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limit_panic:nichijou3
3day/日常3.ks
Lines: 517
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浅い眠り。
>

起きているのか寝ているのか、
>

それさえもハッキリとしなくって。
>

誰かが笑ってる。
>

誰かが怒ってる。
>

誰かが泣いてる。
>

誰かが――、
>

あなたは――誰――?
>

……。
>

これは…………ゆめ?
>

[Mana]
「……んぅ……」
>

緩やかに意識が目覚める。
>

自分が寝ていたことに、
>

目覚めて初めて気がつきました。
>

電気も消さずに
>

ベッドの上に転がったまま、
>

外はすっかりと朝で。
>

[Mana]
「……なんだかスッキリしない」
>

何か夢を見ていた気がします。
>

懐かしいような、そうでないような。
>

内容はぜんぜん覚えてないけれども、
>

それでもなぜか胸に引っかかるものがあって。
>

[Mana]
「アラームより先に起きれたんだ」
>

スッキリしてないのに、
>

それでも眠気だけは全くなくて
>

いつもみたいに2度寝なんて
>

出来る気配じゃありません。
>

[Mana]
「スッキリするわけないよね……。
>

気持ちばっかり疲れちゃう」
>

はぁ、とため息。
>

ため息の原因は――
>

もちろん胡桃と鏡香。
>

[Mana]
「どうして仲良くできないのかな……」
>

別段、眠いわけじゃなかったけど、
>

ぽふっ、とベッドに顔を埋めた。
>

[Mana]
「はぁ……」
>

どうにか二人を説得できないかな。
>

うーん、と頭を捻る。
>

……ひとりじゃ難しいなぁ……。
>

せめてもうひとり、
>

誰か協力してくれればなぁ。
>

グラサンさん、マッチョさんは……
>

ダメダメ。
>

プールの一件もそうだけど、
>

基本的には鏡香の言うことに
>

逆らえなさそうだし。
>

[Mana]
「っていうか、私昨夜……」
>

思い出さない方がよかった記憶が、
>

突然フラッシュバックされる。
>

だんだんと二人の行動が
>

エスカレートしてきてる。
>

このままじゃ私……
>

本当に殺さ――
>

[Mana]
「――っ!?」
>

[Inoue]
「おはようございます、まな様。
>

ん?? どうかなされましたか?」
>

[Mana]
「い、いえ……。
>

なんでもないれす」
>

昨夜のことを考えてた最中の
>

ノックだったから、
>

思わず身構えてしまいました。
>

…………。
>

そうだ。
>

ベッドから飛び起きると、ドアを開けた。
>

[Mana]
「おはようございますっ」
>

[Inoue]
「おはようございます」
>

深々と頭を下げる井上さん。
>

[Inoue]
「今日の朝食は――」
>

[Mana]
「あ、あのですね」
>

朝食の献立説明を始めた
>

井上さんを遮って、
>

[Mana]
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど……」
>

[Inoue]
「はい?」
>

[Inoue]
「朝食は和食がよろしかったですか?」
>

[Mana]
「いや、朝食のことじゃなくて」
>

[Inoue]
「ではランチ?」
>

真顔で惚けたことを返してくる井上さん。
>

[Inoue]
「申し訳ありませんが、
>

ディナーに関しては、
>

まだシェフと相談中――」
>

[Mana]
「ごめんなさい。
>

ご飯に関してじゃないんです」
>

[Inoue]
「では――」
>

[Mana]
「鏡香のことなんです――」
>

[Inoue]
「――っ」
>

[Inoue]
「…………お嬢様の、
>

ことですか?」
>

鏡香のこと、そう言った途端、
>

それまで無表情だった井上さんの
>

眉根が僅かに動いた。
>

[Mana]
「はい、
>

鏡香のことで少し聞きたいことが」
>

[Inoue]
「…………」
>

[Inoue]
「わかりました」
>

少しトーンを落とした声で頷く井上さん。
>

[Inoue]
「ここでは……なんですので、
>

中庭でいかがですか?
>

お茶も用意いたします」
>

[Mana]
「あ、はい」
