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okujou_no_yurirei-san:1101

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榎木サチ

いらっしゃい、結奈さん。

遠見結奈

こんにちは。あの……。

あの日、この屋上で今、目の前に浮かんでいる二人の幽霊見てしまってから、今日で一週間とちょっと。

主にお昼、お弁当を持って、私は屋上に来ていた。それ自体は、この二人を見てしまう前からずっとのことなんだけど。

あの日、そしてその次の日、この二人のすることに付き合うと決めてからは、何度かこうして、屋上で話し合うことがあった。

問題は、今日、話し合いをしましょうと伝えてくる方法で。

遠見結奈

授業中にいきなり、血文字で呼び出すのはやめてくれません?

永谷恵

えー、なんで?

遠見結奈

びっくりするのよ。心臓に悪いの。

永谷恵

じゃあ、いきなり後ろから話しかけたりする方がいい?

遠見結奈

どっちもどっちだわ。

私はため息をついて、ベンチに腰を下ろして、お弁当を広げる。

私がお弁当を食べ始めたのを合図に、百合霊、こう言わないとサチさんがご機嫌斜めになる、の二人は勝手に今日までの校内の様子を話し始める。

もちろん、校内の様子というのは、誰が誰を好きみたいとか、そういうことだけなんだけど。

榎木サチ

美紀ちゃんと牧ちゃん、放課後はいつも一緒にいるのよ。うまくいってよかったわ。まぁ、友達同士からなんだけど。

永谷恵

美紀さんもめんどくさいよねー。牧ちゃんがあんなにがんばって好きって言ったんだから、恋人同士でOKしちゃっていいのに。

榎木サチ

慎重な子みたいね。

永谷恵

あんなに牧ちゃん、いっしょけんめいだったのに。友達でもいいってあんなに喜んでくれたら、もうOKしちゃっていいと思うんだけどぉ。

永谷恵

ね、ほんとにすごかったんだから、牧ちゃんの告白。

遠見結奈

はいはい、その話はもう、三回は聞いたわ。

この二人と話す時のポイントは二つ。

ちょっと失礼だけど、相手の目は見ない。それと、声に出して返事はしない。

だって、この二人の姿が見えて、声が聞こえるのは私だけ。今、お昼にここにきている他の人たちには、この二人の姿は見えないんだもの。

だからこうしないと、私は誰もいないとこを見上げながら、一人でなにか話しているアレな人に見られてしまう。それはまずい。

永谷恵

何度だっていいでしょ~。ほんっと、かわいくて、健気で、ちょっとかっこよかったんだから。

榎木サチ

ええ、そうね。結奈さんにも見せてあげたかったわ。

いやいや、見られてたら告白できないでしょ。

直接の返事はほんの小さな、声にならないくらいの小声で。二人はそれでも、聞き取ってくれる。

どうやら、サチさんの方は、他人の強い思いを感じ取ることができるらしい。心の声が聞こえるの、なんて言ってた。それを使って、人の恋心を見つけることができるんだとか。

なにそれ、ちょっと怖い。今、こうして思ったことも、伝わっているんだろうか。

でも、そんななんでも読まれてるってそぶり、この人は見せないし……。どこまで、わかられてしまうんだろう。気にしてもしょうがないことなのかもしれないけど。

まぁ、わざわざ大きな声を出さなくても、二人と会話はできる。慣れてしまえば、楽。

榎木サチ

ほんとに、素敵な告白だったのよ。私も、恵からされたのを思い出したわ。

永谷恵

ほんと、うれしい! わたしもあの時、すごい必死だったの!

榎木サチ

ええ、伝わってきたわよ、あなたの想いは。だから、私、すぐに答えを出せたのだもの。

永谷恵

えへへ、恵、うれしい~。

遠見結奈

はいはい、そのへんにしてよ……。

榎木サチ

でも、美紀さんって相変わらず忙しい人なのね。

二人が話題にしているカップルさんのこと、私はその「美紀さん」の方は知っていた。直接の知り合いじゃないけど。

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『城女の聖女』なんて呼ばれている人。整美委員会の副委員長の三年生。相原美紀先輩。

人望が厚く、誰からも頼られる人だって。そのためか、いつも彼女にはあちこちから舞い込んでくる頼み事がひっきりなしなんだとか。

私も、何度か見たことがある。一緒に、ちょっとした仕事をしたことも。暇そうにしてた時に先生に頼まれた仕事が回り回って、相原先輩と一緒に片付けることになったから。

その仕事、完全に先生の雑用の手伝いで、整美委員会とはまったく関係なかったけど、いつの間にか相原先輩が私の手伝いを引き受けてくれていた。

おかげですごいスムーズにこなすことができて、とてもありがたかったけど……。

なんで、この人、こんな仕事まで引き受けてるんだろうって、思った。

それで、「牧ちゃん」の方は……。

grpo_bu0

こないだのあの子のことだった。この二人のお願いを聞いて、最初にお手伝いしてあげた、あの子。

三年生の教室の前で、ずっと手紙を届ける機会をうかがっていた、一年生。

そっか、あの子が「牧ちゃん」で、あの子が好きな人が相原先輩だったんだ……。

榎木サチ

牧ちゃんが一緒になって手伝ってあげてるのよ。ほんとに健気な子ね。少しでも美紀さんと一緒にいたいのね。

永谷恵

わたしもサチさんといつも一緒にいたいなぁ。

榎木サチ

あら、いつでも一緒でしょ、私たち。

永谷恵

そうでもないですよぉ。最近は、校内の様子を見るのに、別々にいることが増えてるもん。

榎木サチ

まぁ、それは仕方ないじゃない。

そうなんだ。

どうも、この二人、校内を自由に動き回っているかと思えばそうでもないみたい。

どうやら、二人が自由に出入りできる場所がそれぞれちがうみたい。なんでかは知らないけど。幽霊でも縄張りとかあるのかな……。

そういえば、あの時も、奥校舎に来たのはサチさんだけで、恵はここに残ってたし……。

榎木サチ

寂しい想いをさせてごめんなさい、恵。でも、これも私たちの願いを叶えるためのことなのよ。

永谷恵

うん、わかってるけど……、サチさんと離れ離れになるのはイヤなんだもん……。

遠見結奈

はいはい、ほんとにそのくらいにしてほしいんですけど。その、牧さんと相原先輩のことで、報告があるんじゃないんですか?

榎木サチ

ああ、そうそう。最近、ずっと二人、放課後は一緒にいるんだけどね。

榎木サチ

美紀さんがいつも、なにかしら用事や仕事を抱えていて、それを牧ちゃんが手伝ってるの。一緒にいられるのはいいんだけど……。

榎木サチ

二人っきりでゆっくり過ごす時間がまるでないのよね、あの二人。

永谷恵

あー、そう言えば。

榎木サチ

やっぱり、美紀さんが牧ちゃんのことを恋人として見られるようになるには、そういう二人の時間が必要だと思うの。

遠見結奈

なるほど……。

永谷恵

二人っきりの時間って、やっぱり必要よね。愛を深める時間が。

永谷恵

ねぇ、サチさん、恵ももっと、サチさんとの愛を深める時間がほしい~。

遠見結奈

みんなが帰った後、いくらでも時間があるんでしょ。

榎木サチ

そうね、誰もいない学校で、ゆっくり語らいましょうね。でも、美紀さんたちはどうしたらいいかしら。

遠見結奈

うーん……、相原先輩から仕事を遠ざけるのは無理、かな。

遠見結奈

なんていうか、もう、あの人のところに用事や仕事がいくような雰囲気ができちゃってるから……。

榎木サチ

でも、放課後ずっとってのはかわいそうだわ。牧ちゃんも、もっと美紀さんといろんな話がしたいって思ってるみたいだし。

遠見結奈

ですね。でも、校内を歩いていれば仕事が舞い込む人だから……。そっか……。

遠見結奈

それなら、その仕事が入ってこない場所に二人がいればいいのかな……。

永谷恵

どういうこと?

