかが当たりなら、サチさんがわかるわけだし。

永谷恵

もし、どっちからも恋心出てなかったらどうするのよ!

遠見結奈

その時は、そこにいなかった人が当たりになるでしょ。

永谷恵

……あ、そっか。

遠見結奈

ん……、なんとかして、奥校舎に行くのは二人にしないとダメね。なんとかして……。

永谷恵

インタビューは放課後だって。

遠見結奈

わかった。考えてみます。

考えてみますと言ったものの。考えてみたものの。

あの三人を、しかも部活動の最中に、一人だけ引き離す方法なんて、簡単に思いつくはずもなかった。考えても考えても、よいアイデアは出てこない。

どうしよう、なにか、考えないと……!

阿野藤

あ、結奈だぁ! おっはよー!

うわ、すっごい脳天気な声が響いた。煮詰まっていた頭が一瞬で空っぽになるような。

遠見結奈

おはよ、阿野。

阿野藤

おはよー!

顔を上げれば、親指立てて決めている阿野が、私の目の前に立っていた。

遠見結奈

えっと、今来たの? ちがう? カバン持ってないわよね。まさか、今日はカバン忘れてきたの?

阿野藤

あはは! まっさかぁ、いくらなんでもそんなことあるわけないじゃん!

ありそうなの、あなたの場合。

阿野藤

今日はちょっと早く来てね。ちょっくら遊んできてたんですよ!

遠見結奈

それはわかったけど……。

おかしい、ちょっとおかしい、阿野。

遠見結奈

なんなの、そのテンションは。

阿野藤

クライマックスです! 実は、昨日は寝てません!

遠見結奈

そうなの……。

阿野藤

朝まで徹ゲーとDVD見てました!

遠見結奈

もう……、なにしてるのよ……。

阿野藤

エンジョイしてた! マンキツライフ! 漫画喫茶と満喫をかけてみました!

うわぁ、これはヒドい……。

阿野藤

おかげで今日は、いまのところ、忘れ物はありません!

遠見結奈

ほんとでしょうねぇ?

阿野藤

たぶん!

はぁ……、なんか、相手するの、疲れる。いや、阿野の相手より、考え事をまとめないと……。

阿野藤

そして、今日も朝は電車で放送部ご一行様と一緒でした!

遠見結奈

あ、そう……。え、放送部? あの三人?

阿野藤

Yes!

阿野藤

ねなっちとハイテンション&ローテンションのかみ合わないトークが花盛り!

そりゃ噛み合わないわよ。いや、それよりも放送部……。

阿野藤

あーっと、ここで忘れ物発覚! ねなに貸すDVD、渡し忘れて来ちゃったぁ!

阿野藤

ん、今ならきっとセーフ! 30分ルール適用! ちょっと渡してくるね!

遠見結奈

三山さんと会う!? DVDを渡しに!?

遠見結奈

ちょ、ちょっと待って阿野!

阿野藤

おーっとここで……、ってこのネタはさすがに古いかー! なに、結奈。

遠見結奈

そ、それ、私が三山さんに渡してあげようか?

阿野藤

お? 結奈が? なんで?

遠見結奈

あ、その、今、渡しに行くとすれ違うかもしれないでしょ?

阿野藤

ほうほう。

遠見結奈

休み時間もほら、移動とかいろいろあるし、昼休みはお弁当で……。

阿野藤

うんうん。

遠見結奈

放課後なら、私、三山さんの居場所、わかるから! その、放課後まで私が預かって……。

阿野藤

………………。

もう、ここまでで気付いていた。なにを言ってるんだ、私は。なんかもう、まるっきり支離滅裂なこと言ってるじゃない……。

これじゃ、まるで阿野からDVDだまし取ろうとしているみたい。

阿野は阿野で、さっきから同じポーズと表情のまま、固まってるし。なんかやめて、それ。

遠見結奈

はぁ……。

ダメだ。なにか他の方法、考えよう……。

遠見結奈

ごめん、阿野、今の忘れて。

阿野藤

………………。

阿野はまだ、固まったまま。なんか言ってよ。

阿野藤

………………ふむ。

遠見結奈

阿野……、あのね……? ごめんね、ちょっと私、混乱してて……。

阿野藤

あいや、わかった!