>

中庭にセッティングされたイスに
>

腰掛けると、井上さんは私の前に
>

相変わらずの綺麗な姿勢で立った。
>

[Mana]
「あの、座っていただいても……」
>

[Inoue]
「このままで結構です」
>

[Mana]
「……疲れません?」
>

[Inoue]
「それよりも。
>

お嬢様のこと、
>

とおっしゃいましたね?」
>

[Mana]
「あ、はい。
>

鏡香なんですけど――と、その前に」
>

その前に、気になることがあった。
>

[Mana]
「鏡香は、どうして私を
>

ここへ連れてきたんですか?」
>

[Inoue]
「それは――」
>

そこでいったん言葉を切ると、
>

井上さんは何か考えた後、
>

再び口を開いた。
>

[Inoue]
「…………。
>

私は、お嬢様に仕える
>

メイドでございます」
>

[Inoue]
「私は常にお嬢様のことを第一に
>

考えております。
>

それをまずご理解下さい」
>

[Mana]
「はい」
>

[Inoue]
「お嬢様を第一に――、
>

それはそう、
>

お嬢様の生活そのものを
>

第一に考えています」
>

[Inoue]
「そこには趣味や、
>

人間関係、それと――、
>

お嬢様自身の命、
>

これも関わってきています」
>

[Mana]
「鏡香の命?」
>

[Inoue]
「はい。
>

お嬢様が健やかに生きていく、
>

そのために私は、
>

傍らにて従事しています」
>

[Mana]
「命、ってちょっと大げさ、ですよね?」
>

[Inoue]
「大げさではありません」
>

[Mana]
「……まさか、鏡香、
>

なにか重い病気にかかって?」
>

だから、テンションが高かったり、
>

妙に甘えてきたり――
>

だとしたら、いろいろと納得できる。
>

ケンカの途中で井上さんが止めたのも、
>

病魔に侵された体では激しい運動を
>

してはダメで、それで――
>

甘えてくるのも、寂しさから?
>

余命いくばくも無いとしたら……。
>

あの笑顔の裏に、
>

あの強がりの裏に――
>

[Inoue]
「いえ、
>

お嬢様のお体は健康そのものです」
>

[Mana]
「あら、そうなんですか」
>

あっさり否定されて、
>

ガクッ、とイスからずり落ちそうになった。
>

[Mana]
「じゃあ、なんで?」
>

[Inoue]
「お嬢様のお体は健康そのもの。
>

そう、お身体は」
>

含みのある言い方だった。
>

そこに含まれた何かを、私は探る。
>

[Mana]
「……体は……健康……」
>

[Inoue]
「まな様」
>

[Mana]
「はい?」
>

[Inoue]
「そこで、
>

まな様が関わってくるのです」
>

[Mana]
「へ? 私ですか?」
>

[Inoue]
「気がついていますよね。
>

お屋敷に、ほとんど人がいないことに」
>

確かにぜんぜん人がいません。
>

それはもう、とてつもなく不自然な
>

くらいに静まり返っています。
>

[Inoue]
「私と田中、鈴木、それとシェフ――
>

お嬢様。それとまな様と妹様。
>

これだけ広いお屋敷に、
>

いるのはそれだけです」
>

[Inoue]
「なぜだか、おわかりですか?」
>

人が必要ないから?
>

ううん、これだけ大きな別荘だもの。
>

もっと人手は必要なはず。
>

じゃあ他にどんな理由が?
>

もしかすると、
>

鏡香がシンデレラリミットと呼んでいた
>

時間に関係が……。
>

例えば、鏡香が見境なく従者を襲ったとしたら――。
>

[Mana]
「そ、そんな、まさか」
>

[Inoue]
「今まな様がご想像されたことは、
>

過去にこの別荘で
>

実際に起こった出来事です」
>

[Mana]
「ウソ――」
>

だと、言って欲しかった。
>

[Inoue]
「残念ながら、紛れもない事実です。
>

ですがそれは、この別荘に
>

従者が少ない理由の一つにすぎません」
>

[Inoue]
「最たる理由として、
>

もともと、お嬢様は人付き合いが
>

得意なほうではありません。
>

それが、さらに――」
>

私が鏡香と出会ったのは、中学生の頃。
>

……そういえば、鏡香、
>

私と出会ったころはもっと大人しい
>

女の子だったような。
>

[Inoue]
「あの頃のお嬢様には、
>

皆が腫れ物を触るような、