遠見結奈

その、二人っきりでこっそりといられる場所があれば、いいんじゃない? 相原先輩を見つけられなければ、仕事を頼むこともできないんだし。

榎木サチ

ああ、なるほど。

永谷恵

二人っきりの秘密の隠れ家ね!

遠見結奈

うん、まぁ、そういう場所があるなら、そこに隠れることもできるでしょ。そういうとこなら、その、恋人っぽい話もできるかもしれないし。

榎木サチ

そうね、すごいわ、結奈さん。

永谷恵

ふぅん、なかなか頭いいのね、あなた。でも、それってどこにあるの?

遠見結奈

それは……、わからないけど。

永谷恵

なんだぁ。

遠見結奈

そこまで学校に詳しくないのよ、私は!

榎木サチ

でも、そういう場所を教えてあげればいいって決まれば、探せばいいだけよ。さすがね、結奈さん。

遠見結奈

……どうも。

永谷恵

でも、どこがいいかしら。わたしとサチさんの秘密のスポットならいっぱいあるんだけど、そこは教えたくないしなぁ。

榎木サチ

そうね。ちょっと普通の人には無理なところもあるしね。私も、恵と二人っきりでいるところに誰かが来たら落ち着かないわ。

永谷恵

その時はわたしが追い払ってあげますよぅ!

遠見結奈

はいはい、他になにか報告はないんですか?

ああもう、ほんと、この二人ってすぐにイチャつき始めるんだから! 話が進まないったら。

榎木サチ

ああ、そうそう。今日はもう一つ、あるのよ。

遠見結奈

なんです?

永谷恵

前にサチさんが感じ取った恋の波動の持ち主がわかったの!

恋の波動って……、まぁ、いいけど。そっか、まだいるんだ……。そういう人が……。

榎木サチ

ええ。まだちょっと確定的ではないのだけど。

遠見結奈

どういうことです?

榎木サチ

その子たち、いつも三人組なの。その子たちから伝わってくるのはわかるんだけど、誰が誰に向けたものかはわからなくって。

あぁ、前にもそんなこと、言ってたっけ……。

永谷恵

あの子たち、いつも一緒なのよね。ほんと、毎日ずっと。

榎木サチ

その子たち、二年生なのよね。だから、私が近づけるところにもなかなか来てくれなくて。

遠見結奈

二年生……。

同じ学年か。いつも一緒にいる三人組……。ん? 心当たりが……?

榎木サチ

結奈さん、知り合いかしら? 放送部にいる子たちなんだけど。

あら、やっぱり。

遠見結奈

もしかして、一木さん、双野さん、三山さん……?

榎木サチ

そう、その子たち。面白いわよね、一、二、三って感じで。

遠見結奈

え、ええ……。一年の時、一緒のクラスだったから……。

そう、一、二、三、そんなことをトレードマークにして、いつも三人で一緒にいた。三人とも放送部で。

今も、校内に流れているお昼の放送を担当している。何曜日の番組だったか忘れたけど。屋上には放送の音は届いてこないから。

榎木サチ

ねぇ、それじゃ、結奈さんは知らない? あの子たちの中で、誰が誰を好きなのか。

遠見結奈

し、知りませんよ!

そんなこと、今まで考えたこともなかったもの!

榎木サチ

そう、それじゃ仕方ないわね。でも、どうしたものかしら……。

永谷恵

とりあえず、適当に組み合わせてみちゃいます?

遠見結奈

ま、待って待って、そんな適当な。

遠見結奈

とりあえず、その三人の中で、誰が誰を好きなのか、それを確認しましょう。でないとお手伝いもできないし。

榎木サチ

ええ、そうね。まずはそれからね。

永谷恵

もう、めんどくさいなぁ。

遠見結奈

適当にやっちゃダメでしょ、こういうのって。

永谷恵

わかってるわよーだ。

永谷恵

その子たち、放送部なんでしょ。じゃ、放課後、恵がその子たちにくっついていてあげる。

遠見結奈

あなたが?

永谷恵

うん、放送室って星館校舎でしょ。だったら、恵にまかせておきなさい。もし、その子たちのうち、誰か二人が別行動したら、教えるわ。

遠見結奈

そう……?

……なんか不安だな。

永谷恵

もし、サチさんが近づける場所に行くようだったら、すぐに知らせますね!

榎木サチ

ええ、お願いね、恵。

永谷恵

はぁい!

榎木サチ

それで、牧ちゃんと美紀さんの方はどうしようかしら。

遠見結奈

うーん……、そっちはまだ、様子見でいいと思います。

榎木サチ

あら、なんで?

遠見結奈

もしかしたら、あの二人が自分でそういう場所、見つけるかもしれないし。

遠見結奈

まずとにかく、先に場所を見つけてからじゃないと、お膳立てもできませんから。

榎木サチ

そう……、それもそうね。

遠見結奈

放送部の三人については、私もちょっと、探ってみます。友達とかに聞いたりして。

榎木サチ

ええ、それでいいわ。とりあえず、今日はこんなところかしら。

永谷恵

はぁい! それじゃ、サチさん、恵、今日はがんばっちゃいますね! 放課後、サチさんといられないのは寂しいんだけどぉ。

榎木サチ

ええ、しっかりね。私も寂しいけど、これもユリトピア実現のためよ。

永谷恵

ええ、わたしたちのユリトピアのために!

遠見結奈

はいはい、それくらいにしてよ。それじゃ、また明日、報告会ってことでいいですか?

榎木サチ

ええ。それでいいわ。

永谷恵

うふふ、サチさんのために、恵、がんばっちゃうんだから。

遠見結奈

あなたの出番は放課後からでしょ……。

はぁ。なんか、疲れるな、この人たちと話していると。

ちっとも話が進まないんだもの。……私がちゃんと引き戻さないと、すぐに脱線するんだから……。

榎木サチ

ねぇ、結奈さん。

遠見結奈

はい?

ため息をつきながら、食べ終わったお弁当を片付け始めた時だった。

屋上の入り口になんでか向かっていった恵と離れて、サチさんが私のすぐそばに立っていた。

榎木サチ

あなた、なにかとても楽しそうね。こうしてお手伝いの段取りを整えている時。

遠見結奈

………………。

榎木サチ

あなたに声をかけられてよかったわ。無理なお願いをしたと思っていたけど、楽しそうにしてもらえてよかったわ。

遠見結奈

楽しそうなんて……、別にそんなことないです。

榎木サチ

あら、そう……?

遠見結奈

ええ。ごちそうさまでした。私、教室移動があるから、行きますね。それじゃ、また、放課後。

榎木サチ

ええ、よろしくね。

永谷恵

もう、結奈! なにサチさんと二人だけで内緒話しているのよ!

遠見結奈

別に、内緒話じゃないわよ。それじゃ、私、行くわね。

永谷恵

はいはい、いってらっしゃーい。

お弁当を素早く片付けて、私は立ち上がる。教室に戻らなきゃ。

楽しそう? そんなこと、ない。

絶対に。

屋上から教室に戻って。

次の授業に必要な教科書とノート、参考教材をカバンから取り出して、待っていてくれた阿野と一緒に教室を出る。

次は情報科学の授業。ITルームに二人で向かう。

遠見結奈

阿野、今日は忘れ物してないでしょうね?

阿野藤

大丈夫!

阿野藤

ちゃんと他のクラスの子に借りられたから!

遠見結奈

どこが大丈夫なのよ。

まったく、この子の忘れんぼ癖はどうにかならないのかしら。毎日、必ずなにか、忘れ物するんだから……。

阿野藤

お、あそこに忘れ物の恩人がいる。

遠見結奈

え?