遠見結奈

は?

阿野藤

んじゃ、間をとって、このDVDは放課後、ねなに渡すことにするね!

遠見結奈

え……?

なんで? どういう結論、それ。どこの間をとったの?

阿野藤

結奈、あたしが忘れないように、ちゃんと放課後、声かけて教えてね? たのんだぜ、ブラザー!

え、えっと、それはいいんだけど。あと、ブラザーじゃない。

遠見結奈

えっと、阿野……? なんで?

まったく、阿野の考えてることがわからない。どうして、今ので私の言ったこと、聞いてくれるの?

阿野藤

だって、結奈、そうしてほしいって顔、してるから。

まじめな声で。

さっきからずっとの、顔で、ポーズで、笑ったままのサムズアップで。うん、怖いから、それでその声は。そんな声。

でも。

遠見結奈

ありがと、阿野。

阿野藤

やだなぁ、あの、ありがとなんて言わないでよ!

あ、声が戻った。

阿野藤

だって、あたしら友達じゃん! おっとこれは、うみの持ちネタだったぁー!

はぁ、ダメだ、今日のこの子。

でも、助かった。なんとかなるかもしれない。阿野がどうして、私のメチャクチャ、聞いてくれたのかは謎だけど、ほんとに助かった。

昼休み。

屋上でお弁当を食べながら、サチさんたちに、とりあえず報告しておいた。

放課後、サチさんには、奥校舎の入り口で待機していてほしい、なんとか、放送部のうち一人を引き留めておくから、後はお願いって。

サチさんに了解してもらって、教室に戻ってきてみたら。

遠見結奈

あ、比奈。

狛野比奈

結奈ねぇ。

比奈が私の教室に来ていた。

なにやら、クラスメイトに囲まれている。阿野の前の席を借りて座ってるところをみると、阿野が相手をしてくれてたんだろうけど……。

阿野藤

zzz……。

阿野、寝てるし。

そして、比奈は、クラスメイトたちから、余ったお弁当のおかずをお裾分けしてもらっているらしい。なにこれ、まるで食べ盛りの子犬にエサをあげてるみたいな。

「ヒナちゃんって、遠見さんの幼なじみだったんだねー、知らなかった」

ああ、そうか。陸上部の子、いるものね。そのへんからかな。

比奈、かわいいし、確かに子犬みたいで、ご飯あげればなんでも食べるから、おもしろがられちゃったのかな……。

遠見結奈

………………。

狛野比奈

結奈ねぇ?

遠見結奈

あ、うん、ごめん。

……なんだろう、これ。お気に入りの人形を、勝手に他の子に遊ばれた気分。いやいや、比奈は人形じゃないでしょ。なに考えてんだ、私は。

遠見結奈

どうしたの? なにか用があった?

狛野比奈

ん、ちょっと前を通ったから、お弁当箱、返しておこうと思って。

遠見結奈

ああ、そうだったの。わざわざありがとうね、比奈。

狛野比奈

ん。

「へー、遠見さん、ヒナちゃんのお弁当作ってるんだー」

そう言いながら、クラスメイトのみんなが比奈を解放してくれる。

遠見結奈

なんか、いっぱいご馳走になってたみたいね。

狛野比奈

ん。でも、結奈ねぇのお弁当の方がおいしかった。

遠見結奈

今そういうこと、言っちゃダメ。ちゃんとお礼、言った?

狛野比奈

ん。

狛野比奈

結奈ねぇ。

遠見結奈

なに?

狛野比奈

アノちゃんが、勉強会の日、水曜日がいいって。

遠見結奈

水曜日? 21日ね。うん、問題なし。比奈もそれでいい?

狛野比奈

ん。ご飯楽しみ。

遠見結奈

はいはい。おいしいの作ってあげる。

狛野比奈

やた。それじゃ、戻るね。

遠見結奈

うん。じゃあね。

狛野比奈

ん、ばいばい。

そして放課後。

ホームルームが終わって先生が教室を出て行った直後。

永谷恵

結奈!