>

特別扱いをしていました。
>

――それも今以上の、過度な、です」
>

[Inoue]
「思春期の入り口、もっとも多感な頃。
>

色々な要因が重なったのでしょう。
>

そして些細なことが引き金となって――」
>

[Inoue]
「お嬢様は――自らを傷つける、
>

という癖を覚えてしまったのです」
>

[Mana]
「みずからを……傷つける……」
>

それはつまり、一般的に言う、
>

『自傷癖』という症状のことじゃ……。
>

[Inoue]
「血にまみれたお嬢様を救うために、
>

私は様々な手段を講じました。
>

しかし、そのいずれも
>

さしたる効果を見せませんでした」
>

[Inoue]
「発作的に自らを傷つけ続けるお嬢様。
>

私に出来るのは、
>

致命傷にならないよう、
>

その傍に居続けることだけ」
>

[Inoue]
「学校も休みがちになった、
>

そんな時です。
>

まな様が――
>

プリントを届けに訪れたのは」
>

[Mana]
「あぁ、そんなことも。
>

あのとき日直でしたからね」
>

初めて鏡香の自宅へ行ったとき、
>

その広さに目を丸くしたっけ。
>

このお屋敷よりももっと
>

広くてゴージャスで。
>

[Inoue]
「……まな様と出会って、
>

お嬢様は本当に救われたのです」
>

[Mana]
「へ? 私と?
>

な、なんだって私と出会って
>

救われるんですか?」
>

[Inoue]
「まな様に自覚はないかもしれませんが、お嬢様が孤独だったあの頃に、
>

他人と関わろうとしなかったあの頃に、
>

まな様が救ったのです」
>

[Mana]
「でも、私、何もしてないですよ?」
>

クラスの子が欠席したから、
>

プリントを届けに行った。
>

ただそれだけです。
>

ごくフツーの日直ですよ。
>

[Inoue]
「結果として、それが最良だったのです。
>

先ほども申し上げた通り、
>

あの頃のお嬢様には、
>

皆が特別扱いをしていました」
>

[Inoue]
「そんな中、
>

唯一まな様だけがきさくに接せられて。
>

それがお嬢様には、
>

驚くほどに新鮮だったそうです」
>

[Mana]
「……そう、なんだ……」
>

[Inoue]
「それ以来、
>

お嬢様はまな様のことを――」
>

と、そこまで言って、
>

井上さんが言葉を切った。
>

[Mana]
「どうしました?」
>

[Inoue]
「申し訳ありません」
>

急にまた深々と頭を下げる井上さん。
>

[Inoue]
「お嬢様が、お目覚めになられます」
>

そうとだけ告げると、
>

早々に立ち去ってしまいました。
>

……。
>

そっか、そうだったんだ。
>

私が思ってる以上に、
>

鏡香の中で二ノ瀬まなという存在が
>

大きなモノになっていることが
>

さすがの私にもわかった。
>

だから、鏡香は胡桃にヤキモチを
>

焼いてるんだ。
>

いつもそばにいる、妹の胡桃に。
>

[Mana]
「そっか……そうだったんだ……」
>

[Mana]
「だったら、うまく説得できれば……」
>

胡桃にこのことを伝えなきゃ。
>

伝えて、分かってもらえれば、
>

きっと仲良くなれる。
>

うん、よし。
>

善は急げ、だ。
>

私は胡桃にメールを打――とうとして、
>

ボタンを押す指が
>

震えていることに気付く。
>

[Mana]
「な、なに震えてるのよ……。
>

私ったら、
>

妹にメールを打つだけじゃない……」
>

『おはよう。
>

ちょっと話したいことがあるんだけど、起きてる?』
>

[Mana]
「っと、送信完了」
>

私は何も思い出してない。
>

何も知らない。
>

何も覚えていない。
>

胡桃は普通の女の子。
>

私の可愛い妹。
>

可愛い妹が私のことを●そうと、
>

するワケ――。
>

[Mana]
「っ!?」
>

足下でやかましくアピールを続ける携帯。
>

送信者の怒りを代弁しているように
>

地面をのたうちまわる。
>

[Mana]
「あ……返信、きたんだ」
>

背中からも大量の汗が
>

噴き出しているのが分かる。
>

[Mana]
「メール……返信、見なきゃ」
>

『FROM:くるみ SUB:おはよう(つд-)
>

 ―――――――――――――――――
>

 今おきたよー(・▽・)
>

 話? うんわかったー(^^)   』