阿野の声に、彼女が指さした方を見ると。

一木羽美

ほーらぁ、音七、ちゃんと歩いて歩いて!

三山音七

あ~も~。ねむいんだよ~。いいからおいてってよぉ。あたしゃ、ここで寝ていくからさぁ。

双野沙紗

だってさ。おいてこ、羽美。

さっき話題に出てた、放送部の三人が仲良く?一緒に歩いていた。

三人の真ん中で元気よく、前を歩く子の背中を押しているのが、一木羽美(いちき・うみ)さん。

その後ろを、なにか手の爪を気にしながら歩いているのが、双野沙紗(ふたの・ささ)さん。

そして、いちばん前で、一木さんに押されながら歩いているのが、三山音七(みやま・ねな)さんだった。

去年、同じクラスだったから、一応、顔と名前は憶えてる。特に親しくはしていなかったけど、いつも三人、一緒にいたし。

なにより、その組み合わせがすごく不思議で。

一木羽美

そんなわけいくかぁ! わたしは音七を見捨ててなんていけない! 一緒に行こう、音七ぁ!

双野沙紗

……うるさいよ、羽美。あんたの声、響くんだから。あんた、前世は九官鳥だろ。

一木羽美

コケコッコー!

双野沙紗

なんでニワトリの鳴き真似してるんだよ……。

一木羽美

こうしたら、音七が目を覚ますかと思って。

三山音七

もう、うるさいよぉ。眠れないじゃないかぁ。

一木羽美

だから寝るなぁー! ほら、沙紗も音七を押してあげてよ! これじゃ授業に間に合わないって!

双野沙紗

やだ。あたし、さっきマニキュア直したばかりだから。

一木羽美

あー、またそんなことして! いけないんだー!

双野沙紗

別に、校則でマニキュア禁止されてないだろ。

一木羽美

華美な化粧は慎みましょうって書いてあるじゃん! わたし、沙紗が校則違反で捕まったら悲しいよぉ。

双野沙紗

別に校則違反で逮捕されるわけじゃないし。

一木羽美

きっと、面会には差し入れ持っていくからね!

双野沙紗

くんな。ていうか、ねーよ、面会なんて。

三山音七

ふあああああああ……。

一木羽美

ほら、音七ぁ! 寝ちゃダメだ! 寝たら死ぬぞ! 歩けぇ!

三山音七

もういいよ、あたしゃ。もう死ぬ。死んで寝る。

双野沙紗

よし、死ね。ここで死ね。

三山音七

うん、死ぬ。………………ぐぅ。

一木羽美

寝るなぁ! 起きろぉ! 起きて教室まで帰るんだぁ! わたしたち、友達でしょ! 一緒に帰ろう!

……すごいな、まるでコントみたい。全然かみあってないのに、一木さんだけが張り切ってる感じの。

でも、あの三人はいつもそうだったような気がする。元気のいい一木さんが、ちょっと怖い感じのある双野さんと、いつも眠そうにしている三山さんを引っ張っていて。

阿野藤

あはは、あの三人、いつ見てもおもしろいなぁ。

遠見結奈

そう言えば、阿野、あの三人から次の授業でいるもの、借りたの?

阿野藤

うん、そだよ。

遠見結奈

一木さん?

阿野藤

ううん、ねなから~。

遠見結奈

そ、そうだったんだ。仲、よかったんだ。

阿野藤

うん、ねなとは特にね。

ねな、えっと、三山さんの名前だよね、確か。

遠見結奈

ふーん……。

それじゃ、もしかしたら、阿野から、あの三人の情報をもらうことって可能なのかな? ちょっと聞いてみよう。

遠見結奈

ねぇ、阿野。

阿野藤

ん、なに、結奈。

遠見結奈

あの三人って、その、どういう人たちだっけ?

……なんか、我ながら頭の悪い質問だな……。

阿野藤

どうって……、見たまんまじゃん。

遠見結奈

ま、まぁ、そうだけど……。

阿野藤

三人とも放送部でぇ。

うん、それは知ってる。

阿野藤

うみちゃんはとにかく元気がよくて、いつも他の二人を引っ張ってるでしょ。

遠見結奈

うん。

阿野藤

ささちゃんは、ちょっとキツめのキャラつくってて、いっつもズババって他の二人に切り込んでいく感じ。

遠見結奈

うん。

阿野藤

ねなは、ああやっていつでも眠そうにしてて、他の二人に引っ張ってもらってるのさ。

遠見結奈

そうね。

うん、私の印象もそんな感じ。

遠見結奈

えっと、それじゃ、さ、あの中で、特に誰と誰が仲、いいんだろ。

阿野藤

え? あの中で、特にって、二人が?

阿野藤

どうなんだろう~。特に誰か二人ってこと、ちょっとなさそうじゃない? ほんと、三人ひとセットって感じだし。

遠見結奈

あ、そ、そうだよね。

そうだよね、こんなこと、阿野に聞いても仕方ないか。

でも……。

一木羽美

ほら、ちゃんと歩く! 右足、左足、右足、左足!

双野沙紗

右手あげて、左手さげて、右足あげないっと。

三山音七

なにそれ~。もう、歩けないよ~。寝る~。

一木羽美

こらぁ、沙紗、邪魔しないでよぉ! 音七、歩けぇ!

双野沙紗

もういいだろ。置いていこ、解散解散。

三山音七

そだよぉ、おやすみ~。

一木羽美

そんなのってないよ! わたしたち、友達でしょ!

双野沙紗

羽美のそれ、もういい、飽きた。

三山音七

友達なら安眠妨害しないどくれよぉ。

あの三人。全然かみ合ってないようなのに、いつも一緒にいる三人。

遠見結奈

(あの中で、誰かが、誰かを好きになってるんだ……)

遠見結奈

(なんか全然、信じられないんだけど……)

阿野藤

結奈?

遠見結奈

あ、ごめん。えっと、変なこと聞いて。

阿野藤

別にいいけどね~。でも、結奈、去年、一緒のクラスだったんだよ? 今さら、どういう人たちだっけなんて聞くのって、ちょっとはくじょーさんじゃない?

遠見結奈

え、う、その、ごめん。

阿野藤

あはは、気にしなくていいけどね~。

遠見結奈

う、うん、あ、ほら、急ご。そろそろ授業始まっちゃうから。

阿野藤

はいはい。

阿野を急かして、ITルームへと向かう。あの三人はまだ、なにか言い合いながら、ゆっくりと廊下を進んでいた。

どうしよう……。放課後、恵があの三人を見張るってことになってたけど……。

私も、一緒にいようかな。……放送室の近くにいれば、捕まえられるかな……。

放課後。

ホームルームが終わると同時に、私は手早く荷物をカバンに詰め込んだ。

まだあまり気は進まないけど、手伝うと決めた以上は手を抜きたくない。

あの三人の情報をもっと集めるために、放送室に行かないと。

ん、でも、待った。あの三人の教室から放送室に行くには、この教室の前を通るはず。そうしないと遠回りになるもの。

それなら、ここであの三人が通るのを待って、後をつけた方が、いろんな話が聞けるのかもしれない。

でも、もし、なにかの理由で、別の道を通って放送室に行ったら? 時間、ロスしてしまうかも。

ん、どうしよう。

<01>教室か放送室か

<01>教室から廊下を見張っていようかな

<01>放送室に直接行こうかな

遠見結奈

(うん、ここで三人が通るのを待とう)

もしかしたら通らないかもしれないけど、三人が放送室に行く途中で話すことを聞けるメリットはきっと大きい、はず。

阿野藤

あ、結奈~。今日はまだ帰らないの?