遠見結奈

危うく声を上げそうになった。いきなり、目の前に現れた恵に大きな声をかけられたから。

遠見結奈

な、なに、どうしたの……。

永谷恵

あの三人、もう奥校舎に向かってるわよ!

遠見結奈

え!

嘘、早い。こっちは今、ホームルームが終わったばかりなのに。

三人のクラスは、ちょっと終了が早かったのかな? いや、考えてる場合じゃない!

奥校舎に三人が着く前に、引き留めなきゃ! そのためには……。

遠見結奈

阿野!

阿野藤

はいはい。

遠見結奈

三山さんにDVD貸すんでしょ?

阿野藤

そだね、行こっか。

遠見結奈

う、うん、急ご、ほら、三山さん、部活があるからね?

阿野藤

はいよ~。

なにも聞かず、阿野はカバンを持って、私についてきてくれる。廊下を急ぎ足で進む私に。

もう朝のあのテンションは消えてるみたい。まぁ今日、ほとんど寝てたものね。授業中だって。

私は、どんどん廊下を進む。奥校舎へ向かう、最短距離を進んでいく。

追いつけるかな。追いついたらどうする? まず、三山さんを引き留めて、阿野にDVDを貸させて……。

あとは、なんとかその場で話を引き延ばして……、話の流れで、なにか用事をお願いして、一木さん、双野さんと別行動をとらせる……。

ああ、もう、なんて行き当たりばったり! でも、なにも思いつかなかった。

なんとかしよう、なんとかするしかない。そう決心したところで。

階段の踊り場のとこ、三人に追いついた!

阿野藤

あ、ねな~、いいところで見つけた~。

私がなにか言おうとするより先に、阿野が三山さんに向かって声をかけていた。

その声に、三山さん、そして一木さんと双野さんが立ち止まる。

三山音七

あ~、阿野~、久しぶり~。

阿野藤

一昨日ぶりかね~。

三山音七

一昨日、会ったっけ?

阿野藤

放送で声、聞いたよ~。

三山音七

つっこまないよ~。昨日も今朝もあったでしょってつっこまないよ~。

はぁ、いきなりなに、この会話。力が抜ける……。

一木羽美

阿野ちゃん、遠見ちゃん、こんちわ~。

阿野藤

やっほ~、うみちゃん、ささちゃん。

遠見結奈

こんにちは。

一木さんに挨拶を返す。双野さんもちょっとだけ会釈してくれたみたい。

阿野藤

ねな、貸すって言ってたDVD、持ってきたよ~。

三山音七

あ、ほんと~? 阿野が約束して三日で持ってきてくれるなんてめずらしいね~。

阿野藤

ふふふ、まかせてよ~。でもね~。

え? ちょっと待って、阿野、まさか……。

阿野藤

教室に忘れて来ちゃった!

三山音七

やっぱりな~。

ちょっと阿野ー!!

私は呆然とした。引き留めるもなにもなく、渡すDVDがなかったらどうしようもないじゃない!

迂闊だった。教室を出る時、阿野がDVDを持ってるかどうか確認しなかった私のミスだ。

どうしよう、どうしたら、音七さんを引き留められる? 阿野に取りに戻させる? それまで待ってもらう? それならいけるかな?

そう提案しようとした時。

阿野藤

ごめんごめん、教室まで来てくれる? 渡すから。

ちょっと阿野! それかなり横暴じゃない?

三山さんって、印象的に、面倒くさがりな感じがする。そんなんじゃ、呆れて行かれちゃうかも……。

と、思って、ハラハラしたんだけど。

三山音七

もう、阿野はしょうがないなぁ~。いいよ、行ってあげるよ~。

え? 意外な答え。

三山音七

阿野に取りに戻らせると、また、貸すの忘れられそうだし~。

阿野藤

よくぞ見抜いた!

え、なに、これ、うまくいきそうなの? でも、そんなうまくいくはずないよね?

一木羽美

ちょ、ちょっと音七!

ほら、一木さんが。部活の用事で奥校舎に行くんでしょ? 勝手なこと、許してくれるはずないよね。でも。

三山音七

ごめんね、羽美~。貸してもらうDVDの中に、番組で使いたい素材があるんだよね~。

三山音七

ここで貸してもらわないと、ほんとにいつになるかわからないんだよ~。

阿野藤

ご迷惑おかけしております!