>

[Mana]
「ほ、ほら。
>

どうってこと、ないじゃないですか」
>

胡桃はいつもの胡桃。
>

私が考えすぎなだけ。
>

胡桃の部屋の前。
>

ヒザが小刻みに震えてなんかない。
>

唇もかみしめれば大丈夫。
>

大丈夫。普段通り、普段通り。
>

[Mana]
「……よし、行こう」
>

[Kurumi]
「お姉ちゃんおはようっ!!」
>

[Mana]
「きゃぁっ!?」
>

部屋に入るなり、胡桃に抱きつかれた。
>

よしよしと頭を撫でると、
>

一緒にベッドに腰掛けた。
>

肩に頭を乗せて甘えてくる胡桃。
>

[Kurumi]
「えへへ♪」
>

[Mana]
「もう、胡桃ったら……」
>

ふぅ。
>

相変わらず甘えんぼなんだから。
>

[Kurumi]
「で、お姉ちゃん、話ってなに?」
>

甘えるように体を摺り寄せながら
>

胡桃が訊いてきたので、
>

[Mana]
「うん、そのことなんだけど――」
>

私は井上さんとの会話内容を、
>

かいつまんで説明した。
>

[Mana]
「――というわけでね、
>

……って胡桃聞いてる?」
>

[Kurumi]
「…………うん」
>

[Mana]
「だから胡桃も――」
>

[Kurumi]
「お姉ちゃん」
>

少し、低いトーンの胡桃の声。
>

[Kurumi]
「お姉ちゃんは、
>

それでどうしたいの?」
>

あれ……イケナイ――。
>

私、致命的なミスを……。
>

[Mana]
「え……だ、だから、
>

胡桃と鏡香、ちゃんと仲良く――」
>

[Kurumi]
「それで? 胡桃はどうなるの?
>

お姉ちゃんはあの女と仲良くやって、
>

胡桃は除け者になるの?」
>

違う。
>

違う違う。
>

[Mana]
「そんなこと、言ってない――」
>

[Kurumi]
「嘘。嘘よ。
>

絶対に嘘。
>

あの女がそれで満足するわけない」
>

そうじゃないの。
>

これじゃ……また……。
>

[Kurumi]
「あの女はお姉ちゃんを独占して、
>

胡桃はいらない子になる」
>

違うって、言ってるのに。
>

[Kurumi]
「させない、させないんだから。
>

そんなこと絶対に」
>

[Mana]
「ちょ……胡桃?
>

お姉ちゃん、そんなことしないよ?」
>

[Kurumi]
「うん♪
>

お姉ちゃんはそんなこと
>

絶対にしないって知ってる♪」
>

マズイ……。
>

[Kurumi]
「お姉ちゃんはずっと胡桃の、
>

胡桃だけのお姉ちゃんなんだから♪」
>

[Kurumi]
「ねえ……お姉ちゃん……」
>

きゅ、と私の手を握る胡桃。
>

[Kurumi]
「お姉ちゃん……好き、大好きなの。
>

お姉ちゃんを他の誰にも渡したくないの。
>

だから、お姉ちゃんも私を見て?」
>

どこで……間違えた?
>

[Kurumi]
「私だけを見て?
>

私だけを。
>

他の誰かを見ちゃ嫌。
>

特にあの女だけは絶対に嫌」
>

自らの犯した過ちに、
>

背筋がゾクリとする。
>

[Kurumi]
「ねえ、お姉ちゃん……」
>

[Mana]
「胡桃……、あの、ね」
>

[Mana]
「胡桃がお姉ちゃんのこと好きなのは
>

知ってるし嬉しい。
>

でもね、私たちは姉妹でしょ?」
>

[Mana]
「普通の姉妹、でしょ?
>

だからもっと……普通に、
>

できないの、かな?」
>

[Kurumi]
「――は?」
>

握った手を、ひときわ強く握る胡桃。
>

[Mana]
「――痛っ!?」
>

思わず手を振りほどいて、ハッとした。
>

胡桃が、ものすごく暗い目で
>

私を見つめていた。
>

[Kurumi]
「なにをいってるの、
>

おねえちゃん?」
>

[Kurumi]
「もっとふつうに? 
>

ハッ。
>

お姉ちゃん、胡桃のこと嫌い?」
>

[Mana]
「嫌いなわけないじゃない。
>

でもそれは姉妹として――」
>

[Kurumi]
「胡桃はお姉ちゃんの妹だよ。
>

だからお姉ちゃんのことが好き。
>

だからお姉ちゃんも
>

胡桃のこと好きだよね?」
>

[Kurumi]
「だから鏡香は嫌い。
>

お姉ちゃんと私のこと邪魔するから」
>

[Mana]
「胡桃――」
>

[Kurumi]
「煩いなァ、お姉ちゃんは」
>

[Kurumi]
「胡桃はこんなに好きなのに。
>

アハハハ、おかしいの。