遠見結奈

あ、阿野。うん、ちょっと用があってね。もう少しいるつもり。

阿野藤

あ、そうなんだ~。あたしもね、ちょっと人と待ち合わせがあってね~。

そう言って、阿野はごそごそと自分のカバンをかき回す。出てきたものは……、よく知らないけど、ゲームみたいだ。

阿野藤

貸してもらったソフト、返さなくちゃいけなくってさ~。

遠見結奈

そうなんだ。よかったわね、忘れずに持ってきていて。

阿野藤

まぁ、さすがに3日連続で忘れてたからね~。今日こそ返してあげないと。

遠見結奈

なによ、結局忘れ続けていたんじゃない。

阿野藤

どんまい!

遠見結奈

気にしなさいよ、少しは。でも、なんか変な絵ね。怖いヤツなの?

阿野藤

ん~、じゃっかんグロ注意かな?

遠見結奈

なんでそんなのするのよ……。

阿野藤

いやいや、これがけっこうハマるんだって。実績解除とかいろいろあってね~。

遠見結奈

じっせきかいじょ? なにそれ。

阿野藤

えーと、ゲーム中の勲章みたいなもの? こんだけヤリコミましたっていう感じの。

遠見結奈

勲章、ねぇ。

阿野藤

そそ。たとえば、あるターゲットを100回倒したとか、何十時間プレイしたとかあってね~。

阿野藤

573回、特定のアクションしたらもらえるとかあって、もうおもしろいんだよ~。

遠見結奈

……おもしろいの、それ。

阿野藤

もちろん! あ、で、でも、それだけが目的じゃないんだよ? 純粋にゲームも楽しんでるんだよ、あたし。

遠見結奈

そうなの……。

阿野藤

ああ、そんな目で見ないで、結奈ぁ! あたし、そんなマニアじゃないです、ゲーオタじゃないんですぅ!

遠見結奈

そんなこと言ってないわよ、別に……。

阿野藤

目がそう言ってる。そう思ってる。そんなことない?

遠見結奈

ないない。楽しみ方なんて、人それぞれでしょ。阿野が楽しんでるならそれでいいじゃない。

阿野藤

ひゅ~くーるぅ。結奈っぽいけどさ。あ、やば、こんな時間だ。

遠見結奈

もう帰るの?

阿野藤

うん、このゲーム返してから、バイト行かなくちゃ。

遠見結奈

そう。バイトがんばってね、阿野。

阿野藤

うん、バイト代出たら、おごってあげるね~。

遠見結奈

いいわよ、別に。ほら、いってらっしゃい。

阿野藤

うん、じゃぁねぇ~。

なんか……、趣味も交友関係も、まだまだ不思議なとこがある子だな、阿野って。

阿野の背中を見送ってから、あまり間を置かずに。

放送部の三人が、私の教室の前を歩いていくのが見えた。

遠見結奈

よし。

私は、カバンを持って立ち上がる。学校から帰ろうとするそのたまたま、一緒に同じ方向に歩いているっていう設定で。

三人の少し後を歩いていく。

三人は、昼間みたいに、ひとかたまりになって歩いている。話しながら。私の少し前を。

一木羽美

ねね、来月の3日なんだって! 絶対おもしろいよ、これ!

双野沙紗

そうか? 羽美のおもしろいって、けっこう当たり外れ多いだろ。

一木羽美

今度はぜっったい大丈夫! ね、一緒に行こうよ!

三山音七

ふああああああ……。

双野沙紗

んー……、一人で行けば?

一木羽美

やだ! 友達でしょ、わたしたち! 一緒に行こうよ! 楽しいことは共有しなきゃ!

双野沙紗

また出たよ……。まぁ、全然、少しも、興味なんてないけど、別に付き合ってあげてもいいよ。

一木羽美

うわ、ひどい言い方! もうちょっと興味持ってよ! わたしがおもしろいって言ってるんだから!

双野沙紗

だから、それがさ……。音七、どうする?

三山音七

ん~? もし、起きてたら行ってもいい。

双野沙紗

音七、それ、絶対、当日寝てるフラグだろ。

三山音七

日曜は、一日、寝てたい。

一木羽美

もー! 決めた! 絶対三人で行くからね! 当日、迎えに行って引っ張ってく!

双野沙紗

うわ、なにそれ。軽くヒく。

三山音七

眠い~~~~。

……そんなことを話しながら、三人は放送室へと向かっていった。

……うん、これといってなんの情報も得られなかった。

遠見結奈

(うん、すれちがったら元も子もないし。確実にあの三人の行くとこに行こう)

狛野比奈

あ、結奈ねぇ。

遠見結奈

あら、比奈、これから部活?

狛野比奈

うん。結奈ねぇはもう帰り?

遠見結奈

えっと、ちょっと用があるから、もうちょっと残っているけど。

狛野比奈

そっか。

遠見結奈

ちょうどよかった。今日、うちで夕ご飯食べるでしょ。なにかリクエスト、ある?

狛野比奈

お肉!

遠見結奈

……うん、まぁ、予想はついてたけど。ほんとにお肉好きなんだから……。

狛野比奈

結奈ねぇの作ってくれたご飯なら、なんでも好きだけど。

遠見結奈

はいはい、ありがと。あ、そうだ。ついでだから、お弁当箱、渡してくれる? 帰ったら洗っておいてあげるから。

狛野比奈

ん、ありがと。はい。

遠見結奈

残さず食べた?

狛野比奈

ん。おいしかった。

遠見結奈

よし。部活、がんばってね。

狛野比奈

ん。けっこう楽しくなってきた。練習もだんだんキツくなってきた。

遠見結奈

そう。キツいのが楽しいの。

狛野比奈

ん。キツいほど、速くなれると思う。

遠見結奈

そっか。

狛野比奈

おもしろい先輩も多いから、楽しい。

遠見結奈

うん、ケガには気をつけてね。

狛野比奈

ん。

そんなことを比奈と話していると。

放送部の三人が、歩いてくるのが見えた。

遠見結奈

じゃ、私、そろそろ行くね。

狛野比奈

ん。じゃあね、結奈ねぇ。

遠見結奈

うん、がんばってらっしゃい。

玄関ホールの方へ向かう比奈を見送ってから、私は三人の後を追う。

カバンを持ったまま、三人のちょっと後を歩く。なにか話しているその内容に聞き耳を立てながら。

一木羽美

うわ、ひどい言い方! もうちょっと興味持ってよ! わたしが面白いって言ってるんだから!

双野沙紗

だから、それがさ……。音七、どうする?

三山音七

ん~? もし、起きてたら行ってもいい。

双野沙紗

音七、それ、絶対、当日寝てるフラグだろ。

三山音七

日曜は、一日、寝てたい。

一木羽美

もー! 決めた! 絶対三人で行くからね! 当日、迎えに行って引っ張ってく!

双野沙紗

うわ、なにそれ。軽くヒく。

三山音七

眠い~~~~。

……なんの話をしているんだろう。それもわからないうちに、三人は放送室のすぐ前についてしまった。

来た来た。あの三人組。なんかちょっと変な子たち。

今日も、放送室で部活するみたい。うん、今日こそ、わたしが尻尾つかんでやるんだから。あの中で、誰が誰を好きなのか、見極めてやるんだから。

サチさんのために!

って、あれ? あれ、結奈じゃない。なんでこんなとこに来たのかしら。

放送室の前に立って、なにしてるのかしら。考え事?

まぁ、声くらいかけとくか。

永谷恵

あら、結奈じゃない。

遠見結奈

あ、恵。

ん? 今、わたしのこと、なんて言った? ……まぁいいや。

永谷恵

なんであんたがこんなとこいるの?

遠見結奈

なんでって……、今入っていったのが、お昼にサチさんが言ってた三人でしょ。

永谷恵

うん、そう。

遠見結奈

私も、ちょっと気になったから、様子を見に来たのよ。

永谷恵

なに、それ。恵のこと、信用してないの?

遠見結奈

そういうわけじゃないけど、気になったからここまで来たのよ。……サチさんは?