一木羽美

んん~、じゃあ、しょうがないかぁ。

三山音七

ICレコーダーの使い方、わかるでしょ? インタビューの方はよろしく~。

一木羽美

わかった。借りたらちゃんと戻ってきてよ?

三山音七

はいはい~。

阿野藤

んじゃ、お借りします!

三山音七

貸すのは阿野でしょ~。

あれ、あれ。

なんか、あっという間に、話がまとまってしまった。私にとってベストの形で。

なにこれ、私、なにもしてないのに。

ちょっと呆然としながらも、私は阿野と三山さんにくっついて、教室に戻った。

これなら、大丈夫かな。一木さんと双野さんだけなら、サチさんが心を読んでくれるんだよね?

なんとか、うまくいった。いってしまった。

でも、私がうまくやったんじゃない。なぜか、うまくまとまってしまっただけ。

砂糖が切れてたから、醤油と味醂で味付けしたら、おいしく仕上がってしまった。それよりももっと難易度の高い結果オーライ? そんな感じで。

やっと屋上に戻ってこれた……。うわ、もう2時間もたってる。

あれから、阿野と三山さんと教室に戻って。阿野は今度はちゃんと三山さんにDVDを渡して。

そして、その場で二人、ほとんど同時に眠りだしてしまった。

行きがかり上、二人を放って自分だけ屋上に行くわけにもいかず、私は二人が目を覚ますまで教室から動くことができなかった。

そして、ついさっき、やっと二人は目を覚ましてくれて、三山さんは放送室に戻り、阿野は下校した。

そして私は、ようやく屋上に。

永谷恵

あ、もう、結奈、なにしてたのよ!

予想通り、恵が噛みついてきた。でも、なにも言い返せない。

あの場での段取りの悪さも私にはこたえていて、言い返す気力がなかった。

遠見結奈

ごめんなさい。ちょっと身動きとれなくて……。

榎木サチ

いいのよ、結奈さん。それに、うまくやってくれたみたいだし。

遠見結奈

うまく……、は、ないけど、まぁ、なんとか。

永谷恵

もう、サチさんったら、結奈には甘いんだからぁ。

榎木サチ

まぁまぁ、結奈さんが音七ちゃんを引き留めてくれたから、羽美ちゃんと沙紗ちゃんの二人だけが奥校舎に向かってくれたんだし。

榎木サチ

おかげで、私の方もちゃんと調べることができたのよ。

はぁ、よかった。うまくいったんだ……。

遠見結奈

え、えっとそれで、どうだったんです?

榎木サチ

あの三人の中で、恋をしているのはね。

榎木サチ

沙紗ちゃんだったの。

双野、さん。あの人が……。いちばん、クールそうに見えるけど、そうだったんだ。

榎木サチ

向かう相手は、羽美ちゃんね。

一木さん。明るくて、元気な人。

榎木サチ

とても、はっきりと伝わってきたわ。二人で奥校舎に向かっている時から、また星館校舎に戻るまでずっと、沙紗ちゃん、ドキドキし続けてたの。

榎木サチ

ずっと羽美ちゃんのこと、意識していたのよ。

遠見結奈

そうだったんですか……。

榎木サチ

ええ。これで、あの三人の中で、誰をお手伝いしたらいいか、はっきりしたわね。

永谷恵

はい!

榎木サチ

でも、沙紗ちゃんがなにか行動を起こすか、困ったことにぶつかるまでは、様子を見ましょうね。

榎木サチ

その間は、結奈さん。

遠見結奈

あ、はい。

榎木サチ

お願いね。

遠見結奈

え、なにを……? あ、そっか、牧さんのための場所の片付け、掃除か。

ああ、かなりぼーっとしてる。ほんとに今日はいろいろ疲れた。阿野のハイテンションに、予想外だらけの作戦。

榎木サチ

ええ。それじゃ、二人とも、今日はお疲れ様。

永谷恵

はぁい!

遠見結奈

お疲れ様でした……。

うん、うまくいってよかった……。そして、ほんとに疲れた。

今日は帰ったら早めに寝よう。比奈と、夕食を食べてから。

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