>

おかしいんだ、お姉ちゃんたら」
>

笑いながら胡桃は立ち上がる。
>

[Kurumi]
「アハハハハハ。
>

好きよお姉ちゃん、大好き。
>

アハハハハハ、アハハハハハハ」
>

そう言いながらフラフラと部屋から
>

出て行ってしまった。
>

[Mana]
「胡桃……」
>

しばらく部屋で胡桃が戻ってくるのを
>

待っていたけれど、
>

一向に戻ってくる気配は無く、
>

メールを送っても返信も無く。
>

そうこうしているうちに
>

朝食の時間になったので、
>

わずかな期待を胸に、
>

胡桃の部屋をあとにした。
>

場の空気が、
>

昨日までとどこか違っていた。
>

張り詰めた、それでいて脆く、
>

簡単に壊れてしまいそうな
>

薄いガラスのような、そんな雰囲気。
>

誰もたいしたことを口にすることも無く、静かに食事を取る。
>

やがて、井上さんが食後のコーヒーを用意する頃になって、
>

ようやく鏡香が口を開いた。
>

[Kyouka]
「さて、まな。
>

今日は私と一緒に
>

昨日の続きをしましょう?」
>

それに続いて胡桃も、
>

[Kurumi]
「今日こそプールに入ろうね、
>

お姉ちゃん!」
>

[Mana]
「えっと、あの……」
>

[Kyouka]
「ねえまな、こういうのはどうかしら……」
>

[Kurumi]
「水着の用意もバッチリ」
>

[Kyouka]
「そうそう、
>

井上もこう言ってたわ……」
>

[Kurumi]
「お姉ちゃんたら、
>

もっと夏を楽しまなくっちゃ」
>

[Kyouka]
「だから、
>

鈴木と田中にも準備をさせたの♪」
>

[Kurumi]
「あ、そうだ!
>

私がお姉ちゃんの水着を
>

選んであげるね☆」
>

互いが互いのことなどお構いなしに、
>

私に話しかけてくる。
>

それどころか私の反応すら、
>

多分見えていない。
>

こんなの、変。
>

こんなの、おかしい。
>

[Mana]
「ねえ、ふたりとも――」
>

[Kyouka]
「ふふ、まなもそう思うでしょ?
>

やっぱり☆」
>

[Kurumi]
「あはっ お姉ちゃんもそう思う?
>

やっぱしね♪」
>

[Mana]
「こんなの――おかしいよ!!」
>

思わず立ち上がって
>

大声を上げてしまった。
>

でも、静かになったのは一瞬。
>

[Kyouka]
「うふふふ……」
>

[Kurumi]
「あははは……」
>

見れば、鏡香と胡桃が、
>

お互いを見つめ合って笑ってた。
>

まるで私のことなんか、
>

私の言葉なんか聞こえてないって風に。
>

[Mana]
「ふたりとも……。
>

ハッ、そうだ、井上さん、
>

井上さん!!」
>

[Inoue]
「コーヒーのおかわりですね?」
>

いつもと変わらない、
>

無表情の井上さん。
>

私のカップになみなみと
>

コーヒーを注いでいく。
>

[Mana]
「ほら、井上さん、さっき――」
>

[Inoue]
「――あっ」
>

[Mana]
「きゃっ!?」
>

井上さんが手を滑らせて、
>

持っていたポットを落とした。
>

見る見るうちにテーブルに広がる
>

コーヒー。
>

すんでのところで
>

私にはかからなかったけど、
>

かかっていたら
>

火傷どころじゃすまなかったかも。
>

[Mana]
「だ、大丈夫ですか井上さん?」
>

この完璧そうな井上さんが
>

ミスをするなんて信じられない。
>

しかし井上さんは
>

私の声にはまったく反応せず、
>

ただテキパキとこぼしたコーヒーの
>

処理をしていく。
>

そして、
>

[Kyouka]
「じゃあね、
>

あとで迎えに行くわ、まな」
>

[Kurumi]
「メールするからね、お姉ちゃん」
>

[Mana]
「ちょっと――!」
>

そう言い残して出て行く鏡香と胡桃。
>

井上さんもテーブルクロスを
>

いつの間にか新品に交換し終え、
>

一礼して部屋をあとにする。
>

ひとり、ぽつんと残された私。
>

ぼんやりとカップを手に取る。
>

コーヒーはすっかりと冷めていた。
>

[Mana]
「おかしいよ……絶対。
>

……こんなの……」
>

――でも、それに答える人は、
>

誰もいませんでした。
>
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