永谷恵

サチさんは、美紀さんと牧ちゃんの様子を見てるって。あと、あんたが言ってた、二人でいられる場所もちょっと探してみるって言ってた。

遠見結奈

そう……。

ていうか、なんであんたがサチさんのこと、気にしてるのよ。

永谷恵

で、あんた、ここに来てどうするの?

遠見結奈

うん……、中でなにを話しているのか、聞けたらなって思ってたんだけど。

永谷恵

へぇ、どうやって? 扉に耳つけて、聞いてみるつもり?

遠見結奈

……さすがに、そんなことできないわよ。

永谷恵

でしょうねぇ。

永谷恵

でも、わたしは壁を通って、中の様子を見たり聞いたりできるのよ。

遠見結奈

そりゃそうでしょ、幽霊なんだから。

永谷恵

なんにもできないのに、なにしに来たのかしら、あんた。

遠見結奈

……なにかできることがあるかと思ったのよ。もう、私にかまってないで、中の話、聞いてきてよ。

永谷恵

あんたに言われなくてもそのつもり! サチさんに頼まれたことだもん!

あんたはそこでなんにも聞けずにぼぉっとしてなさいってのよ。

わたしは、放送室と廊下の間の壁を通り抜け、中をのぞき込む。

中で例の三人は、机を囲んで座っていた。一人、自分のそばのミキサー台っていうのにもたれて眠そうだけど。

一木羽美

はい、それじゃ部活しますよー。まずは、昨日の放送の反省会から。ほら、音七、部活だよ、起きなよ!

三山音七

起きてるよ~。

一木羽美

ほんとに? すっごく眠そうだけど?

三山音七

眠いのはいつものことだよ~。

一木羽美

はぁ、まぁいいや。それじゃ、まずはトークパートの反省から~。

双野沙紗

はーい、羽美のカミカミはもういつものことだからおいといてー。

一木羽美

なにそれひどい! 昨日はあんまりかんでないじゃない!

双野沙紗

かんでたよ! いつもどおりカミカミだったよ! あんたの前世はカミキリムシか!

一木羽美

カミー! キリー!

双野沙紗

……なにそれ。

一木羽美

カミキリムシの鳴き声。

双野沙紗

……死ね。

一木羽美

あーもう! そんな簡単に死ねとかゆーな! 沙紗、昨日の放送でも何回も「死ね」とか「殺せ」とか言ったでしょ! もう、先生に怒られるんだからね!

双野沙紗

だって、羽美があたしにそういうふうに振ってくるからだろ。わざと言わせようとしてるくせに!

一木羽美

……だって、その方が受けるんだもん。

双野沙紗

羽美が怒られるのは当然だ。

一木羽美

カミカミでも、死ね殺せでも、反応がないよりはいいよね。

双野沙紗

……まぁね。

三山音七

あのさ~。

一木羽美

なに、音七。

三山音七

別にトークの内容はいいんだけどさぁ、二人とも、進行表、無視するのやめてよね~。

一木羽美

………………。

双野沙紗

………………。

三山音七

羽美はよく、その場のノリで、曲順変えるよね。あれ、用意していた曲が頭出しできなくて、すごくあせる~。

一木羽美

う……。

三山音七

沙紗は、自分の発言にピー音かぶせろって無茶言ってくるよね。できるわけないでしょ、そんなの~。

双野沙紗

う、だってさぁ……。

一木羽美

そうしないと、音七がトークに絡んできてくれないんだもん。

三山音七

あのさ~、あたしゃミキサーやってるの。機械いじってるのさ~。そんな余裕ないの。

一木羽美

ごめん……。

三山音七

ただでさえ、放送中は眠いのこらえるの大変なのに~。

双野沙紗

起きてろよ!

一木羽美

あーもう、反省会おしまい! 次々! 来週のトークのテーマと、選曲について! 定番コーナーの『部長に聞け!』は陸上部!

双野沙紗

羽美、部長さんへのインタビューの話、通してあるの?

一木羽美

バッチリです! 音七、かける曲のリクエスト、集まってる?

三山音七

ぼちぼち~。

grpo_bu0

永谷恵

……なにこれ。

マジメなんだかフマジメなんだかよくわかんない。わかんないけど、部活やってるだけじゃない。

永谷恵

部活の話なんかされても、わたし、さっぱりわかんないんだけど。あ~ん、もう飽きてきちゃう。

永谷恵

せっかくわたしが聞いてるんだから、もっとわたしの聞きたいこと、話してよね。

そうわたしがそんなこと言ったって、この人たちに聞こえるわけ、ないんだけどね。

三人はその後もしばらく、お昼の番組のことについての話ばかり。

永谷恵

お昼の放送か……。

永谷恵

わたしが学校に通ってたころもやってたっけな。

よく憶えていないけど。だって、すぐに昼休みは屋上に行くようになったから。サチさんに、会いに。

永谷恵

結奈もそうだっけ。

壁の向こう側にいるはずの子のことを思う。

あの子を屋上で見かけるようになったのは、あの子がここに入学してからすぐだったと思う。

お昼に一人で屋上に来て、お弁当を食べている子。ちょっとだけ、めずらしいねってサチさんと話した。

永谷恵

どうせ、わたしたちのこと、見えるわけじゃないからって、すぐ、気にしなくなっちゃったけど。

それがなんでかどうして、今は、わたしとサチさんの協力者になっている。

永谷恵

……変なの。

部屋の中の様子に目を戻せば。

永谷恵

まだ、部活動してるし……。

永谷恵

ん……?

三山音七

ふぁ……、ちょっとトイレ~。

一木羽美

トイレ!? わたしも行くよ! ほら、沙紗も行こ!

双野沙紗

えー? あたしは別に……。

一木羽美

いいのいいの、トイレはみんなで一緒に行くものなの! だってわたしたち、友達じゃーん!

三山音七

えー、ついてくるの~?

双野沙紗

もう、いい加減、それやめなよ……。

一木羽美

いいから行こ行こ! ほら、しゅっぱーつ!

双野沙紗

テンション高いトイレだな、もう……。

grpo_bu0

永谷恵

ん、やっばーい!

わたしは、壁を抜けて廊下へと戻った。

永谷恵

結奈! あの子たち、トイレに行くって! 出てくるよ!

遠見結奈

え!? 全員?

永谷恵

うん、三人とも! どうする?

遠見結奈

え、えと、私も、一緒にトイレに入る。さ、さりげなくね。

永谷恵

うん、わかった。あ、出てくるよ!

遠見結奈

う、うん!

遠見結奈

で、ちょっとなんであなたまで一緒に入ってくるのよ。しかも、同じとこに!

永谷恵

あ、結奈、ほんとにトイレするつもりだった?

遠見結奈

しないわよ!

永谷恵

別に、わたしのこと、気にしないでしていいよ?

遠見結奈

しないってば!

結奈をからかってると、あの三人もトイレに入ってくる。

音七さんって人だけが、個室に入ったみたい。

羽美さんって人と沙紗さんって人は、外で話をしている。

一木羽美

それじゃ、試験が終わった6月の最初の日曜日! 決定ね?

双野沙紗

まぁ、いいけど。

一木羽美

約束したからね? サボっちゃダメだからね?

双野沙紗

あたしより、音七の方が心配じゃない?

一木羽美

音七はわたしが迎えに行く!

双野沙紗

はぁ、よくやる……。

永谷恵

なんかもう、あいかわらずどうでもいいことばっかり。

永谷恵

もっと、カクシン的なこと話してよね!

遠見結奈

そう都合よくいかないわよ。

永谷恵

わかってるけどぉ!

三山音七

お待たせ~。

一木羽美

よく帰ってきてくれたね、音七!

三山音七

手を洗う前に抱きついてこないでよ、もぉ~。

双野沙紗

きったないな、お前ら。

永谷恵

もう、なんなの、この子たち。トイレまで一緒ってさぁ。

遠見結奈

……まぁ、よくあることでしょ。仲がいい友達同士なら。

永谷恵

そうかもね。わたし、よくわかんないから。

遠見結奈

……私もよ。

結局、ここでもなんにもなし。三人はそのまま放送室に戻っていった。

そして、相変わらず部活動。

そりゃ、部活するためにここに来てるんだろうけど。ほんとにそれだけなの?

あんたたちの誰かが誰かを好きなんでしょ? だったらもうちょっとそういうこと話したりすればいいのに!

ちょっとイライラしてきながら、中の話を聞いているわたしに、結奈が声をかけてきた。

遠見結奈

ちゃんと、中の話、聞いてるの?

永谷恵

聞いてるわよ。こうして、部屋の中、のぞいているじゃない。

遠見結奈

それはわかるけど……、こっちからだと、壁から恵のお尻だけが生えてるみたいに見えるんだもの。

永谷恵

ちょ、ちょっと変なこと言わないでよ、もぉ!

わたしは結奈の方を、つまり、廊下側の壁から頭を出すように振り返る。

永谷恵

あ、そうだ。ちょうどいいから聞いておこうと思ってたんだけど。

遠見結奈

え、なに?

永谷恵

あんたはさ、どう思ってるの?

遠見結奈

なにが?

永谷恵

わたしやサチさん、あと、牧ちゃんや美紀さんみたいに……。

永谷恵

女の子が、同じ女の子を好きになるってこと。

遠見結奈

………………。

永谷恵

ちゃんと答えなさいよ。嘘ついたりしたら、ほんとに、呪うからね……。

わたしは、結奈の目をじっと見る。

結奈も、ちょっとびっくりした顔をしていたけど、わたしのこと、見返してきた。なんか、生意気。

永谷恵

あなた、初めてあった日、わたしとサチさんの関係を聞いて、驚いていたわよね。

永谷恵

どうして? どうして、驚いたの? わたしとサチさんが好き合ってるのがおかしかったから? それとも……?

永谷恵

わたしたちのこと、バカみたいって思った……? 考えらんないとか、気持ち悪いとか……。

そんなこと、思ってたなら……。そうだって答えたなら……。

許さない。本当に、呪ってやる。どうやるかわかんないけど、絶対。

結奈は、ちょっとだけ間をおいて。

遠見結奈

……おかしいなんて思わなかったわ。

そう、答えた。

遠見結奈

驚いた顔したのは、本当に驚いていたから。びっくりしたからよ。

遠見結奈

女同士で好き合ってる人がいるなんて、思ってもいなかったんだもの。しかも、目の前の幽霊さんがよ。

遠見結奈

別に、サチさんとあなたをバカにするつもりなんてなかったわ。ほんとに。別に、気持ち悪いとも思わなかった。

遠見結奈

驚いたけど……、あなたたち二人を見たら、ああ、そういうこともあるんだなって思ったわ。

永谷恵

……そう。

そっか、バカにされたりしたわけじゃないんだ。気味悪がったわけじゃないんだ。驚いただけだったんだ。

……まぁ、それでいいか。

遠見結奈

正直、私、まだ恋愛とかよくわかんないの。誰かをそういうふうに好きになったこともないし。

遠見結奈

とくに恋愛したいとも思わなかったし。

遠見結奈

だから、あなたたちを見ても、ああそうか、としか思わなかったのよ。これでいい?

永谷恵

ふん、まぁ、いいわ。

永谷恵

それにしても、変な子ね、あなたって。

遠見結奈

どういう意味よ。

永谷恵

そのまんま、変だってことよ。だって、普通、わたしたちくらいの年なら、興味くらい持つでしょ?

遠見結奈

普通はそうかもしれないけど、私は特に持てなかったの。

永谷恵

ふぅん……。今まで、なにか部活動とかやってきたの?

遠見結奈

なによ、急に。

永谷恵

だって、恋愛に興味持たないっておかしいわよ。他になにかに熱中してたとかならわかるから。

永谷恵

なにか、運動部でも入ってた?

遠見結奈

ううん、私、運動苦手だから。

永谷恵

それじゃ、文化部?

遠見結奈

ん……、まぁ、一応やってたけど。

永谷恵

へぇ、そうなんだ、なにやってたの? 楽しかった?

遠見結奈

なにって……、別にいいでしょ、そんなこと。それより、中の様子はどうなの? ちゃんと聞いてるの?

遠見結奈

私とばっかり話していて、中の三人のこと、忘れてないでしょうね?

永谷恵

き、聞いてるわよ、ちゃんと。

は、半分くらいは……。

永谷恵

相変わらず、同じような話ばっかり。全然、雰囲気ないんだもの、つまんない。

遠見結奈

それでもちゃんとチェックしてよ?

永谷恵

わかってるわよ。

永谷恵

ねぇ、結奈。

遠見結奈

なに?

永谷恵

ほんとに、好きな人とかいなかったの? 素敵な先輩とかいなかったの? 例えば、サチさんみたいな。ええと、牧ちゃんみたいなかわいい後輩でもいいけど。

遠見結奈

……なんで女の人限定みたくなってるのよ。いなかったわ、本当に。

永谷恵

そう、ならよかった。

遠見結奈

なにがよかったのよ。

永谷恵

結奈がほんとに恋愛に興味ないみたいで。もし、恵のサチさんに色目使おうとしたら……。

永谷恵

一生、呪うよ? 呪って、呪って、フルコースで呪ってあげるんだから。

遠見結奈

どんな呪いなのよ、それって……。

永谷恵

ふふん、絶対にサチさんを好きになっちゃダメよ。サチさんの恋人は……。

永谷恵

恵なんだから。

そう、わたしなんだから。絶対に。

遠見結奈

はいはい、わかったわよ。

永谷恵

わかればいいのよ……。

と、その時、わたしは放送室の中の雰囲気が変わっていたことに気付いた。

荷物をカバンに詰め込んで、羽美さんが音七さんを引きずり起こそうとしていて。

あれ、これって帰り支度してる?

永谷恵

うそ! 中の三人、そろそろ帰るみたい!

遠見結奈

ほんと!?

結奈は、中の三人とはち合わせしないように、ちょっと離れたところへと走り出した。

わたしは、もう一度、放送室の中をのぞき込む。

三山音七

いーよう、もう~。あたしゃここで寝ていくから、二人は先に帰っとくれよう~。

一木羽美

そんなのダーメー! 一緒に帰るんだからぁ!

双野沙紗

ほら、音七、羽美がうるさいからさっさと起きな。

三山音七

もう~、二人とも帰っちゃっていいのに~。

一木羽美

ダーメーだってば! 友達置いて帰れるわけないでしょ!

双野沙紗

はぁ……。ほら、音七。こっちの腕持ってあげるから、なんとか起きてよ。

三山音七

もう~……。

うわぁ、あの音七さんって人、ほんとにダメな人なのね……。

羽美さんと沙紗さん、二人で音七さんの両腕を抱えて、まるで引きずるように放送室を出て行った。

遠見結奈

三人とも、帰った?

三人の姿が玄関ホールの方へと消えていった後、結奈が放送室の前に戻ってきた。

永谷恵

うん。

遠見結奈

その、どうだった? 三人の話、ずっと聞いてて。

永谷恵

ぜーんぜん、ダメ!

永谷恵

ちっともそんな雰囲気にならないの! ずーっと三人で一緒だったでしょ?

遠見結奈

そうね。

永谷恵

話していたことも、部活の話と、三人で一緒に出かける話ばっか。もー、なんなの?

永谷恵

放課後中ずっと見ていて、わかったのって、いっつも三人一緒ってことだけじゃない。

遠見結奈

確かに……。

永谷恵

これは、サチさんにちゃんと調べてもらわないとダメだなぁ。

永谷恵

でも、サチさん、こっちの校舎の中には入ってこれないし……。あの三人は、この校舎から一歩も出ないし……。

永谷恵

どうしたらいいっていうのよぉ。

遠見結奈

ねぇ、それって、あの三人がこの校舎から出れば、サチさんが、その、恋心をはっきりと読んでくれるってこと?

永谷恵

そうよ。奥校舎か、いつもの屋上なら、サチさん大活躍なのに。

遠見結奈

ということは、なんとかしてあの三人をこの校舎の外に連れ出せればいいわけか……。

永谷恵

そうだけどぉ、どうやって?

遠見結奈

それは、まぁ、なんとか考えてみるわ。方法があるかもしれないし。

永谷恵

ほんとに~?

遠見結奈

う、まぁ、なんとか、ね?

永谷恵

なにそれ、頼りないの。

遠見結奈

とりあえず、あの三人はしばらく、状況変わりなさそうね。

永谷恵

そうね。あーあ、時間ムダにしちゃったぁ。

遠見結奈

私も、明日はサチさんの手伝いをしようかしら。

遠見結奈

牧さんたちのための場所を探しているんでしょ?

永谷恵

ちょっと! わたしに断りなく、サチさんと一緒にいるなんて許さないわよ!

遠見結奈

なんでよ……。それに、今こうして言ってるじゃない。

永谷恵

むぅぅ……。

遠見結奈

私にも、いくつか心当たりがあるの。牧さんたちがゆっくりできそうなとこに。

永谷恵

はぁ? この学校の中で、人が来なくてゆっくりできるところに?

遠見結奈

ええ。

永谷恵

お昼は、知らないって言ってたじゃない。

遠見結奈

ん、言ったけど。思いついたの。

永谷恵

ふーん、そんなとこに、いくつも心当たりがあるなんて、あなたって変な子ね、ほんと。

遠見結奈

……余計なお世話よ。それじゃ、恵、私もそろそろ帰るから。

あ、また。今度ははっきり聞こえた。この子、わたしのこと、呼び捨てにした。

永谷恵

あのねぇ、ちょっと言いたいんだけど。

遠見結奈

なに?

永谷恵

恵、あなたに呼び捨てにされる覚え、ないんだけど。いい、わたし、あなたの倍くらい長生きしてるのよ。あなたよりずっと年上で、人生の先輩なんだから。

遠見結奈

あのね……、長生きとか、人生とか、自分で言ってておかしいと思わないの?

遠見結奈

それに、あなたが死んだのって、一年生の時なんでしょ? 私、二年生なんだけど。

永谷恵

そんなの関係ないわ。わたしはあなたよりずっと先輩なの。もっと敬ったらどうなの?

遠見結奈

……悪いけど、なにか敬意を払う気がしないのよね。

永谷恵

なんですってぇ!?

なに、この子、ほんとナマイキー!

遠見結奈

あら、見送ってくれるの?

正門でもう一度、顔を合わせた結奈は、そんなこと言ってきた。ほんと、ナマイキ。

だって、屋上にサチさん、戻ってきてなかったんだもん。つまんないなーって思ってたら、結奈が正門のとこ、歩いてたから。

ちょっと顔を見に来ただけ。

永谷恵

ねぇ、結奈。

遠見結奈

なに?

永谷恵

あの放送部の三人の子ね、今日ははっきりとしなかったけど、あの中の誰かが誰かに恋してるのは確かなの。

永谷恵

サチさんがそう言ったから、それは、絶対。

遠見結奈

まぁ、別にそれを疑ってるわけじゃないけど。

永谷恵

ねぇ、結奈はあの中の誰が、恋をしているんだと思う?

遠見結奈

誰が……。

さぁ、結奈は誰って答えるかな?

<01>結奈は誰だと答えるかな

<01>羽美さんと答えるかな

<01>沙紗さんと答えるかな

<01>音七さんと答えるかな

遠見結奈

一木さん、かな。なんか、いちばん、そういう誰かを好きって感情を持ちそうな気がする。

うわ、結奈と同じ予想しちゃった。ちょっとショックぅ。

永谷恵

ど、どうかしらね。

遠見結奈

双野さん、かな。

永谷恵

え、なんで?

遠見結奈

一木さんは裏表なさそう。三山さんもやっぱり隠したりしなさそう。だから、そういうことを考えていそうなのは、双野さん、かなって。

永谷恵

へ、へぇ~。

なによ、ちょっと説得力ありじゃない。

遠見結奈

三山さん、かな。

永谷恵

え、なにそれ、いちばんありえないでしょ。

遠見結奈

う、うん……、自信ないけど、だからこそかなって。

永谷恵

はぁ、コンキョハクジャクねぇ。

遠見結奈

まぁ、三人があの調子ならしばらくはわからないでしょ。

永谷恵

ま、そうね。

遠見結奈

それじゃ、私、帰るわね。夕飯の支度をしなきゃいけないの。

永谷恵

あ、そうなんだ。あんた、料理できるんだ。

遠見結奈

……まあね。それじゃ、さよなら。

永谷恵

じゃぁね~。

わたしに軽く手を振ってから、結奈は正門の外へと歩いて行った。曲がったのは椿小路の方。あの子の家、八津岸団地にあるのかな。

永谷恵

……わたしも、屋上に戻ろ。

サチさん、もう、帰ってきてるかな。

遠見結奈

比奈、ご飯、おかわりいる?

狛野比奈

ん、いる。あと、もうちょっとお肉ほしい。

遠見結奈

え。もう残りはお父さんの夕食用と比奈んちへのお裾分けだけなんだけどな。

狛野比奈

そのお裾分けのでいいよ。

遠見結奈

だめよ。ほら、私の残ってるの、食べていいわよ。

狛野比奈

やた。ありがと、結奈ねぇ。

比奈との夕食。今日のメインは、豚の生姜焼き。

うちも比奈の家も共働きで、しかも、母親は両方とも看護師。夜勤や準夜勤が重なると、こうして比奈は私の家に夕食を食べに来る。週に、二、三度の割合で。

小さい時からずっとそう。二人で、お互いの親が作ってくれたご飯を食べて、私が料理をするようになってからは、私が作るようになって。

今日も、こうして。比奈の部活とかの話を聞きながら。

狛野比奈

昼練のあと、お昼、部室で食べるでしょ。

遠見結奈

うん。

狛野比奈

部活のみんながね、結奈ねぇのお弁当、ほめてくれるの。

狛野比奈

おかずがいろいろ入ってて、きれいで、バランスもいいって。もちろん、おいしいって。

遠見結奈

あら、そう? うれしいな。でも、あんまり他の人にわけてたら、比奈のぶんがなくなっちゃわない?

狛野比奈

あげた分、もらってるから。

遠見結奈

それじゃ、バランス悪くなるでしょ。まぁ、いいけど。

狛野比奈

ねぇ、結奈ねぇ。

遠見結奈

なぁに?

狛野比奈

明日のお弁当って決まってる?

遠見結奈

え? 一応、材料は買ってきたけど……。

狛野比奈

リクエストって、していい?

遠見結奈

うん、いいけど。でも、できないものもあるかもよ?

狛野比奈

それなら、いい。あのね。

狛野比奈

今日のお弁当、和食ぽかったでしょ。だから、明日は洋風が、いい。

遠見結奈

洋風……。

まぁ、なんとかなるかな? 材料は一緒でも料理の仕方変えればいいわけだし。

遠見結奈

でも、なんで?

狛野比奈

結奈ねぇは洋食も得意だって、みんなに教えてあげたいから。

ん……、うれしいんだけど、ちょっと恥ずかしいなぁ。でも、これは期待に応えたくなる。

遠見結奈

それじゃ、サンドイッチにしてあげる。

狛野比奈

んー……。

おや、ご不満っぽい。

遠見結奈

だめ?

狛野比奈

サンドイッチって、誰でもできそう。結奈ねぇが上手かどうか、わからないでしょ?

遠見結奈

バケットサンドにしてあげる。

狛野比奈

ん!

遠見結奈

いろんなの、挟んであげるわ。ちょっと量が多めになるけど、みんなにわけてあげるなり、放課後にちょっと食べるなりすればいいでしょ?

狛野比奈

ん、オッケ。ありがと、結奈ねぇ。

遠見結奈

はいはい、まかせなさい。

もうすっかり、比奈のために夕食とお弁当を作るのが楽しみになってるな……。

それが大変だった時もあったけど、おいしそうに残さず食べてくれる比奈のおかげで、乗り越えられた。

やっぱり、私、料理好きなんだな。

遠見結奈

もうすぐテストね。

狛野比奈

ん。

遠見結奈

一年生の最初のテストだからしっかりね。苦手でも、ちゃんと試験勉強するのよ?

狛野比奈

んー……、ん。

狛野比奈

また、勉強会、する? アノちゃんも一緒に。

遠見結奈

え? そうね、いいわねそれも。

一年生のだったら、私も教えてあげられるだろうし……。ん、一年生……。

そう言えば、あの子も一年生だったな。廊下で、教室に入れなくて困っていた子。サチさんたちの話では、無事に先輩に告白できたって。

名前は……。

遠見結奈

ねぇ、比奈。比奈は牧さんって子、知ってる?同じ学年の。

狛野比奈

牧さん? 牧聖苗?

遠見結奈

そう、その子。

狛野比奈

知ってる。同じクラス。席も隣だよ。

遠見結奈

え、ええ? そうなの?

狛野比奈

ん。

ちょっとびっくりした。ええと、世間は狭いと言うのかな、これって。

遠見結奈

友達?

狛野比奈

ちょっと挨拶するくらい。でもなんで? 結奈ねぇ、牧さんのこと知ってるの? 知り合い?

遠見結奈

あ、ううん、そういうんじゃないんだけど、ちょっと名前を聞いたことがあったから。もしかしたら、比奈の知り合いかと思って。

狛野比奈

そっか。……ん、ごちそうさま。

遠見結奈

はい、お粗末様でした。

会話の区切りで、ちょうど比奈も食べ終わったみたい。手をあわせてから、空いたお皿を流しに運んでくれる。

私もごちそうさまして、お皿を流しに運ぶ。残ったおかずを両親用に冷蔵庫にしまって、比奈と一緒に食器を洗う。

比奈が帰ったら、明日のお弁当の下拵えをしておこう。リクエストのバケットサンド。

ちょっとがんばっちゃおうかな。

遠見結奈

これでよし、と……。

今日の授業の復習と明日の予習、そして、出された宿題。提出がまだ先のものは、できる分だけ。

遠見結奈

もう、10時か……。

時計を見たら、そんな時間。

遠見結奈

明日の仕込みも終わったし……。

仕込み、明日のお弁当と、予定の夕飯の分の下拵え。バケットサンドの具にローストビーフなんて張り切りすぎたかな? でも、定番だし。

朝イチで作れば間に合うだろう。朝からオーブン使うなんて、お母さんに笑われそうだけど。

遠見結奈

そろそろお風呂入ろうかな……。

遠見結奈

ん、でも、その前に……。

椅子の背にもたれかかる。

少し、考えをまとめよう。

いろいろ、考えなきゃいけないことがたまった時の癖。こうして、寝る前に机に向かって、考える。

一個ずつ、順番に。

遠見結奈

まず、放送部の三人……。

恵が今日、様子を見ていた限りだと、ずっと三人一緒で、誰が誰なんて雰囲気はなかったって。

そういうことなら、もっとずっと貼り付いてもいない限り、わかりそうもないかな。

そして、恵が言うには、サチさんならわかるだろうってこと。そして、星館校舎にはサチさんは入ってこれないみたい。

ということは、サチさんに調べてもらうには、三人に奥校舎にまで来てもらう必要がある。

遠見結奈

でも、どうやって?

なにか用事を作って呼び出す? 放送部なんだから、取材とかそういう用件で?

遠見結奈

でも、部活もなにもしてない私が、そんな用件を作れるわけがない。うん、これはダメっぽい。

遠見結奈

放送で嘘の呼び出しをかけるとか? いや、放送部なんだよね、あの三人。それに、ヘタするとこれ、大事になりそう。

奥校舎は三年生の教室。三年生の誰かに呼び出してもらう? でも、そんなことを頼める知り合いはいないし。

比奈なら、三年生の先輩もいるだろうけど、こんなことに巻き込むわけにはいかないし……。

遠見結奈

うーん……、これはちょっといいアイデア、すぐに出ないな……。

いいアイデアが出るまでは、偶然のチャンスを待つしかなさそう。

遠見結奈

うん、これは保留。

遠見結奈

次は……、牧さんと、相原先輩。

問題は、二人が、主に相原先輩が、頼まれ事多すぎて、忙しすぎること。二人でゆっくり話をする時間もないほど。

そのため、二人の関係が、今の友達同士から進まないということ。

遠見結奈

解決策としては、二人がゆっくり話ができる場所を提供すること。

でも、現状、そんな場所はない。場所を探すところから始めないといけない。

遠見結奈

恵には、いくつか心当たりがあるって言っちゃったけど……。

ちゃんと使えるかどうか確認しないと。

場所が決まったら? そしたら、二人に教えてあげればいい。どうやって?

遠見結奈

私が教える? 二人っきりになれる場所があるの、お薦めって? いや、ないない。

遠見結奈

うーん、本人の知らないところで準備して、こっそりそれとなく知らせるって……。

遠見結奈

すごい大変なことじゃない?

それにしても……。

牧さんと相原先輩、放送部三人の誰かと誰か、それに、あの二人。

自分のまわりにこんなに、女同士で恋愛感情持っている人がいるなんて……。

遠見結奈

意外というか……、世の中、わかんない……。

普通なのかな、このくらい。女子校なんだし?

遠見結奈

今日、恵に聞かれたっけ……。女の子が、同じ女の子を好きになるってこと、どう思うかって。

あの時、恵に答えたことに嘘はない。

考えたこともなかったから、びっくりして、でも、バカみたいとも気持ち悪いとも思わなかった。

ほんとうにあることなんだって、思った。そういうことってあるんだって。

だって……。

牧さん、あの一年生の子、あの日、あの子が手紙を渡せた日、すれちがった一瞬だけ見えたあの顔。

遠見結奈

あんな顔……、きっと誰かをほんとに好きになってないと、できないんじゃないかな……。

確信が持てないのはきっと、私が同じ気持ちになったことがないからだろうな……。もちろん、相手が女性と限らずに。

そして、今、私がしてることは。

遠見結奈

そういう人たちのための、お手伝い。

改めて、考えると。

遠見結奈

これって……、すごいお節介というか、大きなお世話なんじゃないかしら……。

私がするわけじゃないけど、誰かが誰かを好きなのを探って、それがうまくいくようにする?

遠見結奈

うん、どう考えても。

遠見結奈

……あ、顔が真っ赤になりそう。なにしてるんだろう、私。でも。

自分がこんなことするなんて思ってもみなかった。他人のために、こんないろいろ考えて、いろいろしてあげなきゃって。

あの二人に頼まれたことについて、こうしていろいろ考える。なにかいい方法はないかとか、どうすればいいかって。

こんなこと……。

私は、ふと、視線を落とす。

目に入ってくる。机の引き出し。今は鍵がかけてある。

遠見結奈

……うん……。

頭が冷えた。一気に。

落ち着いて。慌てないで。あせっちゃダメ。

遠見結奈

あくまで、こっそりと、目立たずに。できるだけのお手伝い。

そうしないと、ダメ。

遠見結奈

こんなの、ただのお節介、大きなお世話なんだから。

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okujou_no_yurirei-san/1101.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)